『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今回は、結構話がごちゃごちゃしているかもです。

申し訳ない。

LB六章クリアしました。………うん、取り敢えず始まりの氏族の妖精は土下座さて詫びるべき。

逆ギレからの毒殺とか、そりゃモリゾー君も激おこである。

ボッチだったら………うん、物理的に星を作った方早いとか思ってそう。
もしくは火星に移住させるとか。




その89 第六特異点

 

 特異点修復の旅もこれで六度目、レイシフト特有の感覚にも既に慣れ、カルデアの一行は特異点の地であるエルサレムへと転移した。

 

エルサレムといえばユダヤ教、キリスト教、イスラム教と三つの宗教の聖市として知られる都市である。嘆きの壁や、様々な歴史的建築物が多数存在しているその地は正しく聖地と呼ぶに相応しき場所でもあった。

 

 ───時は十三世紀。十字軍の遠征が終了されたと言う時代の節目、そこにレイシフトしたカルデア一行を待ち構えていたのは………何処までも広がる砂漠の世界だった。

 

「いやー、まさか初っ端から想定外の事態に遭遇するとは、これも魔術王の横槍なのかね?」

 

レイシフト先で修司を待っていたのは、上を見れば何処までも広がる青空と、下を見れば何処まで広がる砂漠の大地があって、具体的に言えば自由落下の只中だった。

 

今更空に放り出された程度で、どうにかなるわけがない修司は、そのまま砂漠の大地へ着地。砂塵を巻き上げながら周囲を気で察知すれば、そこは見たこともない生き物達が蠢く弱肉強食の世界だった。

 

 奇妙な蜥蜴、羽虫、中には炎を人型に形作られたナニカや、巨大なスフィンクスを模した魔物等、多種多様な生命体が存在しており、その全てが人間にとって脅威的な力を有している。

 

ただ、相手が悪かった。幾ら世界に危険視されている魔獣魔物が群れようとも、これ迄の旅を経て、数多の困難を乗り越えて格段に強くなった修司に敵う筈もなく、本能のままに襲い掛かってきた魔獣達は修司の奮う拳の前に瞬く間に沈んでいった。

 

そうして、立香達の気を辿って空を飛ぶこと数分。修司の眼下には本来なら有り得ない建物がデカデカと聳え立っていた。

 

「え? うそ、何でこんな所にピラミッドが?」

 

目の前に聳え立つ黄金の神殿。エジプト文明に於いて無くてはならない王達の神殿、巨石建造物として知られ、その形から金字塔とも言われているピラミッド、砂漠の世界であるから余計に違和感なく見えるが、逆に今いる此処が本当に中東方面なのかと疑ってしまう程だ。

 

 そして、目の前の神殿の奥から立香達の気が感じられるから、彼女達が此処に入るのは明白だ。しかしその近くには二つの大きな気配があるし、片方に至っては、修司の上司兼保護者である英雄王に比肩する程の威圧感が感じられる。

 

恐らくはこの神殿の王がサーヴァントとして召喚されたのだろう。ならこのピラミッドや周囲の豊かな風景もこの王による力なのか、それとも別の力が作用しているのか、何れにしても凄い力だ。サーヴァントというのは一つの都市すらも喚び出してしまうものなのか、此処に来る前に見掛けた白亜の城といい、サーヴァントというのはまだまだ推し量れない力を持っているのだなと、修司は一人で戦慄し、感心した。

 

しかし、いつまでもここで棒立ちしてもいられない。未だ誰が敵で誰が味方になるのか定まっていない状況だが、悩んでいられる時間はあまりない。

 

無礼を承知で乗り込むか、それとも立香達が出てくるまで待つか。仮にもここは神殿、であるならば神官だっているだろうし、此処に自分がいるのがバレたらそれこそ要らぬ誤解を招いてしまうかもしれない。

 

ここは一旦外に出て、遠くから様子を伺おうか? と

修司が其処まで思考を巡らせていると、神殿から三人の女性達が姿を表した。藤丸立香、マシュ=キリエライト、ダ・ヴィンチ。五体満足で現れた彼女達に安堵しながら、修司は彼女達と合流を果たすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オジマンディアス王か、まさか太陽王が召喚されているとは、今回の特異点も一筋縄ではいかなそうだな」

 

