これって邪道?
今回、短めです。すみません。
「────正直言って、俺はアンタと戦った約束を交わした覚えはない。いや、思い出せていない」
遥か続く荒野、エジソンが率いるアメリカ軍の本拠地とは少し離れた無人の大地。見渡す限りが岩石と大地に覆われた赤茶けた世界、その一色に包まれた世界で二人の男は肩を並べて歩いていく。
白河修司と施しの英雄カルナ、エジソンとのやり取りを立香達に任せ、修司はこの特異点で矢鱈と自分に拘るもう一人の大英雄との決着に挑もうとしていた。これは、戦いの前の最後の会話。約束と言っておきながら、スッポリと忘れてしまっている修司のカルナに対する懺悔の言葉だった。
「俺がアンタに挑むのは……義務だ。クー・フーリンに挑む前に後顧の憂いを断とうという、打算に満ちた義務感だ」
ケルトの大英雄であるクー・フーリンとの決戦に備える為、ケルトに与するアルジュナに対抗する為、今も何処かで横槍を画策している魔術王に警戒する為、二転三転とまるで言い訳のように増えていく理由に修司の胸中は申し訳なさで一杯だった。
目の前の大英雄であるカルナは高潔な戦士だ。その逸話、伝承、伝説から不遇な戦士だと言われ続けてきたが、そんな彼の在り方は何処までも高潔だった。
如何なる相手でも決して逃げず、自身の不利になる条件でも己を曲げず、受け入れて来た戦士。修司は自身を高尚な戦士だと思ってはいないが、それでもそんな真摯に約束を守ってきた戦士に対して罪悪感を抱かないほど人でなしではない。
済まない、と。約束を交わしたにも関わらず忘れてしまった自分に対しての不義理、その上でついでのように戦うことになってしまった状況に、修司はせめてもの誠意として頭を下げようとして……。
「くだらんな」
「───え?」
目の前の大英雄は、そんな修司の誠意を一刀両断に切り捨てた。
「下らんと、そう言った。白河修司、お前のその呵責、葛藤はお前の人格を正しく表し、また己の義心によるものなのだろう。だが、今この場に限り、それは全くの不要だ」
ギロリと、鋭い眼光で見詰めてくる施しの英雄。一見にすれば薄情とも取れるカルナの言葉だが、その裏に隠された熱意は太陽よりも熱かった。
約束を覚えていない。確かにその事実はカルナに少なからずショックを与えた。幾星霜の可能性の果てに再び出会えた宿敵、そんな相手が本気で覚えていない事実に施しの英雄は生前も体験しなかった絶望を経験した。
だが、そんなカルナの絶望も修司の肉体を目の当たりにして覆った。鍛え抜かれた肉体、気力は共に以前の彼を遥かに凌駕し、今も尚成長───否、進化を続けている。自分と戦う為ではない、全ては己の身に降り掛かる理不尽や不条理を跳ね退ける為。間違っても自分との決着に備えたモノではないと、カルナは思い上がる事はない。
それで充分だった。自分との約束を忘れても、自己を高め続けた修司。そんな彼が今こうして自分との決着を付けるべく相対している。カルナにとって、その事実だけで充分だった。
理由がある? それの何がいけない。人は戦いに意味と意義を見出だすモノ、理由を持たずに命を奪い合う行為は獣の共食いと何ら変わりない。故に、カルナは修司が謝る意味が分からなかった。
ただ、修司がそれを申し訳なく思うのなら、それを軽くしよう。約束を忘れ、それでも尚果たそうとする宿敵に対して、カルナもまた誠意で応えた。
そして、そんなカルナの気持ちは届いたのか、修司は一瞬だけ眼を丸くさせ、プッと吹き出したように笑みを溢した。
「く、クク………なぁ、アンタさ、意外と優しいとか言われた事ないか?」
「? いや、記憶にないが………」
「じゃあ、一言余計だとか、逆に一言足りないとか、言われたりは?」
「それは…………ある、かもしれないな」
一瞬、ぽっちゃり体系の女性が何か言っている光景を幻視した。姉の様な、要介護者を前にした様な、放っておけない何かが脳裏を横切ったが………不思議と、それは不快なものではないと思った。
気が付けば、カルナもまた笑っていた。大英雄の顔とはまた別の………年相応の青年らしい笑み、そんな顔も出来るのかと、修司もまた笑みを溢した。
