『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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暑い……暑い……。

水分補給………大事。


その83 第五特異点

 

 

 魔神柱。それは、人理焼却の原因の一つとされている魔術王ソロモンが送り出す尖兵、醜悪な外見でありながら、保有する魔力量は膨大で、一柱あればそれだけで国家レベルの大災害をもたらす天災の徒。

 

その魔神柱が総勢十を越え、敵対している立香達を見下ろしている。禍々しく恐ろしい巨大な無数の眼、それら全てが立香とマシュに敵意と殺意を込めて睨み付けてくる。空を穿つとばかりに巨大な魔神柱達の顕現に驚愕する立夏だが、立ち止まる暇はない。

 

眼が瞬き、光と熱が彼女達を襲おうとした時──光の輪が、魔神柱の一柱を真横に両断する。

 

「──羅刹を穿つ不滅(ブラフマーストラ)。やれやれ、顕れるやいきなり攻撃とは、魔神と呼ばれるには余裕のないやり口だな」

 

「うむ、あれだけの巨大さなら口上もさぞ派手になるだろうに……いや、ダメか。派手ではあるが、あの肉塊はあまりにも美意識が足りないな」

 

「そうね。やっぱり謳い上げるなら、それ相応の美意識が必要よね」

 

「ネロ陛下!」

 

「エリちゃん! ラーマ君も!」

 

 危うく集中砲火の所をラーマに救われ、隣にいたもう片方の魔神柱もネロとエリザベートの両雄によって破壊される。ケルトの兵隊達を相手に戦い、自分達だってそんなに余裕は無い筈なのに、それでも駆け付けてくれたネロ達に立香達は心から喜び、抱き付いた。

 

「うぇぇーん! 助かったよぉー! 有り難う二人ともぉー!」

 

「よしよし、余達がくるまでよくぞ耐えたよ立香よ」

 

「ていうか、何であんた達がここにいるのよ? アンタ達の担当は此処から少し離れた所じゃなかったかしら?」

 

「そ、そうなんだけど……」

 

言い淀む立香にネロ達が首を傾げると、遠く離れた所から轟音が鳴り響き、地震を思わせる衝撃が立香達の足場を揺らした。何事かと思い衝撃のあった方角へ目線を向けると、雄叫びを上げながら戦い続けるカルナとアルジュナが見えた。

 

身体中の至る所に土埃が付いている立香を見て、全てを察したネロが立香とマシュの頭を撫でる。

 

「………ねぇ、アンタの所の英雄ってみんなあんななの?」

 

「いや、元は冷静沈着で寡黙な者達なのだが………その………スマン」

 

ジト目でどういう事かと訊ねてくるエリザベートにラーマは何となく居心地が悪くなり、思わず謝罪してしまう。

 

さて、そんな和気藹々とした空気も束の間。ラーマによって両断された魔神柱は自己を保てず消滅するが、もう片方は未だに健在。再起動したように眼光を瞬かせ、再び立香達に狙いを定め始めた時、今度は無数の朱色の槍が魔神柱を滅多刺しにしていく。間断なく、隙間なく埋め尽くされ、最終的に穿たれ果てる魔神柱。

 

そんな魔神柱が黒い灰となって消えるのと、影の女王が立香達の所に着地するのはほぼ同時だった。

 

「全く、戦場のど真ん中で談笑する奴がおるか。ほら、急いで向こうに戻るぞ、彼方には発明王一派がいたはずだろう?」

 

 スカサハに言われ、ハッと思い出した立香達はエジソン達のいる方角へ視線を向けると、其処にはエジソン達が複数の魔神柱に囲まれていた後だった。

 

その一柱をエジソンが宝具を放つことで消し飛ばし、包囲網の一角に風穴を開けるが、直ぐにまた別の魔神柱が逃げ道を塞ぐように顕れる。

 

「そんな、魔神柱が復活した!?」

 

「ふむ、どうやら連中は互いの命を繋げることで同一の個体へと昇華させたらしい。アレを滅するには繋がっている全ての魔神柱を同時に消す必要があるな」

 

「そんな、そんな大火力を持つ宝具を持ったサーヴァントは、この場には………」

 

 互いに活動機能の補完を担い、命という炉心を同一にする事で一つの生命体へと変化した魔神柱。特異的な性質を有する様になり、あの肉塊の群れを駆逐するには同時に消滅するしかないとスカサハは冷静に分析する。

