『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今回、ボッチがやらかします。

ご注意下さい。

そして今年、果たしてハロウィンイベントは来るのか!?


その105 第六特異点

 

 

 

 アトラス院を後にし、ホームズの案内の下、薄暗い洞窟の中を進み陽の光が照らされる大地に戻ってこれた一行。今はまだ直接協力は出来ないと語るホームズとの別れを惜しみながらスピンクス号の所まで戻ると、修司はこれからの事について皆に訊ねた。

 

「さて、一応アトラス院からそこそこの実りある情報は得られたとして、これからどうする? やっぱり太陽王の所にいって話を付けに行くのか?」

 

「うーん、そうだね。後はこの特異点に関する情報位なんだけど………修司君、ぶっちゃけ君はこの特異点についてどれだけ理解しているかな?」

 

「あ、あー、なんか、壁みたいな光が見えた気がしたな。ンで、その向こうには何にも無かった。もしかしたら、それがこの特異点の異常性?」

 

 ダ・ヴィンチに言われ、初日にこの特異点にレイシフトを果たした時の事を思い出す。遥か上空の空に投げ出された時の事、覚えているのはこれ迄の特異点同様に空に浮かぶ光帯が目に付いたが、今回はそれ以上に印象になる異様な光景が広がっていた。

 

見渡す限りの砂漠と荒野の大地を囲む光の壁、幻想的で何処か破滅的にも見える光の先には…………何もなかった。あの時は皆とはぐれた事や特異点に蔓延る強敵達の実力を計るために気を探っていた時だったから其処まで記憶していなかったが、今にして思えば、あれはこれ迄の特異点の中でも異常性が際立っていた気がする。

 

もし、もしも仮にアレを“世界の果て”と呼称するなら、獅子王がやろうとしているのは虐殺以上の蛮行なのかもしれない。

 

「いや、でもアレが獅子王の仕業である確証はないんだし、あんまり決め付けるのも良くないか」

 

「………いや、もしかしたらその通りなのかもしれないよ」

 

「………マジ?」

 

初見で見た感想を、自分なりに考え、推理した末に出した答え。我ながら突拍子のない拙い話だが、ダ・ヴィンチからすればそうでもないらしく、確信を以て肯定してくる万能の天才に修司は驚き以上に呆れの感情で聞き返していた。

 

「では、今回はその事について答え合わせをしていこうじゃないか。ランスロット君、そろそろ話して貰ってもいいんじゃないかな?」

 

自分以上に懐疑的で、修司よりも呆れた表情でランスロットに訊ねると、周囲の面々も揃って視線を湖の騎士に向けると。

 

「───最早、隠しだては無意味か。既に敗残の将である以上、私に選択肢はない、か」

 

「ランスロット卿………」

 

「いいでしょう。私も腹を括りました。Ms.レオナルド、この座標に向かってください」

 

腹を括った。長い沈黙の果てに自分のするべき行いを見出だしたであろうランスロットは、円卓にも、獅子王にも隠していたある場所に関する情報を告げた。一瞬だけ罠かと怪訝に思うダ・ヴィンチだが、彼女に向けられる目は真剣で、其処に偽りがないことを察したダ・ヴィンチは、スピンクス号の舵を切って目的地へと向かった。

 

その途中。

 

「───修司君、君は私に何かを聞いたりしないのかい?」

 

「は? 何が?」

 

「惚けなくてもいいさ。ホームズからも聞いただろう? ロマニ=アーキマンは2004年の聖杯戦争で、当時の勝利者である前所長マリスビリー=アニムスフィアと協力関係にあった。その彼が医療機関のトップで、今はカルデアの代理所長ときている。怪しい事この上ないだろ?」

 

 目的地に向かう途中、運転中のダ・ヴィンチに運転を代わろうかと提案しにいった時、ふと彼女からそんな事を言われた。

 

確かにホームズの言うように、ロマニ=アーキマンという男には怪しさしか感じられない。別にホームズの言葉を鵜呑みにしている訳ではないが、トライヘルメスという大掛かりな装置を用意している以上、彼の言うことに嘘や偽りはないのだろう。

 

Dr.ロマニは前所長と繋がっている。更にいえばそれ以前の経歴はトライヘルメスですら詳しくは知らないとされている。怪しくないと言えば嘘になるが、かといってその事について修司は特に気にしている訳でもなかった。

 

何故なら───。

 

「あぁ、その事? 悪い、俺全然別の事を考えていたわ」

 

「えぇ?」

 

