『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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寒暖の差が激しすぎて、風邪引きそう。

今回、立香ちゃんがちょっと嫌な感じになるかもしれません。ご了承下さい。


その97 第六特異点

 

 

 

 ────山岳部地帯を抜け、道中、魔物に絡まれていた三蔵法師を助け、その場の勢いで仲間にした立香達は、土地勘のある呪腕と百貌のハサン達の案内のもと、仲間が囚われているとされる砦へと辿り着いた。

 

急ぎ囚われたハサンの一人を救出するべく、百貌のハサンが陽動の為に単独行動をする事にして、その間に砦の地下牢へ向けて迅速に行動し、その途中牢屋で囚われていた俵藤太と合流。彼を弟子弟子と呼んで騒ぐ三蔵法師をスルーしながら、遂に囚われていたもう一人のハサン。静謐のハサンと呼ばれる少女の下へ辿り着くことが出来た。

 

この時、とあるハプニングが起きて一同は一時騒然となるが、マシュとパスで繋がっているお陰か大事には至らず、この場に長く留まるのは危険だと呪腕のハサンに促され、一行は砦からの脱出を試みた。

 

「こんにちは諸君、そしてようこそ。私の尋問室へ。盗人であろうと遠方の客人であることには変わりはない。歓迎するよ、遥か天文台(カルデア)からのマスター殿」

 

しかし、その脱出は遂に砦へと辿り着いた円卓の騎士の一人、アグラヴェインと彼が引き連れる粛正騎士たちによって阻まれる。

 

「円卓の騎士、アグラヴェイン……!」

 

「そうか、名を告げる必要はないか。ああ、君達の名乗りも結構、不要だ。マスター一人、その専属のサーヴァントが一騎。山の翁が二人、そして───傲慢にも我等が城を後にした三蔵法師とその護衛サーヴァントが一騎。例のもう一人のマスターがいないのが気にかかるが、恐らくは山の翁の何れかが守護する隠れ里の何処かにいるのだろう。里の護衛か、それとも未だにガウェインが付けた傷が原因か、何れにしても好都合だ。───しかし」

 

「っ!」

 

「何故、貴様が此処にいるベディヴィエール。本気で我等が王に反旗を翻す気か?」

 

「───アグラヴェイン卿」

 

 鋼鉄のアグラヴェイン。感情のない冷たく、重い視線が立香達の隣で佇むベディヴィエールを射抜く。口にこそ出ていないものの、その瞳はベディヴィエールを裏切り者と呼んでいるようにも見えた。

 

そんな彼の訴えに対し、ベディヴィエールは僅かに気圧されながら、立香達より一歩前に出る。

 

「私は、あの方に────獅子王と話がしたい。問わなければならない事があるのです」

 

「それは、聖抜に関する事か?」

 

「それは────それも、あります」

 

「………成る程、であるならば。我等と貴様は最早相容れまい。他の粛正対象共々、此処で死ね」

 

 それだけを告げると、アグラヴェインは引き連れてきた粛正騎士達を前に出す。そして、戦いは始まった。数で押してくる粛正騎士達に対し、個々で凌駕するサーヴァント達。戦況こそは立香達にこそ有利となっていたが、アグラヴェインが立香を重点的に狙い初めてから、戦況は徐々に傾き始めてきた。

 

「くっ、こやつ等、執拗に立香殿を狙って来る!」

 

「マスターとはサーヴァントを支援し、強化するものだと聞いている。そして、貴様達の中心であるマスターは支援能力こそはあっても、戦闘能力は皆無に等しい。剥き出しの弱点を見過ごすほど、私はお人好しではないぞ?」

 

忌々しく語る呪腕のハサンだが、アグラヴェインの指揮能力は確かなモノ、聖剣や特殊な武器武装を持たず、目立った加護も持たないアグラヴェインが持つ他の円卓の騎士にはないモノ、それは徹底した効率主義だった。個人同士による戦いを視るのではなく、戦いとなっている戦場全体を観る事。人を嫌い、人を遠ざける鉄のアグラヴェインだからこそ、初見で藤丸立香をカルデアの弱点であることに気が付いた。

