『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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最近、秋の季節らしくなってきましたね。

皆様はスポーツの秋? それとも読書の秋?

自分は───水着の秋です。




その100 第六特異点

 

 

 

 

 修司と別れ、目的地へ向かうことになった立香達、途中荒野にあるとされる他の集落から、何としても戦力をかき集めると息巻く百貌のハサンが一時離脱し、険しい山の道を進むこと数時間。立香達はそこへ辿り着いた。

 

────アズライールの廟。歴代のハサン達が禁忌として畏れ、敬い、そして奉っている霊廟。決して楽ではない道程を経て、其所へ辿り着いた一行を待ち構えていたのは、自分達の予想を遥かに上回る何かがいた。

 

髑髏の翁。全てのハサン達を処し、その役目を終わらせる為の────ハサンにとってのハサン(・・・・・・・・・・)。その超越とした技巧は、同行した藤太を十年単位の修練の果てに一射届かせるかどうかと言わせる程に規格外だった。

 

成る程、修司が勝てないと言わしめたのも頷ける。そんな翁からの試練を乗り越え、遂に話し合いの場に立てるようになった一行は、初代山の翁に対獅子王に備えての戦力に加わって欲しいと願い出た。

 

「………初代様、恥を承知でこの廟を訪れた事、お許しいただきたい。この者達は獅子王と戦う者。されど王に届く牙があと一つ、足りませぬ」

 

「どうか────どうかお力をお貸しいただきたい。全ては、我等が山の民の未来のために」

 

両手を地に着けて懇願するハサン、静謐も同じ思いなのなだろう、立香達の試練として肉体を操られ、疲弊しているにも関わらず、彼女もまた平伏して懇願の意を示していた。

 

「───幾つか、間違いがあるな。以前と変わらぬ浅慮さだ、呪腕」

 

「───と、申しますと?」

 

「魔術の徒に問う。獅子王と戦う者────これは真か? 汝らは神に堕ちた獅子王の首を求めている。その言に間違いはないか?」

 

 向けられる視線。体も、魂すらも凍り付いてしまいそうな初代山の翁の視線。一切の嘘も偽りも許さないと醸し出してくるハサンの祖を前に、立香は慎重に答えを出そうと少し悩んで───。

 

「う~~ん、正直分からないかも」

 

「ちょっ、藤丸殿ォッ!?」

 

答えは分からない。これ迄獅子王の───その手下である円卓の騎士達の蛮行を目の当たりにして、それでも分からないと答える立香に、呪腕と静謐のハサン二人は信じられない様子で動揺していた。

 

別に嘘を言っているつもりはない。確かに円卓の騎士達が何の罪もない人達を手にかけ、数多くの悲劇を生み出してきた彼等を赦せるとは思えないし、仮に赦したとしても、それは自分ではなく山の民の人々が決めることだ。

 

更に言えば、立香は獅子王本人に怒りを感じている訳ではない。そもそも太陽王とは違い、獅子王とは顔も合わせてないし、言葉も交じ合わせていないのだ。首が欲しいのかと言われて、混乱するのが正直な所である。

 

「うんうん。嘘言っても仕方ないものね。だって顔も知らない相手は殺せないわ。せいぜい文句を言うくらいでしょ」

 

「───まぁ、修司さん辺りは部下のやらかしは上司の責任とか言って、殴り掛かりそうだけど」

 

「せ、先輩! 此処で本当の事を言うのはどうかと!」

 

「マシュ殿!?」

 

「次に、牙が一つ足りぬ、とも申したな。果たして、本当にそうか?」

 

「───え?」

 

「汝らの徒、もう一人の戦士である白河修司、奴だけでは獅子王に届かぬと、そう思うか?」

 

「「「っ!?」」」

 

 これ迄、敢えて触れてこなかった話題に進んで踏み込んでくる初代山の翁に、今度こそ立香達は凍り付く。というか、そっちから話してくるんだ。此処までの道中で悩みに悩み、結局スルーに徹する事を決めたハサン達が、折角話題に触れないように気を付けていたのに、色々とあんまりである。

 

しかし、向こうから触れてきた以上、もう無視は出来ない。ならば聞いてやろうと立香は腹を括った。

 

「えっと、修司さんから少し聞きました。山のじっちゃんの世話になったって、貴方のお陰だと、妙に晴れやかな顔をしていました」

 

「───そうか」

 

