『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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暑かったり寒かったり、寒暖の差が激しい日々ですが、体調を崩さず気を付けましょう。

尚、限界は短め。


その103 第六特異点

 

 

 

「────そうか。ランスロット卿もトリスタン卿も、戻ってはいないか」

 

「ハッ、お恥ずかしい限りではありますが。戻ってこれない事を推察するに辺り、恐らくは山の翁の何れかに敗北したかと思われます」

 

「卿は、円卓の騎士である彼等が、たかが暗殺者風情に遅れを取ると、そう言うのか?」

 

「…………いえ、決してそのようなことは」

 

 山の翁と、彼等を支持する民草の集まる集落を発見したという報せから一夜明け、ランスロットとトリスタンという獅子王の戦力が未だ戻ってきていない報告を受けたアグラヴェインは、己の王である獅子王に進言した。

 

如何に暗殺に長けている山の翁であっても、一騎当千の戦力に当たる円卓の騎士が敗北するとは考え難い。太陽王と結託したという情報も届いていない今、考えられる理由はそう多くはない。

 

「────山吹色の男、恐らくは星見の天文台(カルデア)より遣わされた彼の戦士の仕業だろう。私がトリスタン卿に与えた“反転”のギフトが消失した事が、何よりの証明だろう」

 

「っ、やはり……では、ランスロット卿も?」

 

トリスタンが葬られた。その事実に僅かな動揺を垣間見せたアグラヴェインは、ランスロットも消滅したのかと微かに焦りを見せる。湖の騎士はアグラヴェインにとって天敵とも言える相性の悪さがあり、生前の因縁も含めて厄介な間柄ではあるが、それを差し引いても湖の騎士の戦力を無下に出来るほど、鉄の騎士は愚かではない。

 

せめて、獅子王が事を成す時まで存命していて欲しいが、死んでいるのなら仕方がない。そう自分に言い聞かせてアグラヴェインは獅子王に訊ねるが、当の獅子王は違うと首を横に振った。

 

「いや、我が騎士であるランスロットに与えたギフト、“凄烈”は消えてはいない。恐らくは聖都に向かっている最中なのだろう」

 

「────」

 

 湖の騎士に対し、あの頃から何も変わらない態度の獅子王に、アグラヴェインは自身でも自覚がないほどに拳を握り締めていた。湖の騎士は騎士王であるアーサー王、その伝説に終わりをもたらした一因となった者、彼の裏切りに多くの同胞が倒れ、自身もまたその凶刃に命を絶たれた。

 

そんな彼に未だ全幅の信頼を寄せる獅子王に、思う所があったとしても、所詮は個人の感情に過ぎない。沸き上がる感情を必死に噛み殺しながら、アグラヴェインは獅子王の言葉を待った。

 

「とはいえ、聖槍も既に最終段階へと至った。最果ての塔は、ついに我らを迎え入れる。我等にとっての最大の障害となるのは時間、人理焼却を終えた彼の王が次の段階に入る前までに、最果ての塔を開かねばならなかった」

 

「そして、それはじきに成ろうとしている。もはや山の民たちの反抗など些事に過ぎない」

 

 そう、既に獅子王の目的は間もなく達成されつつあった。人類という種を保護すべく行ってきた聖抜、それが間もなく完遂されるという理由から、獅子王は聖槍を山の民への村へと解き放った。

 

既に山の民達は、彼等を守護する翁達と共に滅んでいる。そう信じて疑わない(・・・・・・)獅子王は、残された僅かな問題に向けて注視するように目を細める。

 

「だが、全ての問題が片付いた訳ではない。恐らく生き延びているであろうカルデアの者共と、奴等の最大戦力である山吹色の男。太陽王と同じく、此方もまた警戒すべき相手だろう」

 

「既に、追撃の部隊は再編成を完了しております」

 

「よい。言った筈だぞアグラヴェイン卿、我等の最大の障害は時間であると。最果ての塔が開かれるまで、ただ時間を稼ぐだけでよい」

 

「ガウェイン卿も、もう間もなく復帰する頃合いだろう。彼に守護を任せれば、問題はないだろう」

 

「御意に。では、モードレッドと合わせて防衛の陣を築きます故」

 

「あぁ、任せる」

 

そう、全ては獅子王の目論見通り。彼女の言うことは全て正しく、神の視点へ至った彼女は常人とはかけ離れた世界をその目に写しているのだろう。

 

全ては人類存続の為、その為ならばどんな悪辣に成り下がろうと彼女が進む道行きは変わらない。そんな彼女が、唯一誤算があるとするならば……。

 

