『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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水着イベント、告知来ましたね。

今回は、誰がくるのかなー?




その98 第六特異点

 

 

 

 ───最初に振り下ろされる一撃、その刃を回避出来たのは、殆んど偶然だった。上から下へ、ただそれだけの動作。何て事のない、素人から見ても分かる上段からの振り下ろされる一太刀。

 

それが、恐ろしく研ぎ澄まされたモノであり、気付けばその一太刀は修司の頭皮に触れていた。

 

瞬間、加速。事前に10倍の界王拳を引き出していた瞬間だからこそ、間一髪避ける事ができた。後ろにではなく横へ、呼吸すらも忘れ、全細胞を全力で回避に回すことで、薄皮一枚切られる程度で収まった。

 

皮膚が裂け、血が額から顔へと流れ落ちるが、それを拭う余裕など修司にはない。油断もなく、慢心もなく、ただ静かに目の前の相手を見据えていた。

 

それなのに………全く、視えなかった(・・・・・・・・・)。剣を振り上げる挙動も、振り下ろす動作も全く知覚できず、そもそも、離れていた間合いをどうやって詰められていたのかすら………分からなかった。

 

目の前の死神が何かをしているのか? それとも、この薄暗い空間がそう見せているのか。困惑、混乱の只中におかれても、活路を見出だそうと必死に思考を巡らせる修司に───容赦なく、二振り目の刃が迫る。

 

背後から伝わるひんやりとした冷たいモノ、それが首筋にめり込んだ瞬間、再び修司は加速した。音を置き去りにして移動し、受け身も取れずに地面へと転がりながら、それでも死神を見据える修司は、先ほどと同じ姿勢で佇む山の翁を睨み付け………そして、理解する。

 

 目の前に佇む山の翁、その正体こそは見破れないモノの、彼が奮う刃には純正な人の技が詰め込まれていた。首筋から流れる血が、それが事実であると物語っている。

 

そう、信じ難い事に目の前の山の翁は、唯の人の技として修司に二度も切りつけて見せたのだ。一切の気配を悟らせず、一切の挙動を読ませないまま、唯の鉄の塊同然の大剣で、気によって底上げされた外皮をすり抜けて、二度も白河修司を死に追い込んだのだ。

 

反応できたのは殆んど偶然。薄暗い空間の影響で他の五感が鋭くなったお陰で出来た………殆んど奇跡に近い芸当だった。皮肉なことに、この限られた空間こそが修司を生かした抜け穴になってくれたのだ。

 

「───二度も我が刃から抜け出せたのは見事。本来であれば、その時点で汝は天命から抜け出せたと言えよう」

 

ならば、ここいらで見逃して欲しいものだ。そう皮肉を口に出してやりたい所だが、そんな暇すら修司には存在しなかった。呼吸を整えて次に備える。荒くなる心音を必死に宥め、全神経を次の死を逃れる事しか、修司の頭にはなかった。

 

 その圧力はあのヘラクレスやクー・フーリンとも異なる異質なもの、死の概念ではなく死そのものを前に、只人が出来ることは余りに少ない。

 

けれど、未だ自分にはやらなきゃいけない事がある。立香やマシュ、カルデアの皆を放って自分だけがリタイアする訳にはいかないし。なにより………死にたくない。そう、死を前にして一つの生命体に出来ることは生にしがみついて抵抗する事。まだ自分の手足は動けるし、戦いはまだ始まったばかりだ。

 

故に、修司は今度は自分の番だと自身の気を高め始めた。山岳地帯の山々を震わせるほどの力の波動、太陽王や獅子王に気取られてしまう事も考慮せず、がむしゃらに修司は自身の生存を掴むともに抵抗を試みる。

 

「波ァァァァッ!!」

 

両手を腰に回し、全霊のかめはめ波を放つ。それは先のモードレッドの宝具を呑み込んだモノより、遥かに威力に富んだ破壊の光。本来であれば獅子王の居城に向けて放たれる筈だった蒼白い極光、目の前のたった一人を倒すために放たれた閃光は───。

 

「───ふっ!」

 

 目の前の黒き死神の、一呼吸から繰り出される斬擊によって、文字通り八つ裂きに切り裂かれてしまった。これ迄防がれたり、相殺されたりしたことはあっても、正面から切り裂かれた事に驚きを隠せない。が、そんなことは始めから想定していた。目の前にいるのは正真正銘本物の死神、或いはそれすらも凌駕する者だ。今更その程度で怖じ気てはいられない。

 

