『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

328 / 417
もうすぐ水着イベが迫っている中、まさかの古戦場の被り。

なんだこれは、どうすればいいのだ!?


その99 第六特異点

 

 

 

「あ、………う………」

 

「あ、起きた。おーい皆ー! 修司君が目を覚ましたぞー!」

 

 気だるい微睡みの中から、意識が浮上する。重たい瞼を開けて、最初に修司が目にしたのは、自分の顔を覗き込んでいるダ・ヴィンチの顔だった。どうやら、自分は何とか生きているらしい。ぼんやりな意識を少しずつ覚醒させながら、修司は外から聞こえてくる足音に耳を傾けた。

 

「修司さん、起きたって!?」

 

「フォウフォーウ!」

 

雪崩れ込むようにやって来る立香とマシュを見て、漸く修司は自身が生きている事を実感する。心底心配していた様子の二人に修司は上半身を起こして二人を見やる。因みに、彼女達の後ろには見知らぬサーヴァント達が何人かいた。

 

「おお、立香ちゃん、マシュちゃん、二人とも無事か。山の翁の皆も………知らない顔も増えてるし、どうやらそっちは上手くいったようだな」

 

「あぁ、お陰さまでね。そう言う君は一体どうしたって言うんだい? ロマニに言われて慌てて現地へ向かえば、妙な扉の前で気持ち良さそうに寝息を立てている君がいるんだもの! 山の翁───彼等も、怒っていたり青ざめていたりと混乱していたんだ。説明、させて貰えるんだよね」

 

 如何にも“私、怒ってます!”と、腕を組んで珍しく怒気を孕んだ眼で睨んでくるダ・ヴィンチ、立香もマシュも同様の様子なのか、何時もより表情が険しい。山の翁達に至っては無言で圧力を掛けてくる程だ。

 

ただ、彼等の場合は怒っているというより、修司が何かをしでかしたと言う事に対する戸惑いと焦りの方が大きい様だ。何れにしても沈黙は許されない様子、修司としても話しておきたいのは山々だが………如何せん、修司自身が言葉でどう説明したらいいか分からない状態だった。

 

というか、思考が定まらない。自分が無事でいられた事もそうだが、何より体に刻まれていた傷跡がない事が修司自身すらも混乱へ落とし込んでいる。混乱と困惑で思考が纏まらない中……。

 

「……と、取り敢えず何か食わせてくれない? もう俺、腹が減って……」

 

ぐぅぅ、空腹を知らせる人間らしい音に一瞬その場は静まり返り。

 

「ハハハハハ! いやはや、結構な事ではないか!

腹が鳴くのは生きてる証拠! 宜しい。この場は一つ、俺が取り持とうではないか!」

 

 米俵を肩に担いだ日本由来と思えるサーヴァントが、笑いながら修司の前に立ってきた。男は自らを俵藤太と名乗り、米俵をまるで太鼓の様に叩く。するとどうだろう、修司と立香、そしてマシュの前には白く瑞々しい炊きたての白米と焼き魚、味噌汁にお新香とシンプルながら上機嫌な朝食が、三人の前に現れた。

 

「本来でなら食料しか出せない我が宝具だが、何とか三人分なら用意出来た。さぁ、立香もマシュも召し上がられよ。二人は勿論、どうやら貴殿も死線を潜り抜けてきたばかりの様子、今はたらふく飯を食い、英気を養うといい」

 

突然目の前に現れた食事に、疲弊した修司は目を見開いた。周囲を見渡せば他の面々もこの宝具の事は知らなかった様で、目を丸くさせて驚いている。唯一露出度が凄い女性だけは、我が事のようにうんうん頷いていた。

 

修司も立香も、互いに言いたいことは沢山ある。でも、今だけはそれは横に置くとしよう。白米の入った丼を手に一口頬張ると。

 

「うん……めぇ~~っ!!」

 

カルデアでの食堂以来、味わう事のなかった懐かしき日本の味が、口一杯に広がっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「初代様と戦ったぁっ!?」」」

 

 それから少しして、藤太が出してくれた食事に舌鼓を打ちながら綺麗に平らげた修司は、空腹も満たされた事で体は万全となり、以前以上に力が満ち足りた感覚を味わいながら、自身に起きた顛末を皆に話した。

 

カルデア側(ロマニ)はそんな様子は微塵も観測できなかったと嘆き、今後は修司も迂闊な行動を控えるようにと釘を刺す事で無理矢理納得させるが、山の翁達はそうはいかなかった。

 