白河修司が気にしていたのは、それとは全く別の事。マリスビリーやロマニの事は気にはなるが、それ以上に別の事に思考が向けられていたのだ。

 

「まぁ、今は別にその事はいいんじゃない? ロマニは俺から見ても頑張っているし、何なら気負い過ぎな所がある。アイツ、また睡眠時間を削って作業してるんだろ? そんな奴を、頭ごなしに否定するほど俺は落ちぶれていねーよ」

 

「………修司君」

 

「それに、仮に俺達に隠し事をして、それが俺達に対する裏切りで、立香ちゃんやマシュちゃんを傷付けるなら、それこそ俺の拳が唸るだけさ。勿論ダ・ヴィンチちゃんにもな」

 

「わ、私もかい!?」

 

「当たり前だろ? その様子だとダ・ヴィンチちゃんもなんか知ってて隠している部分があるんだろ? だったら同罪だ。気を付けろよー、俺は基本的に男女問わずやらかすみたいだからさ」

 

 そう言ってニカッと笑う修司にダ・ヴィンチも呆れながら笑みを浮かべた。単純な思考回路、こんな奴が人類史の中でも指折りの技術者というのだから質が悪い。

 

けれど───。

 

「全く、君は物事を単純に考えすぎだ。でも……ありがとう」

 

「アンタたちは物事を複雑に考えすぎなんだよ。どういたしまして」

 

事実、修司にとってマリスビリーもロマニもそれほど重要な話ではない。前所長は既に亡くなっていると聞くし、仮にロマニが自分達を土壇場で裏切ったとしても、それを説得(物理)できる用意は自分にはあった。

 

ただ、それ以上に修司が気になっているのは、2004年の聖杯戦争の時、そこでこの世界の自分は何をしていたのか(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 白河修司にとって、理不尽や不条理というのは到底許容出来ず、それが自分や友人達に対して害を成すというのなら、相手が誰だろうと決してその所業を許したりはしない。

 

この世界の自分もそう(・・)なら、きっと魔術師達に好き勝手させたりはしない。少なくとも、あの様な地元の街を火の海にはしない筈だ。

 

(一体、この世界の俺は何をしていたんだ?)

 

脳裏に浮かぶのは、特異点Xで見た変わり果てた冬木の街。炎に呑まれ、何もかもが消え去った最悪の光景に………酷く苛つく自分がいて、その苛つきはカルデアからの通信が届くまで続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こ、ここって───!」

 

「円卓軍の、野営地!? で、ですがどうしてここに!?」

 

「待って、円卓軍の騎士達だけじゃないわ。山の民、砂漠の民、聖地の人達まで一緒にいるわ」

 

「これだけの規模の拠点、昨日今日で出来たモノじゃないね。最早ここは難民達の村と言えるだろう」

 

 ランスロットの案内の下に訪れた場所、そこでは山の民や砂漠の民問わず、人種や立場という垣根を越えた一つの共同生活集団を築き上げていた。

 

「ランスロット卿、貴方は───難民達をここに避難させて、匿っていたのですか!?」

 

「………聖抜に選ばれてしまった者は聖都に輸送する他なかったがな。選ばれなかった人々をどうするかは私の自由だ。王は処罰しろ、とは命じなかったのでね。それに、王命に背いて放浪する騎士達も少なくはなかった。彼等にも居場所は必要だ」

 

「なので、騎士達には難民達の警備をしてもらっていた。ようは私の私設軍隊だ」

 

「もう、スッゴい詭弁ね! これ、立派な反逆罪よランスロット!」

 

これ迄、獅子王の聖抜に選ばれなかった人々は、全て皆殺しにされていたと思っていた。立香もマシュも、助けられたのは自分達がたまたま聖抜の儀にいたあの時だけで、それまでは皆円卓の騎士達に殺されたとばかりに思い込んでいた。

 

しかし、そうじゃなかった。ランスロットという湖の騎士は、自ら詭弁を口にしている事を自覚しながらも、どうにか一人でも多くの人間を救おうと彼なりに足掻いてきたのだ。獅子王からの王命に従えず放浪し、聖抜の義に選ばれず、死ぬ事しか道のなかった難民達を秘密裏に匿い、獅子王の王命に背き、放浪して野垂れ死ぬしかなかった騎士達を難民達の警備という名目で居場所を与え、生き長らえさせていた。

 

その事を指摘しながらも笑みを浮かべる三蔵に対し、修司もまた納得したように手を叩いた。

 

