『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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モンスターハンターストーリーズ2

面白ッ!!


その82 第五特異点

 

 

 

 飛行能力。それは、有史以来の全ての人類が夢見る偉業。蝶の様な翅を持たず、鳥の様な翼を持たない人類が叶わないと知りながらも手を伸ばし、足掻いてきた一つの到達点。

 

時は19世紀末。アメリカのとある兄弟が翼を持たない人類に空を飛ぶ術をもたらした。数多の苦難と悲劇を経て、それでも空への飛翔を夢見た彼等が遂に成し遂げた空への切符。

 

それは時を経て人類に貢献し、今では多くの人々が利用する移動手段となった。国を越え、聳え立つ山脈や外界を隔てる大海原を越え、遂に人は空という領域を介して世界中の人々と繋がる事が可能となった。

 

ライト兄弟。当時はまだ誰も知らない二人の兄弟の諦めなかった想いは、現代となった今でも薄れる事なく語り継がれている。

 

 ───ここで問題。もしもライト兄弟が上空に佇む白河修司(トンでも人間)を見たら、どの様な反応をするだろうか。

 

A.ふざけんなとぶちギレる。

 

B.翼が無くても人は飛べるんだと白目を剥きながら発狂する。

 

C.目の前の光景を極力直視しないように気を付けながら、自分達の目的を遂行する。

 

さぁ、どれでしょう?

 

「私は………全部かなぁ」

 

「ダ・ヴィンチ、何を言ってるの?」

 

 天文台の名を冠する人理保障機関、カルデア。人類最後のマスターである藤丸立香、並びに白河修司への可能な限りの支援をする為に、スタッフが一丸となってサポートに徹しようとしている中、立香達を観測している管制室は異様な程に鎮まり返っていた。

 

立香とマシュとは別に修司を観測している巨大モニター、そこに映し出されている光景を前にあるものは言葉を失い、あるものは達観の笑みを浮かべ、あるものは記録に残そうと必死に録画(REC)している。

 

そして、それはサーヴァント達も同様で、多くの英霊がその光景に言葉を失っていた。空への憧れは誰もが一度は抱き、夢想する。中には実際に空を飛べるものもいるだろうが、それはほんの一握りの英霊しか認められていない特権。

 

翼を持たず、神秘の魔術や特殊な能力でもなく、神々による権能でもない。純然たる人の技として、空を飛ぶ白河修司は神話の中の英霊達にとっても伝説に見えた。

 

その中で唯一、コルキスの王女は食堂にてモニターに移る修司を見て、ある種の予感を感じ取っていた。

 

「あの坊や、今度は私に転移の術を教えて欲しいとか言ってきそうね」

 

唖然とする騎士王の隣で辟易とした様子で呟くメディア、因みにその予感は見事的中し、後にメディアに転移の術(瞬間移動)を学ぼうとする修司が一時期彼女に付き纏う事になるのだが、それはまた別のお話。

 

 空を行く修司と彼を追うケルトの猛犬。彼等の激闘は科学と魔術の粋を集めたカルデアの観測すらも振り切り、その様相はスタッフ達に第三特異点(オケアノス)以来の死闘を想起させていく。

 

果たして彼は勝てるのか、勝って欲しい、勝つに決まっている。そんなすがる思いで修司の戦いを見守る中、管制室に緊急事態の報せ(アラーム)が鳴り響く。

 

「北米大陸に大規模な魔力反応を検知! これは………魔神柱です!」

 

「来たか! 数は!?」

 

「一……十……そ、そんな、まだ増えていく!?」

 

 オペレーターの動揺する声が管制室に響き、彼女の不安が室内に伝播していく。魔神柱という天災クラスの兵器が十の数を越えていき、それがスタッフ達をより深刻な恐怖の沼へと引きずり込んでいく。

 

魔術王ソロモンの介入、直接的で確実な方法で立香達を潰しに掛かってきた事実に、ロマニが立香達の特異点からの強制退去も視野に入れた時、怒号が響き渡った。

 

「臆している場合か! シャンとせんか貴様等ァッ!」

 

鼓膜が激しく揺さぶられ、脳髄にまで浸透しそうな溌剌し過ぎた一声、怒号というより号砲に似た叫びが管制室に溜まっていた不安の空気を諸とも吹き飛ばした。いきなり誰だと、両耳を押さえてロマニが振り返ると、両腕組んで不敵に笑うマケドニアの大王がエルメロイⅡ世を従えて、管制室の出入り口に佇んでいた。