何せ、初代山の翁は歴代の山の翁にとって禁忌とも呼べる掟の超秘密事項である為、意味合いも、その名の重さも、自分達とは比較することすら憚れる畏れ多い人物だった。

 

特に、呪腕のハサンはこの時代の山の翁であり、初代とは一番近い繋がりのある人物。故に静謐や百貌以上に衝撃は大きかった。

 

「ど、どどどどどどうするのだ呪腕!? その話が本当なら、初代様に一度お目通しをした方が良いのではないか!?」

 

「で、ですがそれでは呪腕さんが……いや、でも、それで万が一初代様の怒りに触れてしまったとしたら───」

 

「お、落ち着け百貌、静謐。聞けば修司殿は初代様が自ら呼び出し、試練をお与えになった様子。ならばこの件に関して我等が何らかの罰則が与えられることはない筈………多分、きっと、メイビー」

 

 端から見ても異常な程に恐れているハサン達、余程怖い人物なのだろうかと、立香は修司に訊ねた。

 

「ねぇ修司さん、その初代山の翁ってそんなに怖い人なの?」

 

「うん? 確かに見てくれは迫力あったし、怖いと言えば怖いかもだけど………別に其処までではないと思うぞ? 山のじっちゃん、結構面倒見良さそうだったし、仮面を叩き落としても怒らなかったし。アレだ、近所では怖くて頑固で有名な人だけど、孫の前ではデレデレなお爺ちゃんって感じだな」

 

「じっちゃん!?」

 

「仮面を叩き落とした!?」

 

「あ、ダメだこれ、私死んだわ」

 

自分の感じたことをそのまま伝えただけなのに、何故か阿鼻叫喚となっているハサン達。呪腕に至っては茫然自失となって虚空を眺めてしまっている。

 

「なんというか、敵味方問わず全方向に被害を出す兄ちゃんだな」

 

「でも、本人は至って真面目なつもりなのよね? うーん、これは説法案件?」

 

「て言うか、そこのポンコツ臭のするお姉さんは何者?」

 

「ぽ、ポンコツ!?」

 

「あ、此方の方は玄奘三蔵さんで魔物達に囲まれ、泣きべそかいていた所を保護しました」

 

「マシュ!?」

 

『うーん、マシュも大分逞しくなって僕としては嬉しいけど、なんか複雑だなぁ』

 

「あっはっは、相変わらず賑やかで楽しいじゃないか!」

 

「フォウ………」

 

そんなこんなで、修司は藤太と三蔵と面識を交わし、賑やかな朝の食卓を終えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから少しして、円卓軍に対抗するべく立香達は、初代山の翁の助力を獲るために(というか、修司が何かやらかしていないか知る為に。)アズライールの霊廟に向かう事になった。

 

修司としては今更円卓の騎士相手にこれ以上の戦力は必要ないと思ったが、聖都には凡そ一万に迫る騎士達が配置されており、対する此方は七千に到達するかどうかの戦力差なのだと言う。

 

しかも、騎士一人に対して此方は三人の人員を割かなければならず、それも必ずしも勝てるとは限らない。それはサーヴァントであるアーラシュ達に対しても同じことが言える事だ。

 

獅子王の祝福(ギフト)によって増幅された円卓の騎士達の実力は、アーラシュや藤太達が複数人で相手にしなければならない程に強力で、且つ強大。修司を獅子王にぶつける事を考えれば、初代山の翁の力を借りたいと望む呪腕達の目論みは、割りと的を得ていた話だった。

 

修司も、自分の力が獅子王に通じるかなんて分からない。“今”自分の身に宿っているこの力がいつ消失するか分からない現状、呪腕達の言っていることは間違っていないと思う。尤も、力を貸して欲しいと言って、素直に了承してくれる相手とは思えないのも、また事実である。

 

本当なら自分も初代様の所に向かいたかったが、ロマニから絶対安静と言われた以上、大人しく集落で待っている他ない。霊廟に向かう立香達を見送ると、修司は適当な岩山に腰を下ろし、一人静かに瞑想する事にした。

 

 アズライールの霊廟にはハサン達の他に三蔵、藤太が付いているし、マーリンから話を聞いたとされるベディヴィエールも同行している。戦力としてなら充分だろうし、集落にだって人員は割くべきだろう。

 

そんな訳で、現在集落にはアーラシュと修司、そしてダ・ヴィンチの三人が守衛に付いていた。

 

「よぉ修司、体の具合はどうだい?」

 