 

「させません!」

 

 立香に迫る粛正の刃を、マシュが受け止める。彼女が手にしている盾に、アグラヴェインは一瞬目を見開かせるが、既にその表情を元の鉄仮面へと引き戻す。

 

「アグラヴェイン卿、貴方も獅子王の考えに賛同しているというのですか!」

 

「相容れない。そう言った筈だぞベディヴィエール。貴様は既に我が王を裏切った。王の召喚に応じず、今の今まで姿を見せなかったのがその証拠だ」

 

 ベディヴィエールからの訴えをアグラヴェインは何処までも冷徹に返す。彼の中では、既に嘗ての同胞は完全に敵対したと完結している。言葉での対話は不可能、やはり力で押し通るしかないのかと、ベディヴィエールは義手である銀腕に力を込める。

 

そんな時だ。辛そうに、苦しそうに顔を歪めるベディヴィエールに見かねた立香が声を張り上げた。

 

「ねぇ、どうして貴方は無抵抗の難民達を殺すの? それが獅子王の思惑なのだとしても、もっと他のやり方があったんじゃないの?」

 

「───天文台(カルデア)のマスター、君の事はそれとなく把握している。凡人でありながら人理修復という重荷を背負わせれ、戦う宿命を押し付けられた哀れな子供。流石の私も同情し、故に答えよう。全ては聖都を理想郷として成立させるためだ」

 

「理想郷?」

 

「そうだ。聖都には真に正しき命だけを選別して、聖都にて保護し、最後の人類として管理していく。それが、我等の王が下した結論だ」

 

「管理? なにそれ、獅子王は人間を家畜にでもしようっていうの? だから、無抵抗の人達を一方的に殺して回るっていうの!?」

 

「言葉を謹みたまえ。これは、必要な犠牲だ。仮に難民達を聖都から逃がしたとしても、彼等は荒野にて野垂れ死ぬ。盗賊に殺され、獣や魔獣に食い殺される末路に比べれば、まだ人間らしい死に方といえるだろう。それに、万が一生き残ったとしても、難民達は限りある人間だけを回収する我々に、恨みや妬みを抱き、何れは他の陣営に助けを求め、何れは戦争という形でより多くの人命が失われる事だろう」

 

「理解できたかね? カルデアのマスターよ。これが大局を見据える獅子王の決断だ。故に私は彼の王の支えになるべく、最も効率のよい戦略戦術を選ぶまで。───さぁ、粛正の再開だ」

 

 ───確かに、アグラヴェインの言うことは正しい。自国の領土と民という財産を守り、それを脅かす不穏分子を排除する。例え冷徹で冷酷な王と謗りを受けようとも、為すべき事を為そうとする獅子王は確かに王としての正道を歩んでいるのかもしれない。

 

何処までも効率よく、徹底して語り掛けてくるアグラヴェインに、マシュや他の皆が口を出せる事はなかった。彼等も困窮する民草を抱えるもの、その大変さと気苦労が理解できてしまうが故に、アグラヴェインの言葉に何処か納得してしまう自分がいるからだ。

 

しかし───。

 

「………うぅん、やっぱりおかしい。獅子王は間違ってるよ」

 

「───なに?」

 

「だって、そこまで大変さが理解できるのなら、助けられる人命に限界があるって言うのなら、どうして他の人達に手を貸して貰おうとしないの? どうして、太陽王や山の翁達と、協力し合おうとしなかったの?」

 

「────」

 

藤丸立香は、それでも獅子王は間違っていると語る。何故なら、特異点修復という旅路において、自分こそが役立たずで、お荷物だと理解しているからだ。支援といっても、それはカルデアの技術によって造られた魔術礼装によるモノであって、マシュやサーヴァント達をホンの僅かに手助けしているだけにすぎない。

 

