『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今更だけど、スパロボ最新作が発表されましたね!
来月はモンハンストーリーズ2が発売されるし、今から楽しみです。


その75 第五特異点

 

 

 

 ─────女王メイヴにとって、男とは自身に跪くモノであり、足の代わりであり、椅子の代わりでしかなかった。

 

己の挙動一つで男は靡き、自身の操り人形となる。古の時代、男が統治し支配する世界観に於いて己の美貌は剣や槍にも勝る武器だった。

 

唯一人、アルスターの戦士クー・フーリンを除いて。戦場で初めて対峙する自身に靡かなかった男、此方の手練手管を鼻で笑い、最期まで自分の下につく事に頷かなかった男。

 

故に、その男の死は免れなかった。一度でも頷けば変えられたかもしれない己の運命を、やはり笑って受け入れた男、バカで頑固な愚か者────そんな男だからこそ、女王メイヴは焦がれたのだ。

 

 女王のメイヴにとって、最強の英雄とは誰か。ギリシャ最強ヘラクレス? トンチキ集団のトップを走るカルナ? それとも……影の国の女王?

 

否、そんな有象無象など知った事ではない。最強なのはあの日、初めて出会った時から変わらない。コノートの女王メイヴの最強で最高な英雄は何時だって………唯一人に与えられる称号(モノ)なのだから。

 

喩え、彼の瞳に自分が写らなくても、恋する乙女は決して止まったりしないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……詰みだ。クー・フーリン、幾らアンタが聖杯で在り方をねじ曲げられようが、俺には勝てんぜ」

 

「ぐ、がぁぁ………」

 

 修司とクー・フーリン(凶王)が戦って数分。周囲の地形はあちこちが陥没し、隆起している。肉体の至る所から血を流し、地に膝を着けて肩で息をする凶王に対し、修司は何処までも平静だった。腕や頬からかるく血を流しているがその程度、凶王の奮う呪いの死槍の効果は修司の意に介さずに弾かれてしまっている。

 

端から見ても凶王に勝ち目などなかった。 その事実にケルトの尖兵達は動揺し、戦意も折れ始めている。既に包囲網も崩壊し、立香達の逃げ道は確立されている。

 

だが、誰もその場から逃げようとしなかった。圧倒的な力の差、サーヴァントでも埋めようがないその格差に敵側は勿論、味方すらも戦闘の意志が抜け落ちてしまっていた。

 

「話には聞いていたが………これ程とは」

 

「これ、俺達の出番ないんじゃねぇか?」

 

「ぐぬぬぅ~、余の出番をこれでもかと奪いおって! あやつ嫌い!」

 

 ジェロニモもロビンもネロも、口でこそ三者三様に呆れてはいるが、彼らから見ても修司の強さは本物であると認めていた。認めるしかなかった。

 

折れては自身の内側から生えるを繰り返し、身を削って生成する槍を以て奮われる鏖殺の槍を、正面から砕き、凶王を殴り、蹴り飛ばす。影の女王(スカサハ)すらも梃摺る呪いの死槍を己の手足で粉砕する修司を見て、誰もが彼の勝利を確信していた。味方だけでなく、敵すらも。凶王の幕下にあるサーヴァント達も、そう認めざるを得なかった。

 

「………あぁ、くそ。強いなテメェ、当然か。テメェはあの日からずっと強くなる為に鍛え続け、俺はあの日から何一つ変わっちゃいねぇ。差を付けられるのは当たり前か」

 

「…………クー・フーリン」

 

「だがな。まだ俺は折れてねぇぞ。テメェがあの日から折れてないように、なぁ!」

 

 しかし、それでも凶王は立ち上がる。全身から血を吹き出し、足下に赤い血の池を作っても、それでも尚、狂った王は獰猛に笑う。それを目にした修司は全身を覆う白い炎を滾らせ、炎の色を白から紅蓮の如き紅へと変えていく。

 

「………行くぜ、クー・フーリン。この一撃であの日のやり残しを終らせるぞ」

 

「やってみろよクソガキ、生意気な小僧があれからどれだけ成長したか、見せてみろォッ!」

 

駆け出す両者、既に勝ち目のない凶王にとってそれは特攻同然であった。しかし悔いはない、あの日果たせなかった戦いの続きを自身の手で終らせる事が出来た。

 

これで、全てが終わる。振り抜かれる槍と拳、凶王クー・フーリンの目には自身を終らせる者しか映しておらず………故に。

 

「な………に………?」

 

 横から現れる美しき女王の姿に反応する事ができなかった。

 

瞬間、鮮血が舞った。砕かれた大地に赤く滑った液体が振り撒かれ、その場にいる者の全てが停止する。ケルトの兵隊も、フィンやディルムッド、スカサハを含めた立香達も、そして修司も。いや、それ以上に……。