「藤太さんの用意してくれた朝飯のお陰で、すっかり絶好調さ。体のどこも悪いところはないし、なんなら今から聖都攻略に向かえって言われても良いくらいさ」

 

「ハッハッハ! ソイツはいい。頼もしい事この上なしだ。けど、ロマニ=アーキマンだっけ? アイツの言うこともちゃんと聞いておけよ。ダ・ヴィンチが見付けた時のお前さん、五体満足ではあったものの相当疲弊していたんだからな」

 

「分かってるって。かなり心配を掛けてたみたいだし、今は大人しくしているよ」

 

 アーラシュ=カマンガー。古代ペルシャの時代の出身であり、とある長年続く戦争を終わらせた西アジアの大英雄として知られる人物。その気安い性格と兄貴分な気質で、集落の人々から慕われている人格者でもある。

 

加えて、やたらと眼が良いらしく、持ち前の気質と合間って独り問題を抱えている人を見掛けては、何かと世話を焼いているらしい。

 

「ルシュド君は、どうしてる?」

 

「あぁ、今は狩りの為の弓矢を教えている所だ。幸か不幸か、この状況があの子を動かす原動力になっている。母親を殺された恨みではなく、集落の皆の為に弓を取り、明日の生きる糧を獲ようとしている。強い子だよ」

 

「そっか。凄いなルシュド君は、俺だったら多分そんな風に割りきれないぞ」

 

 母親を失い、悲しみに暮れているかと思いきや、意外と逞しくなっているルシュドに、修司は一先ず安心した。憎しみに囚われたり、独り善がりにならず、あくまでも皆と一緒に生き延びようとする彼の在り方は、きっと母親の教育の賜物なのだろう。

 

それだけに、円卓の連中のしてきた事を考えると、腸が煮えくり返す思いだが。

 

「ルシュドもそうだが、問題はベディヴィエールだ。お前さんも気付いているんだろ? あの騎士の兄ちゃん、トンでもない重荷を背負わされているぞ」

 

「……………」

 

 アーラシュから紡がれる話の話題は、ベディヴィエールの事だった。彼が何かしらの使命を背負っている事は、これ迄の彼の態度を見て何となく気付いてはいた。獅子王が召喚されたという円卓の騎士、嘗ての王の喚び掛けに応えず、単騎で獅子王に反旗を翻し、裏切りの汚名を被る事になった騎士。

 

何故、彼は獅子王の喚び掛けに応えなかったのだろう? 他にも円卓の中には獅子王の召喚に応えなかった騎士がいるみたいだけれど、それとは別の理由がベディヴィエールにある気がした。

 

尤も、それを無理矢理暴く気はないし、元より差ほど興味もない。修司がこの特異点に来て決めたことは、円卓を可能な限りブチのめす事、それの邪魔をしない限りは修司もベディヴィエールの邪魔はしないつもりでいる。

 

「───さてな。アイツが何を抱えているかなんて、俺には預かり知らない話さ。仮に問題があったとして、それはベディヴィエール自身の気持ちの問題だろ? 部外者がとやかく言う筋合いはないさ」

 

「それはそうなんだがなぁ。あの手の奴を見ると、どうしてもムズムズしてな、口出しをせずにはいられんのだよ」

 

「全く、アンタも大概お人好しだなぁ」

 

 腕を組んで身震いさせるアーラシュに、修司は苦笑いを浮かべる。しかし、そんな穏やかな空気は突如として終わりを迎える。

 

「───修司」

 

「あぁ、感じた。そっちも視えたようだな」

 

「結構な数だ。そして円卓の騎士が二人、此方に来ている。見回りに来て良かった。此処からなら地の利を活かせる」

 

「なら、俺が行くとしよう。アーラシュさんはダ・ヴィンチちゃんにこの事を伝えて、集落の皆の避難をさせてくれ」

 

「良いのか? さっきはあぁ言ったが、お前さんの強さには俺としても肖りたい所だ。無理はするな、なんて言えないが………死に急ぐ真似はするなよ」

 

「勿論そのつもりだよ。ただちょっと、山のじっちゃんに鍛えられた成果を、試して見たかった所さ」

 

 それだけを告げると、修司は岩山から立ち上がり、山の崖を滑るように降りていく。その身軽さから、どうやら本当に体の方は何ともないらしい。

 

紺色の背中を見送るアーラシュ、彼の瞳は既に円卓軍の粛正騎士達に向けられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 広い場所。山岳地帯の何処かにある一つの部隊が丸々収まりそうな開けた空間、そこに馬に跨がる二人の騎士がいた。

 