山吹色の男────白河修司の、理不尽に対する怒りを侮った事である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────アトラス院。魔術協会総本山である時計塔と並ぶ、三大魔術機関の一つ。その歴史は時計塔よりも深く、時計塔よりも神秘の秘匿に尽力してきたとされる魔術の徒。人理焼却に伴い焼失されたと思われるその研究機関が残されているという初代山の翁の(キングハサン)からの助言もあり、獅子王の奮う聖槍と第六特異点の真実を暴くために、一行は錬金術師達の総本山であるアトラス院へと進んだ。

 

吹き荒れる砂漠の嵐を抜け、砂の大地に駆動音を鳴らすスピンクス号が轍を残して目的地へ向けて駆けていく。

 

「「「「………………………」」」」

 

心地よい風が立香達の頬を撫でる一方、彼女達の心境は正反対に気まずかった。顔中を腫らせ、正座して項垂れているのは湖の騎士ランスロット。そんな彼を絶対零度の眼差しで見下ろすのは、我等が後輩マシュ=キリエライトである。

 

スピンクス号を走らせて早半刻、その間誰一人言葉を発する事なく、口元をHの形にキュッと結んでしまい、沈黙を生み出してしまっている。

 

 いや、だって………気まずいやん。先の集落で一方的にランスロットを殴り続けたマシュを見て、何て言葉を掛けたらいいのか分からず、ベディヴィエールすらこの件に触れるのを躊躇しているように見えた。

 

先の喧嘩で見たマシュに宿っている英霊の真名も何となく察してしまった為、余計に触れるのが難しくなってしまっている。

 

(て言うか、誰だよマシュちゃんにデンプシーロールを教えた奴、リバーブローからの完全再現だったんですけど、キレイなガゼルパンチとか出てきちゃったんですけど)

 

脳裏に浮かぶのは、戸惑うランスロットに見舞ったマシュの渾身の拳の応酬。人体の急所を的確に打ち抜き、綺麗に描く無限()の軌道は某ボクシング選手の必殺技を想起させた。

 

マシュ之内の拳の連打によって見事打ち倒されたランスロットは、改めて修司達の捕虜となり、現在はマシュの監視の下となっている。

 

「所でマシュ。どうしてデンプシーロールなんてボクシングの技を知ってるの? もしかして……マンガで読んだりした?」

 

「え? いえ、先程の動きは全て聖女マルタ(水着)から教わった肉弾戦でして、別にマンガから得た知識ではないですよ?」

 

「へー、そうなんだ」

 

「あっ、でもマルタさんから強く勧められたので、今回の特異点修復後には嗜むつもりです。何でも虐められっ子の少年が、ボクシングの日本チャンピオンになるのだとか、その道程が少々気になったので」

 

「ふーん、いいじゃん。私も今度久し振りに読んでみようかな」

 

(いや何やってんのあの聖女ォォォッ!?)

 

 まさかの凄女からの横やりである。純真無垢なマシュになんという恐ろしい技を授けているのだろうか、というか、実際にやり遂げるマシュもマシュである。

 

マシュに対する今後の教育姿勢をロマニと話し合っていく事を決めた。そして、空気が未だに冷たい中砂漠を走り抜ける事数分。

 

「そろそろ目的の場所に着く筈なんだけど……」

 

目的の場所まで後僅か、だというのに一向にそれらしき建造物は見当たらない。座標地点は間違いなくあってる筈だと唸るダ・ヴィンチだが、ここで首を傾げても仕方ないと思い、皆に告げる。

 

「もしかしたら、近付かなければ分からない特殊な結界の類いなのかもしれないね。皆、申し訳ないけど此処からは徒歩だ」

 

「了解です。さて、それでは参りましょうかランスロット卿。貴方を一人此処で置いていたら何をされるか分かったものではないので、引き続き私が監視をさせていただきます」

 

「───既に、私は敗北した身。今更抵抗して恥の上乗りをしようとは思わん」

 

「はい?」

 

「───トゥワ」

 

 氷点下越えの眼差しに萎縮し、縮こまる湖の騎士に修司達はこの時だけランスロットに同情した。

 

「さて、どうだい修司君。君の気の探知は何か情報を掴んではいないかい?」

 

「そんな期待されても困るんだけどな。俺の気による探知はあくまで人や生命に対して向けられるモノであって、場所や空間を指すものじゃないんだ。ただ………」

 

