あ、今回最後辺りちょっとしたあるネタバレあります。ご注意下さい。
その後、気絶から回復し、気力もどうにか立て直したベディヴィエールとランスロットの二人は、再び立香達と共に行動を共にする事を決めた。特にランスロットはマシュ────厳密に言えば彼女に宿っているギャラハッド────との親子喧嘩を経て、自分のやるべき事を見出だし、正式にカルデア側に付くことを決意された。
円卓の騎士の中でも卓越した剣技を持つランスロット、彼が新たに旅路に加わり、一行は最後の要である太陽王オジマンディアスの下へ大神殿へ向かうこととなった。
その道中はランスロットの拠点でダ・ヴィンチと修司が余った資材を掛け合わせて造られた移動装置、スピンクス号を新たに改修させたバステニャンで以て、砂漠の大地を駆けていく事となった。
途中、獣や珍妙な怪物達が一向に襲い掛かってきたが、周囲の生体反応を気で感知する修司が絶えずに気の弾丸を放つことで迎撃し、その都度追い払った。
そして、立香ちゃんがバステニャンを操縦する事一時間弱、そろそろ日も落ちて来たので完全に暗くなる前に休むことを提案したダ・ヴィンチは、いい感じにスピードに魅了されかけた立香に呼び掛け、バステニャンを停止させた。
周囲に魔獣魔物の気配はなく、安全地帯であることを確認した一行は、速やかに荷を解し、慣れた手付きで夜営の準備を始めた。
そして日は完全に落ち、辺りが暗闇の空間に包まれる中、空に浮かび上がる満天の星空を見上げながら夕食を食べ終えると、修司はふとダ・ヴィンチと立香が離れていくのを見掛けた。
「ん? あの二人、何処かに行くつもりか?」
「あ、はい。何でもダ・ヴィンチちゃんが先輩に話があるそうですよ」
「え? マシュちゃんにも内緒で?」
「私は、ここの後片付けがありますから。あ、修司さんも気にしないで好きに自由時間を過ごして下さって構いませんよ? ベディヴィエールさんも手伝ってくれますし、私なら大丈夫ですから」
少し皆から離れていく二人、恐らくはアトラス院でホームズから説明されたロマニ=アーキマンに関する事なのだろう。ダ・ヴィンチはカルデアに於いてマシュの次に付き合いの長い人物だ。きっと、ダ・ヴィンチなりのロマニへのフォローをしていくつもりなのだろう。
別に、自分も立香ちゃんも気にしていないのになぁ。と修司は手にしたコップに注がれたコーヒーを飲み干しながら思う。修司は仮にロマニが裏切り者で、自分達に害を為そうとするのなら、その時はその時で対応するつもりだし、立香に至ってはロマニが自分達を裏切っているとは全くと言って良いほど信じていない様子だった。恐らくは彼女も修司と似た結論に至っているのだろう。
多少楽観的な思考だとは思うが、一緒に戦ってきた戦友を疑うのは心が疲れるし、表情に出さないとなると尚更大変だ。だったら自分の都合よく信じた方が気が楽だし、その方が仮に裏切られたとしても信じた自分が間抜けだっただけなのだと開き直る事ができる。
尤も、あのロマニが自分達を裏切って魔術王側に着くとも考え辛い、彼は修司から見ても無理している人間だ。人理焼却に対して何とかしようと足掻いている人間に自分達を貶める余裕など、果たしてあるのだろうか?