白河修司の様にトンでもない力を持っている訳でも、マシュの様に自分の寿命を削ってまで戦う度胸や覚悟はない。情けなく、誰かの手助けがなければ、明日の朝日すら拝めないと立香は己を断じるだろう。だから藤丸立香は、誰かに助けを求めることを躊躇したりはしない。

 

 そんな彼女だからこそ、獅子王の歪さに気付けた。

 

「………そうか、出来ないんじゃなく、しないんだ(・・・・・)。自分以外は出来ないと、決め付けて、押し付けて、………もしかして、獅子王って本当の意味で人の心が残っていないんじゃ───」

 

「そこまでにしてもらおうか、小娘。それ以上の王への邪推は許さない。貴様は此処で死ね。最早、一片の慈悲も与えられぬと知れ」

 

眉を寄せ、嫌悪感を露にするアグラヴェインは、部下達に立香を殺せと命じてくる。押し寄せる白刃、身構える立香だが、彼女には刃を届かせないと、雪花の盾と黒き刃が弾き飛ばす!

 

「先輩は、やらせません!」

 

「大人気ないなアグラヴェイン。娘一人の言葉に激情を晒すとはな。だが、その顔を見れただけでもこの砦に来た意味と意義はあった」

 

「チッ、暗殺者風情が!」

 

「然り。我等は闇に潜み闇に蠢く暗殺者よ、しかし貴殿は闘いを得意とせぬモノ。であるならば、貴殿の首が取られる事も考慮しての事なのだろうよ」

 

「なに? …………っ!?」

 

呪腕のハサンからの要領の得ない言葉によって、より眉間に寄る皺が深くなるアグラヴェインだが、次の瞬間、彼の言葉の意味を理解できた。

 

瞬時に自分のするべき事を選択し、部下を置いてその場を後にするアグラヴェイン。突然の自分達の上官の遁走に首を傾げる騎士達だが、次の瞬間異変は起きた。

 

「がっ、なんだ………これは?」

 

「体が………痺………れ!?」

 

 次々と体調に変化が起きて、地面へと倒れ伏す粛正騎士達。何事かと思い身構えれば、今まで自分達の背後に控えていた筈の静謐のハサンが、華麗な舞を踊っていた。

 

彼女の扱う力の正体は───毒。彼女の特異な体質から、人体に及ぼすありとあらゆる毒を纏い、生身のまま扱えるようになった彼女の舞いは、風に乗って流れる僅かな毒の匂いですら、粛正騎士達を昏倒させて絶命させるだけの致死量となっている。

 

軈て、全ての粛正騎士が倒れるのを確認すると、静謐のハサンの舞いは止まる。それが合図となり、これ迄黙り混んでいた俵藤太は、深々と息を吐きながら汗を拭った。

 

「いやー、焦ったぞ。よもや舞で毒を撒く技があるとは。山の翁というのは、本当に底知れぬ者達なのだな」

 

「ハッハッハ、そう言ってくれると、我々としても鼻が高い。さて、静謐と藤太殿を奪還し、アグラヴェインを撃退した今、この場に留まる意味はない。皆様方、急ぎ脱出と参りましょう」

 

「うむ、宜しく頼む。………む? どうした三蔵?」

 

「か、体が……痺れへ……とうふぁ、らすけへぇ……」

 

「………何とも、締まらんなぁ」

 

その後、全員無事に砦から脱出を果たし、百貌のハサンとも合流した一行は、用意された馬車に乗り込んで山岳地帯へと引き返し、里へと目指す。これで再び戦況はこちら側に引き戻された。後は各村への食料事情を何とかするだけであり、それを打開する宝具を俵藤太は有している。

 

一先ず、これで安心だとハサン達が安堵した時、カルデアから緊急の通信が入ってきた。

 

『た、大変だ皆!』

 

「あ、ドクターだ」

 

「ど、どうかしましたか? ドクター、隠密作戦の為に、作戦中は通信できない変わりに私達の観測と解析を徹底すると聞きましたが……」

 

『それなんだけど、大変なんだ。修司君の反応が消えたんだ! まるで何かに消されたみたいに!』

 