 広大な砂漠地帯をダ・ヴィンチがオジマンディアス王から譲り受けた資材で開発した万能車両、オーニソプター・スピンクス号が一行を乗せて砂漠の海をひた走る。オジマンディアス王に言われ、取り敢えずの目的としてこの特異点を見て回る事になった修司達、そんな彼等は目的地である聖都に向かいながら、合流する迄に起きた出来事を車の上で話し合っていた。

 

「この短時間で其処までの情報を集めてくるとは、流石だな。情けないけど、情報収集では立香ちゃん達に敵いそうにないや」

 

「そんな、修司さんだって私達の代わりに戦ってくれたじゃないですか。今だって………その、魔物とかを追い払ってくれていますし」

 

「え、そう?」

 

この砂漠地帯は太陽王オジマンディアスが召喚された影響か、一帯が砂漠の大地で覆われている。其処には大小様々な魔物が生息しており、中には魔獣といったドラゴンより危険な幻想種まで闊歩している。

 

マシュもダ・ヴィンチも巨大なスフィンクスと戦ったのだが、それでも撃退するのだけで精一杯で、話の中で出てきた“ルキウス”なるサーヴァントの手助けが無ければ、今頃まだ砂漠のど真ん中で立ち往生していたと、マシュは語る。

 

そして、そんなスフィンクスや魔物の群を、片手間で生成した気円斬で両断していく。この砂漠地帯の中で一級の危険さと力を持つスフィンクス、それが周囲の魔物ごと真っ二つに両断された為、その光景に他の魔物達はすっかり怖じ気づき、スピンクス号を取り囲んでいた魔物達はあっという間に砂漠の中へ消えていった。

 

そんな、何でもないように危険生物を片付けるのだから、マシュと立香は次第に目が泳ぐようになっていた。彼女達の視線の先にいるのは万能の天才、如何なる状況にも対応し、打開して見せる風な事を豪語していた彼女にとって、今の状況は色んな意味で面白くないモノだった。

 

「さて、そろそろ砂漠も抜けるか。なぁダ・ヴィンチちゃん、砂漠を抜けたら今度は俺が飛んで運ぼうか?」

 

「い、いいやぁ? 別に大丈夫だけどぉ~? 私、全然余裕綽々なんですけどぉ? なんなら砂漠を抜けた後も私に任せて欲しいんですけどぉ~?」

 

「た、大変です先輩! ダ・ヴィンチちゃんの声が裏返っちゃっています!」

 

「あぁもう、だから修司さんと張り合うなって言ったのに!」

 

 この資源の乏しい砂漠の大地で、快適な乗り物を開発したダ・ヴィンチは確かに万能の天才であった。彼が類い稀なる才人であることは周知の事実、そこに誰も疑いは抱かないし、なんなら称賛だってするだろう。

 

ただ、相手が悪かった。数多の艱難辛苦を乗り越え、遂に飛行能力まで手に入れた修司、そんな彼に利便性で挑んだダ・ヴィンチ、彼の無謀ながら勇気ある行動は、立香とマシュの心に深く刻まれる事となった。

 

「なぁ、ダ・ヴィンチちゃん。やっぱ今からでも俺がこの車ごと運ぼうか? どう考えてもそっちの方が速いって」

 

「ムキィーーッ!」

 

「善かれと思って言っているのが、なんかなぁ……」

 

 そうして、ダ・ヴィンチが修司の理不尽(ハチャメチャ)さに悔しさを顕にしたりする中、砂漠地帯を抜けた修司達は改めてその世界に言葉を失った。

 

その大地は燃え尽き、残り火を残すだけの滅びの大地となっていた。魔術王ソロモンが行った人理焼却、その影響が色濃く滲み出た大地。魔術知識の乏しい立香と修司も、その光景の意味を理解した。

 

この世界(第六特異点)は、もう長くは持たない。滅びの道以外の標は───限りなく小さいのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、今日はこの辺りで夜営するのはいいとして、これからどうする? 立香ちゃん達は太陽王からこの世界を見てくる様に言われたんだよな?」

 

「うん。取り敢えずはこの特異点を見て回って、それから自分なりにどうするべきか決めるつもり。オジマンディアス王は次に会ったら敵対は避けられないみたいな事を言ってたけど、私的にはまだそんな急には決められないかなぁ」

 

 その後、焼却された大地から離れ、夜営の準備をする事となった一行は、改めて今後の自分達の行動について話し合っていた。ダ・ヴィンチの開発したスピンクス号、その内部にはご丁寧に数人分のベッドも収納されており、雑魚寝をする分には充分な広さが確保されていた。

