*月√※日
シャドウボーダーへのGNドライヴの搭載を計画する為に、思い切ってロマニに直訴する事となった今日。二つのGNドライヴを連結、同調させて初めて可能となる“ツインドライヴシステム”。その効果と副作用をロマニやダ・ヴィンチちゃん、他の有識者達の前で自前のPR方式で発表する事にしたのだが……結果的に言えば、万々歳な成果を得た。
いや手応え自体はあった。前々からツインドライヴシステムについて知っていたエジソンさん達は勿論、反対派の人達だって幾つかの質問に答えている内にある程度理解を示してくれたし、ダ・ヴィンチちゃんに至っては私にも一枚噛ませろと駄々を捏ねてくる始末だ。
カルデアスタッフの人達だって最初こそ信じられないといった様子で驚いていたが、説明を進めていくに連れて納得し、自分の計画を支持してくれるようになった。
そんな中、唯一ロマニだけはこれを由としなかった。しかしその理由は不満や反対といった否定的なモノではなく、寧ろロマニも出来るならいいよという比較的緩いスタンスだったのだ。
そんな彼が首を縦に振らなかった理由、それがシャドウボーダーはあくまでカルデアが保有するモノであり、それは詰まる所オルガマリーちゃんの実家であるアニムスフィア家のモノであるから、という、至極真っ当な理由だった。
正論である。幾ら前所長やオルガマリーちゃんが倒れたと言っても、シャドウボーダーは元々マリスビリーがレイシフトの失敗に備えてのセカンドプランとして用意したモノ、故人の所有物を勝手に扱うのは流石の自分も気が引けた。
折角此処まで来たというのに、ここで手詰まりか。なんて項垂れていると、結論を出すにはまだ早いとダ・ヴィンチちゃんが言ってきた。
曰く、カルデアは確かに元々はアニムスフィアが関わっていたが、その背景には国連の思惑も絡んでおり、更に言えばこの世界にいた自分も国連には大分大きな貸しがあるという。
更に言えばカルデアの運営には国連も出資をしているのだから、謂わばカルデアは世界の皆のモノ、人類最後の砦であると同時に、人類の所有物でもある。
だから、自分が一部好きに扱っても、それが人類の為になるのなら大丈夫! なんて暴論を叩き付けて来やがったのだ。
いやどういう理屈? そんな暴論を越えた超暴論が罷り通っていいのか? ジャイアンでも其処までのメチャクチャな事は言わないぞ? ウインクしながらドヤ顔しているダ・ヴィンチちゃんが、この時ばかりはアホの子に見えた。
ロマニは何かを言おうとしていたけど、ダ・ヴィンチちゃんに言い負かされて押し黙ってしまった。おい、もう少し頑張れよ所長代理。自分が言うのもなんだけど。
ともあれ、こうしてシャドウボーダーの改造計画の許可は降りた。もう一基のGNドライヴ製作の為に、協力してくれるサーヴァントの皆には続けて辛い目に合わせてしまうが、それはどうか了承して欲しいと、自分が頭を下げることで会議は修了する事となった。
さぁ、明日からまた忙しくなるぞ。明日はシャドウボーダーの本格的な性能調査もするし、英気を養う為に今日は一先ずこれで終わることにする。
「いやぁ、修司君の考えていることは本当に面白い! ツインドライヴシステム! 名称もそうだが、GNドライヴという我々にとって未知の炉心を二つも使ってのシステムとは、我ながら贅沢な代物だよ」
「全く、他人事だからって好き勝手言っちゃって、どうしてくれるのさ! もしこの事が国連、ひいては魔術界隈に聞かれたら、大事処じゃ済まなくなるんだぞ!?」
「そうかい? 私は考えすぎだと思うがね。修司君のやろうとしているのは人類の躍進そのものさ、魔術師が拘る神秘には一切触れていないし、人類の未来を考えれば、修司君のやることは寧ろメリットしかないよ?」
「………その対応に、僕の胃が悲鳴を上げそうなんだけど?」
「君は所長代理だろう? それくらい頑張りたまえよ。彼等が日頃から挑んでいるモノに比べたら、なんて事はないだろう?」