攻めろ。相手に一切の反撃の余地を与えず、此方の場に引きずり込め。かめはめ波を放った直後、修司は山の翁に接近戦を挑んだ。向こうの得物は大剣、如何に山の翁が殺すことに長けた技術の持ち主だろうと、振るわせなければただの鉄の棒の筈。気後れする気概を無理矢理奮い立たせ、修司は自ら死神の懐に入る。

 

「───シッ!」

 

銃弾の如く放つのは、肘を突き出す攉打頂肘。暗闇の世界で修司が頼るのは、無意識レベルにまで刷り込ませた嘗ての師父から習った中華拳法、八極拳である。一連の動作に震脚を混ぜた瞬歩と似た間合いを詰める歩法、それを気によって強化され、勢いを増したその一撃は瞬間移動にも匹敵する速度まで至る。

 

力と速さ、その両方を兼ね備えた一撃を山の翁は当然のように避けて見せる。体を横に反らしただけの、あらゆる無駄を排斥した回避。しかしそれでも、修司は動きを止めはしなかった。

 

攉打頂肘はあくまで間合いを潰す為のモノ、避けられるのは想定の範囲内。山の翁が避けた事を確認するよりも速く、修司は次の行動に移行する。技を放った反動を利用しての跳躍、山の翁の真上まで飛ぶと、修司はギュルンと音を立てて回転し───。

 

「シャッ──!」

 

遠心力という勢いを乗せた踵落としを見舞うが、それすらも山の翁は柳の如く避けてしまう。しかも修司の狙いが読まれたのか、避ける際に後ろに跳び、再び二人の間合いは開いてしまう。

 

させない。修司は地面へ着地と同時に界王拳で距離を詰めようとするが、既にその頃には山の翁の手には剣が握られていた。

 

「ヌンッ!」

 

横一閃。放たれた剣閃は確実に修司を捕らえ、このままでは避けられないと察した修司は、自身の負荷になることを考慮せずに、10倍界王拳の勢いを片足だけ地面にめり込ませて押し殺し、真横へ飛ぶように避けて見せた。

 

その際に回避に使った左足から嫌な音が耳を叩き、避けた筈の剣閃が修司の胸元を切り裂いた。胸元を横一閃に切り裂かれ、倒れた拍子に傷が開き、夥しい量の鮮血が霊廟の地面を埋めていく。

 

「────立つがよい。未熟者よ、晩鐘の音は、未だ汝の名を指し示してはおらぬ」

 

「あ、が………あ…………」

 

 そんな修司を山の翁は静かな空気を保ったまま見下ろしている。その淡く光る蒼き眼光には嘲りや侮るといった悪感情はなく、何処までも修司を見定める役目に徹している。果たして修司は此処までなのか、あの者達(・・・・)が期待する程のナニかがあるのか。

 

疑問と期待で倒れる修司を見つめていると───動いた。血溜まりの中から、必死に力をかき集め、震える手足で立ち上がって見せた。

 

「───は、はは………すげぇな、アンタ。俺も昔と比べると結構強くなったつもりでいたけど、上には………上がいるもんだなぁ」

 

「────」

 

「けど、俺だって死にたくないし、そう思える理由はある。何より………アンタという理不尽に、越えるべき壁を、越えるために、俺はまだ………諦めたくは、ない!」

 

既に、修司は嫌というほど理解できた。目の前の死神に、自分は勝てないと。力や速さで上回っても、有りすぎる技の差が全てを帳消しにしてしまっている。

 

目の前の山の翁、ハサン=サッバーハが何者なのかは、修司にはわからない。只一つ分かっているのは、此処で目の前の死神という試練を越えなければ、自分はここで死ぬという事。

 

既に血は大量に流れ、目も霞んできている。最後に残された力を出し切る為に、修司は破れかけの上着の胴着を破り捨て、全身に力を巡らせる。

 

「ハァァァァァッ!!!」

 

 赤い炎が霊廟全体に満ちていく。ビリビリと空間全体が震え、霊廟のアチコチに亀裂を刻んでいく中、山の翁は静かに修司を見据えている。

 

既に、修司は限界を迎えている。戦える力だって僅かしか残されておらず、マトモに動けるのはこれで最後だろう。太陽王や獅子王の事など頭にはなく、今の修司の頭には目の前の死を越える事しかなかった。

 

やがて、力は爆発的に膨れ上がっていく。それは既に10倍の域を越え、更に跳ね上がっていく。

 

限界を越えた限界を越え────更に向こうへ。

 

故に、修司が選ぶ最後の技は────20倍界王拳である。

 

「ダッ!!」

 

駆ける。跳躍という飛翔、20倍という限界の許容範囲を遥かに越えた決死の突撃。ありったけの力を乗せた………今の修司の最後にして究極の一撃は────

 

「───愚かなり」

 

