『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今回は地味なお話。




その93 第六特異点

 

 

『そうか。花の魔術師マーリンは君を遣わしてきたのか』

 

「はい。魔術師殿から話は聞きました。人理焼却、その恐ろしい謀を成し遂げた魔術王の思惑を打ち破ろうと、特異点を修復している者達がいる。と」

 

「あの、ベディヴィエールさん。目の方は大丈夫ですか? 先程まではその、物凄く悶えていたようでしたから」

 

「え、えぇ、大丈夫です。心配してくれて、ありがとうございます。正直言えば、まだ少しだけ目がチカチカしますが、じきに元の視力を取り戻す事でしょう」

 

「はぁー、良かった。それなら安心したよ。修司さんてば、いつでも前振り無しで突拍子の無いことをするんだもん」

 

「わ、悪かったよ。反省してるって」

 

 あの後、聖都から無事に脱出し、殿を務めていた修司とも合流した立香達は、彼の手に抱えられていた騎士の男、ベディヴィエールから色々な情報等を聞き出し、修司には予想以上に少なくなっていた難民達の事を伝える事になった。

 

ベディヴィエールは、気が付けば砂漠の大地に佇んでいて、人づてを頼りながらこの特異点をさ迷い歩いていたという。その道中で聖都に関わる情報を聞き出し、嘗ての円卓の騎士の非情な噂を耳にし、真偽を確かめる為に、それまではルキウスなる皇帝の名を偽名に使い、人知れず活動していたという。

 

その途中で、たまたま魔獣に襲われている立香達と遭遇し、親切心で手助けをしてくれたのだと、他ならぬ立香が代弁する。

 

そして、半数以上の難民達が聖罰からギリギリ逃げ延びたとある商人が引き取り、保護した事でこの人数になったのだと説明する。

 

難民の話………特に、商人が保護した辺りを聞いてから、修司の表情は途端に柔らかくなった。余程彼等について気に病んでいてのだろう。生き延びた難民達の事を想いながら、改めて修司はルキウス───改め、ベディヴィエールに向き直る。

 

「と、そんな感じで私達はルキウス───ベディヴィエールさんと出会ったわけなんだ」

 

「そうか。なら、アンタは一応俺達カルデアの恩人と言えるわけだな。礼を言わせてもらうよ、本来ならその役割は俺が請け負うべきモノだったのに……」

 

「い、いいえ! そんな、私のしたことなど大した事はありません。それに………私は、あの聖抜の場にいたのに、マトモに動けませんでした。目の前で行われている凄惨な光景を前に、唖然とするばかりで何も出来ませんでした」

 

 立香達の話を聞いて、ベディヴィエールこそが彼女達の窮地を助けてくれたルキウスなる騎士だった事を知った修司は、聖都で起きた気持ちを押し殺して呑み込み、ベディヴィエールに頭を下げる。

 

そんな修司に、ベディヴィエールは両手を振って否定した。円卓の騎士でありながら、嘗ての同志達の蛮行を糾弾せず、ただその凄惨な殺戮に唖然としているだけだと自身を嗤い、侮蔑する。

 

「修司殿。貴方が思っている通り、私は情けなく、卑怯な人間です。あの場で、誰よりも円卓の蛮行を糾弾しなければいけなかったのに、私は目の前の光景を否定するだけで精一杯でした。言い訳はしません、私こそがあの場で、誰よりも卑怯者だった」

 

所詮は風の噂だと、どうせ円卓の騎士の誰かがやらかして広まり、誇張された噂なのだと、ベディヴィエールは内心で一蹴していた。あの誉れある円卓の騎士達がそんな事をするはずないと、彼の騎士は信じて疑わず、それ故に目の前に広がる惨劇を前に思考が追い付かず、立ち尽くしていた。

 

彼が我に返ったのは、修司がガウェインを殴り飛ばす直前。嘗ての王が放つ聖剣の如き輝きを前にした時の事だ。あの光で自分は正気に戻れた。そう言って頭を下げるベディヴィエールに、修司はこれ以上強く言うことはなかった。

 

