『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今回の水着鯖、誰が来るのだろう?

個人的にはモルガン陛下とか来て欲しいな~、なんて。


その96 第六特異点

 

 

 

「百貌の、生きているか! 村人達は無事か!?」

 

「そう叫ぶな呪腕、聞こえている。仮にも暗殺者が呼ばれて姿を晒すのも、おかしな話だがな」

 

 アーチャーのサーヴァント、アーラシュの機転によって西の村までやって来れた立香達。円卓の騎士達に襲われたとされる西の村まで駆け付けた彼女達は、無事に生き延びていたハサンの一人と村人達の姿に安堵し、ホッと胸を撫で下ろしていた。

 

辺りを見渡せば村のあちこちに戦いの爪痕らしき痕が刻まれていて、どれ程の戦いがあったのか容易に想像できる。でも、申し訳ないが村の修復は後回し。立香はマシュと共にそこに向かって駆け出し、修司のいる場所まで走っていく。

 

「修司さん!」

 

「おー、二人とも此方に来れたのか。結構距離があったと思ったんだが………一体どんな魔術を使ったんだ? もしかして、転移の魔術だったりする?」

 

「いえ、流石の先輩も其処までの高度な魔術は扱えません。アーラシュさんのお陰で、物理的に飛び越えてきました」

 

「正直言って、二度とごめんだけどね。………それよりも修司さん、その人って………」

 

「あぁ、元反逆の騎士にして現円卓の騎士、モードレッドだ。気を付けろ、コイツは俺達の知ってるモードレッドじゃない。戦意はへし折ったが、いつまた暴れるか分からないからな。二人とも、俺の前に出るなよ」

 

修司の元へ駆け寄った二人が見たのは、涙にまみれながら嗚咽を漏らしているモードレッド。言葉も出せず、力なく地面に座り込んでいる姿に、嘗ての反逆の騎士の姿はなく、その痛々しい姿に二人とも言葉が出てこなかった。

 

同情している訳ではない。獅子王の騎士として喚ばれ、獅子王の下で戦ってきた彼女は他の騎士達と同様に、その手で幾人もの無辜の民を斬り捨て、血と屍の山を築き上げてきた。だからこそ聖剣をへし折って無力化した修司に対して思う所はないし、これ迄の彼等の所業を思えば、これ位は当然の報いとも言えた。

 

そして、目の前のモードレッドはロンドンで出会った反逆の騎士ではない。ならば比較するのも筋違いだろうと気持ちを切り替えた二人は、改めて修司へと向き直る。

 

「───修司さん、私達は村の方を見てきてもいいかな? 集落の方にはダ・ヴィンチちゃんを置いてきちゃったし、今の内にハサンの人達と話をしておいた方がいいと思うんだけど……」

 

「あぁ、その方がいい。コイツの事は此方で何とかするから、山の翁達を手助けしてやってくれ」

 

 そう言って二人は踵を返して村の方へ引き返していく。その最中、マシュだけは一度立ち止まってモードレッドを一瞥するが、力なく崩れ落ちて項垂れる彼女に掛けられる言葉はなく、胸に引っ掛かる想いを抱きながらも、立香の後を追った。

 

そして、改めて残される事になった修司とモードレッドの二人。未だに俯いて崩れ落ちているモードレッドだが、どんなことが切っ掛けで再び暴れるか何て分からない。背後ではアーラシュが念の為に矢を構え、いざと言う時の為に、修司の援護を務めてくれている。そんな弓の大英雄の気遣いに感謝しながら、修司は改めて問い詰めた。

 

「───で? お前はいつまでそうしているつもりだ? まだ戦うつもりなら相手になるが?」

 

「…………」

 

「それとも、大人しく捕虜として捕まるか? こっちはお前らと違って無抵抗の人間を殺したりはしない。山の翁達にも話は通してやる。好きな方を撰べ」

 

見逃してやると言われ、モードレッドは一瞬ピクリと体を震わせるが、自身の愛剣を砕かれた以上出来ることは他になく、仮に素手で挑んだとしても素手での戦いを得意とする修司が相手では、技量の差もあってマトモに戦うことすら不可能だろう。

 

ならば、自分に出来ることは一つしかない。獅子王から施されたギフト、その能力を臨界(・・)にまで引き上げようと、モードレッドは全身から赤雷を迸らせるが……。

 

「───ガッ」

 