────しかして、山の翁には届かなかった。

 

威力はあった。速度も、膂力も、何もかも、山の翁を遥かに超えていた。

 

ただ、それだけだった。ただ向かって来るだけの突撃など、猪の突進と同じ。如何に速さが光に迫ろうと、魂そのものを見定める山の翁の目から逃れる事は敵わない。

 

 鮮血が、舞い散る。全身を切り刻まれ、明らかに致死量の血を流す修司には、既に意識など残されていなかった。

 

白目を剥き、立ち尽くす。鍛え上げられた体幹が修司に倒れる事を許さない。しかし、たったそれだけでは山の翁の刃から逃れる筈もなく。

 

「───未熟、あまりに未熟。理不尽を由とせず、不条理に抗う戦士よ。何故汝は、理不尽を許さぬと誓ったのだ。それと向き合わない限り、“極意”には至れぬと知れ」

 

無機質な刃が、修司に向けて振るわれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────何故、お前は戦う?

 

 燃え上がる炎の中、瓦礫に埋もれる誰かが言った。

 

今更の問い、そんなもの、とっくに出ているというのに。

 

─────理不尽が許せないから? なら、君にとって理不尽ってなに?

 

 燃え盛る炎の中、炎に焼かれる誰かが言った。

 

決まっている。理不尽とは人に仇なすもの、不条理とは人を押し潰すもの。そんな理不尽や不条理に負けたままの自分が嫌だから、自分は今日まで戦い続けてきた。

 

────違うな。それは理由であって本質ではない。お前はもう、分かっている筈だ。自身の戦う本当の理由を、お前が嫌う理不尽の、本当の意味を。

 

 炎や瓦礫が黒い泥に呑まれる中、意地の悪い神父が言った。

 

そうだ。理不尽に命が潰されるのが嫌だから、不条理に命が消されるのが嫌だから、自分は強くなろうとしたのだ。

 

────では、お前の言う命とはなんだ? ただ守るだけの宝か? 愛でるだけの財宝か?

 

 軈て泥は消え、目の前にいるのは黄金の王。王は言った。お前にとって命とはなんだ? と。

 

“────あぁ、そうか。今まで理不尽が、とか。不条理が、とか、色々言ってきたけど、結局はそんな事だったんだ”

 

命とは、可能性だ。そして可能性とは───自由だ。

 

漸く、分かった気がする。何故自分ががむしゃらに戦ってきたのか。どうして自分は命というモノに価値を見出だしているのか。

 

命とは、可能性。そして可能性とは自由の中から生まれる。自分はきっと、そういうモノが………愛おしく感じるのだ。

 

 気付けば、空は晴れ渡っていた。炎も瓦礫も泥もなくなり、あるのはただ己だけ。

 

────いや、少し違ったな。

 

振り返れば、懐かしい人がいた。忙しい両親に代わり、自分を育ててくれた………優しくて厳しい祖母の姿。

 

 泣いているような、怒っているような、呆れているような、そんな笑みを浮かべて手渡されるのは───一つの鍵。

 

ありがとう。お婆ちゃん。

 

『─────』

 

光満ちる世界の中、祖母の声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

獣の血

 

水の交わり

 

風の行き先

 

火の文明

 

その先にある遥か未来を見据えて───今、“兆し”へ至る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────なに?」

 

 静寂に包まれる霊廟に、山の翁の声が響く。確かに今、自身の奮った刃は目の前の修司を捕らえた筈。彼には既に避ける程の体力もなければ技術も無かった。

 

しかし、現に己の刃は空を切るだけに終わっている。嘗て体験したことのない現象、けれどこれで山の翁は確信した。確信した上で、その男に向き直った。

 

「漸く、至ったか。成る程、奴の言う通り。追い詰めなければ発揮しない男よ」

 

呆れと期待の混じった視線が、男を射抜く。その視線の先には淡く輝く修司が背を向けて佇んでいた。その無防備な背中に、今更斬り込みはしない。そんな事をしても意味がない位(・・・・・・・・・・・・・・)、山の翁は一目見ただけで理解している。

 

「───ありがとう。山のじっちゃん、アンタのお陰で………少し、分かった気がするよ」

 

「礼など不要。汝はただ、その証を示すだけでよい」

 

フッと、笑みが溢れる。修司は意外と面倒見のいい山の翁に、山の翁は手間のかかる修司に。

 

そして───ハサン=サッバーハは剣を取る。ごく自然体のまま、流れるように死を運ぶ。ふと、修司の耳に鐘の音が聞こえた。

 

「聞こえるか? あの鐘の音が」

 

「聞こえるよ。コイツが、俺を死に導くお告げって奴なんだろ?」

 

