『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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涼しかったり、暑かったり。

寒暖の差が激しすぎて風邪引きそう。




その94 第六特異点

 

 

 

「もうすぐ、山岳地帯の集落です」

 

『いやー、ここまで来るのに時間掛けちゃったけど、どうにか誰一人欠けることなく此処までこれた。それだけで嬉しい限りだよ』

 

「ダ・ヴィンチちゃんのお陰だよ。水とか錬成してくれるし、狩った魔物の毒とか無害化してくれるし、お陰で難民の人達も飢えることなく此処までこれた」

 

「ふっふーん! もっと誉めてくれてもいいんだよ? まぁ流石にスピングス号は持ってこれないから麓に隠しておいたけど……」

 

 難民達を引き連れての行軍も滞りなく進み、途中で遭遇した魔物や魔獣を狩り、それらを上手く調理し、難民達にも振る舞う事で、どうにか此処まで脱落者を出さずに此処までこれた一行は、先頭に立って案内を続ける難民の言葉に勇気付けられながら、目的地に向けて歩みを進めた。

 

「所で修司君、此処まで近付いたのだから、君の探知能力でそろそろどの辺りに集落があるのか見当が付いてそうなんだけど………どう?」

 

「期待されるのは俺としても嬉しい限りだけど………正直に言おう、全然だ。此処まで近付ければ、大抵何処に誰がいるのかなんて分かるのに、何も感じない。こんなの、今まで一度だって無かったのに……」

 

そう言ってダ・ヴィンチの言葉に答える修司の頬には大粒の汗が一つ、流れ落ちていく。集落に近付けば近付く程に感じる違和感。殺気も殺意もないのに、修司は何故か、自身の首に死神の刃が添えられている気分になった。

 

「気を付けろダ・ヴィンチちゃん。太陽王や獅子王も手強い相手だが、それ以上にヤバい奴がいる。此処まで近付いて分かった。多分俺は、コイツにはまだ勝てない」

 

「え、えぇ~」

 

「これ迄ハチャメチャだった君が、そこまで言う?」

 

ギリシャのヘラクレス。ケルトのクー・フーリン。いずれも歴史に名を刻み、時には神々すら凌駕する強さを奮ってきた選りすぐりの大英雄。そんな彼等を正面から挑み、打ち破ってきた修司が初めて口にする“勝てない”の一言は、ダ・ヴィンチや立香やマシュ、ロマニとカルデアの面々に少なくない衝撃を与えていた。

 

『そ、そんなヤバい奴がこの山岳地帯に!? だ、大丈夫なのかい!?』

 

「分からない。けど、殺気や殺意がないから、此方に対する敵意や害意もない。と、そう思って信じるしかないとしか、言えないな」

 

 ハハハと苦笑いを浮かべる修司に、ロマニはマジかと天を仰いだ。山岳地帯を覆いながら、一切の気配を感知させない何か。腕を磨き上げ、死線を潜り抜けてきた修司だからこそ感じ取れた違和感。不安になる立香達だが、取り敢えず太陽王に謁見した時と同様に失礼のないように振る舞うしかないと、修司は気休め程度のアドバイスを送った。

 

もうすぐ集落に着くと言うのに、意気消沈となる立香達。まぁ何とかなるさと不安な気持ちが一周回って開き直りの領域まで至った修司は、半ばヤケクソ気味で先頭に躍り出た。勿論、難民達の様子も欠かさず見守るようにして。

 

そんな時、ふとベディヴィエールが近付いてきた。その表情は何処か暗く、何やら思い詰められている様な感じ。今更修司が彼に何かを思うことはなく、今は共に旅をする仲間として認めている。そんな彼が、改まって自分に何の用なのか、近付いて来るのを敢えて気付かないフリをしながら待っていると……。

 

「あ、あの………修司さんは相手の気配や強さを知る術を持っていたりするのでしょうか?」

 

「え? まぁ、うん。そうだな。そこまで詳しくは感じ取れないが、ソイツが何処にいて、どのくらい強いって言うのは、感覚的ではあるけど分かるぞ」

 

「で、では……もしかして、私の事も?」

 

「うん? まぁ、多少はな。あ、もしかして一人で円卓の連中と戦おうとしているのか? だったら止めた方がいい。先の正門でランスロットと戦った時にそれとなく探ったけど、アンタの強さはどう見繕ってもランスロットより下だ。なんならマシュちゃんにすら劣る。その義手の腕がどんなに凄い宝具かなんて知らないけど、あまり背負い込まない方がいいぞ」

 

「い、いえ。そんな思い上がっているわけでは………」

 

「なんか嫌な言い方をしちまったけど、力の強弱が戦いの情勢を決める絶対条件ではないからな。工夫を凝らして頑張ろうぜ」

 

「あ、はい。………ありがとうございます」

 

「?」

 