周囲を赤い雷が呑み込もうとした瞬間、アーラシュから放たれた矢が、モードレッドの肩を射抜いた。外部からの攻撃、しかも力の流れが霧散するように射抜かれた為、モードレッドは今度こそ為す術がなくなった。再び膝から崩れ落ちるモードレッドに、修司は呆れながら嘆息を溢し、手助けしてくれたアーラシュに向き直る。

 

「悪いね、アーラシュの兄さん。助かったよ」

 

「なぁに、アンタなら俺がいなくてもどうとでもなったろうよ。今のは千里眼が使える俺からのせめてものお節介さ」

 

「なら、そのお節介に肖る序でにネタばらしといこうか。モードレッド、アンタが獅子王から付与されたっていうギフト、その効果は………自身の魔力の前借り、或いは霊基の耐久力ギリギリまで跳ね上げる《暴走》みたいな何かだったりするんじゃねぇのか?」

 

「……………」

 

 沈黙で返すモードレッドに、修司は確信した。ロンドンで出会ったモードレッドも確かに強くて頼もしいサーヴァントだったが、ここまで滅茶苦茶な力を振り回す奴ではなかった。一時とはいえ、史実では円卓の騎士の一人として数えられてきた反逆の騎士。そんな騎士が手を焼くほどの魔力の昂り、拳で打ち合っていた合間に、それとなく分析していた修司の回答は、ぐうの音が出ないほどに的を射ていた。

 

そして、それは修司にとって当たって欲しくなかった答えでもあった。モードレッドに付与された《暴走》のギフトは、目の前の騎士の限界以上の力を強制的に引き上げるモノ、詰まる所モードレッドは獅子王の手によって爆弾へと変えられたのだ。

 

確かにモードレッドは反逆の騎士であり、アーサー王に反旗を翻し、伝説を終わらせた一因となった騎士だ。獅子王がカルデアの予想通りにアーサー王の変異体で言うのならその扱いにもある程度の理解は示せるが、修司から見てその事実は悪辣に過ぎた。そして、それを黙って受け入れているモードレッドを見て、つくづく目の前の騎士は自分達の知る人とは違うのだと思い知る。

 

 さて、これからこの騎士をどうしよう。このまま放置していく訳にも行かないし、仮に捕虜にしたとしても、いつまた暴走するか分からない爆弾を隠れ里に住む人々の近くに置い置くわけにはいかない。

 

とはいえ、このまま此処に置いておけば異変を感じた円卓軍が軍を興して攻めてくるかもしれない。そうなれば全面戦争は避けられず、此方にも無用な血が流れるように思うのは、当然の帰結といえるだろう。地味に困るモードレッドの扱いに修司達が悩んでいると、背後からベディヴィエールが現れた。

 

「モードレッド卿……」

 

「あぁ? 誰かと思えば、父上に喚ばれてもいなかったチキン野郎かよ。今更テメェが出てきてどうする? 余った円卓の席に座っていただけのテメェが!」

 

 そんなベディヴィエールの姿を見て、モードレッドの覇気が僅かに戻る。どうやら、この騎士から見てベディヴィエールは相当特殊な事情の持ち主らしい。一応噛み付かない様に見張りながら、修司はベディヴィエールに道を譲り、事の顛末を見届けようとする。

 

「モードレッド卿、何故、王はあの様な蛮行をするようになったのです。あの様な虐殺、以前の王であれば、決して許しはしなかった筈」

 

「ハッ! テメェ如きが父上に意見する気かよ! ───思い上がるなよ三下。ただ父上に覚えが良いだけのテメェが、一体何ができる!?」

 

「父上は絶対だ! あの人が何を考え、何を成そうとしてるかなんて知った事じゃねぇ! オレは今度こそ───父上の為だけに生きると決めただけだ」

 

「モードレッド卿……」

 

「大層な義手を付けてイキがるのも結構だがな。もう俺達の円卓にテメェが割って入れる余地はねぇんだ。テメェは、何処とも知れぬ場所で、勝手に野垂れ死ぬのがお似合いだぜ!」

 

そう笑い、何処までもベディヴィエールを貶すモードレッドに、修司は仕置きが足りなかったかなと拳を鳴らす。ポキポキと小気味の良い音にモードレッドは肩を震わせるが、そこは大人なアーラシュが修司を宥める事で事なきを得た。

 

そして、これ以上この騎士から情報を得られる事はないと思い、修司の決定の下。王や他の円卓の騎士達に村の場所を知らせない事を条件に、モードレッドを解放する事にした。

 

その際

 

