『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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終局特異点ソロモン、観てきました。
凄く……良かったです。

て言うかソロモン、肉弾戦強すぎない?

藤丸君、体張りすぎない?

そんな感想が最初に出てきました(笑)


その90 第六特異点

 

 

 

「くっ、やっぱり始めてしまったか!」

 

 眼前で巻き起こる戦いにダ・ヴィンチは歯噛みをして、見守る事しか出来ない自分を呪った。今自分達の前にいる赤い長髪の騎士はある後天的な強化を経て異常な強さを有している。それは自分を含めてマシュや立香が束になって掛かっても皆殺しにされるほど凶悪で、一度でも相対したら逃げ切れない程の残忍さがあの騎士から滲み出ている。

 

今の自分達ではあの騎士を倒すことは不可能に近い。故にダ・ヴィンチは、無抵抗な人々を見殺しにする事になっても、自分達の身の安全を優先させる事にした。それが、立香達と旅を共にすると決めた自分の役割だと信じて。

 

 しかし、そんなダ・ヴィンチの気持ちも虚しく空回り、虐殺を行おうとする騎士を止めに入る者がいた。それがカルデアきっての主戦力の一人であり、立香と同じく人類史唯一のマスターである白河修司である。

 

背中から頸を刎ねられ、無抵抗な人々が惨たらしく殺されていく光景に修司は我慢出来る筈もなかった。ダ・ヴィンチの制止の声も聞かずに駆け出し、騎士の男と戦闘を繰り広げて十数秒。既に周囲には誤魔化しきれない程の戦いの傷痕が刻まれてしまっている。

 

だが、あの騎士が修司にだけ注意が向いているならば、此方も少しは動きやすくなるだろう。幸いに騎士と修司の戦いは、修司によって圧されつつある。流石二人の大英雄を相手に正面から打ち勝った男、安心して見れる戦いにダ・ヴィンチは一先ず落ち着きを取り戻した。

 

「………どうやら、あの騎士は修司君に任せても良さそうだ。二人とも、今の内にここから───」

 

「先輩?」

 

そこまで言い掛けて、ダ・ヴィンチとマシュはやっと立香の顔が青ざめている事に気付いた。怯えた表情で震えている藤丸立香、そんな彼女を見てダ・ヴィンチは自身の迂闊さを歯噛みした。人類最後のマスターなんて言われているが、ほんの少し前まで彼女はただの女の子でしかなかった。

 

友人達と共に学校に通い、家族のいる家に帰り、なんて事ない毎日を過ごしていく筈だった一人の少女。幾らサーヴァントの戦いを間近で見てきたと言っても、人の生き死を慣れた訳ではない。

 

死を恐れるのは生命としての本能。それが戦いから遠い所にいた唯人であるなら尚更、前の特異点で戦場というモノを経験しても、目の前で人が殺される様を見て動じない程、立香は達観していない。

 

だからこそ、修司が前に出てあの騎士の蛮行を止めたのだと今更ながら理解する。彼は単に己の感情に従って飛び出したのではない、隣で怯える立香をこれ以上凄惨な光景を目の当たりにさせない為に、自ら前に出たのだと。

 

「先輩、大丈夫ですか?」

 

 そんな藤丸立香の震える手を、マシュ=キリエライトが静かに包み込む。あの騎士を見てから震えが止まらないと言っていたのに、それでも誰かの為に気遣えるその優しさに触れた事で、立香の震える手も自然と収まった。

 

「ごめんマシュ、ありがとう。私はもう、大丈夫!」

 

額に大粒の汗を浮かばせて、それでも強がって見せる立香にダ・ヴィンチは目を見開いた。ちっぽけながらも一生懸命に立ち上がろうとする。それこそが人間の強さなのだと、改めて思い知った。

 

(全く、結局は何も出来ていないのは私だけかい、これが万能の天才だなんて笑わせる。本当、はやく今回の失態を挽回出来るチャンスが来ればいいんだけどね)

 