 

クー・フーリンが驚愕した顔で、己の槍で貫かれているメイヴを抱き抱えていた。

 

「テメェ、メイヴ………何のつもりだ?」

 

「あ、はは、やっと、クーちゃんに……貫かれたぁ。本当は、もっと別のモノで貫いて欲しかったけど、これはこれで………悪く、ないかなぁ」

 

 クー・フーリンの槍に胸元から貫かれ、口元から血を吐き出すメイヴ。霊基の核を貫かれ、最早助かる見込みのない女王に狂った筈の王は何故と問い詰める事しかできなかった。

 

「なにを勝手な事をしやがる。俺は、俺の勝手に戦っていただけだろうが。テメェはそれでいいと、それでこの国を取っちまえと、そう言っただろうが」

 

「うん、言った。言ったよクーちゃん。でもね、嫌だったんだ。私を見てくれないクーちゃんが、私以外に夢中になっちゃうクーちゃんが、一番近くにいるのに、誰よりも遠くにいる気がして………」

 

「なら………」

 

「でもね。負けを受け入れているクーちゃんが、一番嫌い。負けてもいいなんて考えているクーちゃんが、一番………嫌だなぁ」

 

「っ!?」

 

 その言葉は子供の駄々、或いはそれ以上にどうしようもない身勝手なモノだった。歪めたのはコイツなのに、そうあれと望み、歪曲したのは他でもないメイヴ本人だ。邪悪に邪悪を重ね、自分と同じ魔性に至れと呪いを植え付けてきたコノートの女王。

 

だから、それがどうしたと言えた筈だった。勝手な女だと唾棄し、唾を吐き捨てる事だって出来たはず。しかしどうしてだろう。凶王となり、誰よりも邪悪に新生したというのに、狂った筈のク・ーフーリンはその女を手放せずにいる。

 

そんな彼の頬を愛しそうに撫でる。それは、悪名高いコノート女王にはこれ以上なく似合わず、それでいて………美しい顔だった。

 

「だからね。そんなクーちゃんに更なる呪いをプレゼントしてあげる。─────勝ちなさいクー・フーリン。私の総てをあげるから、あの白河修司(クソ野郎)に勝ちなさい」

 

 その言葉を最期に、女王メイヴは消滅する。光の粒子となったソレはクー・フーリンに刻まれるように、彼の中へと吸い込まれていく。その光景は先の特異点でイアソンが見せた現象と酷似していた。

 

瞬間、クー・フーリンから光が溢れ出す。濁流となった光は北米大陸の天を貫き、覆っていく。

 

『こ、この反応は………不味い! これはオケアノスの時と同じモノだ! 修司君、今ならまだ間に合う! あの現象が収まる前に、この戦いに決着を付けるんだ!!』

 

「っ!」

 

通信から聞こえてくるロマニからの必死な声に修司の表情が強張った。彼の言う通り、このまま放置すればクー・フーリンはあの時のヘラクレスの様に凄まじい力を以て顕現する事だろう。それを防ぐには今の内に倒すしかない、クー・フーリンが生前の力を取り戻す前に(・・・・・・・・・・)

 

 そう、ロマニの言うことは正しい。戦略的にも戦術的にも、相手が強くなる前に決着を付けるのが正しい選択だ。誰だって文句は言えないし、言わせない。人理焼却を覆す為に余計な障害は取り除くべきなのだ。

 

だが、その考えに至るのに、非情になりきるのに、修司は僅かな迷いがあった。

 

何故なら、美しいと感じてしまった。一人の男の為に文字通り総てを擲った彼女が、修司は凄いと感じてしまっていた。誰かの為に自身の命も厭わない、その行為に修司は嘗ての両親を思い返してしまう。自分の為に自身の命を投げ捨てた両親と目の前の女王が重なって見えてしまったのだ。

 

そんな彼女の想いを踏みにじる真似は………出来ない。修司の中にある良心が、迷いを生んだ瞬間だった。

 

時間にして一秒も満たない刹那、修司は遂に駆け出した。胸に残る葛藤と痛みに耐えながら、目の前の大英雄の復活を阻もうと、掲げた手刀に力を入れる。

 

「エクス………カリバー!!」

 

 これで全てを終らせる。僅かな後悔を抱きながら刃となった己の手刀を振り下ろし────。

 

「っ!?」

 

しかし、その一撃は二人のサーヴァントの………身を呈しての防御に阻まれてしまった。

 

「ゴフッ、そ、そうはさせぬさ。我等が王の新生………いや、再誕の邪魔はさせんよ」

 

「っ、フィン・マックール!」

 