そして………。
「さて、雑談も此れぐらいにして………始めるか」
「あぁ、彼方も、そろそろ始める頃合いだろう」
耳を澄ませば、遠くで戦いの音が聞こえてくる。恐らくはエジソンとエレナ、立香達が戦っているのだろう。これに勝利すれば、ケルトとの決戦が待っている。だが、敗北すれば自分達はアメリカ軍に組み込まれ、更なる混沌の呼び水になってしまうだろう。
しかし、不思議とそうなるとは思わない。何より、今のこの場においてそんな考えは無駄でしかないからだ。
「では───」
「尋常に───」
「「勝負」」
駆るは同時、インドの大英雄カルナとの戦いは熱と炎に満たされた激突から始まった。
◇
────それは、正しく神話の再現。地獄の具現だった。槍の一振りで大地が砕かれ、その腕の一振りで大気が抉られる。拳と槍、炎と蹴り、繰り出される攻防は神話に語られる聖戦そのものだった。
カルナは静かに嗤う。大英雄と呼ばれる自身をして、常識外れな膂力の修司に、嬉しくて楽しくて仕方がなかった。全てを焼き尽くすアグニの炎を拳一つで吹き飛ばし、力で勝ってくる修司になんの冗談だと、カルナは笑わずにはいられなかった。
対して修司も嗤う。戦いは手段であって目的ではないのに、まるで昔ながらの旧友と遊んでいるかの様な感覚。カルナの槍の一振りは寒気がするほど鋭く、洗練されていて自分の皮膚を容赦なく切り裂いていく。けれど、痛み以上の高揚が二人の間に確かに存在していた。
「はぁっ!」
瞬間、修司の頭上から無数の炎の槍が降り注いでくる。それはフィンとディルムッドに会敵した時に見たモノ、当たれば火傷では済まない灼熱の槍を、修司は白い炎を強く滾らせ、拳一つで捌いていく。
瞬間、大規模な爆発が修司を呑み込んだ。大陸に生えるキノコ雲、モニターの向こうでロマニとダ・ヴィンチが噴き出す一方で、修司はカルナを探す。
カルナは何処だ。気による感知を周囲に巡らせ、視覚と一緒になって奴の姿を追い………
「武具など無粋。真の英雄は───眼で殺す………!」
「うぉぉぉっ!?」
眼からビーム。比喩ではなく、ガチで眼光から熱線を飛ばしてくる大英雄に修司は戸惑いながら横へ回避した。瞬間、カルナの放つ熱線の射線上にあったものは大地ごと熔解していく。修司の胴着の上着、その右半分が延焼し、アチチと悶えながら修司は己の一張羅を鎮火させる。
なんと言う火力。腕力や膂力なら言うに及ばずだが、火力という一点でなら、あの時のヘラクレスに比肩するかもしれない。後ろに広がる災害を目の当たりにして修司は漸く自覚する。目の前にいる男は紛れもなく神話の戦士なのだと。
しかし、修司も負けてはいられない。追撃を仕掛けてくるカルナに修司は防御を捨てて前に出る。圧倒的火力を持つカルナに無謀とも言える特攻、放たれる第二のビームを撫でるように回避し、飛翔する様に跳躍すると、その拳を大英雄目掛けて叩き込んでいく。
ブッ、とカルナの鼻から血が吹き出した。顔面に伝わる衝撃、堪らずカルナは瞬きをしてしまう。生物であるなら誰もが行う反射的防衛本能、それを極限に削いだカルナの僅かな隙、しかし修司にはその僅かな一瞬で充分だった。
蹴りがカルナの腹部に直撃する。神々の王を以て砕けないとされてきたカルナの鎧、加えて自身には神性の中でも最高峰のAクラスの加護がスキルとして備わっている。
通常であればダメージなど皆無。なのに、そんな事はお構いなしに衝撃と痛みがカルナを襲う。吹き飛び、幾つもの岩壁を貫かれ、瓦礫の下敷きになったカルナは、務めて平静を装いながら自身の受けた痛みの理由を分析する。
いや、理由なら分かっていた。恐らくは修司の纏うあの炎。己の魂を鎧、或いは武具として昇華させ、神性をも貫く武器にしているのだろう。
なんという出鱈目だ。己の魂を武器として扱う胆力、そしてそれを為している総量。とても人間業とは思えない。それとも、彼の内の奥底に眠る破壊神に類似する何かが、理すらねじ曲げているのか。
気になる所は多々あるが………そんなモノは関係ない。仮に何らかの加護が修司にもたらしているのだとしても、彼自身の力であることには変わりない。
(そうだ。それでこそだ!)