 やれやれと肩を竦めて色々と諦め始めたダ・ヴィンチ。そんな彼が立香とマシュにこの場を離れることを促すのと、騎士と修司の戦いが終わりを迎えるのはほぼ同時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 騎士の男が弦を奏でる度に修司に不可視の斬擊が襲う。それは人間の肉体程度なら容易く断ち、瞬く間に肉塊へと変えるおぞましき刃。

 

しかし、そんな不可視で回避不可能とされている風の刃を修司は紙一重で避けていく。自身の技が避けられた事に僅ながら動揺する騎士の男は、それでも構うことなく妖弦の弓を奏でていく。男が指を一つ弾く度に風の刃は生み出され、その初速は人間の反応速度を超えている。

 

それを、瞬く間に百に迫る数で修司の行き場を埋め尽くしていく。先の全方位とは密度も威力も異なる死の網、触れれば細切れは避けられない。故に、この瞬間修司も本腰を入れる。

 

全身に白い炎を纏い、脚を止めて身構える。何をする気だと騎士の男も手を止めた瞬間……。

 

「ペガサス───流星拳!

 

 振り抜かれた拳の弾幕が、迫り来る風の刃を悉く打ち砕いていく。自身の技をサーヴァントでもない人間が正面から打ち破った事に、騎士の男は細い目が見開かせるほどに驚きを顕にした。

 

光はなく、既に何物も映せていない瞳。それ故に迫る修司の拳を防げる事はなく、自身の間合いをすり抜けてきた拳を男は顔面で受ける事になる。

 

再び、大地を転げ回る。幾ら衝撃の瞬間に後ろに飛んでも、全てのダメージを流した事にはならない。口を切り、ボタボタと血を流す男に修司は静かに歩み寄っていく。

 

「何故、私の弓が、あなた如きに………」

 

「確かにお前の弓は厄介だった。目にも映らない空気撃ち、始めは対処するのに手一杯だったが、慣れてしまえば大した事じゃない。空気の僅かな乱れ、空を切る風の音、そういった微かな情報が俺に攻略法を教えてくれたんだよ。なにより…………殺気がダダ漏れなんだよ、お陰でお前が次に何処に狙ってくるのか、次第に手に取るように分かってきたぜ」

 

「…………」

 

目の前で踞る騎士の男の殺意は並々ならぬ程に濃く、それでいて粘着質だった。それこそ放った風の刃に乗るほどに濃密で、それ故に対処するのに然程時間は掛からなかった。

 

 これ迄ヘラクレスとクー・フーリンという大英雄と戦った事で、修司の強さは最初にカルデアに来た頃より桁違いに変わっている。もし当初の頃の修司だったなら、目の前の騎士の男にもっと手こずっていた事だろう。

 

「さて、これからどうする? 大人しく降伏するか? それともまだやるか? 俺はどちらでも構わんぜ」

 

拳を鳴らし、男の返答を待っていると、俯いていた男の口から不気味な笑い声が溢れ始めた。

 

「く、くくく。成る程、それだけの強さと自信を持っているのなら、その傲慢さも理解できる。ああ、私は悲しい。自分より強いと驕っている男が、実は誰よりも愚かだという事実に……」

 

「あぁ?」

 

 この期に及んで、未だそんな事が言える男に、流石の修司も首を傾げた。そして男が弓を弾くのと、それに気付いた修司が男の手を砕く勢いで蹴りあげるのは、殆んど同時だった。

 

遅かった。男の弦が修司の蹴りより僅かに速く引き絞ると、男の周辺の地面が砕かれ、砂塵が二人を包み込んだ。単なる目眩ましかと思われたが、男が弾いた弦は一本だけではない。嫌な予感に修司が後ろに控えるマシュ達に、バレる事を承知の上で声を張り上げる。

 

「マシュちゃん! 二人を守れェッ!」

 

すると、修司の声が届いたのか、立香達のいる方角からマシュの宝具の光が見えた。次いで聞こえてくる鋼のぶつかる音、急いで駆け付けた修司が見たのは何とか無事な立香達の姿だった。

 

突然の事で驚き、肩で息をしているマシュだが、どうにか五体満足でいてくれたことに安堵するが………。

 

『成る程、あなた方がカルデアの者達ですか』

 