「あの、修司さんがその………何か粗相をしたりしませんでしたか? あまり話を聞く間がそんなになかったから、詳しくは知らないんですけど、なんか───手解きを受けたみたいな事を聞いたんですが………」

 

出来るだけ丁寧に、相手を不快にさせないよう礼儀を重んじながら、立香は慎重に言葉を重ねていった。言葉を紡ぐごとに空気が重くなっていく気がする。息苦しさが増していき、二人のハサンに至ってはガタガタと震えている。果たして修司はこの初代山の翁に何をしたというのか、緊張しながら目の前の死神の返答を待っていると………。

 

「我が下したのは、一つの選定。未熟な戦士の………可能性という名の扉の鍵、その枷を外す為の───ほんの僅かな後押しをしたに過ぎない」

 

「故に、刮目せよ。魔術の徒よ、汝の手には獅子王に挑む剣が────既に、握られている」

 

そう語る山の翁の蒼き眼光の奥には、微かな期待が滲み出ている様な気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────知っている。この感覚に、覚えがある。視界が広がり、色んなものが見えるような錯覚。全てを見通すのではなく、この刹那に流れるあらゆる事象が自身の体を通して流れていく感覚。全能感とも、万能感とも違う、何処か心の内で高揚し、何処までも力が高まっていく感覚。

 

コレに、この感覚に白河修司は既視感を抱いている。そう、以前に修司はこの領域に足を踏み入れた事があった。

 

 それはあの時、自分がまだ学生だった頃。聖杯戦争という魔術の戦いに自ら首を突っ込んだ頃の話、呪いの泥に汚染された聖杯の中で、修司は確かにそこへ至った。

 

あの日以来、あの領域にもう一度踏み込む事はなく、挑もうにもどうすればいいのか全く分からず、どれだけ鍛練修練を重ねても、そこへ踏み入れる事はできなかった。やがて時間が過ぎる度にあの感覚は修司の体から薄れ、多忙なる毎日が修司をあの領域から遠ざけてしまっていた。

 

けれど、今回の山の翁との一戦を経て、それは再び相成った。体から滲み出る光、視界が広がり、大気やあらゆる事象にすら干渉出来るであろう高揚感。白河修司は今、あの時と同じ境地に踏み込めたのだと理解する。

 

 しかし、山の翁が言うように、今の自分はまだ鍵を解いただけに過ぎず、扉を開いてすらいない。此処からが正真正銘、自分次第なのだと。

 

「本当に、山のじっちゃんには感謝しなくちゃな」

 

此処まで自分の力を開花させてくれた山の翁に、心からの感謝の言葉を口にしながら、背後から忍び寄る剣閃を体を僅かに逸らせるだけで避け、返し刀の裏拳で、兜ごと粛正騎士の顔を砕いていく。

 

その一撃は、修司からすれば何気無い腕の一振りに過ぎなかったが、粛正騎士にとっては致死を通りすぎた即死の一撃だった。砕かれた頭部は粛正騎士を存命させる力を根刮ぎ打ち砕き、騎士だったものは断末魔の声を上げる事なく消滅した。

 

「さて、これで全部片付いたか。後はお前ら二人だけだが─────まだ、やるか?」

 

腰に両手を置き、辺りに伏兵がいない事を確認すると、地面に膝を付ける二人の騎士を見る。

 

ランスロットとトリスタン。共に円卓の騎士として名を馳せ、今は獅子王の騎士として在る英雄。そんな両者が地に膝を付けて肩で息をしていた。

 

「────バカ、な。我等が、円卓の騎士が二人も揃っておいて、唯の傷一つ付けられない………だと!?」

 

 忌々しく呟き、閉じられた眼で睨み付けてくるトリスタン。目の前の男と相対した時、粛正騎士達の突撃に合わせて迷いなく自慢の弓を放った彼が次に感じたのは、自身の放つ空気の矢が悉く外れる音だった。

 

 

肉を裂き、骨を断ち切る風の刃。不可視の斬擊を避け、いなし、複数体の粛正騎士達をあいてにしながら、片手間で弾かれる様はトリスタンに最上級の屈辱を与えた。いや、或いはそれだけならまだ良かった。

 

この男は、自分達を敵として見ていない。自分の力を何処まで高められるか試すだけの………練習台程度にしか見ていない。誰もが殺気を漲らせている中で、白河修司だけが平常心で佇んでいた。

 

