『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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ある意味、第六特異点で一番書きたかったお話。





その102 第六特異点

 

 

「───そっか、やっぱりさっきの光はアーラシュさんだったか」

 

「…………うん」

 

 体力も回復し、虚脱感から抜け出した修司が急いで集落に辿り着いた時は、既に全てが終わった後だった。

 

円卓の騎士と彼等の率いる軍勢を前に、山の民からは唯の一人も犠牲者を出さず、殆んど無傷で退ける事に成功した。そう、一騎のサーヴァントを除いて。

 

アーラシュ=カマンガーは、空から降りてくる獅子王の裁きを前に己の命を対価で支払う宝具を以て、降ってくる巨大な光を霧散させた。

 

彼以外にあの窮地を退ける者はいなかった。彼以外の何者も、あの場で抗える選択肢など持ち合わせてはいなかった。だから、アーラシュ=カマンガーの選択肢は間違っておらず、それに異議を唱えられる者など居はしない。

 

けれど、それでも………。

 

「もう少し………色々と話しておきたかったなぁ」

 

 彼との突然の別れを、簡単に受け入れて、割り切れる事は出来なかった。

 

「立香ちゃん、大丈夫か?」

 

思えば、明確な死に別れを体験するのは、今回が初めてだった。これ迄の特異点は多くのサーヴァントと共に行動し、白河修司という規格外の猛者がいる事でどうにか脱落者を出さずに、ここまでこれた。

 

藤丸立香はごく普通の人間だ。魔術師としての教養など微塵もなく、巻き込まれただけの素人。人の死の間際に立ち会う経験などある筈がなく、それが自ら命を差し出す行為のならば尚更だ。

 

「うん、私なら大丈夫。ただ、少し………寂しいだけ」

 

そんな強がりを言う立香に、修司からはこれ以上語る言葉を掛ける事はなかった。特異点の旅を続けると決めたのは彼女の意思、ならばその意思を尊重するべきなのだろう。

 

「そっか、頑張ったな」

 

「ちょっ、もー修司さん! いきなり女の子の頭を撫でるなんてマナーがなってないよ! ………でも、ありがと」

 

 それでも、歯を食い縛って立っている立香を気に掛けない訳がなく、修司は寂しそうに目を細める立香を、自分なりのやり方で励ます事にした。

 

「おお、修司殿、戻られましたか」

 

「呪腕さん、東の村の方は何とか無事です。そしてスミマセン、俺にもっと余裕があれば……」

 

「其処までにしておきましょう。お互い、己の無力さに嘆く暇はありますまい。静謐にも言いましたが、今回は我々の見通しが甘く、円卓を招き入れる隙となってしまった。誰もが悪く、また責を咎める者もいない。ならば、次こそはと意気込むことこそ、アーラシュ殿に対する礼儀と言うものでしょう」

 

 人々の垣根から現れる呪腕、今回の件は円卓に居場所を悟らせた自分達こそが悪いのであって、修司達に非はないと、遠回しにそう告げる呪腕に修司は情けなくも受け入れた。

 

あの時、自分がもっと自身の事をちゃんと把握していれば、或いは相棒を早めに出しておけば、アーラシュを犠牲に強いらせる事もなかったかもしれない。自身に顕れた力に浮かれ、自力でどうにかしようとして、この様な結果に終わらせてしまった。

 

これでは初代山の翁にも申し訳が立たないと、立香達に合流するまで自責し続けていた修司だったが、呪腕の言葉に幾分か救われた気がした。

 

ならば、悔恨の念を抱くのは此処までにしよう。そう気持ちを切り替える酔うに頬を叩くと、向こうから三蔵と藤太の二人がやって来た。

 

「あ、帰ってきた!」

 

「よう修司、お主の活躍は集落の皆から聞いたぞ? 大層な活躍だったそうじゃないか」

 

「あぁ、山のじっちゃんのお陰でなんとか乗り越えたよ。それよりも、そろそろ向こうでの出来事を教えてくれたりしないか? 俺も、色々と話したい事があったし」

 

「うむ、そうしてくれると助かる。───実は先程からずぅっと気になっていたのだが………お主の横で正座しているソレ、もしかして円卓の騎士ではないか?」

 

 そろそろ情報の共有の為に話し合いをしようという所で、俵藤太が口にした一つの疑問。それは、これ迄誰一人敢えて口に出さなかったモノで、自ら進んで指摘してくれた藤太に一同は内心で拍手を贈った。