「っ!」

 

『あなた方の報告と引き換えに、この場は去るとします。次に会う時はその首、切り落として差し上げましょう』

 

 風に乗せられて告げてきたのは、何処までも上から目線の物言い、苛立つことこの上ないが、既に周囲にはあの騎士の姿はなかった。気で探っても捉えられず、感じられるのは聖都方面から感じられる強大な気配のみ。

 

唯一救いなのは、騎士の男に襲われていた人達が逃げ延びているという事、彼等が騎士の射程範囲から逃げ延びるまで時間稼ぎをしたかった事もあって、それだけが修司達の心の救いとなっていた。

 

「あの野郎、あんな芸当も出来たのか。………悪い皆、俺の独断の所為で面倒な事になった」

 

「それについては……まぁ、気にしても仕方ないさ。私も結局何も出来なかったし、次の機会で挽回しようぜ」

 

「マシュちゃんも済まなかったな。体、大丈夫か?」

 

「は、はい。今はどうにか。体の震えも今は治まっていますし、問題はないかと」

 

「そっか、ならよかった。いや、良くはないな。向こうに俺達の存在がバレたし、これだと聖都に潜入するのが難しくなるか?」

 

「うーん、いっその事変装でもしてみる? 私、一応そういうのも出来るけど?」

 

「お、流石は天才。頼りになるな」

 

「ふっふーん。もっと誉めてもいいんだよ?」

 

 長髪の騎士に此方の存在がバレてしまったが、ここで考えても仕方がない。取りあえずダ・ヴィンチの変装という形で聖都に近付く事を画策する修司達だが、そんな中で立香がオズオズと手を伸ばして意見を述べてくる。

 

 

「あ、あのー……その前にいいかな?」

 

「うん? どうしたんだい立香ちゃん? 何か、気になる事でも?」

 

「いや、その………今後の事を話し合うのもいいけど、取り敢えず彼処の人達、弔ってあげません? ほら、あのままだと魔物とかに食べられちゃうかもだし……」

 

気弱に、それでも起きてしまった事から目を逸らさないように振る舞う立香に、敢えてその話題に触れなかったダ・ヴィンチと修司は頭を掻く。どうやらまだ自分達は目の前の少女の事を見くびっていた様だ。

 

 その後、騎士の男に殺された人を自分達なりに手厚く弔った後、手を合わせて黙祷を捧げた一行は、今度こそ聖都に向かって進み出す。

 

『────ありがとう』

 

その時、風にのってそんな声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから少しして。此処まで特にトラブルもなく、無事に夜の内に聖都に一行は辿り着く事ができた。眼前に聳え立つ白亜の城、夜の闇の中でも分かる程に白く、巨大な城の様相にダ・ヴィンチを含めて皆が息を呑んだ。

 

「ふぁー、凄いお城ー」

 

「これが、オジマンディアス王が言っていた獅子王の城、ですか」

 

「こりゃあ凄いね、芸術点も高い建築物だ。惜しいなぁ、カメラが手元にあったら一枚くらい撮ったのに」

 

 誰もが目の前の城に感心を抱く中、一人だけ不満を顕にしている者がいた。その者は独特な足音を鳴らしながら、酷く憤慨した様子でダ・ヴィンチに抗議する。

 

「あの、ちょっと待って貰っていいですかね? なんで俺だけこんな格好をしているのか、是非とも説明をして貰いたいんですけど?」

 

「うん? どうしたんだいエリザベス? ちゃんとプラカードを持っていないとダメじゃないか、それは君の存在価値(アイデンティティ)なんだろ?」

 

「そうだよエリザベス! ちゃんと自分の個性は大事にしないと!」

 

「大丈夫です! 慣れないプラカードのコミュニケーションでも、私達がきっとフォローして見せます! 安心してエリザベスさんになりきって下さい!」

 

「わぁい。マシュちゃんの優しさが身に染みるなぁ───じゃねぇよ!? なんで俺だけエリザベスなんだよ!? エリザベス要素どこにあったよ!? つーか誰だよ万能の天才に銀魂教えた奴!?」

 