「次、俺の前に姿見せたら、その立派な鎧剥ぎ取って農具にしてやるからな?」

 

と、脅しを付けながら、去り行く反逆の騎士の背中を見送った。その背中は少し震えているようにも見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───その夜。村の人達の無事も確認し、戦いによる損壊もある程度の修復を終えると、呪腕のハサンからある提案を出された。

 

それは、円卓の騎士に捕らえられたとある山の翁の救出。数ある特出した能力を持つ山の翁の中でも、特殊な力を持つそのハサンは、ある事情から自刃の選択もできず、日々円卓の騎士による拷問を受けているとの事。

 

このままではいずれ精神力に限界を迎えたその山の翁が、うっかり口を割るかもしれないと危惧した呪腕が、捕らえられた山の翁を救出する為に、立香達に協力を要請した。当然、立香達はこれに賛成し、サポーターのロマニもいずれ円卓の騎士達と戦う為に戦力は必要だという事で、立香達の山の翁救出作戦を承諾した。

 

当然、修司もその作戦に参加しようとしたのだが……。

 

「なぁんで、俺だけが留守番なのかねぇ」

 

宛がわれた村の空き家にて、横になって天井を見上げる修司は、一人で愚痴を溢した。

 

『仕方ないだろう? ガウェインに付けられた傷、まだ完治していないんだから』

 

「だーかーらー、この程度何て事ないって。相変わらず心配性だなぁ、ロマニは」

 

『なに言ってるんだい。モードレッドと戦った時、傷が開いたんだろう? こっちの方で君達のバイタルは常にチェックしてるんだ。あまり、痩せ我慢はするもんじゃないよ』

 

 自分はまだまだ戦えるというのに、ここでまさかのドクターストップ。ガウェインから受けた傷を未だに回復しきれていない修司を、見かねたロマニがストップを掛けたのである。当然修司はこれに反発したが、これからの戦いに備えて万全な状態でいて欲しいという立香達の懇願によって、村での一時休養を余儀なくされたのだ。

 

そんな修司の代わりとしてベディヴィエールが救出作戦に同行する事となったが、正直言って修司は不安だった。ベディヴィエールは他の円卓の騎士と比べ、目立った逸話や伝承など持ち合わせてはいないが、その代わりに、アーサー王の最期を看取るという役割が与えられている。

 

ベディヴィエールも円卓の騎士の一人、そんな彼がアーサー王と敵対する道を選んで、果たして平然としていられるのだろうか。モードレッドと対峙した時もなんだか迷っている様子だったし、山の翁が捕らえられている砦にだって円卓の騎士がいるかもしれない。

 

その為に立香には呪腕や百貌も付いていく事になったが………不安は拭えない。せめて道中で仲間になったという三蔵法師に期待したい所だが……。

 

「………まぁ、立香ちゃん達の事は気で何となく分かるからいいとして、今は俺も体を休めることに集中するか。いい加減、安静にしてないとナイチンゲールさんが押し掛けてきそうだし」

 

『アハハ、そうしてくれると僕も安心だ。立香ちゃん達の事は任せて、直接な支援が出来ない分、きっちりとサポートしてみせるから』

 

「あぁ、頼んだ」

 

 不安を重ねた所で、現状が良くなるわけでもない。立香達の状況はロマニに任せる事にした修司は、大人しく自身の回復に専念することにした。

 

外ではアーラシュが村を守ってくれている。夜でも目が効く彼ならば、村の見回りを任せても安心だろう。ひんやりと冷たい地べたに身を任せながら、修司は僅かばかりの休眠を受け入れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────?」

 

 ふと、違和感を感じた。夜も更け、虫や動植物達の息遣いも聞こえなくなった時間。あまりにも静かな状況に落ち着かなくなった修司は起き上がり、外に出て辺りを見渡した。

 

そこは特に変わった所はなく、村も別段なにかが変わっている様子もない。けれど、修司中に眠る第六感とも呼べるナニカが、違うと警羅を鳴らしている。円卓の騎士の気配はないし、殺気や殺意も感じない。

 

「………ドクター?」

 

何気なしにロマニを呼んでみたが、返答はなかった。今頃、立香達のサポートに必死なんだろうなと察した所で………その違和感に気付く。

 

立香の気が感じられない。マシュも、ベディヴィエールも、ハサン達やダ・ヴィンチ、アーラシュ。みんなの気が感じられなくなっている。いきなり感じられなくなった立香達の気に焦る修司だが、周囲には粛正騎士達や円卓の騎士、太陽王や獅子王の強い気配も感じられなくなっている事に気づき、焦りは困惑へと変化していく。