 

そんなスピンクス号の甲板にて、修司達は話し合う。かの太陽王は次に会う時は客人として迎える事はせず、敵対者として蹂躙してやると。聖杯を所持している彼がそう口にしている以上、激突は避けられない。しかし、彼がこの特異点の元凶だと確定するには今の自分達は知らないことが多すぎる。

 

故に太陽王は来るのが遅すぎたと、そう突き付けた自分達に見聞を広める為の猶予を与えた。敵対する王としては寛大過ぎる配慮だ。その器の大きさも太陽王としての矜持がそうさせているのなら、オジマンディアス王はやはり色々と規格外な王様なのだと、修司達は思い知る。

 

「ま、戦うにせよ、話し合うにせよ、今の俺達はこの特異点について何も分かっていないからな。太陽王の言う通り、ここは見聞を広めて改めて自分達のすべき事を見直した方がいいかもしれないな」

 

「となると、やはり次に向かうべきは聖都でしょうか? ですが、聖都には既に十字軍は消滅したとオジマンディアス王から聞かされました」

 

「その辺りの事も含めて、見聞を広めろというのが、太陽王の言葉なんだろうね。所で修司君、聖都の方から何か感じたりしていないかい? ほら、ご自慢の気の探知でとっくに気配の情報収集は済ませているんだろ?」

 

「……なんか、ダ・ヴィンチちゃん拗ねてない?」

 

「すーねーてまーせーん! ほら、いいからチャチャッと分かっている事を洗いざらい吐け吐け」

 

「お、おう」

 

 何処か凄味のある笑みを向けられ、いつもと少しだけ茶目っ気の強い万能の天才に圧されながら、修司は此処に来て最初に感じた気配について語り始めた。

 

 

 

「まず最初に、この特異点には大きい気配が二つある。一つは太陽王オジマンディアス、流石太陽王と呼ばれるだけはあるよ。強さの有無は兎も角、王としての格ならばこれ迄出会ってきた王達の中でも頭一つ抜きん出ていると思う。彼と対等に相手が出来るのは、それこそ英雄王やロムルス王位しかいないな」

 

カルデアに滞在する多くの王のサーヴァント達に対する冒涜とも言える修司の言い草、しかし修司は騎士王や征服王達を貶める為に口にした訳ではない。気という気配察知は相手の強さの有無を見抜くだけでなく、ある意味人の“格”を図る一種の測定器の様な役割を担っている。

 

この場合、太陽王の格を語る修司の基準となっているのは、王としての責務とオジマンディアスという一人の英霊が成し遂げた偉業の大きさを気というエネルギーを通して修司が偏見も織り混ぜて見解を述べたに過ぎない。それでも、英雄王と同格と言える程の力があるのは事実、鵜呑みにせず、かといって無下にするには具体的に話す修司にダ・ヴィンチ達は素直に聞き入れる事となった。

 

「成る程、オジマンディアス王に対する君の見解は分かった。なら、聖都の方はどうだい? 向こうにも太陽王クラスの厄介な王様がいたりするのかな?」

 

「それなんだけどな。正直分からないんだ」

 

「分からない? 修司さんが?」

 

「いや、感じ取れない訳じゃないんだ。空を飛んで立香ちゃん達を探した時、聖都の方向には真っ白いお城が見えたりしたし、なによりそこから大きな強い気配を感じたりもした。ただ………」

 

「ただ?」

 

「なんというか、デカイんだよ。大きさだけなら太陽王を軽く凌駕している。空から見えた白い城が丸々覆い隠せるほどのデカイ気配が、聖都から感じられたんだ。まるで聖都そのものが一つの力、見たいな感じでさ」

 

「そ、そうなんですか……」

 

「うーん、やっぱり修司君の言う気の探知能力は確かに凄いけど、具体的なニュアンスが今一つ伝わって来ないのが難点だなぁ。ま、先入観に囚われずに一つの目安として考えれば、分からなくもないけどね」

 

「第三特異点でのヘラクレスや、第五特異点のクー・フーリンはどうだったの?」

 

「あの二人はなんと言うか………こう、大きさもそうだけど伝わってくる力の感じが違うんだよ。ヘラクレスは空に届きそうな大きな岩で、クー・フーリンは深くて鋭い槍って感じ、二人とも強いってのは間違いないんだけど、感じ方は相手によって違うなぁ」