 

そんな火力をもった英霊はこの場にはいない。ネロは固有結界に似た宝具であるから仕方ないとして、スカサハとラーマは威力こそはあっても、広範囲に及ぶ宝具ではなく、唯一可能性のあるエリザベートも全ての魔神柱を屠るには火力が些か以上に足りない。

 

このままではエジソン達がやられる。一度は敵対し、実際に戦った事のある相手だけど、今では大切な仲間達だ。彼等を失う訳にはいかないと、立香が駆け出そうとして………それは起きた。

 

 稲妻が迸る。天空に暗雲が広がり、魔神柱達を覆い尽くす。

 

そして、雷鳴は轟音と共に降り注がれる。その雷鳴に立香は覚えがあった。その蒼く眩い雷は嘗て人類史に電気をもたらした男の宝具。

 

つまりは───。

 

「フハーッハッハッハッハ!! 随分と無様ではないか凡骨ゥッ!! 貴様の無様さを嗤う為、カルデアからワザワザ来てやったぞ! 喜べ凡骨ゥッ!!」

 

「す、すっとんきょうだとぉぉぉっ!!??」

 

戦場に響き渡るほどの高笑い。空からゆっくりと降りてくるのは雷電博士ことニコラ=テスラその人である。絶え間無く降り注がれる放電は魔神柱の表面を焼いていくが、活動限界にはまだ至らず、魔神柱の瞳はテスラ一人へ向けられる。

 

急いでテスラに支援しようと立香が魔術礼装を起動させ、テスラに回避の魔術を施そうとするが、それは彼女の肩に置かれる大きくも暖かい手によってやんわりと阻まれる。

 

「よぉマスター、今回も随分と気張ったな。お主の奮闘、勇気、楽しませて貰ったぞ」

 

「い、イスカンダル大王!? え? ど、どうして?」

 

「どうしても何も決まっているだろう。マスターの危機に我等が駆け付けたのではないか、ほら、ボサッとしてないで指示を出さぬか。戦いはまだ終わってはおらぬぞ」

 

 瞬間、エジソン達の方角から光と爆発が起きる。しまったと目を剥く立香であったが、次の瞬間彼女の危惧は杞憂へと変わった。砂塵の中から溢れる光、それが聖女ジャンヌの守護の光だと安堵すると、次に隣の征服王から魔力が迸る。

 

征服王イスカンダルのやる気に立香も前を向く、今こうしている間にも()は激闘を続けている。そんな彼のお荷物になるのだけは嫌だと、藤丸立香は令呪を以て征服王に後を託す。

 

「お願い征服王、皆を守り、目の前のアイツ等を───ぶっ飛ばして!

 

「ワッハハハハハ! ビックリするほど他力本願だな此度のマスターはっ! だが良いぞ、その開き直りは心地よい。お主の覚悟と決意、しかと余の胸に刻んだぞ!」

 

「ならば仰ぎ見るがよい! 遥か万里の彼方まで往く、我等が行軍───即ちッ!」

 

王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)であるッ!!」

 

 瞬間、世界は変わる。何処までも続く荒野だった世界は見渡す限りの砂漠となり、頭上には吹き抜ける蒼い空が何処までも無限に広がっていた。

 

足音が聞こえる。背後から耳にする砂を踏み締める無数の足音が立香達の鼓膜を震わせていく、何事かと振り返れば、砂漠の大地を埋め尽くすほどの英霊達が群となって現れる。

 

「ふわぁー」

 

「す、凄いです。これが、征服王の宝具………」

 

「そうとも、これが我が同胞と共に駆けてきた余の宝具。英霊という座に招かれて尚、力を貸してくれる余と同胞達の絆の証よ。さて、話は此処までだ。残る魔神柱共を片付けるとしよう。───さて、では抜かりはないな英雄王!」

 

「え?」

 

「ぎ、ギルガメッシュ王も来ているのですか!?」

 

 なんとも大盤振る舞いな援軍である。聖女ジャンヌや征服王イスカンダルだけではなく、オケアノス以来の英雄王の加勢に不利だった戦況は一気に立香達の方へ戦局は傾いた。

 

ただ、一つだけ問題があるとするならば………。

 

