『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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……今更ですが、今回の特異点に出てくる筈だった李書文先生(槍)、たぶん出てきません。

作者の力量不足です。本当にすみません。


その78 第五特異点

 

 

 

「私の………敗北か」

 

「戦闘終了を確認。私達の勝利です、マスター」

 

 地に膝を着けて自身の敗北を認めるエジソンの言葉で戦いの終わりを確認したマシュは、自身の武装でもある盾を消し、マスターである立香に向き直る。度重なる特異点の旅を経て、サーヴァントとの戦いにも慣れてきた彼女は一端のマスターと皆から認められるようになっていた。

 

今回の戦いもエレナとエジソンというサーヴァントを相手に危なげ無く勝利する事ができた。これも偏にマシュと、協力してくれたサーヴァント達のお陰だと、決して自惚れる事なく、その事実を受け止める。

 

『トーマス=エジソン。人類史に於いて発明王と称された生産・量産のスペシャリスト、それがまさか歴代の大統領の魂が宿っていたとは、確かに大統王の名に相応しい英霊なのかもしれない』

 

 エジソンは抑止……ひいてはアメリカの歴史に刻まれた歴代の大統領の呼び掛けによって召喚されたサーヴァントだ。過去、現在、未来に於ける歴代の大統領達、彼等は自分達がサーヴァントとして召喚されてもケルトには敗北するという結論に至り、一人の英雄に集積することを決めた。

 

それがトーマス=アルバ=エジソン。アメリカだけでなく、世界的に知名度を誇る彼に歴代の大統領達は託した。人理が焼却され、未来を失くした世界の中でせめてアメリカだけでもと、一方的にエジソンに希望を託してしまった。

 

初代から最後の代………大統領の座についた者達の思念、或いは怨念染みたモノがエジソンに憑依し、その重圧が彼に暴走の道を選ばせてしまっていた。

 

エジソンもまた世界を救うべく立ち上がった英霊、アメリカだけでなく世界を救いたいと願っていた彼を、アメリカだけでもと願う歴代の大統領の思念が、歪ませてしまっていた。それが分かっていたからこそ、ナイチンゲールはエジソンを病に侵されている病人だと認識し、治療する事となったのだ。

 

尤も、生産性に拘っていたエジソン自身にも暴走してしまった原因であるのは確かなのだが。

 

 そんな彼を戒めるように、ナイチンゲールから痛烈な一言が投げ掛けられる。それはエジソンにとっては何よりも辛い一言、具体的に言えばエジソンの宿敵でもあるニコラ=テスラと比較しての言葉は彼の心に、ショック療法という名のメスが突き刺さった瞬間でもあった。今頃、カルデアにいる雷電博士はこの上なくニッコニコに微笑んでいる事だろう。

 

「さて、後はあの山吹色の彼の方だけど……大丈夫かしら? 彼が相手をしているカルナって一応インド神話の大英雄なんだけど……」

 

「なに、あやつの事なら心配はあるまい。何せ余をゲロインにした大罪人であるからな。余が断罪するまで勝手に死なれては困る……む? ゲロイン? 余は何を言って………う、頭が」

 

「げ、ゲロイン? ネロ、貴女なにを言ってるの?」

 

何故か得意気になったり頭を抑えて踞るネロを余所に、立香達の懸念は此処にはいない修司へと向けられる。修司の強さは特異点の旅の中でも嫌と言うほど理解しているが、それでも全くの無傷でカルデアに戻ってきた事は一度もない。中でもオケアノスでの戦いは修司が死にかけるほどの激闘となった。

 

これから先、あの様な激闘が待っている。来るべき決戦を前にしてインドの大英雄と戦う事になった修司に、立香は心配に思うのは無理なかった。

 

しかし………。

 

「どぅわぁぁぁぁっ!? な、何事かねこの衝撃はぁぁぁっ!?」

 

「た、大変です先輩! 修司さんとカルナさんが向かった方角から大規模の熱量と熱波が押し寄せてきます!!」

 

先ずは、自分達の身を守れる様になってからにしよう。遠くから押し寄せてくる熱の津波を前に藤丸立香は白目を剥きながらマシュに宝具の展開を命じるのだった。令呪込みで。

 

その後、カルナと修司の戦いを目の当たりにしたエジソンが頗る面白い顔を晒しながら絶句する事になるのだが、それは物語には関係のない話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 熱が大地を焼き、炎が天を焦がしていく。一つ一つが命を奪う炎神(アグニ)の如き火の礫を生身の拳が打ち砕いていく。遥か広がる北米大陸を駆け足 、大英雄が槍を振り抜く度に、大地が悲鳴を上げながら砕かれていく。