 

 修司の気の探知能力の講座は今一つ立香達に共感を得られる事はなかった。人やサーヴァントだけでなく、魔獣や魔物の存在と位置まで割り出せる彼の探知能力は、ダ・ヴィンチから見ても一級品の技術だ。しかも本人が強くなる毎に精密さがアップグレードされて増していくのだから、ロマニが嘆くのも無理はないと言えるだろう。

 

尤も、それだけに今の所、他者に伝授出来ないのが残念である。もしこれがカルデアの技術に組み込まれれば、それだけでカルデアの防衛能力は格段に向上するのだから。最近のカルデアはサーヴァントの人数も合わさってきて結構な大所帯になっている。中には癖のあるサーヴァントだっているだろうし、悪巧みを目論む輩だって出てくるだろう。

 

そういった連中に対して修司の能力は、ある種の抑止力に成りうるだろう。まぁ、流石にそんな都合の良い話は無いだろうから、ダ・ヴィンチはそれ以上修司に追及する事はなかった。

 

「あー、でも、この特異点に来て初めて不思議な感じがアッチの方からしたな」

 

「アッチ?」

 

「彼処は確か、山脈地帯があったように見えましたが……そこに何かあるのですか?」

 

 修司がそう言えばと指差す方角は、スピンクス号で移動していた合間にマシュ達が見かけた小さな山々があった所だ。修司が言うには其処にも集落らしい気配が幾つもあることから、恐らくは何らかの集団が生活しているのだと思われる。

 

それだけなら、聖都やオジマンディアス王のエジプト領と然程変わらない。しかし、修司が気にするのはそこではなかった。

 

「違う、逆なんだ。あそこの山の所、集落らしい人の集まっている所から少し離れた場所なんだけど、不自然な程になにもないんだ。あれじゃあ、まるで空洞だ」

 

「く、空洞? どういう事?」

 

「………正直言って、俺にも良く分からない。こんなの初めてだ。気配が感じられないとか、誤魔化しているとかじゃなく、底無しの空洞みたいに感じるんだ。その癖、そこに意識を向ければ背中に悪寒が走ってくる。彼処、ヤバい奴がいるぞ」

 

 それは、“気”という力を習得した修司が初めて味わう感覚だった。太陽王のエジプト領や聖都の大きな力とは全く異なる異質な気配、まるで、其処だけが何者かに抉り、斬り落とされたかの様な………ポッカリとした空洞を覗き込んでいるような感覚。

 

そこへ意識を集中させようとすると、凄まじい悪寒が修司の背中を駆け巡った。敵意や殺意の類いではなく、これまで感じたことのない“死”の気配。正直な所、彼処は興味本意で近付いて良い場所ではない気がする。

 

「ふむ。相変わらず抽象的ではあるが、それでも幾つか分かった事があるのは確かだ。修司君、取り敢えず一番危険な所は彼処の山々にあるという事でいいんだね?」

 

「そうだな。他にも強い気配は幾つもあるけれど、彼処の山程のヤバそうな所は今の所ないな」

 

「なら、今はそれが分かっただけで良しとしよう。さぁ、明日も早いんだ。皆も今日の所はゆっくり休みなさい。見張りの方は私と修司君で済ませておくから───って、修司君? どうしたんだい?」

 

「………誰か近付いてくる。最初は小型の魔物かと思ったけど、これ人だ。それも複数人、しかも………誰かに追われているっぽい、かなり強い気配が一緒に来ている!」

 

「「「っ!?」」」

 

 修司に言われ、すぐさま隠れるように身を翻す立香達は、身を低くさせて隠れると、少し離れた所から複数の人間達が走っていくのを視認した。

 

黒い髑髏の面を被った者と、この世界の住人達らしき集団。髑髏の奴が一番の後方にいることから、恐らくは殿を努めているのだろう。そして、そんな彼等を追っている者が現れる。

 

 それは、赤く、長い髪が特徴的な騎士だった。絢爛な外套に身を包み、一切の乱れなく大地を踏みしめる様は、物語に出てくる騎士のソレ。騎士とは弱きを助け強きを挫く正義の体現者、あの赤い長髪の騎士がそうなのだとしたら、逃げ惑う彼等は騎士の敵であり悪なのだろうか。

 