白い炎を纏って突っ込んでくる修司にカルナは不敵に笑みを浮かべて跳躍する。手にした槍を掲げ、魔力を込めると、錫杖だった槍の形態が変化する。
顕れる黒い刃。あれが錫杖の本当の姿だと修司が警戒し、立ち止まる。すると周囲の大気が熱を帯び始め、辺りが灼熱と化した。
「
膨大な熱量が、修司を覆う。伝承では核に匹敵すると謂わしめる投擲兵器。一介のサーヴァントでは防ぐことも敵わない圧倒的熱量を前に………。
「エクス───カリバーッ!!」
修司は自身の右手に力と光を集め、迫る炎の塊に向けて振り放つ。激突する光の刃と炎の槍、混じり合い溶け合った力の奔流は爆発となって大地を砕いていく。
炎に包まれた大規模なクレーター、深く陥没した大地の中で未だに致命傷を受けていない二人。
未だに決着に至らない戦い。これより更に激しさを増していく激闘を前に………。
「ふ、ふふ……」
「へへ………」
二人の男は楽しそうに笑っていた。
「………カルナっ」
そんな二人を遠巻きで見詰める男が一人、悔しそうに歯を食い縛っていた。
Q.カルナの眼からビームって、格下相手には使えないんじゃなかったっけ?
A.きっと呪いさんもヨシッ! と許してくれたんや!
……嘘です。ノリと勢いで書きました。ゆ、許してください!!
Q.二人の気持ちは?
A.「「オラ、ワクワクすっぞ!」」
スカサハ&アルジュナ「……………」(ジェラァ)
それでは次回もまた見てボッチノシ
おまけ
ifボッチがブリテンにいたら そのろく
───それから暫くして、私は王になった。
ウーサーもマーリンも意気消沈しながら表舞台から消え、ブリテンの玉座はこのモルガンのモノとなった。ブリテンの全てが私のモノで、刃向かうモノは誰一人いなかった。
ブリテンを如何にして支配し私色に染め上げるか、そればかりを考えていたある日、不思議な噂を耳にした。
曰く、ブリテンのとある場所で楽園が生まれた。枯れた大地を甦らせ、不思議な手段で豊潤な大地に変えた男がいるという噂。その男の前では騎士も民もなく、またサクソン人やピクト人すらも従えた規格外の怪物だと。
何をバカな、そう思い身分を装って現地に向かうと、噂以上の光景に私は言葉を失った。瑞々しい大地に実る穀物、そこに争いはなく、人も騎士も皆笑って暮らしていた。
だが、ここへ来て一つの疑問が生まれる。この様な恵まれた土地にも関わらず、どうして周辺諸国は誰も奪おうとしないのか。これだけの規模と恵みがあれば、自国の食料事情は賄える。これだけの財を前にどうして誰も手を出していないのか。
外敵を阻む砦もなく、外敵を惑わず魔術の仕掛けもなく、ただあるがままの世界がそこにあった。一体ここの領主は何をしているのか、不思議に思った私がこの先にいるとされる噂の男の住処を訪ねて………言葉を失った。
まるで下人、或いは奴隷が寝泊まりするような小さな小屋。風が吹けば、それだけで瓦解してしまいそうな小さな小屋。こんなものが噂の男の家なのか、困惑する私がそんな筈がないと頭を振った時───奴は現れた。
何度目か分からない絶句、そして理解した。何故この地に砦もなく、魔術の仕掛けもないのか、奴と出逢った事で私は全てを理解した。
必要がない。如何なる外敵も、軍団も、この男の前では全てが無駄に終わる。妖精の眼を持つ自分だからこそ、目の前の男の特異性が理解できた。
この男は異常だ。身に纏うオーラも、内に秘めた魂の総量も、何もかもが桁違いだ。何をどうしてこの地を豊かにしているのかは謎だが、その力が武力として此方に向けられていない以上、下手に敵対するのは確かに控えるべきだろう。
ピクト人も従えている事から、この地の領主も迂闊に手を出そうとしない。その日、私は栽培された野菜の数々を手土産に城へと戻った。
決めた。あの男は私が貰う。あれだけの力と教養を身に付けた人間は存在しない。近い内、遠からず諸国の姫共が手を出そうとするだろうが………そうはさせない。息子たちもあの男には気を許しているし、いつか必ず奴を私の夫にしてみせる。
その為に、奴の気を引くことにしよう。先日は胡椒なるものの入手に失敗したが、今度は奴のお得意な農業を手伝うことで奴の気を引き、取り入ってやる。
ククク、他の女どもは土いじりに抵抗していたが、このモルガンは違う。欲しいものを手に入れるためなら、どんなに汚れても構うものか!
今に見ていろシュージ、私を貴様の懐に入れたこと、直に後悔させてやろう!
「ひゃー! い、芋虫ー!」
「全く、モルガンはだらしないですねー。たかが芋虫程度に何を騒いでいるのやら」
「ハハ、まぁそう言うな。アルトリアちゃんだって最初はそうだったろ? モルガンちゃんは初心者なのによくやってるよ。ほら、立てるかい?」
「く、くぅぅ……」
な、なんという屈辱! 覚えておれよ、シュージ!!
「フォウフォウ」
つづく………と思っているか?(ブロリー並