 なんだろう。てっきり自分の強さがどれだけあるのか知りたいから訊ねて来たのかと思ったのに、正直に感じた事を言えば、何やら凹んでしまったベディヴィエールに修司は首を傾げ、頭に疑問符を浮かべた。

 

サーヴァント(・・・・・)であるベディヴィエールは、その強さこそ円卓の中では大したことは無いかもしれないけど、別に戦闘能力だけがサーヴァントの強さではない事くらい、修司にだって理解できている。力が無くとも一級のサーヴァントと渡り合える英霊だっているのだ。

 

その最たる例がロビン=フッド。搦め手や罠、更には直接姿を消す宝具の持ち主で、彼の扱う毒の弓矢は撃った相手に確実な死を与えるほどに強力で、強烈な武器だ。

 

切嗣ことアサシンエミヤもそう言った技が上手いし、アーチャーのエミヤだって、創意工夫でアルトリアとの模擬戦に食らい付いている。修司としてはヘラクレスやアキレウスといった大英雄より、ヘクトールの様なあらゆる手段を使ってくる相手の方が厄介だと認識している。

 

だから、ベディヴィエールもランスロットに挑む際は工夫を凝らして頑張って欲しいと本気で思っている。尤も、湖の騎士の相手に相応しいのは別にいるのだが。

 

 ともあれ、集落まで後一息だ。幸い、あの恐ろしい感覚は今の所感じない。悪戯に探らない限り、此方には無害である事を何となく察した修司は、それから気の探知をすることなく皆と山道を歩いていく。

 

そして………。

 

「そこの一行、止まれ」

 

「「「っ!?」」」

 

「円卓の騎士を連れて、何をしに来た? 僅かな希望さえも摘みにきたというのか?」

 

怒りに震えた声が、周囲に木霊する。ダ・ヴィンチは辺りを見渡して周囲に人影が無いことを確認し、マシュは盾を構えて立香や難民達を庇うように前に出る。ベディヴィエールも銀腕を前に構えるなど、それぞれが対応している最中、修司だけは目を鋭くさせている。

 

この声に聞き覚えがあった。それはまだ自分が高校生だった頃、地元で起きたある戦いの儀式に乱入していた頃、ソイツは友人と姉代わりの人を拉致し、脅しの道具にした奴と、全く同じだった。

 

ざわつき始める感情、静かに声に耳を傾けながら気を高め始め、いつでも不意討ちに対処できるよう身構えていると………。

 

「いやいや呪腕の旦那、昨日あんなにはしゃいでいたんだから、今更凄むなって。“我が同胞達を救ってくれただけじゃなく、円卓の騎士に一矢報いるとは見事! 是非ともお会いしたい!” なんて言ってたんだからさ」

 

「ちょ、アーラシュ殿!? 色々と省き過ぎでは!?」

 

「…………」

 

 突然現れたアーチャーのサーヴァントらしき男と、髑髏の仮面を被った黒い男。その髑髏の男は、間違いなく嘗て敵対した奴と同じなのに、彼の人間らしい一面を目の当たりにした修司は、戸惑いながらも身に纏っていた気を霧散させるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───そう、ですか。サリアが………」

 

「謝って済むことではないのは、重々承知している。情けない話だが、俺達は彼女を……ルシュド君の母親を死なせてしまった。言い訳はしない。好きに罵倒してくれていい」

 

 その後、これ迄の道中の経緯と此方の事情を説明し、アーラシュと名乗る弓兵のサーヴァントの仲介もあって、集落に入ることを許された一行は、其所で改めて自分達の事情を話すことで自分達と協力関係を結べないかを模索した。

 

集落の守護者、山の翁として知られる呪腕のハサン。彼と交渉する事になったのはカルデア側の最高戦力の一人、白河修司である。

 

修司は、最初こそはその事に若干渋っていたが、ダ・ヴィンチが集落の人々に錬成した水を配っていたり、ベディヴィエールがアーラシュと共に食料確保の為の狩りに出掛けたり、立香とマシュは二人の手伝いに向かったりと、それぞれがやるべきことしている中、たまたま手の空いているのが修司となった。

 

正直に言えば、修司も集落の手伝いやらに出向きたかったが、生憎此処には万能の天才がいる。カルデアに召喚され、人を扱うと言う事を知った彼がいる以上、自分の出る幕は殆んどない。故に修司も観念して呪腕のハサンに獅子王と戦う際の協力者になって貰おうと、話し合いの場に出ることとなった。

 

その筈だったのだが……。

 

「何を言いますか。貴方方は此処に来るまで、既に我々にとって返しきれない恩がある。聞けば、煙酔のハサンが死んだ際、奴に変わって円卓の騎士を足止めしてくれたのは、此処に訪れた者達から聞き及んでいます。サリアの事は確かに残念であり、無念ではありますが、貴殿が気に病む必要はありませぬ」

 

