『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今回は物造りの準備段階的なお話。

地味回ともいう。




その85

 

 

 

Δ月Ω日

 

 立香ちゃんとマシュちゃん、二人の気持ちを聞いて翌朝、この日自分は初めてマシュちゃんと模擬戦をする事となった。模擬戦といっても、軽く汗を流す程度。自分も完治したとはいえ、未だに看護師(ナイチンゲール)さんからOKサインを貰っていない身、気を解放せず、あくまで体の調子を整える程度の範囲でマシュちゃんとの組手に付き合う事になった。

 

これ迄多くの戦いを経て、戦闘経験も豊富になったマシュちゃんの強さは既にサーヴァント相手でも遜色なく、相手次第では有利に立ち回れると思える程に彼女の強さは地に足を着けたモノとなっていた。

 

そして、模擬戦を終えて疲弊しているマシュちゃんに気を分けて回復させると、今日の誘いに付いて理由を訊ねた。どうして昨日の今日で自分と組み手をしたいと思ったのか、叱るつもりではなく、純粋な疑問として訊ねると、マシュちゃんは最初こそは口ごもるが、少しずつ話してくれた。

 

 なんでも、今の自分はまだ自身の体に宿る英霊の力を完全には扱いきれてないらしく、本来の宝具を扱えていない事に負い目を感じているらしい。そんな中、これ迄ギリシャとケルトの大英雄の二人も撃破した自分と組み手をすれば、何らかのヒントが掴めるのではないか、というのがマシュちゃんの狙いだったらしい。

 

騙してしまい申し訳ないと、マシュちゃんは謝っていたが、自分は別にそれくらい構わないと返した。だが、同時に彼女の抱える問題はある意味難しいものだった。

 

なにせ、自分はサーヴァントではなく今を生きる人間な訳で、当然宝具なんてモノは持ち合わせていない。宝具というのはそのサーヴァントを知らしめる切り札であり、そのサーヴァントの象徴だと言われている。

 

アーサー王のエクスカリバー、と言った風にサーヴァントにはその伝承に纏わる必殺技が一つ二つ持ち合わせているらしく、マシュちゃんを助けた英霊も例にもれず宝具を待ち合わせている様で、それが使えずにいる自分が情けないと、マシュちゃんは落ち込みながら教えてくれた。

 

教えてくれたのはいいが………正直、自分にはどうしようもない話である。いやだって、本当にどうすればいいのか分からないんだモノ、宝具って聞いた話だとサーヴァントの必殺技というのは分かるけど、俺が扱っているようなモノとは根本的に違っているみたいだし、宝具の中には心象───つまりは心の在り方に深く作用するモノまであるという。

 

だから、宝具を完全に扱えていないのはマシュちゃんの気の持ちようなのではないかと、それとなく言ってみた。マシュちゃんの扱う武器は盾だ。盾というからにはその本質は攻撃や破壊ではなく、守護する事に重きを置いているのかもしれない。例えるならレオニダス王、例えるならジャンヌさん、と言った具合に守りたいものを強く願った時に真価を発揮するタイプの宝具。と、自分は睨んでいる。

 

そこまで言うと、マシュちゃんは笑いながら先輩も同じことを言ってましたと返した。まぁ、自分も立香ちゃんも魔術に関しては素人に毛が生えた程度の知識しかないんだけどね。ともあれ、マシュちゃんも気持ちを吐き出したことで落ち着いたのか、シミュレーター室から出てくる迄にはすっかり元気になっていた。

 

今回の模擬戦で疲弊した分の体力は、自分の気を分け与える事でカバーしておいた。彼女の容態はロマニやスタッフの皆がそれとなく気を使ってくれているから、安心………とまではいかなくとも、落ち着いて見ることが出来ている。

 

 ただ、マシュちゃんや。幾ら俺が気を分ける際に頭に触れているとは言え、人をお父さん呼びはどうかと思うぞ。確かに前々から色々と気に掛けてはいるけれど、そこは普通お兄さんとかだろう。何故よりによってお父さんなんだか。

 

どちらかと言えば、ロマニこそがマシュちゃんの父親みたいなものだろ? 昔から、それこそ俺以上にマシュちゃんを気にかけていたみたいだし………。

 

なんて言い返すと、マシュからみてロマニはお父さんというより親戚のお兄さん、もしくは叔父さんポジションなんだとか。ロマニェ……。

 

 

 

*月δ日

 

 マシュちゃんの限られた寿命を克服すべく、秘密裏に俺が各著名人達に相談を持ち掛けた所、ほぼ満場一致で俺と王さまの会社が手掛けたGNドライヴが一番可能性のある手段という結論に至った。

 