「あー、それじゃあ精々気張れよ雑種どもー。貸した武具はちゃんと後で返す様にー」

 

肝心な英雄王が、これ以上ない程にヤル気を失っているという事である。空を浮遊する黄金の船に乗り、気だるそうにしている彼の姿は、お世辞にも偉大なる王とは到底思えない。その様子は宿題を強制的にやらされている小学生のそれ、普段ガシャガシャ五月蝿い鎧は着ておらず、私服姿で玉座に凭れる姿は控えめに言って腹立つ。

 

これには流石の征服王も物申したかったが、生憎と宝具の展開時間に限りがあるため、聖女にチクるのは後にするとしよう。魔神柱もそろそろ此方に狙いを付け始めるだろうし、決戦の時にあれこれ言うのも無粋だろう。

 

それに……。

 

「全軍への魔術強化、完了した。後はお前次第だぞ、征服王」

 

嘗ての己のマスターが、全力を以て支援をしてくれている以上、カッコ悪い真似は出来ない。大人へと成長し、多くを見て成長したであろう臣下に征服王は乱雑に頭を撫で回し……。

 

「蹂躙せよォォォッ!!」

 

 遂に、進撃の合図は下される。雄叫びと共に砂漠の大地を駆け、手にした刃を魔神柱達に突き立てる。彼等の持つ武具の全てが英雄王が保有する財宝のモノ、その悉くが一級品の武具であり、中にはAランク相当の宝具も含まれている。

 

当然、そんな武具を手にした王の軍勢を止められる筈もなく、立香達を殺す筈だった魔神柱はその悉くが狩り尽くされていく。

 

その後、エジソン達も持ち直し、テスラと口汚く罵り合いながらも魔神柱を殲滅。特異点修復初となる修司を先んじての勝利である。

 

 後は修司の勝利を待つだけ、征服王の固有結界が解除される迄の合間、藤丸立香はその時を待ち続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───足りない。どれだけ大地を駆けても、どれだけ槍を奮っても、目の前の敵を倒すのに何もかもが足りていない。

 

持ちうる限りのルーンを使い、技を使い、力を行使した。目の前の敵を殺す為、クー・フーリンはこれ迄の人生から培ってきた全てを総動員させ、一切の油断なく攻め立てた。

 

なのに倒れない。目の前の男は燃え盛る炎に炙られようが、吹き荒れる風に切り刻まれようが、降り頻る雨に穿たれようが、お構いなしに佇んでいる。一撃で終わらせると豪語した男は、あれから一切自ら動こうとせず、拳を握り締めたまま静かにクー・フーリンを見据えている。

 

 どれだけ傷を受けても不動のまま、その様子はまるで居合いを構えた侍。既にマントは引き裂かれ、礼装もボロボロとなっている。どれだけいたぶられ、なぶられても、全く動じない修司にクー・フーリンは言葉に出来ない不気味さを感じた。

 

“この一撃で終わらせる” 恐らくはその宣言通り、修司は次に奮う拳の一撃で終わらせようとしているのだろう。そんな宣言に付き合う道理はクー・フーリンには存在しない。呪いを受けなくとも、傷を受け、血を流し続けていれば、いつか修司にも限界は訪れるだろう。

 

『クーちゃん、勝ってね』

 

 尤も、その様な選択肢はクー・フーリンには存在しない。呪いで倒れないなら、己の槍で殺せないなら、更なる呪いと殺意を以て鏖殺するまで。

 

嗚呼そうだ。闘争とはそういうもの、殺し合いとはそういうもの。そこに小難しい理屈は不要で、ただどちらかが強いかという事実だけが残るだけ。

 

ならば、自分もまた挑むとしよう。目の前の嘗て無い強敵に、己も限界に挑むとしよう。

 

 距離を開け、クー・フーリンが停止する。嵐の様な猛攻から一変した静寂の間、何をする気だ? これ迄クー・フーリンの動きを観察していた修司だったが、初めて目にする姿勢に戸惑った時、膨れ上がる気に目を剥いた。

 

獣の如く姿勢を低くさせ、此方に狙いを定めてくる。間違いない、向こうも自分と同様にこの一撃でケリを付けるつもりだ。互いに最後の一撃に賭けた構図、シンプルで分かりやすい展開に修司は自然と口端を吊り上げる。