「ただ、なんだい?」

 

「気のせいかな、俺達の足下から誰かの気を感じる」

 

瞬間修司達の足下は崩れ、一行は暗い闇の底へと落ちていく。誰もが突然自分の足元が崩れた事に驚くが、その中で唯一次の行動を移せる者がいた。

 

「修司君! 皆を抱えあげて!」

 

「!」

 

 ダ・ヴィンチの言葉に我に返った修司が、白い炎を纏って宙を舞う。立香とマシュ、フォウを最優先に掴み取り、次点でダ・ヴィンチや三蔵、ベディヴィエールを抱え、最後にはランスロットを両足で挟むように掴む。

 

そして僅かにフラつきながら、修司達は穴の底へと辿り着く。何とも手の込んだ罠だ。見上げれば空の光も届かない程深く落とされた事に辟易しながら、修司は左手に気の明かりを灯し点呼する。

 

「さて、唐突の罠に皆驚いたと思うけど、その前に点呼を取らせてもらうよ。立香ちゃんマシュちゃん、怪我はないかい?」

 

「はー、ビックリした。うん。私は平気だよ」

 

「わ、私も大丈夫です。スミマセン修司さん、お手数お掛けしまして」

 

「気にすんなって、適材適所だ。続いてダ・ヴィンチ、ベディヴィエール、三蔵、無事か?」

 

「ぎゃてぇ。まさかこんな大仕掛けがあるとはねぇ。設計者には説法しなきゃ! それはそれとして修司、私の弟子にならない?」

 

「結構です」

 

「私達も無事だよー。いやー、本当に修司君は便利だねぇ。一家に一人は欲しいよ」

 

「わ、私も問題ありません。………人間って、空を飛べたり出来るのですね」

 

「ランスロットは……まぁ、大丈夫だろ。一応円卓の騎士だし」

 

「トゥワ」

 

 全員の無事を確認し、一先ず安心する修司だが、如何せん自分達のいる場所は穴の底。出る分には問題はないが、意味もなくこんな場所に巨大な落とし穴があるとは不自然だ。状況と山の翁の証言を合わせ、修司が思考を回転させ始めた時───。

 

「そう、君の考えの通りさ。Mr.白河、この場所こそが君達の探し求めていた場所に他ならない」

 

修司の思考を遮る形で、その男は現れた。端正の顔立ち、知性と理性に道溢れさせて喫煙パイプを片手にたたずむ男性。

 

「ようこそ、カルデアの諸君。神秘遥かなりしアトラス院へ! 私はシャーロック=ホームズ。世界最高の探偵にして唯一の顧問探偵。探偵という概念の結晶、“明かす者”の代表───君達を真実に導く、まさに最後の鍵という訳だ!」

 

 




Q.獅子王は自身の裁きを防がれたこと知らないの?

A.知りません。何ならそれを上回る光線(かめはめ波)に消滅されたのも知りません。

Q.皆、マシュに宿っている英霊の事に気付いてるの?

A.大体気付いてます。けれど言い出すのが気まずくて黙っている状態です。


それでは次回もまた見てボッチノシ




おまけ

ある日のカルデア

「………何のようだ。殺生院」

「フフフ、漸く私に振り向いてくれましたね。あなた様に視線を向けられること、一日千秋の思いでございました」

「今日は数少ないイベントの日だ。無闇に戦うのは憚れる。用件ならさっさとしろ」

「まぁ、相変わらず素っ気ないお方。そんなにもあの娘達が気掛かりですか?」

「────」

「ふふ、冗談です。そう闘気を滲ませないで下さいまし。昂ってしまいますわ」

「………これが最後だ。用件は?」

「此方を」

「………おはぎ?」

「はい。現在カルデアはバレンタインデーでしょう? 俗世に肖るのも一興かと思いまして。あ、毒などの類いは仕込んでおりませんので、安心してください」

「…………」

「まぁ、信用できないなら捨てるなり何なりしてください。では、私は───」

「あむ。うむ……うむ………うん、結構美味いな」

「────私が言うのも何ですが、疑わないのですか?」

「別に、お前がそんな下らない事をしないって知ってただけだ。じゃ、俺はもういくぞ。おはぎ、美味かったぜ。ありがとな」

「………本当、そう言う所ですよ」

その後、お返しに渡されたクッキーを渡され、戸惑う殺生院がいたとかいなかったとか。

尚、そのクッキーの味は自分では作れないほどに美味で、渡された女性サーヴァントはある種の対抗意識が芽生えたとか。




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