最初こそは人の細胞を遺伝子レベルで変革させるGN粒子に僅かばかり難色示す人も出ていたが、テスラさんやエジソンさんの熱意ある説得の下で納得したりと、今日はホンの少し知恵を借りるだけのつもりだったのにいつの間にか大規模な定例会議みたいになってしまった。

 

しかも場所が自分の修行場なのだからいろんな意味で申し訳ない。最初はエジソンとテスラさん、バベッジさんだけだったのに、いつの間にかマシュと交流のあるサーヴァントの皆さんが数多く集まってくるのだから、本当に色々と申し訳なかったです。

 

 そして、マシュちゃんの容態の回復の為にGNドライヴ製造の是非を問う話し合いが行われたが、やはり少なからず反対意見の持つサーヴァントは存在していた。

 

いや、この場合は反対というより懸念、あるいは心配ごと、といった方が正しい。GN粒子による人体の影響は凄まじく、その効果もまた絶大。身体能力が劇的に向上したり、目が光るようになったりする身体的変化は人間社会に於いて多大なる波紋を呼び起こす事になり、差別による虐め問題が横行する可能性が大きい。

 

そうならない為に目の光を抑える訓練や、精神面での援助のカウンセリングを徹底させたりしているが、それはあくまで俺がいた世界での話だ。エジソンさんやテスラさんはこの場合はマシュちゃんだけに対する処置だからそこまで気にするほどではないと言うが、アタランテさんの様に万が一に対する危惧を示唆したりと、話し合いは一時間近く続いた。

 

エジソンさん達の肯定派の意見も、アタランテさんやブーディカさん、頼光さん達のような人達の否定的な意見も、自分にとっては無視できない話だ。

 

そんな悩んでいる自分達にエジソンさん達と一緒になって否定派の人達を説得したのが看護婦長であるナイチンゲールさんだった。救われる命があるのならそうするべきだと、勢いのある彼女の一喝に押され、GNドライヴを製造する際はカルデアのスタッフとサーヴァントを数名立ち合わせる事を条件に会議は可決された。

 

 で、可決された事で自分にGNドライヴの製作を許されたのはいいんだけど………問題は、誰に立ち合って貰うべきか、である。

 

サーヴァント側は出来れば反対派の人に立ち合って貰いたい。エジソンさんやテスラさんと言った発明者は何だかんだ造る事に夢中になる人が多いし、公正な目線を保つのは難しいと思われる。けれど、反対派の人も自分の扱うものに対する知識は乏しい為、あまり意見を言う事は出来ないらしい。

 

 博識且つ公正で、厳格的な視野を持つ人物………やっぱり、今回もケイローン先生に頼むしかないかなぁ。あの人も最近カルデアで色んな人から相談を受けていて忙しいみたいだし、あんまり負担を掛けたく無いんだよなぁ。

 

他にも何故か話し合いに参加していた天草四郎が目をキラキラさせて立候補してきたが………なんか嫌な予感がするので却下した。アイツ、GN粒子が人体にもたらす影響の話をしたら、矢鱈と食い気味で質問してきたんだよなぁ。特に、思考領域の拡張と人体寿命の延長辺りで、アイツ、まだ人類救済とかに拘ってるのかよ、自重しろよいい加減に。

 

まぁ、GNドライヴの製作の件については一先ずこれで由としておこう。幸いにも物資は重力室を造ったもので賄えるし、設計図も俺の頭に保存されているし、何だったらグランゾンのデータベースにアクセスすれば元の世界での稼働実験のデータも残されている。

 

作る際は此方から連絡するし、その時は反対派の人達が厳正な判断で立会人を決めることを約束し、話し合いは終了した。

 

 ただ、その際に発明者数人から助手は必要ないかと猛アプローチしてきたのが何気に凄かった。特にエジソンさんとテスラさん、二人ともGNドライヴという次世代の動力炉心に興味津々なのだろう。確かに二人の力を借りれば完成まで大きな時短に繋がる。

 

しかし、そこで第三者が待ったを掛けてきた。ダ・ヴィンチちゃんである。この人、普段は自分の工房に引きこもっている癖に、こういう話になると露骨に関わってくるんだよなぁ。しかも、駄々っ子気味に。

 

床に寝そべりながらヤダヤダ言ってくる万能の天才とか、これ、歴史学者に聞かせたら悶絶死しそうな光景じゃね?

 

 兎も角、これでGNドライヴ製作の目処は立った。後は造るタイミングと、設備の設営、そしてロマニのGoサインだけである。さぁ、これから忙しくなってくるぞぉ!