 

「い、イスカンダル大王? どうして貴方が此処に?」

 

「なぁに、坊主から聞いてここのが一番現地の様子を見れるというからな。折角だし見てみようかと思って来たのだが………全く、何をそんなに凹んでいるのか知らんが、今は気落ちしている場合ではないだろう? 我等がマスターが戦っているのに、お前達が先に戦意を喪失させてどうする」

 

 戸惑いながら訊ねるロマニの言葉に、征服王は呆れを混じらせながら答えた。彼の言うことは正しい、最早観測出来ないほどに激闘を繰り広げている修司に対し、藤丸立香は凡庸な少女だ。サーヴァントの庇護の下でいるといっても、彼女が立っているのは紛れもなく最前線。爆風や戦闘の余波で大地を転げ回り、傷だらけになっても、無数の魔神柱を前にしても諦めずに今も必死になって前を向いている。

 

彼女が諦めない以上、送り出している自分達が先に折れるのはあってはならない。征服王イスカンダルが言うのも理解できる、だが目の前の現実がそれは簡単では無いことを如実に現しているのも………また事実。

 

戦力が足りない。エジソンが守り、培ってきた兵力を合わせ、漸くケルトと同等の戦いを繰り広げても、これでは元の木阿弥。魔神柱の放つ光線で戦場ごと蹂躙される光景を前に征服王の叱咤激励は以下ほどの励みになるだろうか。

 

故に。

 

「よし、ならば余が往くとしよう。坊主、共に来るか?」

 

「この流れで拒んだら、それこそ不粋極まりないだろう? はぁ、前回に引き続き今回もか」

 

 征服王は自ら出陣を宣言する。それに付き従うようにエルメロイⅡ世が後に続く。

 

「私もご同行しましょう。私の守りならば、魔神柱の攻撃も防げます」

 

そこへ更に聖女ジャンヌまでもが戦列に加わった。征服王イスカンダルとジャンヌ=ダルク、共に前線に立ち、軍勢を率いた経験のある強者達。特異点の修復旅の中で初めてのカルデア側からの戦力の大量投入、本来ならば特異点への影響を考慮して控えていた数多のサーヴァントの同時投入だが、ソロモンが魔神柱という横槍を入れたことで、その影響もかなり軽減されるだろう。

 

一気に希望が見えてきた。十を越える魔神柱相手に一時はどうなる事かと思ったが、これならば行けるかもしれない。

 

「了解した。なら君達を立香ちゃん達の所に送ろう。………どうか、彼女達を守ってやってくれ」

 

 すがる思いで立香とマシュを頼むと口にするロマニに、征服王は任せろと快活な笑みを浮かべて進軍する。そんな彼を筆頭にエルメロイとジャンヌが後を追っていく、勇猛な英霊達が足踏み揃えて戦場に向かうその姿にカルデアのスタッフ一同は古い伝説を見ている様な気分だった。

 

ただ……。

 

「えぇい! 放さぬか田舎娘! 最古の英雄王たる我に流石に無礼が過ぎるだろうが! 我はこれからマギ・マリとやらに煽り文を送って炎上させねばならんというのに!」

 

「貴方がいつまでも逃げ回っているからでしょうが。全く、貴方も英霊豪傑の一人ならば臣下の為に一度くらい体を張ってもいいでしょうに、ハデスの帽子も被らず、変顔晒して笑いを堪えていたあなたの迂闊ですよ」

 

「イヤだって、あやつとうとう星の重力からも逸脱したのだぞ? 我としては奴の戦いを遠巻きに眺めるだけで充分愉しめるのだが?」

 

「ならば、遠慮せずに特等席でご覧ください」

 

「ヌォォォッ!? はな、離せ、離さぬかァッ! 我は、我は………面白おかしく愉悦に浸りたいだけなのにぃぃぃぃっ!!」

 

 聖女に首根っこを掴まれて、ドナドナされていく英雄王が、何とも気の毒に見えた。

 

兎も角、これで戦況は再びこちら側に傾く事だろう。後は大陸の遥か彼方で戦っている修司の勝利を願うだけである。

 

「立香ちゃん達の事はなんとかする。だから………頼んだよ、修司君っ!」

 

自分の無力さを棚上げするのを自覚しながら、ロマニは戦いの行く末を修司へ委ねるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───鮮血が舞う。巻き上げる砂塵に混じり赤い水滴が大地を濡らす。