 

「ん? あぁ、コイツか。コイツは円卓の騎士の一人ランスロット。流れで捕虜にしたんだけど………なんか、不味かったりする?」

 

『いや、不味くはないんだけどさぁ………本当にさぁ、修司君はさぁ』

 

「あっはっは! 本当に君は私達の予想の上を行くねぇ!」

 

縄でがんじ絡めにされている円卓最強の騎士に、ロマニ=アーキマンはガックリし、ダ・ヴィンチは声をあげて笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「成る程、アトラス院か。まさか此処でメガテンの制作会社に行き着くとは。流石はアトラス」

 

「修司さん、それアトラス院じゃない。ATLUSや」

 

「ど、どうしましょうドクター、先輩と修司さんだけ違うことを言っている気がします!」

 

『うん、取り敢えずゲームの話は横に置いて………ハサンの廟で知り得た情報はこんな所かな』

 

「獅子王とこの世界の真実、ねぇ。今更そんな事を知って何になるんだ? いや、ATLUS院って所に行くのは賛成なんだけどね」

 

「アトラス院ね」

 

 修司と立香達が合流して一時間と少し、近くの空き家にて互いに別れて行動していた間に起きた出来事を、可能な限り細かく話し終えると、初代山の翁から教えて貰ったアトラス院なる場所へ行く事を一先ずの目的地として決める事にした。

 

「あ、あと修司さんの言う通り、山の翁さん。キングハサンさんは、厳しい雰囲気のある人だったけど、修司さんのアドバイス通りに接したら、結構話の分かる人だって分かったよ」

 

「だろ? 山のじっちゃん、髑髏の仮面こそ被ってておっかない印象が先行しがちだけど、キチンとした態度で望めば、結構話が通じるんだよ。ていうか、キングハサン呼びなのね」

 

サラリと初代山の翁をキングハサンという渾名で呼ぶ立香に、修司は少し不安に思ったが、自分もじっちゃん呼びとかしているのでどっこいどっこいと思い、追及はしなかった。

 

「我等としては、修司殿の話の方が喜ばしい。粛正騎士達を倒しただけでなく、円卓の騎士すらも対処してしまった手腕、見事と言う他ありませぬ」

 

「本当は、トリスタンの奴だけは呪腕さん達に任せたかったんだけど………アイツ、放っておくと更に何かをやらかしそうな雰囲気があったからな。あそこでトドメを刺すしかなかった」

 

「いえ、そのお気持ちだけ受け取って起きましょう。確かにトリスタンは我々にとって不倶戴天の仇敵ではありましたが、同時に恐ろしい天敵でもありました。対策はあるにはありましたが、何れも確実とは言えぬモノ、キャメロット攻略の前に厄介な騎士が一人消えた事、その事実だけで充分です」

 

 本来ならば、多くの山の民を殺され、同胞も殺されたハサン達こそが、一番トリスタンに対して思う所はあっただろうに、私情よりも集落が無事であった事、そしてトリスタンという脅威が消えたことを喜ぶ呪腕に、修司は目の前の暗殺者の懐の深さを知った気がした。

 

「とはいえ、既にこの地は獅子王に知られ、いつ追撃の軍や先の光が差し向けられるか分からない今、この集落は一時捨て去るを得ませんな」

 

「やはり、そうなるか。なら、その間は拙者が護衛を受け持とう。三蔵、異論はないな?」

 

「勿論よ。寧ろ此処で山の民を放って私達に着いてくる何て言ったら説法してたわよ。藤太は此処で皆を守って上げて」

 

「承知した。そういう訳だ呪腕殿、荷物が一つ増えるが、宜しく頼む」

 

「此方こそ。………では、今の話を百貌と静謐にも伝えねばならないので、私はこれで。皆様、見送りは出来ませんがどうかご無事で………」

 

「うん。呪腕さん達も、気を付けて」

 

ソレだけを言って、呪腕のハサンと藤太は空き家を出て、既に移動の準備を終えた山の民達と共に集落を後にする。立ち去る際、ルシュドから笑顔で手を振られ、それに応えながら見送り、さて、と息を吐いて此処まで沈黙を保っていた騎士達に向き直る。

 

「問題は、このランスロットだな。どうする? 連れていくのは仕方ないとはいえ、やっぱり錠の一つくらい着けた方がいいんじゃないの?」

 