 

僅かな静寂、破ったのは………クー・フーリンだ。低い姿勢から放たれる様は弾丸の如く鋭く、その速度は既に音を置き去りにし、光の領域へ差し掛かっている。

 

これまで戦ってきてハッキリした。目の前の男は速さだけならあのヘラクレスすら凌駕していると、女王メイヴによって反転し、歪められた存在になろうとも、彼の速さだけは微塵も揺らぎはなかった。

 

しかし、それでも修司は目を逸らさず、真っ直ぐにクー・フーリンを見据えている。迫るのはこれ迄のような概念頼りの一撃ではない、文字通りの一刺一殺の奥義。狙うは心臓、既にその間合いはクー・フーリンの領域だ。

 

 その刹那、修司が一歩踏み込んだ。瞬間足場にしていた大地は砕かれ、これ迄溜めていた力の全てが解放される。眩しい光だ。血の様に赤い光が修司の拳に集約されていく。

 

しかし、一歩遅かった。修司の間合いはクー・フーリンよりも狭く、クー・フーリンの間合いは手に槍を持っている分、修司よりも広い。

 

故に……。

 

刺し穿つ死棘の槍(ゲイボルク)!!」

 

修司の拳よりも速く、クー・フーリンの槍が届くのは必定だった。

 

 槍の穂先が修司の心臓目掛けて放たれる。彼の放つ一撃は因果逆転の一撃に非ず、正真正銘、自身の全てを擲っての………最後の一刺だ。

 

朱色の槍が皮膚を抉る。嘗てない程に頑強な肉の感触に光の御子が叫んだとき、信じられない事が起きた。

 

修司が一歩、足を踏み出している。自らの心臓に槍が放たれているというのに、構うことなく踏み出している。自ら命を差し出すような愚考、当然の事ながら槍は修司の胸に突き刺さり、朱色の槍は修司の心臓のすぐ其処まで迫っていた。

 

しかし……。

 

「ワザワザ近付いてくれて………感謝するぜ」

 

そこは、既に修司の間合い(エリア)だった。滾り迸る力の奔流を身に纏い、その拳に全てを乗せていく。逃さないつもりで放った一撃が、逆に誘い込まれていた。

 

 気付けば、クー・フーリンは退いていた。修司の迫力に負け、獣としての本能が勝ってしまった。女王メイヴが自分の様に邪悪にして欲しいと願ってしまった故の弊害、しまったと目を見開いた時は………既に、修司の拳は目の前まで迫っていた。

 

「UNITED──」

 

拳が、クー・フーリンの顔面に叩き込まれる。

 

「STATES OF ───」

 

その一撃の余波は、北米大陸全土を覆い。

 

「────SMASHッ!!」

 

振り抜かれ、クー・フーリンを叩き付けた振動は大地に津波の様な地震を引き起こし、跳ね返った衝撃は空へ巨大な竜巻となって広がっていく。

 

天変地異。文字通り、天も地も変えてしまう一撃が北米大陸に震撼させていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ、クソ。俺は……負けたのか」

 

 修司の一撃によって致命傷となり、存在する力すら保てなくなったクー・フーリンは、生前に味わう事の無かった敗北の味に顔を歪めていた。

 

「あぁ、そして───俺の勝ちだ」

 

そして、必然的に勝利となった修司は、胸に突き刺さった槍を引き抜き、地に突き立てる。最後の一刺で全ての力を失った朱色の槍、主よりも早く力尽きたソレは黄金色の光となって空へ消えていく。

 

槍を引き抜いた事で、出血の量は増していくが、それでも構わず見下ろしてくる修司にクー・フーリンは忌々しそうに掃き捨てる。

 

「へっ、何処までも生意気な小僧だ。だが……悪くない、この俺に勝ったんだ。堂々としてなきゃ困る」

 

「───なぁ、クー・フーリン」

 

「あぁ?」

 

「少しは………満足できたかよ?」

 

 言われて気付いた。これ迄あんなに飢えていた衝動が嘘のように消えている。初めて自覚した満ち足りた感覚にクー・フーリンは声を出して笑った。

 

「───く、クハハハッ! なんだ、俺も案外単純だったんだな。いや、それも当然か、聖杯に歪められ、女に叱咤され、全てを出しきった上で負けたんだ。認めるしか………ねぇよな」