何れにしても、ダ・ヴィンチの気遣いは杞憂に終わるだろうが…………まぁ、無駄にはならないだろう。万能の天才から見たロマニ=アーキマンという人間を知るのもいい機会だし、二人の間に割って入る真似は控えることにしよう。
そして、それはそれとして。
「なぁロマニ、そっちから騎士王を此処に送ったり出来ない? 何かランスロットもベディヴィエールも悩んでいるみたいだし、話し相手くらいさせてやった方がいいんじゃないかな?」
「「っ!?!?」」
『修司君、君って、時々ワザとなんじゃないかってくらいエゲツない事を思い付くよね?』
「え、そう?」
『それに、残念だけど君の要望は叶いそうにないんだ。実は少し前から聖都方面から奇妙な反応を感知してね、それに比例してその特異点が縮小し始めたんだ。今はまだ緩やかで君達の存在証明に影響はないけれど、此方から戦力を送ることは難しい。心底申し訳ないと思うけど、現状は君達に任せる事になる』
「そっか、それなら仕方ないか。あ、でもこうして通信は出来るんだから、話をする程度なら大丈夫なんじゃない?」
『そ、それはそうだけど………』
気落ちするランスロットとベディヴィエール、二人の騎士の気力を持ち直させる為に、修司は自分なりの気遣いを見せ、カルデアにいるであろうアルトリア(青)を呼び掛けようとする。
「おーい、そっちで此方の様子を見ている皆~、誰でもいいからアルトリアさんを呼んでくれる~? 折角円卓の騎士が二人もいるんだ。いい加減、言いたいことや問い詰めたいことがあるんじゃないのー?」
修司の呼び掛けにどよめくサーヴァント達。確かにランスロットは最低限の犠牲で済ませようと、獅子王や他の円卓の騎士の目を盗んで生存者たちを匿ったりしているが、それでも獅子王の手先となって難民たちを手にかけた事はあるし、ベディヴィエールに至っては重大な秘密を誰にも知られないように抱え込んでいる。
そんな二人の所にアーサー王ことアルトリアを、軽い声で呼び掛ける修司だが、彼とて別に二人を苛めるために騎士王を呼んでいる訳ではない。ランスロットもベディヴィエールも程度はあれど何かを抱えているし、ベディヴィエールに至ってはこの特異点に最も重要な何かを隠しているというのは、修司もなんとなく気付いてはいた。
そんな彼等の心を解きほぐすのは修司ではない。彼等の心の拠り所であり、終生の忠誠を誓った騎士王だけが、それを可能としているのだ。悪意や悪戯心ではなく、純度100%の善意。騎士王が相手ならこの二人の騎士も幾分か素直になるだろうという、修司のよかれと思っての行為に───他のサーヴァントは控えめにいってドン引きした。普段はアレなダビデすらも「アレはない」と後に英雄王に苦言を呈する程である。
対する英雄王は素知らぬ顔で自室に籠り、一人ワインを啜って愉悦に浸っており、後に聖女によって折檻される事になるのは………また、別のお話。
「い、いえ。その必要はありませんよ修司。私のような未熟な者に王の貴重な時間を奪うのは忍びませんから」
「え? でも、いいのか? お前随分憔悴しきっているみたいだし、それがメンタルから来ているモノなら、今の内に抱えているものを吐き出した方がいいんじゃない?」
「それには及びません。私の内にある責は私だけのもの、王に向けられる必要はありません」
そう思っているなら、表情に出すなと言いたくなったが、ベディヴィエールの抱えているものが分からない以上、あまり深く追及する訳にはいかないし、詮索もしない方がいいだろう。本人が最後までそうすると決めた以上、本人の意思を尊重するまでだと、修司もまた納得する事にした。
「そっか、なら俺から言うことは何もないな。悪かったよ、余計なことをして」
「いえ、ただ勘違いしないで欲しいのですが、私は貴方のその気遣いはとても好ましく思っています。円卓には、貴方のようなハッキリと指摘する人間は然程いませんでしたから」
「難儀な集まりだな円卓ってのは。んじゃ、俺もそろそろ寝るよ。見張りの当番は出番が来たら起こしてくれ」
そう言って修司はバステニャン号の甲板へ向かうと、見張りと明日に備えて早めに就寝に入る。これ迄の旅の中ですっかり夜営にも慣れた立香とマシュ、そんな二人に加えて今はダ・ヴィンチや三蔵法師、更には円卓の騎士が二人もいることもあり、そこら辺の心配はあまりしていなかった。
そんな修司の背中を見送ると、ランスロットは改めてベディヴィエールに訊ねた。
「ベディヴィエール卿、卿は何故、今になって我らの前に現れた」
「全ては、己の罪と向き合う為に」
「それは、卿のその義手と関係あることか?」
「…………」
ベディヴィエールの右腕の義手、それは円卓の時代に於いて同僚であるランスロットも知らないベディヴィエールの宝具。しかし、ベディヴィエールにその様な逸話はなく、またケルト神話の戦神と関わった記録もない。
明らかな
「………花の魔術師。彼の大魔術師も、此度の王には思うところがあったか」
「───ランスロット卿」
「失礼、流石に踏み込みすぎたな。卿ももう休むといい、後の見張りは私が引き受けよう」
「ありがとう、ございます」
踏み込まず、察した様子で休むよう促してくるランスロットに、ベディヴィエールはただ礼を口にする事しか出来なかった。全ては、自分の迷いの果てに生まれた罪、それに向き合うことが自分への罰であり、贖罪なのだ。