「そっか、聖都から離れた場所に幾つかの気が感じられたから、てっきり円卓軍の拠点の一つかと思っていたから不思議に思っていたけど、そういう事だったのか」

 

「やっぱり気付いてたんだね君は、もう少し早く教えて欲しかったよ」

 

「悪い悪い。この特異点に来てから色々あったから、すっかり忘れてたよ。でも、これで分かった。ランスロット、アンタは最初から俺達を此処へ運ぶつもりだったんだろ?」

 

「え?」

 

「それは………どういう?」

 

「まぁ、保険のつもりだったんだろうよ。他の円卓の騎士達と比べ、ランスロットはあまりにもマトモだ。獅子王に対する疑念を抱き、それが悪である事を確信したアンタは、王命の隙間を狙ってこの野営地を築いた。全ては、いつか獅子王に問い質す為に……」

 

「………買い被りだし、深読みが過ぎる。私は単に無意味に人を死なせる事を由としなかっただけの男に過ぎない。それに、仮に諸君らを捉えた所で、此処へ通すとは限らない。特に君は、我等にとって余りにも凶悪過ぎる」

 

「ハハ、誉め言葉として受け取っておくよ」

 

「誉めてはいないのだがね」

 

「むむー」

 

「わ、どうしたのマシュ、頬っぺたをそんなに膨らませて?」

 

「い、いえその……修司さんとランスロット卿が仲良さげにしているのがなんというか………少し、モヤモヤしマシュ」

 

 それは尊敬する修司()が、碌でもないランスロット(穀潰し)に取られて不貞腐れる子供のような心境みたいなものだと、三蔵やダ・ヴィンチ達は察したが、口にするのは流石に止めておいた。

 

『ともあれ、ランスロット卿。ここに連れてきてくれたという事は、そう言うつもりだという事で認識しても構わないかな?』

 

「それは、これからの話し合いで決めるとしましょう。既に天幕は用意させているので、話はそこで……」

 

そう言ってランスロットの後に続き、やって来たのは一行が入っても余裕のある大きな天幕だった。周囲に人気はなく、話し合いをするには最適で、適当に寛いでくれと促された一行は、それぞれ楽な姿勢となる中、ベディヴィエールだけは直立のままだった。

 

そんな真面目なベディヴィエールに誰もが苦笑いを浮かべる中、最初に口を開いたのはダ・ヴィンチだった。

 

「さて、早速聖槍と獅子王の事だけど、いきなりで申し訳ないが断言しよう。この世界の特異点の終焉は獅子王の持つ聖槍と連動している」

 

「初っぱなから重い話が出てきたな。ンじゃなにか? 獅子王の聖槍が砕かれたら、この特異点は消滅するって事か? そんな大層な代物なのかよ、聖槍って」

 

 ダ・ヴィンチから告げられる衝撃的な言葉に、上手く実感の湧かない修司は信じられない様子で聞き返した。

 

『正確には、獅子王の聖槍は槍であり、“塔”でもあるんだ。今君達が立っている世界、その表面(テクスチャ)を縫い付ける為の、留め針みたいなモノなんだ』

 

「せ、世界の表面?」

 

「または“世界の果て”とも呼べる。修司君、君はこの特異点に光の壁を見たと言ったね? つまりは、獅子王のいる聖都が世界の果てであり、聖槍が最終段階に入れば、聖都を中心に世界は消えてなくなるという訳さ」

 

アトラス院で得られた情報を、簡潔に分かりやすく教えてくれたダ・ヴィンチに礼を言いつつ、修司は獅子王が碌でもない奴だという事を再認識した。世界の果てとか、表面とか、魔術的用語はイマイチ理解出来ないが、獅子王が余計な事をしているというのは充分理解できた。

 

要するに、獅子王の計画は世界を終わらせると同義で、自分達はそれを防ぐ必要がある。だったら話は簡単だと、自己完結を果たした修司は立香にも同様に説明するのだった。

 

「成る程、つまりは獅子王を止めた方が良いって事なんですね!」

 

『う、うーん。間違っていないのは確かなんだけど……なんか複雑な気分』

 

「話を戻すよ。つまり、聖槍は人類を確保する為の鳥籠であり、管理する塔でもあるという事。ならば、聖抜とは結局なんなのかという話になるわけだけど……」

 

『恐らく、人の善性。属性で言うところの秩序・善の人間を聖都キャメロットに集めて、キャメロットごとロンゴミニアドに吸収、どのような隔絶空間にあっても存在し続ける宇宙コロニーの様なものにする。それなら魔術王による人理焼却にも耐えられる。それが獅子王の目的だったんだ』