 隣でトリスタンが苛立ちと怒りを募らせる中、比較的落ち着いていたランスロットは、目の前の淡くうっすらと輝いている修司を前に、ある種の感嘆の想いを抱いていた。

 

今、自分は一つの武の極致と相対している。永く続く人類のあらゆる歴史の中で、此処までの領域に足を踏み入れたモノは数少ない。ランスロット自身もスキルとして似たようなモノを所持しているが、アレは根底から異なるモノだ。

 

(たった数日の間に………此処まで化けるのか。凄まじいな、現代の人間というモノは)

 

 自身の剣擊も、まるで通じていなかった。ガウェインを下し、モードレッドを撃退し、更には自分達すらも軽くあしらってしまっている。断言しよう、目の前の男の拳は、獅子王にも届く。あの恐ろしい嵐の王となった嘗ての王を、弾劾出来る者が遂に現れた。

 

(───いや、止めておこう。今の私は獅子王の騎士。今更の感傷、今更の後悔だ)

 

胸に灯る希望の光を無視して、ランスロットは立ち上がる。その両手に握られたアロンダイトの剣から、目映い光が溢れ出す。

 

宝具の光。ランスロットからの真名解放に初めて修司は表情を引き締める。宝具の開帳は、文字通り自身の全てを賭けた決死の一撃。侮る事はしない、元より修司が狙っていたのは円卓最強の騎士の一振りにあった。

 

最早、トリスタンの事は視界にすら入っていない。嘆きの騎士をいつでもどうとでも出来る(・・・・・・・・・・・・)モノとしか認識していない修司に、トリスタンは嘆き(怒り)に震えた。

 

故に───。

 

「何処までも、何処までも私を愚弄するか! あぁ、私は悲しい。何処までも傲慢な男、しかしその男を正面から射つことが出来ない事に」

 

トリスタンは弓を引く。圧縮し、高める魔力の奔流。開かれた眼の奥には────既に、光は届いていなかった。

 

「輝きは水面の如く。爛々と燃え盛れ! 受けよ、我が聖剣! ────縛鎖全断・過重湖光(アロンダイト・オーバーロード)!!

 

「死を以て贖いを。殺戮を以て収束を。傲慢の罪、ここで支払って貰いましょう! ────痛哭の幻奏(フェイルノート)!!

 

 正面と背後、両方向からの同時攻撃。未だ構えを見せず、無防備の姿を晒す修司に、トリスタンは直撃を確信した。

 

対して、ランスロットだけは世界が静止したような錯覚を覚える。極限の集中力が見せる世界の中で───。

 

白河修司は加速する。

 

「見様見真似────鶴翼三連」

 

 ────見えなかった。初動の動きも、あらゆる動作も、何もかもがランスロットの五感から逸脱していた。剣士としての直感も反応する余地なく繰り出された三十(・・)の連擊は、余すことなくランスロットの全身に叩き込まれ、砕かれる宝剣と鎧と共に湖の騎士は地に倒れた。

 

その光景に、トリスタンの動きは止まる。自分達の知る円卓の騎士が、ガウェインと対を成す獅子王の騎士が、無造作に倒れる姿にトリスタンは言葉が出なかった。

 

「バカな、誉れある円卓の騎士が、獅子王の刃が、倒れたというのですか? あぁ、あぁぁぁ………なんという事でしょう。私は悲しい、あのランスロット卿が、この様な匹夫に倒されるとは、一体誰が予想デキタト言うのです。あぁ私は悲しい───」

 

「おい」

 

「……………?」

 

「お前さ、用が無いならとっとと帰ってくれる? 獅子王に報告するのもなんでもいいけどさ、集落の皆の所に話をしなきゃいけないし、お前の相手をしている暇ないの」

 

「………何を、言っているのです?」

 

「とっとと帰れって言ってるの。どうせお前に出来るのは、無抵抗の難民への攻撃と不意打ち位だろ? お前の攻撃はもう見切った。戦う意味もねぇし、相手をする価値もない」

 

 価値がない。自分の戦いを、弓を、技を、全てを吟味した上で価値がないと断言する修司に、トリスタンは自身の内で何かが崩れた様な気がした。

 

事実、修司は今のトリスタンに価値はないと確信している。獅子王のギフトを授かる前ではどうなのかは知らないが、今のトリスタンは雑過ぎる。もし彼に反転のギフトが授からず、真っ当な騎士として相対したら、結果は少し変わっていたのかもしれない。