 

熱と炎にまみれた大地、カルナの奮った一撃で砕けた大地を、白き炎に身を包んだ修司が走る。陥没し、隆起した大地を足場に跳躍し、修司の蹴りがカルナの顔目掛けて放たれる。

 

それを、カルナは己の槍を使って当然のように受け流す。重なりあう視線、互いに相手の事しか見ていない両者の顔には、子供のような笑みが張り付いていた。

 

次に起こる拳と槍の応酬。こんなものか? いいやまだまだ。そんな会話さえ聞こえてきそうなやり取り、事実、二人の胸中はそんな子供染みた思いで埋め尽くされていた。

 

特にカルナはその胸中を言葉に出来ない程の歓喜に震えている。那由多の果てにも等しい可能性の果て掴めた再会、嘗て再戦を誓った相手がより強大に成長してくれた事実、自分が全力を出しても尚届かない桁外れの強者。嬉しくない筈などなく、不満など……ある筈もなかった。

 

ただ、惜しむらくは目の前の男の本当の全力を引き出せていない事だろう。いや、本気なのは間違いない。目の前の男が尋常な戦いで手を抜く輩でないことはカルナ自身がよく理解している。

 

目の前の敵───修司がそうしないのは偏に反動を恐れているから、勝負を決めるにはまだこの瞬間ではないから。それは修司にとってサーヴァントでいう宝具並みに戦いの明暗を決める奥義だからだ。

 

(ならば、その奥義………引きずり出してやろう!)

 

「考え事をしている場合かよ!」

 

 瞬間、カルナの手にしていた錫杖が蹴り上げられる。戦いに於いて思考を巡らせての隙、ここで晒すのは愚の骨頂と修司がカルナの胴に拳を叩き込もうとして………瞬間、視界がブレた。頭部を始めとした肩、腕、胸元、胴、太股へこれ迄受けたことのない衝撃と痛みが修司を襲う。

 

「確かに俺はランサーのクラスで召喚されたサーヴァントだ。槍術こそが今の俺の本懐………しかし」

 

「徒手空拳が苦手だと、言った覚えはないぞ」

 

見れば、悪戯の成功した悪ガキの様な笑みを浮かべたカルナが、拳を突き出していた。彼はインド神話に於いても最上級の武芸を誇る戦士、剣や槍だけでなく、無手の戦いすらも達人級なのは当然の話だ。

 

 カルナの手に槍が戻る。殴り飛ばされ、体勢を崩した所への一刺し、防ぐのは困難と判断した修司は体を捻って直撃を避ける。抉られる脇腹、痛みに眉を寄せながらも、瞬時に戦闘に影響はないと判断し修司は避けた勢いを脚に乗せ、カウンター気味にカルナの腹部に叩き込む。

 

血を吐き出し、吹き飛んでいくカルナ。痛みと衝撃に意識が所々で途切れるが、それでも彼の高揚感が消えることはなかった。

 

「あぁ、素晴らしい、素晴らしいぞ。修司、我が敵よ、お前の研鑽は瞠目に値し、お前の強さには敬意を評したい」

 

 鍛え抜かれた肉体、虐め抜かれた四肢。安泰と安寧がもたらされている現代に於いて、修司の行いは当時のカルナには無駄に思えた。

 

何故そこまで己を鍛える。どうしてそこまで強さを求める。嘗ての大戦を経て、比較的平和な国で生きられた筈なのに、どうして其処までして自己を高められるのか。

 

降りかかる理不尽、不条理が許せないからと、修司は言った。まるで子供の様な願いだ。世界には不条理で溢れ、それ以上に理不尽にまみれている。それは古の時代から存在して、理不尽や不条理に振り回された人間は現代、神代問わず存在している。

 

何より、不条理や理不尽を覆すというのなら、それは己自身が誰かの理不尽、或いは不条理になるという事。矛盾している、嘗てカルナは修司の想いをそう断定した。

 

しかし。

 

『それでもだ。それでも俺は振り掛かる一方的な理不尽を許しはしない』

 

『自身の願いが矛盾しているモノだと、それでも尚、お前はその道を進むというのか?』

 

『あぁ。それに……嫌だろ? 自分の大切な人やモノが、良く分からない奴に一方的に壊されるなんてさ』

 

 

『だが、それはお前自身が他者に対する理不尽になるという事、お前が理不尽を許さないと力を奮うことで、お前という理不尽に涙を流す者も現れるだろう』

 

『そん時は、皆で考えればいいさ。ぶつかり合う前に言葉を交わせば、それだけで見えてくるものだってきっとある』

 

『………その皆で解決出来なかったら?』

 