 

「要するに、自分達に都合のいい人間だけを選別するだけという話か。この分だと、聖都に入った人達が人間らしい生活をしているのかも怪しいな。そこん所、どうなっているんだ?」

 

「それは………済まない。我等に与えられている任務は聖抜に選ばれた人々を確保する事、それ以上の情報は与えられていないのだ」

 

 極論で言えば、自分の指定した人間だけを選んで救うという獅子王の人理焼却に対する備えは、一見すれば合理的ではあった。如何に聖都や獅子王であっても万人を救うことは不可能であり、それを早期に理解したからこそ聖抜という措置を行ったのだろう。

 

限られた人間だけでも救おうとする。それだけならば修司もそこまで否定はしない、それが本当の意味で人類の為にあるのならば。

 

だが、彼処まで苛烈な対応をしてくる獅子王が、選ばれた人間に人間らしい生活を与えたりするなど、本当に有り得るのだろうか? 満足に抵抗したり、戦える者のいない村や集落に裁きという名の戦略兵器を叩き込んでくる輩が、人類の未来を本気で考えているとは………到底思えない。

 

何か、ズレているのではないか? ダ・ヴィンチとロマニの話を聞いて、考え込んでいた修司はふとあることを思い出す。

 

「………なぁロマニ、魔剣や妖刀の類いが持ち主の人格を奪うって話、聞いたことないか?」

 

『え? あ、うん。まぁ確かにそんな話はあるかもしれないね』

 

「ならさ、獅子王の持つ聖槍も、似たような力があると、そんな風に考えられたりしないか?」

 

『あ、あー。聖槍が人類を守る為と暴走し、騎士王の人格を乗っ取った結果、獅子王が生まれたと、君はそう考える訳かい?』

 

「あぁ、ベディヴィエールやランスロットも言ってたけど、俺も騎士王───アルトリア=ペンドラゴンが虐殺を好むとは思えない。カルデアにいる彼女を見ていたら尚更そうだと思うよ。……俺には、どうしても彼女が其処までの蛮行に及ぶとは思えない」

 

『修司君』

 

「いや、単なる俺の願望だというのは重々承知しているよ。でも、それでもやっぱり可能性は捨てたくないんだ。あの聖槍が嘗ての騎士王を縛っているのだとしたら………」

 

『いや、そうじゃなくて………後ろ後ろ』

 

「うん?」

 

全ての元凶は、獅子王の持つ聖槍ロンゴミニアド。それが嘗ての騎士王の人格を奪っているのなら、これから彼の王に対して対応は変わってくる。自分の甘さを認識した上で、それでもその可能性に賭けてみたいと語る修司に対し、ロマニの反応は淡白だった。

 

周囲を見渡せば、マシュも立香も顔を青ざめていてダ・ヴィンチに至っては呆れながら顔を手で覆っている。何で皆そんな“やっちまった”みたいな空気になっているのだろう? 不思議に思いながら後ろに振り返ると………。

 

「「──────」」

 

 真っ青になりながら震える騎士達がいた。

 

「お、おおおおおお王が、ききききき騎士王が、そちらにいらっしゃるのですかかかかか?」

 

「え? うん。なんならこれ迄の事、現在進行形で見てる筈だぞ?」

 

「ゲボハァッ!?」

 

「ピャーッ!?」

 

カルデアには、現地でのやり取りをリアルタイムで確認し、サーヴァント達が自己の判断で救援に向かう特別な処置が設けられている。何気なしに修司がそう口にした瞬間、ランスロットは血反吐を吐き、ベディヴィエールは奇声を発しながら倒れ付した。

 

阿鼻叫喚の地獄絵図、それを生み出した当の本人は、自分のやらかした光景に頬を掻いて……。

 

「あー、その。ごめんなさいね?」

 

「修司、後で説法ね」

 

三蔵の杖にポカンと叩かれるのだった。

 

 

 

 






Q.聖槍や獅子王の目的って、いつ話したの?

A.アトラス院への移動途中、ホームズがそれとなく話しております。描写不足ですみません。

Q.ホームズの事、ダ・ヴィンチちゃんからロマニにチクられたりしない?

A.言った瞬間、ボッチからの追求も同時に始まるため、言いたくても言い出せない状況になる模様。

Q.これ、ランスロットとかベディヴィエール、大丈夫なん?

A.円卓の皆のメンタルを信じましょう!


それでは次回もまた見てボッチノシ




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