「然り。であれば………分かっていような?」

 

「あぁ、この死を越えて、俺はもっと先へいく」

 

「では────首を出せい。死告天使(アズライール)

 

 振り抜かれる剣閃。迫る死を前に、修司はただ静かにソレを見据え───そして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

交差は、一瞬だった。振り抜かれたまま制止する翁、その背後には身を屈め、両手を伸ばす修司がいた。互いに動かぬまま時間だけが過ぎ去り、数秒の間の後、山の翁からカランと、何かが落ちたような音が響いた。

 

「───見事」

 

落ちたのは、翁の面。自身の刃をすり抜け、更には翁の証である髑髏の面を叩き落とした事で、修司は自らの証を立てた。

 

「未だ扉は閉ざされたまま、しかし鍵は解かれた。扉を開き、先へ進むか否か、全ては汝次第。心するがいい」

 

「あぁ、ありがとうな。山のじっちゃん。アンタの教え、絶対に………忘れ………」

 

 体力は使い果たし、気力も死力も尽くした修司は最後まで言葉にする事なく、地面へと倒れ伏す。その刹那、修司が倒れ込む場所に黒い孔が開かれ、修司は黒い孔へと呑み込まれていくが………恐らくは、彼の相棒の仕業なのだろう。山の翁は面を被り直し、過保護な相方に嘆息を溢しながら、霊廟の奥へと姿を消す。

 

────その最中。

 

「ご協力、ありがとうございます。山の翁」

 

「───これも、汝の狙い通りか?」

 

いつの間にか、ソイツはいた。山の翁とは異なる蒼い仮面を被り、白い外套に身を包んだソレは、まるで初めから其処にいたように佇んでいた。

 

そんな蒼い仮面の男に山の翁は僅かに怒気を放つ。そんな偉大なるハサンの祖に、仮面の男はその外見には似合わないほどの誠意ある謝罪を見せた。

 

「試すような真似をしてしまい、誠に申し訳ありません。本来であれば、我々の内の何れかが担当するべきだったのですが………如何せん、この世界。いや、この時空は些か繊細過ぎる(・・・・・)、故にこの様な手段を取ってしまいました。重ねて、申し訳ありません」

 

深々と頭を下げてくる仮面の男、その気持ちが本物である以上、山の翁からこれ以上言うことはない。あるとするならば、精々これ以上の介入をしないよう、細やかな口出しをする程度だ。

 

「────立ち去るがいい、超越者よ。汝が在るには、ここは狭すぎる。進化の皇帝にも、原初の魔神にも伝えよ。汝らの居場所は、ここにはないと」

 

「はい。勿論、私もそう在りたいと願っています」

 

ソレだけを最後に、仮面の男は姿を消す。最初からそこにいなかったように、ただ静寂だけが霊廟を支配していた。

 

「───心せよ、シンカの戦士よ。汝の旅路は、未だ果てはない」

 

 

 

 

 

 




Q.最後に出てきたの、誰?

A.不明。どこぞのボッチなカリスマじゃない?

Q.今後、出てくるの?

A.ほぼ出てくる余地はありません。そうならない為に、今回じぃじは頑張りました。誉めてあげて

Q.じぃじが頑張らなかったらどうなるの?

A.ドワォッ!!にはならない筈。多分、きっと、メイビー……。


それでは次回もまた見てボッチノシ






オマケ

ちょっと未来のマイルーム。

某女王の場合take2

「あぁ、またこんなにも傷だらけになって、我が娘といい、どうしてお前はそうなんだ」

「自分は他人を思いやる癖に、自分の事は雑に扱う。それだけの力があるから、尚更質が悪い」

「でも、そんなお前だから………私は」

『何で、どうして私を助けるんですか? 貴方には、関係のない事でしょう!?』

『かもな。けど、頑張っている奴を放っては置けない。お前はさ、もっと報われるべきなんだよ。お前が心の底から笑えるときまで、俺が────』

『っ、か、勝手にすればいいでしょ! バーカ、バーカ!!』

『はは、そっちの方がお前らしいじゃん。これからも宜しくな、◼️◼️◼️◼️!』


「───待っていろ。近い内に、必ずお前を振り向かせてみせるから………覚悟しておけ」







「あれ? 修司さん、口元になんかついてるよー?」

「うん? なんだこれ? 青い………絵の具? 絵の具にしちゃあ感触が柔らかい気がするけど……なんだろ?」

「もしかして、子供組が悪戯したんじゃない? あの子達、最近お絵描きに填まっているみたいだし……て、どうしたの、キャストリア」

「い、いえ………なんでもありません」(すべて察した目)

「「?」」




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