 

そして、クーフーリンの消滅の勢いは加速的に増していく。自分の敗北を認め、受け入れた彼に最早この世界に留まる理由はない。

 

だが、その前に………。

 

「次だ」

 

「あ?」

 

「次にまた、俺はテメェに挑むぞ。俺が勝つまで何度も何度も挑んでやる。だから、俺に負けるまで───」

 

“誰にも負けるんじゃねぇぞ”

 

 その呟きは光となったクー・フーリンが風と共に消える事で消滅するが、残念な事に修司の耳には確り届いてしまっていた。

 

「ったく、これだから英雄ってやつは………」

 

奇しくも、ギリシャの大英雄と同じ捨て台詞を吐きながら消滅したクー・フーリン、そんな彼に呆れながらも、何処か修司の顔は晴れ晴れとしていた。

 

 遠くから立香達の声が聞こえてくる。どうやら向こうも乗り切った様だ。手を振りながら走り寄ってくる立香達にサムズアップで応えながら、修司もまた青空の下を歩き始めるのだった。

 

 

 

 

 

───定礎復元───

 

 




現在、第二部六章後半の途中ですが……うん、やべぇわ。

展開に頭が追い付かないけども、妖精ランスロが可愛いと言うのは分かった。

え? トリ子もガウェ子もモルガン様も可愛いだって? 知ってるよ!

それでは次回もまた見てボッチノシ






オマケ。

こんな◼️◼️の◼️はイヤだ。


「よっと、よし。今日はこんなもんか」

「今日も土いじりですか? 相変わらず、不思議な事をやりますねシュージは」

「ん? よぉ◼️◼️◼️◼️。そっちも見回りごくろうさん。いやぁ悪いね。俺の我が儘に付き合わせちまって」

「もう、その名前で呼ばないでと何度も言っているじゃないですか」

「そうだぞー! トネリコだって暇じゃないんだぞー! お前の作る食べ物が上手いから仕方なく来てあげてるんだからなー!」

「お、今日はカカロットも一緒か」

「トトロットだっ! お前、絶対ワザとだろぉっ!?」

「いやぁ、名前の雰囲気的につい……噛みました」

「違う、ワザとだ!」

「噛みまみた」

「ワザとじゃない!?」

「全く、いつまでも遊んでいるんじゃないぞ二人とも、シュージ。今回はお前さんに頼みがある」

「黒騎士のおっちゃんも一緒となると………厄災か?」

「はい。………スミマセン、無関係な、それも人間の貴方に助けを求めるのは間違っているのは分かっているのですが、貴方ほどの実力者を遊ばせておく余裕も私達にはないので──」

「バァカ、ンなことで謝らなくていいんだよ。トネリコも、助けて欲しい時は素直にそう言えばいいんだよ。こうして行き場の無い俺に野菜を作れる環境も提供してくれたんだし、恩返しくらいさせてくれよ」

「でも………その度に貴方は、皆に嫌われてしまっている。傷付いてしまっている」

「あぁ? まだそんな事で悩んでいるのかよ? いいか、俺は、俺の意思でお前の力になるって決めたんだよ。更に言えば、お前は何も悪くはない。妖精達が必要以上にビビっているのが悪いんだ」

「でも………」

「でも、じゃない。俺は皆の為に頑張って、◼️◼️◼️◼️の為に頑張っているお前が辛い目に逢っているのが我慢なら無いんだ。誰よりも頑張っているお前は、誰よりも幸せになるべきなんだよ」

「シュージ………」

「……ま、そういう訳で、お前は今後もお前自身がやりたいことを続ければいい、その度に俺は力を貸すし、トトロもおっちゃんも手を貸してくれるだろうからさ」

「おい、二文字足りないぞ!」

「ハハハ、さて、出発は明日なんだろ? 泊まっていけよ。今日は出来の良い茄子が採れたんだ。久し振りに野菜カレーをご馳走してやるよ」

「おぉ、シュージの料理か。それは楽しみだ」

「僕のは甘口にしてくれよ!」

「はいはい。ほら、◼️◼️◼️◼️も、早く来いよ」

「………うん、ありがとう」



それは、有り得ざる記憶。正史には一切記される事の無い幻の記憶。

それを覚えているのは………果たして誰か。今は、誰にもわからない。


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