「う~ん。私も修司君の言うことに賛成ではあるんだけど、相手は円卓最強の騎士の一角だよ? 多分私が特性の手錠を着けても、そんなに長く抑える事は出来ないかも」

 

 自分達の背後に座り込み、一言たりとも言葉にせずにジッとしているのは、湖の騎士ランスロット。修司に敗れ、宝剣であるアロンダイトも砕かれた彼は、捕虜として修司の側で沈黙を保ったままである。

 

一応捕虜の扱いは国際法に則り、最低限の治療は施し、行動も監視付きではあるが許している。が、山の民達やハサン達がいる前ではあまり公にはしなかった。

 

傷もある程度は癒え、話せる様になったが、未だにランスロットはキャメロットの内情について話すことはなく、無言を貫いたままである。

 

「ランスロット卿、やはり我々と手を取り合える事は出来ませんか?」

 

「───くどいベディヴィエール卿、卿とは既に袂を別ち、敵対者として相対した。我が忠誠は騎士王に捧げたのであって獅子王に誓った訳ではないが………それでも私は剣を預けると誓ったのだ。今更、翻す事は出来ない」

 

「剣は既に俺が砕いたけどな」

 

「修司さん、シッ。今大事な話をしてるから」

 

「そんな、貴方は王が過ちを犯していると気付いているのに、それを由とするのですか!?」

 

「王は聖断されたのだ。喩え非道な行いだろうと、彼の王がそう決めたのであれば、我らはそれに従うのみ!」

 

「巻き込まれる人々にとってはたまったものじゃないけどな」

 

「修司君、抑えて抑えて」

 

 あくまで全ては王の為と、頑なになっているランスロットに修司達はどうしたものかと頭を悩ませていると。

 

「いえ、修司さんの言う通りです」

 

聞き慣れた声の筈なのに、何故か酷く苛立ちと怒りを募らせているマシュが、ランスロットの前に立っていた。

 

「湖の騎士ランスロット。貴方にはつくづく失望しました。自分の行いを棚に上げて言い訳ばかり、それでも貴方は、騎士王が最も敬愛された騎士なのですか?」

 

「き、君は!?」

 

これ迄、淑女として見ていた筈の少女から言われる突然の罵倒。ランスロットは当然の事ながら、ダ・ヴィンチや修司、立香も普段とは違う強気のマシュ=キリエライトに目を丸くさせていた。

 

「其処まで貴方が強情だと言うのなら、宜しい。ならば戦争です。私も、今はこの盾を横に置きましょう。あ、修司さん、これお願いします」

 

「あ、はい」

 

「さぁ、構えなさいランスロット。貴方のそのネジ曲がった性根、今こそ修正してあげます」

 

「待て、待て待て待って待ちなさい! まさか………君は!?」

 

振り抜かれたマシュの拳、修司を真似た正拳の一撃はランスロットの顔面を捉え、湖の騎士はぶっ飛んだ。

 

 

 

 




マシュ(?)「私の拳骨は、少しばかり響きますよ!」

ランスロット「そげぶ!?」

大体こんなお話しでした(笑)


それでは次回もまた見てボッチノシ




オマケ


ある日のカルデア。

「修司さんってさ、元の世界では色々と開発したりしてたんだよね? その中で一番難しかった奴ってなに?」

「うん? そうだなぁ。どれも造っている間は夢中になってて、特に難しいとか考えた事はなかったけど………軌道エレベーターがある意味そうだったかなぁ。人員の事とかコスト関係の管理とか、人間関係とか、そこら辺の扱いがちょいと難しかったかなぁ」

「へー、未来ー」

「後は………量子演算システムの導入かな。システムの制作事態はそれほどでもなかったけど、国連とか魔術師がちょくちょく横入れしてきてさー、マジで鬱陶しかったわ。まぁ、王様に相談したらそれ以来迷惑行為はなくなったけどね」

「スゲー、専門的すぎてわかんねー」

「あとは………あぁ、そう言えば一度あるモノ手を付けようとして王様かマジギレされた事があったんだよ。今思えば不思議だよなぁ、実際にあるかどうかも分からないエネルギーなのに、どうして王様は彼処まで怒ったんだろ?」

「エネルギー? そんなのがあるの?」

「机上の空論の話さ。絵に書いた餅とも言う。まぁ、王様が止めろと言うから、今後も手を出すつもりもないし、そもそもあるわけないんだけどね」

「あるわけがないエネルギー? 因みにそれって何て言うエネルギーなの?」

「ゲッター線」






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