 

「───どういう事だ?」

 

そんな中、ケルトの大英雄は困惑の声を溢す。戦いの中で無駄口を叩くのは歪められた彼らしからぬ行い、しかしそんな彼が唖然とするのは無理もない。

 

目の前の男───白河修司は呪いの死槍を受けて暫くの時間が流れていた。既に呪いを受けた拳は瞬く間に浸透し、今では腕半分が赤黒く変色してしまっている。

 

だが、それだけだ。あれから相当数の槍の攻撃を受けているのに、修司という男は怯む処かより勢いを増していく。迫り来る死を前に怯えるのは戦士以前に生命体としての本能だ。どんなに鍛え抜かれた戦士だろうと、目の前にまで迫る死を意識しないでいるのは不可能に近い。

 

そう、己の一撃を受けて白河修司という男の死は決まっている。なのに、どうしてそんな風に動ける。死の恐怖を前に戦える?

 

「俺の槍は死という概念そのものだ。触れ、貫かれたモノは例外なく死に絶え、神すら屠る呪いの死槍。それをまともに受けて………何故お前はまだ動ける」

 

 一刺必殺。生前の力を取り戻し、伝承の力をより引き出せる事が可能となったクー・フーリン。そんな彼の一撃は嘗ての師と同様に数多の命を殺し、神すらも喰らう必殺となっている。確定された死、覆らない現実的な死、謂わば概念的死を受けているのに………生き続けるという矛盾を行う修司が、クー・フーリンには酷く不気味に見えた。

 

しかし。

 

「概念? なんだそりゃ、そんなもので人を殺せると……本気で思っているのか?」

 

「なんだと?」

 

「確定された死? 覆らない現実? そんな言葉を並べて何になる? そんな小難しい単語を並べて………卵でも立てた気になったか?」

 

「………」

 

「お前の槍で俺が死なねぇのは、お前の槍より俺の方が強いって事だろうが。概念なんて言葉を吐いて知識人ぶって、それで俺を倒せると思ったか? 舐めるなよ、英雄。俺を殺したいのなら、心臓を穿つなり頚を切り飛ばすなりするんだな」

 

 命を喰らう呪いを一身に受けて、それでも平然としていられる修司は、正しく化け物だ。魂すら喰らい尽くす呪いの槍、それを受けて平然としていられるのは、あのスカサハであっても不可能だろう。

 

「………とは言え、少々時間を取らせた。向こうも何だか不穏な気が集まっているし、あまり悠長にしていられない。だから………」

 

故に………。

 

「次の一撃で、お前との戦いも終わらせてやる」

 

「………嗚呼、そうだな。テメェはそういう奴だよな」

 

クランの猛犬が滾るのも、無理もない話だった。

 

「良いぜ、ならばこれで最後にしてやる。テメェを殺し、改めて俺はこの国の王になろう」

 

互いに荒ぶる闘争心を高め、ぶつかり合う。大陸を震撼させる神話の戦いは、もうすぐ終わりを迎えようとしていた。

 

 

 

 

 




Q.どうしてボッチは呪いが利かないの?

A.とあるクリプターA.Hの独白。

「恒星並の巨大な大海に、一滴のインクが落とした所で効果があると思う? あの男に呪いの類いは殆んど無意味よ。………仮に、もし仮に奴の命を奪うだけの効果の呪いがあったとしたら」

「それは、奴の新たな力への糧にしかならないと思うわ。ペペ、これを俗に何て言うんだったかしら?」

「そう、フラグって奴ね」

それでは次回もまた見てボッチノシ




おまけ

ifもしもボッチが妖精國のクリプターだったら?

「認めぬ、認めぬぞ! たかが人間風情が、モルガン女王の夫に見初められるなぞ」

「俺もそんなつもりはねぇけどな。で? 認められないならどうする? 俺を殺すか?」

「……………」

「……………」

「…………フンッ、萎えたわ」

「───フッ」

「隙ありィッ───ッ!?」

「タイミングを外して油断を誘い、正面の相手ごとテーブルを蹴り上げ機先を制す、か。───遅れているな、牙の氏族のケンカはよ」

「き、貴様ァッ!! グギィィッ!?!?」

「遅れてしまい申し訳ありません。修司殿」

「君にしては遅かったじゃないかバーゲスト。危うく、虐められる所だったぜ」

(………なんか、楽しそう)

「トリスタン卿?」







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