「………そうだね、確かに君のいう通りさ。なら、言い出したのは君なんだから、修司君の作業に手を貸したりせず、僕の手伝いだけに集中してよね!」
「んなぁっ!? それは、幾らなんでも酷すぎるだろぉっ!? ロマニ=アーキマン!」
「うるさいうるさーい! 人にばっかり負担を押し付けて、自分だけ楽しい思いをしようだなんてそうはさせないからな! エジソンとテスラの自慢話に、精々悔しがるがいいさ!」
「ふぐぐぅっ!!」
グヌヌっているダ・ヴィンチとやーいやーいと煽るロマニ、二人の言い争いは夜が更けても続き、後に両者とも、見回りに来た
*月√Ω日
もう一つのGNドライヴの完成まで後僅か、今日もエジソンさんとテスラさん、バベッジさんという有識者の皆と作成段階を進めていると、とある一人の女性サーヴァントが格納庫へと押し入ってきた。
そのサーヴァントの名はメイヴ。先の特異点の元凶で、あのクー・フーリンの為に文字通り全てを捧げた女傑が、不機嫌さ全開で自分の所へやって来たのだ。
蹴破る勢いで格納庫へと押し入ってきて、ズカズカと自分の所へやって来たこの女王は、開口一番に決闘を申し込んで来やがった。いやー、慣れって怖いね。殺気をこれでもかと滲ませて凄んでくるメイヴに、自分はただ 「あぁ、またか」 みたいに順応しているんだもん。因みに、押し入ってきた時点で何となく彼女の言いたい事は察していました。
それで、この女王メイヴはやはり先の特異点の出来事の記録を見ていた様で、自分の全てを捧げたクー・フーリンが負けるとはあり得ないと地団駄踏みながら抗議してきたのだ。「私の全てを捧げたクーちゃんが、お前なんかに負けるわけがない!」 てさ、なんかこんな長いタイトルのライトノベルありそうじゃね?
いや、実際に戦って勝っているから自分はこうして生きている訳じゃん。どんなにお前が否定しても、勝負の結果は変わらんよ? と、GNドライヴの製作の邪魔をされ、若干苛立った自分は、我ながらド直球でそう言い返した。
そしたらこの女王様、「だから仇討ちの為にわたしと勝負しなさいよ!」 なんて宣って来やがったのだ。当然、そんな彼女の我が儘に付き合うつもりはないし、今は別件で忙しいから無理だと断ろうとしたのだが、この女、従わないならGNドライヴを破壊すると脅して来やがったのだ。
本当、我ながらプチんと来たよ。そりゃあ素っ気なく断った俺にも言い方が悪かったかも知れないけどさ、なんでモノに当たろうとするのかなぁ? 仮にも英雄としてそれはどうなんかね?
しかもこの女、頭にキている俺に何を思ったのか、ニヤニヤとほくそ笑みながら煽ってくるんだよ。うん、見た目は可愛らしい少女だし、下手に相手にすると後でケルトの人達に変に絡まれるのがイヤだから、これまではあまり関わろうとしてこなかったけど……。
もうね、ボコボコにしちゃいましたよ。シミュレーター室に入り、模擬戦が始まった途端に自分は界王拳を発動させ、有無を言わさずに奴の鼻に指を突っ込んでぶん投げてやった。
これで戦意が折れるかと思っていたが、そこはケルトの女王。その後も鞭を振るってきたり、肉弾戦を仕掛けてきたが、日頃から某影の女王からちょっかいを受けていた自分からすれば、奴の動きはお粗末に過ぎた。奴の動作一つ一つにカウンターで張り手を見舞い、その都度吹き飛ぶのだが、この女王もは思った以上にタフだった。最終的には宝具まで出してきたので此方も軽めのかめはめ波で迎え撃ち、メイヴを黒焦げにすることで、模擬戦は自分の勝利で幕を下ろした。
シミュレーター室の被害も力を抑えて戦っていた為に然程被害は出ず、見学に来ていた複数のサーヴァント達によって結界が張られていた為に修復も滞りなく進みそうだった。
今回の件でGNドライヴ完成に一日程遅れてしまったが、完成の予定日迄には余裕で間に合いそうなので、エジソンさん達からは気にするなと励まされる事となった。
今回の件で女王メイヴも納得し、大人しくなるだろうと、クー・フーリンから聞いたので自分はそれに期待する事になった。
………大丈夫だよな?