「あ、あぁ……そう言ってくれると助かる」

 

 どうしよう。このハサン、メチャクチャ話しやすい。気さくというかなんというか、親しみやすい雰囲気を纏っている。最初に出会ったときは殺気と殺意全開で人質を取ったりしていたから、てっきりもっと陰湿な奴かと思っていたのに……。

 

しかも口調も丁寧で好感が持てる。あの間桐臓硯のサーヴァントでなければ、ここまで印象が変わると言うのか。

 

 そんな風に戸惑いながらも、着々と話を進める二人。これ迄の経緯から、これから具体的にどうしていくかの話にシフトしようとしていた時、突然建物の中へアーラシュが入室してきた。

 

「話し合いの最中済まない。緊急事態だぜ呪腕さん! 西の村に円卓の騎士が近付いてきているぞ!」

 

「な、なんですと!?」

 

「旗の色も確かめてきた。赤色の、竜の首を断つ稲妻の模様。間違いない、西の村に近付こうとしているのは円卓の遊撃騎士、反逆のモードレッドだ!」

 

「おぉ、おおぉぉぉお。なんと言うことだ。皆殺しにされるぞ!」

 

モードレッド。その名前を耳にした瞬間、修司の脳裏にロンドンでの彼の騎士の姿が浮かんだ。荒々しくて勇ましく、身に纏う赤き赤雷の騎士。歪んでいても、騎士王に対する想いだけは本物だったあの騎士が、女子供もいる村を蹂躙しようとしている。

 

気付けば、修司はアーラシュに詰め寄っていた。

 

「アーラシュさん。西の村ってのはここからどの辺にある?」

 

「………それを聞いて、アンタはどうするつもりだ?」

 

「決まっている。止めるんだよ、モードレッドは付き合いは短いが面識がある。アイツを、これ以上人殺しの道具にさせて堪るかよ」

 

 ジッと見詰めてくるアーラシュに、修司もまた見返した。睨み合う事数秒、先に折れたのはアーラシュの方だった。

 

「やれやれ、俺の千里眼が通用しないからどんなヤバい奴かと最初は思ったが、何て事ない気の良い兄ちゃんじゃないか。───俺達もすぐ駆け付ける。アンタの背中の傷は、まだ癒えきってないんだ。無茶はするなよ?」

 

そう言って笑い、送り出してくれるアーラシュに修司もまた笑顔で頷いて見せた。建物の暖簾を潜り、外へ出る。この時、自分の名前を呼ぶ声に視線を向けると、元気な姿のルシュドが此方に向かって手を振っている。

 

 これから先、彼にはきっと辛い道が待っている。母を失った事実は、きっとこれからの彼の心に浅くない傷を残すだろう。これ以上、彼の様な境遇の子供を生み出しはしない。白い気の炎を身に纏った修司は、西の村の方角から感じる強い気配を頼りに跳躍、飛翔していった。

 

初めて目の当たりにする人間の飛行、それを集落の人々は唖然としながら見送り………。

 

「はは、何だよあの兄ちゃん。とんだハチャメチャ野郎じゃないか」

 

アーラシュ=カマンガーは笑いながら立香達の所に向かうのだった。

 

 

 

 




Q.初代様って、ボッチより強いの?

A.そこら辺は、後に説明させて頂きます。もう暫くお待ちください。

ただ一つ確かなのは、火力や元々の身体能力の差で語るのであれば、初代様は本作の真ヘラクレスや真クー・フーリンには及びません。

それでは次回もまた見てボッチノシ








おまけ

IF もしもボッチがクリプターだったら?

「ねぇ、どうしよう修司! 私、アイツに負けちゃった! 私、このままじゃお母様に捨てられちゃう!」

「落ち着け、それは絶対に有り得ないから。単に強さの有無でお前を娘にしたわけじゃないんだって、いつも言ってるだろう?」

「でも、でも私、アイツに負けちゃった! 同じ魔術師なのに、アイツには全然敵わなかった! これじゃあ、アイツこそが、お母様の娘みたいじゃない!」

「いやぁ、それは仕方ねぇよ。予言の子、アルトリアだっけ? アイツ、女王陛下と同じ出身みたいだし。言うなれば◼️◼️◼️◼️の妹みたいなんもんだ。魔術の才能も折り紙つきなんだろうよ」

「………え? い、妹?」

「あぁ、そうなるとアイツは………お前の叔母さんって事になるのか? 良いじゃないか、話し合いのできる身内が増えて。あの娘と喋っているお前、楽しそうだったぞ」

「叔母さん。そっか、叔母さんなんだ」




その後



「こんにちはおばさん、今日は私の暇潰しに付き合わせてあげるから、感謝しなよおばさん!」

「よぉし、ぶっ飛ばす!」

「………あれ? なんかちょっと間違えた?」

「修司、アンタ後でお仕置きね」

「ぺぺさん!?」


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