しかし、見ている修司からしたらその光景は何処と無く違和感を感じた。隣を見れば何処か落ち着かない様子でマシュが震えているし、ダ・ヴィンチは目を見開かせて驚きを顕にしている。

 

一体、彼等はどういった関係なのだろうか。もう少し様子を見ようと修司も立香達に倣って身を低くさせた時………。

 

「きゃっ!」

 

「おいおい正気かい!?」

 

「あの髑髏、自分の首を切りやがった!?」

 

 髑髏の面をした者が騎士の男に幾つかの言葉を吐くと、自ら喉笛を自身の得物でかき切り、自害した。いきなりの壮絶な場面を直視した立香は一瞬目を瞑るが、それを責めるものはこの場にはいない。修司が立香を大丈夫かと声を掛けようとするが、事態は更なる凄惨な光景を生み出していた。

 

恐らくは、髑髏の奴が騎士の男に何らかの条件を出したのだろう。自分の命を差し出す代わりに他の者達を見逃す様にとか、恐らくはそう言った類いの願いだ。

 

しかし………。

 

「ぎゃあっ!?」

 

「「「っ!?」」」

 

 騎士の男が弓と思われる弦を指で弾いた瞬間、無防備に背中を晒して逃げていた女性の頚が刎ね飛ばされた。その光景に言葉を失う立香達、そしてそんな彼女達が衝撃的な光景に言葉を失う中、惨劇は次々と引き起こされる。

 

戦う意思のない人々が、次々に殺されていく。無防備で、逃げることしか出来ない彼等が無慈悲とも呼べる力で一方的に蹂躙されていく。

 

止めて、助けてくれと、命乞いをするこの地の民を殺していく、その光景を前に彼が耐えられるのは有り得ない訳で………。

 

「ま、待ちたまえ修司君!」

 

 彼が、ダ・ヴィンチが止めるよりも速く、行動に出るのは当たり前な訳で……。

 

彼の蹴りが、騎士の頭に直撃するのは………ごく当たり前の話であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………私は悲しい、たかが身動きを縛った程度で我が妖弦から逃げられると思っていた事に……」

 

 男は呆れていた。無意味に命を差し出してきた翁の一人と、無駄に生き恥を晒しているこの地の民に。

 

既にこの者達の裁決は下された。彼等の命運は既に終わっており、抵抗は無意味な事だというのに、どうして彼等は此処まで生き汚く抗うのか。

 

故に、男の嘆きは綴られる。弦を一本弾く度に命が弾け、その指一つを引く度に命が無意味に散っていく。嗚呼、なんて、なんて救いのない作業なのか。

 

故に、男の嘆きは止まらない。悲しいと嘯きながら、それでも惨劇を生み出す弦を奏で続ける男の指は止まらない。

 

さぁ、これで幕引きとしよう。残った者達を一息に終わらせようと、男が弦に指を伸ばした───その時だ。

 

「オラァッ!!」

 

「っ!?」

 

 男の頭部に衝撃が走った。事前に耳にした風切り音、それを認識しておきながら尚対応出来なかった一撃。振り抜かれた蹴りの一撃は男の頭に直撃し、赤髪の男は燃える大地を転げた。

 

「………何者です」

 

「貴様に名乗る名はない」

 

男は素直に感心した。理由や経緯はどうあれ、まだこの世界に、自分達と正面から戦えると思い上がっている輩がいた事実に。一体どんな顔をしているのか、見える事のない(・・・・・・・)身としては、些か残念な気がしなくもない。

 

けれど………それだけだ。

 

「………私は悲しい。この地に未だ我々に楯突く愚か者が、度しがたく息をしている事実が」

 

「そうかい。なら、そのまま嘆きの海で溺死しろ」

 

 男は弦を弾き、鋭き音の刃は寸分違わず敵対者の頚へと放たれる。不可視の刃、当たれば死は免れない風の刃。

 

「フンッ!」

 

それを、敵対者の男はなんて事ないように片手で払い除ける。信じ難い光景(音色)に騎士の男が驚愕を顕にした瞬間、敵対者の拳が男の顔面へと突き刺さる。

 

吹き飛び、倒れ付し、鼻血を噴き出す男、明らかにこれ迄の相手とは異なる強さに驚嘆していると。

 

「どうした三下。お前に出来るのは無抵抗な人間の頚を刈り取るだけか?」

 

敵対者の声が聞こえてくる。耳障りで、神経を逆撫でする男の声が。

 

故に、騎士の男は苛立ちを顕にする。静かで荒々しい、嘆きの怒りを。

 

「あぁ、私は悲しい……」

 

騎士の男が指を弾いた瞬間、音の刃が敵対者(修司)を包み込み、燃え尽きた大地に衝撃が走った。

 

 

 

 

 

 




Q.現在、ボッチはどらくらいおこなの?