『解決するさ。だって俺達は人間だ。考え続ける限り、諦めない限り道は続く。ありきたりだけど、俺達人間はそういうモンだと、俺は思っているよ』

 

 笑いながら、彼はそう口にした。身勝手で、浅慮で、ありきたりな言葉を口にし、それを信じると豪語するありきたりな人間。真っ直ぐで、逞しく、今を生きる人間。

 

強いわけだ。眩しいわけだ。そんな人間に自分が出来るのは、何処までも正直に、愚直なまでにぶつかり合う事だけ。

 

故に、カルナは決めた。

 

「っ!」

 

 気配が強くなった。膨れ上がるカルナの闘気に気付いた修司は、立ち上がるカルナを前に身構える。

 

「素晴らしき我が敵よ。お前の力、お前の業、お前の強さ、感嘆する。これら全てにはお前自身の信念がこれでもかと伝わってきた。そんなお前に対し、今のままでは不足だと俺は認識している」

 

「…………」

 

「───故に、お前を討ち倒す為、お前に勝つため、俺には絶対破壊の一撃が必要だ」

 

カルナが手を天に掲げた時、彼の身に纏う鎧が消えた。否、融合されていく。他でもないカルナが奮う槍そのものに………。

 

 瞬間、カルナの内から炎が溢れ出す。それはありとあらゆるモノを溶かし、溶解させ、蒸発させていく。

 

宝具の顕現。ただその余波だけで北米の大地が溶解し、波打つマグマとなっていく。その圧倒的な熱量に修司は眼を見開いた。

 

更に熱量は跳ね上がり、周囲の地形を変えていく。天も地も弾け飛び、残っているのは修司とカルナの二人のみ。

 

気付けば、カルナの背には日輪が輝き、目映い太陽が修司を見下ろしていた。

 

「我が素晴らしき敵よ、どうか今一度お前の名前を聞かせて欲しい」

 

「………修司、白河修司だ!」

 

「修司よ、再び出会えた我が仇敵よ。最大にして最強の好敵手よ。お前という男に対し、最上の敬意を以てこの一撃を捧げよう!」

 

これが、カルナの最後の一撃。逃げる訳にはいかない。避けるわけにはいかない! 負けたくない。自分との約束を信じて疑わなかった男の一撃を前に、修司もまた全力で迎え撃つ事を決めた。

 

「───界王拳」

 

静かに告げる言の葉。修司が身に纏う白い炎から、朱色の炎へと変わるのを見て、カルナは何度目か分からない笑みを浮かべる。

 

そして───。

 

「───神々の王の慈悲を知れッ」

 

「───かぁ」

 

 カルナの背に片翼の翼が広がっていく。言葉を紡ぐ度に力は溢れ、修司もまた両手を腰へ持っていく。

 

「インドラよ、刮目しろ」

 

「───めぇ」

 

それは、カルナの持つ鎧を代償にインドラより授けられた必滅の一撃。それはあまねく事象を滅ぼし、神すらも殺す必殺の一刺。

 

対するは、物語の主人公が放つ誰もが一度は真似をした幻想の一撃。それは多くの巨悪を打ち倒し、多くの少年達が夢見た夢想の必殺。

 

「絶滅とは是、この一刺」

 

「───はぁ………めぇ………」

 

最早、言葉は不要。極限に高め合った力と力、臨界を超え、光と光が北米大陸を覆い………。

 

「灼き尽くせ、日輪よ、死に随え(ヴァサヴィ・シャクティ)!!

 

「波ァァァァァァッ!!」

 

必滅の神槍と、夢想の必殺が激突する。

 

 天地が砕かれ、大陸が悲鳴を上げる。ぶつかり合う力と力、均衡する両者の力は周囲の世界を破壊しながら、尚続く。

 

神々の王の一撃を以てしても、それでも尚、修司は倒れない。覆い、潰しに掛かる熱量を前に、身に纏う炎は全く萎える事はなく、彼の目には光の中で此方を睨むカルナだけを映していた。

 

カルナもまた、修司を見やる。これが現代に於いて最強の人間なのだと、自身が消滅して座に還っても、記録としてではなく記憶として憶えていられるように、その姿を魂に刻んでいく。

 

「これで………最後だッ!!」

 

 瞬間、カルナは吼える。ケルトとの決戦(後の事)も、人理焼却(先の事)も、何もかもを忘却の彼方へと追いやり、施しの英雄カルナはこの刹那に自身の全てを捧げた。

 

負けたくない。負けはしない。何処までも続く意地の張り合い。しかし、全力を出し合う中、修司の心境はカルナとは少々異なっていた。

 