「あぁ、今度こそ。今度こそ私は………この手で」
“王を、殺すのだ”
◇
「さて、そういう訳でやって来ました大神殿!」
「いやー、やっぱ改めて見るとデカイなぁ。昔の人はどうやってこんなデカイ建築物を建てたんだろうな」
翌朝、日の出と共に行動を再開した一行は、朝日が昇りきる前に目的地へと辿り着く。朝日に照らし出された大神殿は黄金に輝き、神秘的な光景を造り出していた。
太陽王への謁見はこれで二度目だが、直接面識があるのは立香とマシュ、そしてダ・ヴィンチの三人のみ。修司はあくまで外で待機していただけであり、実質王への謁見は三人が頼りとなっていた。
太陽王が座する大神殿にまで続く巨像、獅子王の座するキャメロットとはまた異なる威容のある景観に修司が唸っていると、奥から神官と思われる褐色の女性が姿を現した。
「来ましたか、カルデアの者達よ。ファラオがお待ちです。謁見を行うのであれば、速やかに行いなさい。………おや? そちらの方は初めてですね。貴方もカルデアの人間なのですか?」
「如何にも。名は太陽王の御前にて晒すつもりですので、どうか今はご容赦くださるよう、お願い申し上げます」
「ほう、中々礼節を弁えた者の様ですね。余程良い王に仕えているのでしょう」
「はい。今は少々事情があって暇を出された身ではありますが、この身は未だ未熟ではありますが、英雄王の臣下、その末席に加えられている身でございます。後ろに控えている騎士はランスロットとベディヴィエール、共に円卓の騎士ではありますが、彼等は既に我等の配下の身の上、そこに至るまでの経緯を含めて話しておきたいので、どうかお目通りの方をお願いしたく存じます」
「え、英雄王の!? な、成る程、どうりで………彼の英雄王の臣下であるのなら、太陽王も無下にはしません。良いでしょう、貴方を含めそこの円卓の騎士達の謁見も許しましょう」
「ありがとうございます」
これ迄尊大な態度だった女性の態度は、英雄王の名前を出した途端に一転する。一瞬修司の虚言かと怪訝に思う女性だが、修司の言葉に嘘偽りはない。ならば太陽王に通しても問題ないと判断した女性は、改めて大神殿の奥へと案内した。
「ふぇー、あの頑固なニトクリスさんがあぁもアッサリと」
「い、意外です。てっきりスフィンクス辺りをけしかけてくるかと思っていただけに、この展開は予想外です」
「恐らく、修司君の英雄王に仕えていた経験が活かされたんだろうね。ニトクリスも嘗てはファラオの一人だったが、今は太陽王の臣下として振る舞っている。共に王に仕える者として、無下には扱えないと察してくれたんだろうね」
「て言うか、修司さんってメッチャ畏まるんだね」
「ん? そりゃそうだろう。太陽王は王様も認めるファラオ、そこに顔を出しに行くんだから、最大限の敬意は必要さ」
相手が王であり、その臣下であるならば失礼のないように振る舞うことは修司にとって大事な事である。今でこそ英雄王の臣下から離れた立場ではあるが、それを理由に礼節の欠いた態度をするわけにはいかない。
自身の失態はそのまま英雄王の汚点になる。そうならない為にも、ニトクリスなる神官や太陽王の前では失礼のないように振る舞う事を徹底しているのだ。
「し、修司、貴方もその……王に仕える身なのですね」
「あぁ、まぁ悪かったよ黙ってて。騙すつもりはなかったんだけどな」
「い、いえ。それは良いのです。ただ、貴方には一つ訊ねておきたくて………」
「なんだよ? そろそろ太陽王の御前だ。手短に頼むよ」
「もしも、もしも貴方の王が間違いを犯した時、貴方はそれを糺す事が出来ますか?」
「程度によるが……まぁ、多分そうするんじゃね?」
修司が英雄王の臣下であるという事に驚くベディヴィエールだが、同時に聞きたい事が出来た。もしも自分の王が間違った道へ踏み出した時、自分はそれを糺す事が出来るか否かを。
すがるようなベディヴィエールの質問に、修司は簡潔に応るが、正直それは彼の答えに成り得ることはないだろう。英雄王と騎士王もとい獅子王とでは、比較する事は出来やしないのだ。
それに、修司は確信している。仮に英雄王が間違った道を進んだとしても、それは自分達から見た尺度であって、王から見たモノとでは善悪の基準があまりにもかけ離れている。仮に人類の敵側に立つことになっても、それは王が遥か未来を見据えての行動だと自信を持って言えるし、王が自分にもそれに手を貸せと言えば喜んで手を貸すつもりだ。
ただ、仮に王が間違っている事をした時は……その時はきっと、この拳は英雄王にも向けられる。万が一その時が来たら………まぁ、やっぱり自分は
次回、太陽王。
オマケ
とある未来の話にて。
「ん? 主のマスターの戦友………て、流石に長いか。長いから適当にシュージって呼ぶぞ。その方が楽だからな」
「お前の主はどうしたかって? あぁ、主なら立香と一緒におでんを食べてるよ。私はいいのかって? いい。行っても子供扱いされるだけだからな」
「気持ちは分かる? はは、それもそうか。お前も今は私と対して背丈が変わらないものな。それなのに強さは変わらないとか、ドンだけって話だが……」
「────ん? あぁ、いいぞ。どうせ私も今は暇をもて余しているからな。話し相手くらいになってやるさ」
「…………え? 序でに匿って欲しい? モルガンとか頼光とかに狙われてて大変?」
「はぁ、仕方ないやつだな」