湖の騎士ランスロット、嘆きの騎士トリスタン。とやかく嘗て共に円卓の下で同じ王に仕えていた二人は、ある目的の為に山岳地帯にある集落へ向けて、無数の粛正騎士達と共に進軍していた。

 

「───トリスタン卿、卿は本当にこの作戦に付いて何も思う所はないのか?」

 

「今更どうしたのです? ランスロット卿、王に最も敬愛された貴方らしくない気弱さですね。既に獅子王が、聖断は成された。であるならば、我々に口を挟む余地は最早無い筈では?」

 

「しかし、彼処には………難民達が大勢住んでいる。我々に牙を向ける訳でもなく、ただ平穏に暮らしているだけなのではないか?」

 

「それは、今だけの話でしょう? 喩え今は穏やかに過ごしていたとしても、いつ牙を向けてくるか分からない。であれば、その様な不穏分子は早い内に摘んでしまうのが正解の筈です」

 

「だが………!」

 

「あぁ、しかし───私は悲しい。たかが一山の民ごときの為に、何故我が弦を弾かなければならないのか。彼等にそれほどの価値があるとは到底思えませんが……」

 

「トリスタン卿───!」

 

 既に、ランスロットの隣に並ぶ騎士は彼の知る嘗ての同志ではなくなっていた。分かっていた事だ。獅子王のギフトを受け入れて、彼の在り方は歪に変えられてしまった。“反転”という祝福(呪い)を受け入れた彼は、その時点で自分達の知るトリスタンではなくなっている。

 

嘗てのトリスタンであれば、決して許容しなかった筈の蛮行。そして、そんなトリスタンを見ていることしか出来ない自分も、また同類なのだろう。

 

あぁ、誰か。誰でもいい、愚かな我々を裁いてくれ。そんな自身の嘆きをも、今更なものだと切り捨てて、ランスロットは自身の心を鉄に変える。

 

と、そんな時だ。彼等の前に一人の男が、自分達の前に立ちはだかるように其処にいた。

 

何者? いや、知っている。自分は、自分達はその男の事を知っている。トリスタンを撃退し、ガウェインを一蹴し、そして───自分の剣閃すら捌いて見せた規格外の戦士。

 

自分達を裁ける唯一の存在が、自分達の前で呑気に屈伸していた。

 

「───貴様、ここで何をしている」

 

「うん? 見てわかんね? 準備運動だよ。さっきまで寝て飯食って瞑想していただけだし、体動かすの忘れてたからさ───大事だろ? 食後の運動って」

 

トリスタンの怒りと殺気もなんのその、手足を伸ばして体を解していく目の前の男は、これだけの軍勢を前に何処までも自然体だった。

 

瞬間、トリスタンはそれ以上語る事なく弦を弾く。ランスロットの制止する声が届かない程の速打ち、目には見えない不可視の弾丸は、しかし目の前の男に当たる事はなかった。

 

逆立ちをしたまま、ヨッとという軽い掛け声を溢すだけで、其処から軽く飛び退いただけ。男に───修司に当たる筈だった空気の弾丸は、偶然にも地面に当たるだけだった。

 

(バカな、奴は終始ずっと此方を見ていなかった。まさか、空気の僅かな振動だけで見切ったというのか!?)

 

周囲の粛正騎士達がマグレだなんだと騒ぐなか、ランスロットだけはその光景に息を呑んでいた。トリスタンの弓は単なる偶然で避けられるモノではない。自分は勿論、円卓の誰しもが彼の妖弦の前には翻弄されてしまうだろう。喩え在り方が歪められたとしても、彼の弓の冴えが失われた訳ではないのだから。

 

「おし、大分解れてきたな。そんじゃ───いっちょ、やってみるか」

 

 準備完了。そう言って振り返る修司の顔は、何処までも自信に満ち溢れていて、その瞳は自分達を見ているようで見ていない。

 

既に、修司の目標は彼等(円卓)ではなく、遥か先に待つ自分の可能性しか、見据えていなかった。

 

 

 

 

 

 

 




Q.ボッチの怪我はどうしたの?

A.相棒が全力で治しました。ただ、その影響か結構な空腹状態だった模様。



Q.今のボッチて、どんな心境なの?

A.現在、彼の頭の中には今の自分がどれだけ強くなっているのか、そして今後自分は何処まで強くなれるのか、という事しか頭にありません。

Q.つまり?

A.ボッチ「オラ、ワクワクすっぞ!」(ガチ)

もしくは毒が裏返ったバキ。

それでは次回もまた見てボッチノシ





▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。