 

 

 

*月√日

 

 マシュちゃんの救済処置の一つとして提案されたGNドライヴの作成、その為の設備の設営が今日で完了した。特殊な炉心を造るのだから場所は思いの外取ってしまい、場所作りの為に格納庫にあるシャドウボーダーを隅に追いやってしまったのが心苦しかったが、取り敢えず設備の方は完了したと言って良いだろう。

 

既に前回の日記から数日が経過しているが、サーヴァントの皆のお陰で一週間も掛からずに設営が完了したのだから、時短的にかなり縮められた事だろう。

 

GN粒子は地球上の重力下では製造が困難な代物だ。故に製造環境は重力の変動できる機器が必要な訳で、重力室の修行場から取り出すのに若干手間取った。という程度だ。協力してくれたバベッジさん達には今度、何かしらの礼をしておくべきだろう。

 

 そして、問題の立会人なのだけど、意外な事に騎士王ことアルトリアさんが俺の監視役に付くことになった。意外と言えば意外な人物だが、確かに彼女なら厳正な判断で人を見るだろうし、止めるときは容赦なく止めてくるだろう。

 

ただ、今回の選出はアルトリアさん本人の立候補も理由の一つだそうだ。そう言えばアルトリアさんも時たまマシュちゃんと何かしらの話をしていたのを見た記憶があるから、多分その辺りが立候補の理由かな?

 

興味本意で訊ねると、なんかアルトリアさんの表情はやや暗くなった。彼女が言うにはあの盾を持つマシュちゃんを死なせたくないというのが本音らしい。

 

………もしかしたら、アルトリアさんはマシュちゃんの内にいる英霊の事を知っている? 彼女の言い方に何となくそう思ったが、なんか訳ありっぽいのであまり言及はしないことにした。

 

 さて、これで準備は整った。後はロマニからのGoサインを待つばかりである。

 

────いや、助手にする人の選別があったか。個人的には誰でも良いんだよねぇ、皆時代を築いた立役者だし、邪魔になることは有り得ないんだから。

 

ただ、このまま放置しておくと二人の殴り合いが始まりそうなので早急に決める必要があるだろう。あー、頭いたい。

 

なんて愚痴を溢すと、アルトリアさんから「貴方も大変ですね」と肩を叩かれた。その慰めの一言には矢鱈と実感が籠っていた気もするけど………気のせいだよね。

 

 

 

 

*月*日

 

 ───なんか、無人島でバカンスする事になった。

 

………いやなんで?

 

 

 

 

 




Q.今回地味すぎない?

A.所謂物作りフェイズですので、少しつまらなかった事かと思います。
申し訳ありません。



おまけ

こんな◼️◼️の◼️はイヤだ。

「なぁ、あの厄災を払った女、放っておいたら危険なんじゃないか?」

「あんな力を俺達に向けられたら、今度こそ俺達はおしまいだ!」

「殺さなきゃ、殺さなきゃ!!」

「危ないやつは、殺してしまおう!」

 あぁ、またか。またこの結末なのか。どれだけ私が心を砕いても、私の心が届くことはないのか。

「………あーもう、胸糞悪い場面にばかり出会しやがって、たまにはマシな出会いの仕方はないもんかね」

「し、修司!? あなた、また来たの!?」

「おぉ、ここは俺に任せて先いってろ。いつもの拠点で合流な。………さて、そこの獣野郎、先ずはお前の毛を全部剃る所から始めようか」

「ヒィッ!? な、なんだこの悪寒は!? お、おいなんだその手に持っている奴は? それを俺な向けるな、お、俺の自慢の毛並みがぁぁぁぁっ!?!?」

「うわぁ! 牙の氏族毛が全部狩られた!」

「さて、次はお前らの番だな。毎回毎回同じ手間を取らせやがって、今回ばかりは容赦しねぇ。女も男も関係なしに、全員の毛───狩り尽くしてやらぁっ!!」

「「ヒィィィィッ!!」」








「───たく、相変わらず逃げ足が速い連中だよ。………ん? ◼️◼️◼️◼️、その子は………おい、凄い怪我じゃねぇか!?」

「お願い、修司、この子を助けて……この子を助けるのを………手伝って!! 私の魔術だけじゃダメなの! あなたの、力を! この子に分け与えて上げて!」

それは、◼️◼️◼️◼️の心の底からの叫びだった。普段は修司の力に頼ることを極力避けていた彼女の、心の底からの助けを求める声だった。

彼女の腕に抱えられているのは───小さな妖精。傷だらけで、泥まみれの、“いらない”と棄てられた哀れな少女。何故この妖精に彼女が拘るのか、理由は定かではないが………。

「任せろ! 全力で注いでやる。そっちも上手く合わせてくれ!」

「ヴン!!」

あの強情で、負けん気の強い彼女が、涙を流して助けを求めている。傷付いた少女が、助けを求める声も出せずに死にかけている。理不尽を嫌い、不条理が罷り通るのを由としない修司が手を貸すのは、当然の事だった。


 ───この日、一人の妖精は………運命に出会った。


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