A.結構おこです。事情は知らないけど、無抵抗で逃げ惑う人間相手に後ろから文字通り弓引くのはどうなのか、的な。

逆を言えば、それだけの事をしたと納得の出来る説明がされれば怒りを抑えられる程度ともいう。


それでは次回もまた見てボッチノシ






オマケ

こんな◼️◼️の◼️は嫌だ。番外編


───私には、恩人と呼ばれる人が何人かいる。その一人が自らマーリンと名乗る姿の見えない魔術師で、その人は私に幾つもの魔術を教えてくれた。

もう一人はエクターお爺さん。私に鍛冶の基本を教えてくれた人で、鍛冶における私の師匠。尤も私が勝手に師匠と呼んでいるだけで、実際の師弟関係ではないんだけどね。

そして、もう一人は……。

「よ、アルトリア。元気にしてたか?」

「あ、修司だ。また来たんだ? 暇なの? 無職なの?」

「ちげーよ、偶々近くを通ったから様子を見に来ただけさ。お、今日はおっちゃんも一緒か。なんだぁ? もしかして本格的に弟子入りかぁ?」

「フンッ、相変わらず神出鬼没な男だな。あと、別にコイツは弟子でも何でもない。拙い手付きが目に余ったから、仕方なく教えてやっているだけだ」

「素直じゃないねぇなぁ。っと、そうだった。アルトリア、土産にチョコあるんだけど、食うか?」

「食う!」

「全く、今度は北のノクナレアに喧嘩売ったのか? 相変わらず自由に生きているなぁ、お前さんは」

「折角の夢の中だからな。この時くらいハメを外したいモノなんだよ。それよりも、村の連中からなんかされたりしてないか?」

「あれ以来影すら見せておらんよ。全く、いきなり押し掛けておいてこの小娘を預かって欲しいなどとぬかしおって、本当に自分勝手な男だよお前は」

「悪かったって、だからこうしてちょくちょく様子を見に来ているんだろ? 今晩も俺が飯を用意してやるから、機嫌直してくれって」

「え!? 今日の夜ご飯は修司が作るの? やったー!」

「全く、コイツは本当に食い気だけは大したものだよな」

「いいじゃないか健康的で、あの村にいる頃よりよっぽど顔色が良い。あんたの教育のたまものだな」

「フンッ」

 ───あの日、あの寒い冬の夜で、私は運命がねじ曲げる音を聞きました。寒くてひもじくてどうしようもなくて、このまま手足から凍えて死ぬのかと思っていた時。

馬小屋の扉を蹴破って、彼は現れました。その時の彼の顔は月明かりの逆光で分からなくて、気付けば私は暖かい暖炉の前で毛布に包まれていました。

『今日から、彼と一緒に過ごしなさい。時々顔を見に来るから、どうか元気な姿を見せてくれ』

そう言って、彼は姿を消し、時々思い出した様に私の前に姿を現しました。大雑把だけど、暖かい掌はいつも私の頭を乱暴に撫でていきます。

きっと、あの日から私の運命はねじ曲がったのでしょう。村の妖精達ももう私達に関わろうとしません。それが、少し寂しいとも思いますが……。

まぁ、村人全員をあんな風にしたら、そりゃ怯えますよね。なんだよ擬似ムカデ人間って擬似ってなんだよ。

殺さずに息の根を止めるって、ああいうのを言うんだろうなぁ。お陰で村の皆は男女問わず、すっかり修司にビビり散らすようになった。そりゃあ魔力も通じないでラリアットで沈められたら、抵抗する意志も砕けるよねぇ。

色々とハチャメチャな人だけど、きっと私にとって一番の恩人はこの人なんだろうな。いつか、この人に恩返しが出来るくらい、私も成長できたらいいなぁ。

なんて、そんな事を考えながら、今日も頑張って生きる私なのでした!


「ほら、お陰で初めて会ったときよりデカくなったきがしないか? 特に腹回りとか」

「ちょ、コラァ! 人のお腹を突っつくんじゃない! そういう所だぞ白河ァ!」


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