「落ち着かれよ、カルデアの魔術師殿。立香殿が混乱されている。簡潔に、順を追って説明してくれ」

 

『ご、ごめん。………君達がハサンの仲間を救出している間、僕達は立香ちゃんと修司君の存在証明の為の観測、解析を徹底してたんだ。それはついさっきまで正常に出来ていて、立香ちゃんも修司君も無事に観測出来ていたんだ』

 

「ふむ、それで?」

 

『それが、途中修司君が村の建物から外に出た所までは観測できたんだ。最初はトイレかなと思ったんだけど、ある地点に着いてから一切の観測が出来なくなったんだ!』

 

「ある地点………だと?」

 

『そうなんだ。今から座標を送るから、余裕があったら確認して欲しい! ダ・ヴィンチにも話を通して向かわせた。彼の事だから万が一もないかもしれないけど、念には念を入れておきたいんだ!』

 

 酷く慌てた様子のロマニから、修司が消えたとされる地点の座標が送られる。その場所は今通っている道から少しそれた場所、それは普段から人気のない所であり、特異点となった今でも魔獣怨霊の類いすらも現れないという地。

 

送られてきた地図の座標を見て、ハサン達は仮面越しからでも分かるほどに表情を青ざめる。ただならない雰囲気になる馬車の中、呪腕のハサンの口は開かれる。

 

「───立香殿、急ぎその場所まで向かいましょう。もしかしたら、既に手遅れやもしれませんが」

 

「て、手遅れって?」

 

「………もしかしたら修司殿は、死んでおるやもしれませぬ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 蒼く、淡い炎が揺れ動く。暗く冷たい闇の底、大剣を地面へと突き立てる髑髏の翁は、落胆の色を滲ませながら溜め息を溢す。

 

その眼前の下には………。

 

「───立つがよい。未熟者よ、晩鐘の音は、未だ汝の名を指し示してはおらぬ」

 

「あ、が………あ………」

 

全身を切り刻まれ、血の池に沈む修司の姿が映し出されていた。

 

 

 

 

 

 




Q.なんでグダ子、こんな風になっちゃったの?

A.多分ボッチの影響。尚、立香だからこの程度の言い方で済んでいますが、ボッチの場合だと更にボロカスに扱き下ろす模様。

そして、立香的には獅子王の状態を自分なりに分析したつもりで言っただけですので、本人的には貶めるつもりはないです。

次回、シンカの扉

それでは次回もまた見てボッチノシ







おまけ
こんな第五次聖杯戦争は嫌だ。part2

「私以外のセイバーブッ飛ばァすッ!! それはそれとして士郎、お腹が空きました。ご飯にしましょうそうしましょう!」

「いや自由過ぎない!?」





「もう! なんなのよこのサーヴァントは! さっきからゴゴゴしか言わないんだけど!? て言うか、なんで私と瓜二つなのよ!?」

「ゴゴゴゴゴ………」




「え、えっと………」

「はぁい♪ みんな大好きBBちゃんですよー♪ ムカつく虫さんは虫空間にポイしちゃって、私達は私達で楽しくやっていきましょう♪ そういうわけで、そこのワカメさん、ちょっとコンビニいってジュース買ってきて下さいよ」

「はぁ!? な、なんで僕が!?」

「五月蝿いですね。豚になります?」

「う、うぇーん! 修司ぃー、助けてくれよぉー!」








「───サーヴァント、セイバー。召喚に応じ参上した」

「あ、良かった。マトモそうなサーヴァントが来てくれた」

「全く、漸くか。待たせておってからに……」

「───君は」

「ん? 俺のこと知ってるの?」

「………いや、済まない。人違いだった様だ。これから、宜しく頼むよマスター。何事も迅速に、エレガントに………な」


PS.今回は諸事情のためにあまり感想への返信が出来そうにありません。

いつも感想を書いてくれた皆様、大変申し訳ありません。

こんな作者ですが、これからも楽しんでくれれば幸いです。

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