「………別に、俺に謝ったって仕方ないだろう。難民達を虐殺していたのは円卓の連中だ。そして、あの子の母親を助けられなかったのも、俺達の責任であり、奴等の所為だ」

 

「…………」

 

「今、母親を失って誰よりも辛いのは俺達じゃない。ルシュド君だ。全ては、あの子の気持ち次第という事を、忘れない方がいい。お互いにな」

 

「それは………そう、ですね」

 

「立香ちゃん、ルシュド君は?」

 

「今はスピンクス号で眠ってる。よっぽど疲れていたんだろうね」

 

「そうか。………ダ・ヴィンチちゃん、ここは任せるよ。俺は周辺の見回りをしてくる。一応、俺達追われている身だし、頭も冷やしておきたいしね」

 

「あまり、遠くにはいかないでくれよ? 手当てはしたとは言え、君は怪我人だ。砂漠の夜風は傷に染みるからね」

 

 それだけを言い残し、修司は一度立香達から離れていった。ベディヴィエールに対して修司のらしくない対応に立香とマシュは揃って首を傾げた。

 

「あの、修司さんはどうしたのでしょうか? なんというか………その、彼にしては色々とおかしな言動が多々ある様な気がするのですが」

 

「うん、なんかおかしかったよね。修司さん……どうしたんだろう?」

 

『…………』

 

今は一時の休憩。聖都からの追手の可能性を考えれば、あまり一つの場所に長居は出来ない。難民達の事を考えれば、自分達の行動範囲は限られてくる。それまでには修司も戻ってくるのは皆が分かっているだろうし、修司もまた理解している。

 

だからこそ、ロマニ=アーキマンは何も言えなかった。白河修司、彼の生い立ちを知るが故にDr.ロマニはそこまで足を踏み入れることは出来なかった。

 

 それから暫くして、ベディヴィエールは難民の一人と交渉し、一行は山岳地帯に陣取っている山の翁達の所へ向かう事になる。行動を開始する頃には戻ってきた修司と共に、行動を再開させるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───失態、という言葉では最早足りんな。一体何故、これ程の損失を出してしまったのか。ガウェイン卿、あの聖抜で一体何が起きたというのだ」

 

 白亜の城の頂上。外を見下ろし、地平線の彼方まで見据える程に高く聳え立つ玉座の間。そこに集うのは嘗て円卓の騎士と謳われてきた者達が王のいない玉座の前で立ち尽くしていた。

 

重苦しい空気の中、最初に口を開いたのは黒い鎧を身に纏う男性、その氷にも鋼にも見える冷たい目線は息の荒い嘗ての同僚に対し、何処までも容赦なく浴びせている。

 

そんな男の視線を直視するガウェインは、外見こそは平静を装っているが、呼吸している息は僅かに荒くその目は何処までも暗い。原因となっているのは先の戦いで受けた傷と、己の分身として扱っていた聖剣が砕かれたという事実、ガウェインの精神的ダメージは予想以上に深刻で、こうして玉座の前で立っているだけでも限界に差し掛かっていた。

 

「───随分と辛そうで申し訳ないが、生憎休んでいる暇はないぞ。我が王は完璧だ。故に僅かばかりの“汚れ”も容認できない。太陽王との決戦を前に、些末なトラブルは抹消しなければならない。そうであろう?」

 

「………えぇ、無論です。アグラヴェイン卿、我等が王に間違いはなく、あるのは何処までも公平な決断だけ、であるならば、私がその足を引っ張るわけにはいかない。全て、お話ししましょう」

 

 アグラヴェインという騎士の言葉に気を取り直したガウェインは、聖抜の儀で起きた出来事を余すことなく口にした。当初こそは落ち着いてガウェインの報告を耳にしていたが、太陽の騎士の敗北と聖剣の粉砕、加えてみすみす生き恥を晒してしまっている事を余すことなく伝えると、玉座の間は前以上に重苦しい空気に包まれる。

 

そんな重苦しい空気を破ったのは、やはりアグラヴェインだった。

 

「───成る程、そんな事が」

 

「信じられないないのも無理はない。聖剣を折られ、生き恥を晒している私こそが、そんな気持ちで一杯です」

 