必ず勝つ。ケルトの決戦と、そこで待つクー・フーリンに勝ち、人理焼却も覆す。後も先もかなぐり捨てたカルナに対し、修司は後も先も拾い集めるつもりでいた。

 

きっと、二人にあった違いはそこだけ。後も先も考えずに振り絞ったカルナ、後も先も打ち勝つ事を決めていた修司、意地の張り合いはいつでも欲張りの者が勝つのが必定で。

 

「10倍だァァァァッ!」

 

「っ!?」

 

欲望が薄く、聖人の様な武人のカルナが打ち負けるのは………きっと、避けようのない事だったのだ。

 

(あぁ、そうか。俺は……もっと欲張りになれば良かったのか)

 

太陽の光が、幻想の光に打ち負ける。掻き消され、霧散していく自身の宝具。迫り来る蒼き閃光を前に、施しの英雄カルナは………やっぱり、笑いながら受け入れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(────俺は、負けたのか)

 

 自覚し、思い返すのは全力を出し切って戦った男との一戦。全てを出し切り、死力を尽くしたカルナは、その充足感に満たされていた。

 

いや、本音を言えばまだ戦いたい気持ちはあった。もっと強者と戦いたい、あの時の様な高揚感をもう一度体験したい。まるで未熟な修行時代の自分を思い出したような心地、こんな気持ちで退場するとは……夢にも思わなかった。

 

 もし、再び修司と出会う事があれば、今度は礼を言うのを忘れずにしよう。何もかもが満たされ、心地よく“次”を願うカルナ。

 

しかし、そんな彼の思惑とは裏腹に自身の意識はドンドンと浮上し………。

 

「ヨッ」

 

 目を覚ませば、岩に腰掛けて片手を上げ、カルナを見下ろす修司がいた。

 

 

 

 

 

 




Q.これ、立香達無事なの?
A.マシュ(中の英霊も)が死に物狂いで護りました。

北米神話大戦、前哨戦。

決着。

それでは次回もまた見てボッチノシ






おまけ

ifボッチがブリテンにいたら そのろく

 ───僕は、彼が苦手だ。

誰よりも正しく、優しく、厳しく、そしてハチャメチャな彼。シュージという人間はある日突然ブリテンの大地に降り立った。

この時代には不釣り合いな価値観と技術を携え、ブリテンの大地を蘇らせ、神秘を失くした後の世界でも生きていけるように、誰よりも真剣になって動いていた。

選定の剣を此方の意図せぬ方法で抜き取り、溶かし、あろうことか農具に変え、それでウーサーの怒りを買っても、彼は理路整然とした理屈で正論を宣ってきた。

当然、これにはウーサーもブチキレた。長年企ててきた自身の計画が根底からへし折られ、しかもその張本人は王なんてモノに興味はなく、一介の農民として生きていくつもりでいる。

そんな彼にウーサーはとうとう実力行使に出た。数千の騎士を従え、力付くで立場を分からせてやろうと彼のいる村に出立したウーサーは……次の日、顔中をボコボコにされながら逃げ帰ってきた。

彼を捕らえに行った歴戦の騎士達は、その悉くが鎧や剣を砕かれて戦意を失い、それでも立ち向かっていく一部の騎士達の身体中の関節を外されて繋ぎ直され、“疑似ムカデ人間”なんて酷い仕打ちを受けるはめになった。

これをやった本人は正しい順序で治せば元通りになると言ったが、この一件でウーサー側にいた多くの騎士達は騎士を止め、田舎へ帰ってしまった。

ウーサーも引きこもり、今ではモルガンがたまに寄越してくる野菜をムシャる毎日。

その後も、彼は活躍を続けた。卑王ヴォーティガーンを見たこともない魔神で消滅させ、サクソン、ピクト人を従え、遂にはローマ皇帝までもがギャン泣きさせてしまっていた。

そんな彼を民達はいつしか農家王なんて呼ぶようになった。城も持たず、臣下も持たないみすぼらしい王。しかし彼の行いにブリテンに住まう誰もが認めた。認めるしか無かった。

これから、ブリテンがどの様な結末を辿るのか、僕にはもう分からない。けれど、それは多分自分が描いていたモノよりも、ずっと眩しく、美しいモノなのだろう。

白河修司。僕は君が苦手だ。何せ、僕は半分夢魔だからね。人の機敏なんて、理解できないのさ。

「お前の場合理解できないんじゃなくて、理解しようとしないんだろ。半分夢魔? 逆を言えば半分人間なんだろ? 自分の生まれを言い訳にしてんじゃねぇよ」

「あぁ、やっぱり。僕は君が苦手(嫌い)だ」

「フォウフォーウ! マーリンザマァフォーウ!」



本当に終わり。






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