「ねぇ、ねぇーってば! 聞いてるの!?」
「うるっせぇな。耳元で騒ぐんじゃねぇよ」
「だって、シーちゃんてばずっと私のこと無視するんだもの」
「朝は静かに過ごしたいんだよ俺は。ていうか引っ付いてくんな。そもそも誰だよシーちゃんって」
「えー? だってシュージでシューズと似てて紛らわしくない? シーちゃんならクーちゃんと名前の響きが似てて可愛いし、何より私の好みだもの!」
「そんな訳でシーちゃん、私のモノになりなさい」
「いやどういう理屈? そもそもお前、クー・フーリン一筋だったんじゃねぇのかよ?」
「勿論、クーちゃんは大好きよ? でも、それと同じくらいつよい勇士は大好きなの! ほら、私ってば可愛くて美しいじゃない? 私の側には常に強者がいるべきだと思うのよ!」
「知らねぇよ。アンタの道楽に付き合うつもりはねぇし、相手にしていられる程、俺は暇じゃない。悪いが、アンタの相手はこれっきりにさせてもらうよ」
「アン、つれない奴。………ふふ、本当に面白いやつ。最初はムカつく奴かと思ったけど、結構可愛いところあるんじゃない」………カリカリ
「いいわ、アンタがそういう態度を取るのなら、私にだって考えがあるわ。コノートの女王の恐ろしさ、たっぷり味わわせて上げる!」……カリカリカリカリ
「って、さっきからカリカリうるっさいわね! 何よさっきか───ヒッ!?」
「メイヴ、貴様、何を、している?」
「す、スカサハ!? な、なんで壁をカリカリ引っ掻いてんの!? 普通に怖いわよ!?」
「修司、私の、
「わ、分かったから! そんな顔で近付かないで! 怖いから、笑えない位に怖いからー!」
その後、カルデアのとある通路で一人の女王の悲鳴が木霊したとか。
「これだからケルトは!」
√α月α日
遂に、GNドライヴがもう一基完成した。最初に造ったモノと寸分違わない規模と質量、これならツインドライヴシステムへ移行した際も、理論通りの出力が期待される事だろう。
後はこれをシャドウボーダーに搭載させて、ツインドライヴシステムに対応出来るように改修し、調節させるだけである。幸いな事にシャドウボーダー自体が完成されていない未完の状態だ。エジソンさん達やダ・ヴィンチちゃんの力を借りれば一年も待たずに完成に至らせる事が出来るだろう。
これならば、マシュちゃんの治療も上手くいく筈。そうなれば、Aチームの皆もあのコフィンから解放させる事だって夢物語ではなくなる。
………いや、焦るな。完成まであと少し、確実な完成へ近づく為に、一度全体への見直しをする意味を含めて格納庫から一時離れた方がいいだろう。
それに、製作ばかりに気を取られて自分の腕を磨き上げるのを忘れていた。ロマニから次の特異点について説明もされたし、これから向こう二週間はふたたび重力室で修行を開始しようと思う。
あ、今度はちゃんと外と連絡取れるようにしますよ?
また前みたいに心配させたくないし、社会人足るもの、報連相はしっかりしないとね。
しかし、次の特異点で六つ目か。これまではフランス、ローマ、オケアノス、ロンドン、北米大陸ときて規模もバラバラになっている。
今回は一体どんな所で、どんな手強い奴が待っているのだろうか。そう考えると……どこかワクワクしている自分がいる。
◇
────その道のりは果てしなく、此処までの旅路はとても遠いモノだった。
嘗て、己がもたらした過ち。その誤りを糺すためにその騎士は今日まで歩き続けて来た。
腕は朽ち、脚は鈍り、心が錆び付き、魂は………まるで石のように硬く成り果て。
それでも────騎士は歩き続けて来た。己の贖罪の為に、犯した罪と向き合う為に………。
「ここが、私の旅の果てか」
無限に広がる砂漠の大地、騎士の視線の遥か先には────白亜の城が聳え立っていた。
次回から、いよいよ第六特異点開幕。
格好いい円卓の騎士達が、君を待ってるぜ!
尚、格好よく書けるとは言っていない。
それでは次回もまた見てボッチノシ