「………あぁ、分かっている。卿が偽りを口にしていない事など、損壊した塔の一部を見ただけで理解している。だが、その山吹色の男とは一体───」

 

「恐らくは、私と相対した者と同じ輩なのでしょう」

 

「失礼、ガウェイン卿、アグラヴェイン卿。二人の話に割って入るつもりはありませんでしたが、何せ内容が内容です。心当たりのある身としては、放っておくわけにはいかないと思い、口を出させていただきました」

 

 嘆きの騎士トリスタン。その閉じられた瞳の奥から感じられる狂気は、既に人の道を外れ、その手には多くの難民達を手に掛けた血で染まっている。私は悲しいと嘯きながら、その実誰よりも嗤っていた。

 

そんな彼の口出しに目を細めたアグラヴェインは、両腕を組んで思考を巡らせる。トリスタンを迎撃し、ガウェインを聖剣ごと撃破した怪物。そんな輩が何故、今になって出てきたのか、考え付く情報の限りをその頭脳で纏め上げたアグラヴェインは、一つの答えに行き着いた。

 

「───カルデアか」

 

 しかし、そんな彼の言葉は新たに現れた神々しい王の登場により掻き消されていく。こんな夜更けに登場していただけるとは、アグラヴェインはそんな感極まった感情を押し殺し、他の騎士達に倣って王の前に跪く。

 

「王よ。この夜更けにご尊顔を拝謁出来るとは、感謝の極み。しかし、カルデアというのは?」

 

「急ぎの事案なのだろう? 答え合わせの必要はないぞアグラヴェイン卿。そしてトリスタン卿を退け、ガウェイン卿を打ち破った山吹色の男、その者はほぼ間違いなくカルデアの者と見て間違いはない。事実、その男は先程まであの聖抜の場でこの私を睨み付けていたのだからな」

 

「あぁ、私は悲しい。天に唾を吐くに等しい蛮行を許してしまうとは。やはり、彼の者を今からでも追いかけ、始末を付けるべきなのでは?」

 

「確かに、トリスタン卿の言うことにも一理ある。その者が間違って太陽王と手を組み、此方に仇なすとあれば、それは無視できない脅威となる。もはや一介の魔術組織程度だと、侮る事は出来ますまい」

 

これ迄は、カルデアなる組織を下に見ていた円卓の騎士達。不吉なる予言によって示唆された終末の一節はカルデアなる星見の魔術師達の到来が予見されていた。

 

そんな予言を円卓の騎士達は誰一人鵜呑みにはせず、来るなら来てみろ!な精神で迎え撃つつもりでいた。しかし、蓋を開ければその脅威は凄まじく、カルデアの人間の一人らしい山吹色の男によって粛正騎士達は50人程消滅し、ガウェインは聖剣諸とも顎を打ち砕かれてしまっている。

 

更に言えば、ランスロットからの猛攻すらも捌き、不可思議な術で姿を眩ませたのだとか。何度報告を読み返しても信じ難い内容だ。そんな奴が太陽王と手を組み、此方に攻めいってくるとなると、此方の被害規模は予想を遥かに上回る事になるかもしれない。

 

なら、そうなる前に手を打つべきだ。そう考え、不敬であることを承知の上で、アグラヴェインは目の前の獅子王に具申を告げる。

 

「我等が王よ。不敬を承知で具申をさせて頂きます。今すぐに兵を挙げ、追撃を仕掛けるべきかと思います。どうか、ご一考の程を………」

 

「私に意見するかアグラヴェイン。如何に補佐の任を与えたと言っても、其処までの越権行為は許した覚えはないが?」

 

淡々と口にしているだけなのに、のし掛かってくる圧力(プレッシャー)はサーヴァントの枠を越えている。麗しい相貌とは裏腹に何処までも冷酷にして無慈悲な王。

 

だからこそ、アグラヴェインは今度こそ王に仕える事を誓ったのだ。文字通り、己の全てを捧げて。

 

故に、この一件で王に断罪されようとも構わない。全ては我等が王の為、そう自分に言い聞かせて王の判断を仰ぐアグラヴェインは、ただその時が来るのを待った。

 