 城の周辺に点在している難民キャンプ、余った衣服を買い取ってダ・ヴィンチが仕上げた潜入用の衣装に立香達が身を包んでいる中、唯一白いアヒルとペンギンが悪魔合体したような風貌をしたUMAがいた。言わずもがな、白河修司である。

 

「えー? だって残っていた資材で作れるのはそれしかなかったんだもん。でも、割かし君のも再現度高いと思うよ? 彼も『再現度たけーでござるな』って絶賛してくれる筈さ!」

 

「よーし、カルデアに帰ったら絶対黒ひげぶっ飛ばす」

 

知らない内にカルデア内でおかしな精神汚染が進んでいるようだ。元凶は黒ひげ、カルデアに戻ったら全力で断罪する事を心に決めながら、修司達はこれからどうやって城に潜入するかを話し合う。

 

と言うか、この場合修司が囮になるしかなかった。目の前の白亜の城と同じくらいに白いエリザベスの着ぐるみを着た修司では、喩え闇の帳に紛れても騎士達に気付かれてしまうだろう。そんな彼が今でも騒ぎになっていないのは、圏境を使って立香達以外に姿を見せないようにしているからである。

 

「しかし、何で皆此処に集まっているんだ? そりゃあ、あんな城があったら誰だってその威容に肖りたいと思うだろうけどさ」

 

「うん、さっきの商人を名乗っていた人は、聖都に近付かない方がいいって忠告したもんね」

 

 時おり見回りに来る騎士をやり過ごしながら、修司達はそんな事を口にしている。先に出会った商人の男が言うには、あの城に入ったら人間を止める事になり、そうでないものには凄惨な結末が待っていると。

 

『でも、今の僕達には虎穴に入ってでも情報を集める必要がある。危険な事だけど、此方も精一杯バックアップはするからね』

 

どちらにしても物騒な話だが、生憎自分達には情報が少ない。ロマニの言う通り、ここはリスクを無視してでも踏み込んでいくしかない。タイミングはあの大きな門が開いた時、その時に合わせて行動を開始しようと皆が息を合わせようとした時。

 

いきなり、空が明るくなった。

 

「え? え!? なに、私もしかして寝てた!?」

 

「い、いいえ違います先輩! ほんの今まで、私たちは夜の暗闇の中にいました!」

 

 突然、空が明るくなった事に立香もマシュも慌てるが、それは何も二人だけに限った話ではなかった。周囲の難民達も動揺している中で、正門から顕れる騎士がいた。

 

「───落ち着きなさい。これは、獅子王がもたらす奇蹟。“常に太陽の祝福あれ”と、我が王が私に与えたもうた祝福(ギフト)なのです」

 

それは、何処までも誠実で、高潔な精神を携えているとされる騎士の理想像。その口振りと佇まいは確かに人が安寧を抱く程の振る舞いだった。

 

それを証拠に難民達の表情には皆、安堵の色が濃く滲み出ている。これで自分達は助かると、聖都の中へ入れると。

 

その騎士の名はガウェイン。太陽の騎士と呼ばれた男の頭上には燦々と輝く日輪が輝いていて、白亜の城の城壁から獅子を模した───王が現れた。

 

「────これより、聖抜の儀を執り行う」

 

 静かに、荘厳に告げられる一言。そこに一切の迷いは無いというのに………何故だろう。嫌な予感がしてならない。

 

ダ・ヴィンチがここから逃げようと立香達に提案するよりも速く、儀式は始まった。

 

もう戻れない。凄惨の幕開けは────もう、すぐそこまで来ていた。

 

 

 

 

 




Q.ありがとうって誰の台詞?
A.首を切った暗殺者のモノ、本来であれば皆が殺されていたのに、修司が庇ってくれた為に一部が逃げ延び、生き残ることが出来た為、この様な変化になりました。


Q.なんでエリザベスなん?
A.銀魂の映画を見ながら書いてたらこうなりました。
ギャグパートは此処までですので、見逃してください。

Q.今後、エリザベス礼装の出番はありますか?
A.エリザベスって……ワンチャン妖精に見えなくもなくね?


それでは次回もまた見てボッチノシ



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