 

一体、自分は何処にいるのか。こんなときでも綺麗に輝く月を見上げながら周囲を探索しようと一本前を踏み出したとき──。

 

『─────』

 

「………え?」

 

 声が聞こえた。幻聴? いや、今のは確かに声だった。タイミング的に修司の現在進行形で体験しているこの事象に、間違いなく関与しているモノだろう。罠の可能性も充分に考えられるが、魔術に関して毛ほどの知識しか持ち合わせていない修司に取れる選択肢は一つしかない。

 

戦いになることを考慮しながら、声のした方へ進み続けていると、修司は不可思議な洞窟へと辿り着いた。いや、洞窟というには何処か神秘的で、人工的にたて付けられた扉は何処か重々しく、それでいて荘厳的に見えた。

 

「洞窟? ………いや、霊廟か?」

 

神秘や魔術等には皆目価値の分からない修司だが、この扉がどれ程重いものなのか、何となくだが………理解できた。この霊廟にあるのは────信仰だ。

 

今、修司は理解した。目の前に聳え立つ扉の向こうにあるモノ、それこそが修司が勝てないと思わせた者であると。

 

 正直に言えば、今すぐ引き返したい気分だ。此処に来て、この扉の前に来た辺りで呼吸は荒くなっているし、手足は震えてしまっている。

 

声は───聞こえなくなった。恐らくは、最後の最後は自分の意思に委ねようとする扉の向こうにいる“ナニカ”の気遣いなのだろう。或いは試しているのか、何れにしても質が悪い。

 

『汝の扉、未だ開かれる事叶わず』なんて、意味深な事を言われた以上、黙っている訳にはいかない。きっと、この霊廟の主は知っているのだ。自分がまだ、本当の意味で限界を超えていない(・・・・・・・・・・・・・・)事に。

 

ならば、挑むしかない。この霊廟の奥にいる何かが自分に試練を課そうと言うのなら、乗り越えるまで。それに………。

 

不思議と、声の主の感じが何処と無く嘗ての師父に似ている気がする。そんな事を考えながら、閉ざされた霊廟の扉に手を触れた瞬間────。

 

修司は、暗闇の中にいた。

 

「っ!?」

 

 構え、周囲に気を配る。相変わらず何も感じないが、それでも今自分が何処にいるのかは分かった。

 

此処は、霊廟だ。いつの間にか、自分は霊廟の奥へと移動していたのだ。

 

汗が、全身から噴き出してくる。本能が今すぐ逃げろと最大音量で警告してくるが───遅い。既に自分は死神の掌の上なのだから。

 

『───来たか。シンカの戦士よ』

 

炎が灯る。ゆらゆらと揺れる蒼い炎が、何の前触れなく灯り、修司の前に人の形をしたナニカが浮かび上がっていく。

 

『いつか来る戦いの刻、我等に出来ることはあまりにも小さく、また少ない。白河修司よ、大いなる戦いを余儀なくされた哀れで気高い戦士の末子よ。汝の扉は未だ閉ざされたまま───故に』

 

『その固く閉ざされた扉の施錠の開封、このハサン・サッバーハが承った』

 

現れたのは────死。修司が危惧し、勝てないとされていた偉大なるハサンの祖。

 

『尚、本来の役割とは大きく異なる為に加減は出来ぬ。───構えるがよい。でなければ死、である』

 

唐突に始まった第六特異点の事実上の決戦。振り上げられる大剣を前に、修司は迷いなく………10倍界王拳を引き出した。

 

 

 

 

 






Q.今回、初代様は何をしようとしているの?

A.ボッチの強化。

Q.つまり?

A.ゆるされよ、ゆるされよ。ボッチのやらかしを、ゆるされよ。

よ、妖精よりはマシだから、別に良いよね!(汗







オマケ


失意の庭・ボッチVer

「……………」

「……………」

「……………」

《お出口は彼方です→》

「おいぃ? 何で俺だけ拒否されてんの? やれよ、アルトリアや立香ちゃんにやったみたいに、俺にも失意の幻想を見せてみろよぉっ!!」

「し、修司さん! 落ち着いて!」

「そうやってさ、そうやってさ! 俺ばっかり仲間外れにするんだもんなー! クソが!」

「えぇ、失意の庭が拒否するって……修司って、日頃から本当にやらかしてばっかりなんだね」




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