「───だが、貴公の言うことも理解できる。あの男は少々厄介だ。潰すにせよ、利用するにせよ、先ずは手足をへし折る事が先だろう」

 

「ハッ、では………」

 

「既に追撃はモードレッドに命じてある。あの者ならば、討ち取る事はできなくても、傷の一つくらい遺せるだろう」

 

「では、ランスロット卿にも追撃の参加を……」

 

「いや、既に彼にはキャメロット周辺の守りに入ってもらっている。モードレッドの抜けた穴を埋めてもらう必要があるからな。必要であるなら、貴公が後付けして構わない。貴公ならば、後詰めの采配も出来ることだろう」

 

「………ハッ、その役目、謹んでお受けいたします」

 

「ガウェイン卿も、今は休むといい。聖剣の代わりは後で私から見繕っておこう。尤も、ガラティーン程の聖剣は早々に見付かりそうにないがな」

 

「ハッ、有り難き幸せ」

 

 そうして、獅子王は玉座を後にした。静寂に包まれる空間、誰一人言葉を口に出来ないまま、時間だけは過ぎていき………。

 

「未だに王は、あの男を信用するのか」

 

鉄のアグラヴェインのその言葉は、誰の耳にも入りはせず、無音なる玉座の間に溶けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────所でロマニ、そっちからアルトリアさん喚べたり出来ない? 円卓の連中も、嘗ての上司を見れば、流石に此方に聞く耳も立てるんじゃないか?」

 

『あー、その事なんだけど………ゴメン、ちょっと無理そう』

 

「もしかして、この特異点となんか関係があるのか?」

 

『いや………その、そっちの映像は断片的にしか映ってないんだけど、聖抜の時だけ映像が鮮明に映し出されちゃって………』

 

「……見ちゃった感じ?」

 

『うん、しかも此方はちょうどお昼時で、彼女ちょうどご飯を食べてた最中だから、アレを直視しちゃったみたいで………ナイチンゲールが心肺蘇生をした後、医療室で療養中』

 

「………因みに、黒い方は?」

 

『君がいるから行きたくないってさ』

 

「あの野郎、帰ったらマジでへし折ってやろうか」

 

そんなやり取りがあったとかなかったとか。

 

 




実際、ボッチとアッくんの相性はそんなに悪くはないと思う。

共に勤勉だし、努力家だし、報告連絡相談はするし。………え? ボッチの場合は事後報告だろって?

ハハハ、そんなバカな(笑)

それでは次回もまた見てボッチノシ



おまけ

とある妖精騎士の場合。

「修司? あぁ、勿論ボクにとって彼は無くてはならない存在さ。沖田Jにメカエリチャンと一緒で、ボクと空中戦が出来る数少ない個体だからね」

「彼との空中戦は心が踊るよ! 加速からの超加速、残像からの多重残像、嘗てない体験にボクの心は煮えたぎって仕方がない!」

「何より、彼にはあの魔神がいる! しかも、噂では第二形態もあるって話じゃないか! ボクとしては、是非一度あの掌に乗せて欲しいモノだね!」

「その時はマスター、是非君も一緒に乗ろうよ! 一緒にあの魔神の掌に乗って、ワッハァー!と叫ぼうじゃないか! ………え? もうやった? ず、ズルい!!」

「なんかメリュジーヌの奴、ここに来てから一番はしゃいでね?」

「なんだろう、見ててホッとする」






おまけ そのに

「ほんと、口煩い人間ね。人間なんかが妖精に敵うわけ無いんだから、大人しく隅で震えていればいいのに」

「でも、これでおしまい。さようなら、愚かな人間さん。そこのコーラルと一緒に、仲良く潰れてなさいな」

「………さて、そう上手くいくかな?」

「へ? へぶぅっ!? な、なんで? なんで芋虫がこれ程の力を………」

「どうやら、虫になった所で俺の強さは変わらないらしい。さて、どうする風の氏族長さんよ。お前がこれから相手にするのは、世界で一番強い芋虫だぜ?」

いや、そうはならんやろ。


ぶっちゃけ、ゲッター線から見て、FGOの妖精はどう映るんだろ?



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