 

しかし、決着は付けられた。トリスタンの事はこの地で尤も因縁の深いハサン達に任せる事にして、自分はとっとと集落に戻ろうと背中を向けた時。

 

微かに、空気の弾かれる音が聞こえた。

 

「本当に、不意打ちが大好きだよなぁ、お前」

 

「あ、あぁ………」

 

 自身の弓は外れ、いつの間にか自身の隣に立っている山吹色の男。その顔には何処までも呆れと侮蔑の色に染まっており、それはまるで汚物を見ているように冷たかった。

 

それは、眼の見えないトリスタンにとって唯一の救いだったのかもしれない。反転し、何処までも悪辣となった自分に、この結末はお似合いだと、自嘲の笑みを浮かべて……。

 

「わ、私は───」

 

「あぁ、もう喋らなくていいぞ。興味もないし、聞きたくもない。潔く───汚い花火になれ」

 

瞬間、修司はトリスタンの股間を蹴りあげた。ブチュブチュとナニかが潰れる音が聞こえ、骨盤が砕かれ、内臓まで達した蹴りは、トリスタンを空高く舞い上がらせる。

 

 本当なら、ハサン達に決着を委ねるべきなのだろう。これ迄の彼等の話を聞いて、円卓の騎士トリスタンこそが最も山の民達を殺していることは知っている。今回も、立香達の留守を狙って押し寄せてきた。もしも自分やアーラシュがいなかったら、きっと集落は地獄と化していただろう。

 

そんな悲劇は起こさない。故に修司は空を舞うトリスタンに向けて、エネルギーを収束させ───放った。天を貫く極光、片手だけで従来のかめはめ波を大きく凌駕するエネルギーの奔流は、トリスタンを呑み込み、遥か空の彼方へと消えていった。

 

軈て静寂が戻り、辺りは静まり返る。これから急いで集落に戻ろうとした時───それを感じた。

 

「なんだ、このデカイ気は? 東の村からだ」

 

天から覗かせる黄金の光。それが獅子王の裁きだと直感で察した修司は、急いで集落に向かおうとして───。

 

「────あぁくそ! 得物をへし折るだけにすれば良かった」

 

倒れ伏すランスロットを抱え、村へと急ぐのだった。

 

 

 

 

 

 

 




Q.これ、鶴翼三連なの?

A.ボッチが特異点Fでアーチャーとやり合った時に覚えたボッチのアレンジ技です。違うのは三連なのに三十発も殴り付けてる事、鶴翼三十連は語呂悪いし、三連も三十連も対して違いはないよね!byボッチ

因みに初代様に繰り出したのもこの技、三十発も出して仮面を叩き落としただけとか、やっぱ初代様パネェ。



Q.トリスタン、汚い花火になっちゃったの?

A.なっちゃいましたねぇ。放置しててもまたいつ集落を狙ってくるか分からないし、ハサン達に決着を委ねるつもりだったけど、こうなってしまった。

後に話を聞いたベディヴィエールは愕然としたが、戦の場では仕方がないと割り切った模様。

それでは次回もまた見てボッチ。







オマケ


もしも、カルデアに安倍晴明が来ていたら?

「最近、修司さんって晴明さんと良く喋ってるみたいだけど、具体的になに話してんの?」

「え? まぁ、フツーに世間話程度だよ? 平安の頃の生活風景とか、現代社会の話しとか、その時によってまちまちよ」

「ふーん」

「あ、でも最近だと陰陽師の話で盛り上がったりしているなぁ。晴明さんの話、結構面白いからさ、ついつい話し込んじゃうんだよね」

「そ、そうなんだ」

「この間も、晴明さんが遊びで用意した術式を解明して見たんだけどこれが奥深くてさ、気が付いたら朝になってたんだよね」

「へ、へぇー」(震え声)

「ンで、今朝答え合わせしたら見事正解! 晴明さんも俺が用意したプログラムを解析して面白いって言ってくれたし、意外と俺達趣味が合うんだなって話してたりしたんだ」

「よ、ヨカッタネー」

「今度立香ちゃんも誘うよ。其処にいる道満にもな。じゃあ、またね」

「……………」チラッ

「ンンンンンンンン!! ンンンンンンンンンンンン!!!!」

「おのれ、晴明! おのれ、白河修司ィィッ!! 」

以上、晴明と語らうボッチに嫉妬するDOMANでした(笑)



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