「ぐぶっ、は、済まないなディルムッド。私の我が儘に付き合わせてしまった」

 

「いいえ、この戦いの一助になるのなら、盾になることくらい、何の気兼ねもありません!」

 

 フィン・マックールとディルムッド・オディナ。二騎ともジェロニモ達の猛攻を必死になって捌いていたのに、追撃を掛けられるのも構わずに無防備の背中を晒しながら、王の盾になる道を選んだ。

 

 

背中に幾つもの傷を受け、血を流し、修司の一撃で胴体を両断された二人。既にサーヴァントとしての耐久値は超え、消えるのみとなったのに………その表情は受けた傷とは裏腹に、何処までも晴れやかだった。

 

戦いの中に意味を見出だし、意義のある最期を見出だした二人。護るべきモノを守れた満足感と達成感を抱きながら、フィオナ騎士団の二人は消滅した。

 

 そして、それは新たな戦士が誕生した瞬間でもあった。天を貫いていた光の柱は消え、残されたのはたった一騎の英霊………。

 

否、修司達の目の前にいるモノは、既に英霊の枠組みから逸脱していた。被っていたフードは焼け落ち、獣のごとき尾は崩れ、そこには立香もよく知るクー=フーリンと良く似た男の姿があった。

 

露になったケルト最後の戦士、この男を倒せば全てが終わる。………なのに、誰も動けない。静かに見据える修司とスカサハを除いて誰一人、指一本、動かす事が出来ないでいた。

 

「ったく、ドイツもコイツも勝手な事をほざきやがる。だが、それも良いだろう。気に食わねぇが、今回ばかりはテメェの言うことに乗ってやる」

 

「その前に………まずは、二人。その心臓を貰い受ける」

 

「っ! しまっ───」

 

瞬間、ケルトの大英雄が起動する。爆発的に膨れ上がる闘気に修司がいち早く反応するも………既に、光の御子は一人のサーヴァントの胸に朱色の槍を突き立てていた。

 

「ジェロニモォッ!!」

 

「ば、バカな。速………過ぎる」

 

胸元を貫かれ、心臓を砕かれたジェロニモ。抵抗すら許さない速さに驚嘆する彼の目には………既に、クー・フーリンの姿は映ってはいない。

 

駆ける大英雄、その速度は既に光の領域へと差し掛かり、彼の瞳に映る全てが鈍重に見えていた。遅く、鈍い世界。そんな世界で無情に駆け抜ける彼が次に穿つのは、アウトローの少年悪漢王。

 

得意の早撃ちで牽制するも、クー・フーリンには当たらない。否、当たった所で通らない弾丸にビリー・ザ・キッドは引き吊った笑みを浮かべることしか出来なかった。

 

「がっ、ん……だよ、これ。反……則……すぎ………」

 

貫かれた心臓、溢れ落ちる命の音を聞きながら二騎のサーヴァントは消滅する。圧倒的、なんてものじゃない。本当の意味で“全盛期に限りなく近い状態”となったクー・フーリンに、誰もが追い付ける事が出来なかった。

 

このままでは此方が全滅する。ならば自分が殿を務めようと、半ば自棄になったネロが前に出ようとした時、一人のサーヴァントが走り出す。手にした拳銃を使い、警告なく発砲。一瞥すらせず、片手間で弾く大英雄にナイチンゲールは拳で殴り掛かる。

 

狂戦士として召喚されたナイチンゲール。その膂力は並の戦士を遥かに超えているが、彼女の拳を頬に直撃しても尚、クー・フーリンは揺らぐことはなかった。

 

「重症患者を確認。これより治療行為を開始します」

 

「患者か。確かに、今の俺は重症と呼べるかもな」

 

「自覚症状があるようで何よ────っ!?」

 

「だが、俺を相手にするにはお前では足りん」

 

 冷淡な目でナイチンゲールを見据え、可能な限り加減した蹴りで吹き飛ばす。血を吐き出しながら吹き飛ぶナイチンゲールを抱き止めたのは修司だった。

 

これ迄の一連の流れを、立香は全く以て反応できなかった。しかし、そんな立ち尽くしている彼女を誰も責めることは出来やしない。

 

先程までとは異なる次元へ昇華したケルトの大英雄。戸惑っているのは立香達だけじゃない、周囲のケルトの兵も、アルジュナすらも突然の出来事に理解が及んでいないのだ。

 

「………白河修司。改めてお前に決闘を挑む、場所は白い家。日取りはそちらで勝手に決めろ。次にお前が俺の前に現れた時、それが決戦の合図だ」

 

「っ、まて! 逃げる気か!」

 

「追って来るなら構わん。好きにしろ。但しその時は……決死の覚悟で挑んで来い」

 

 修司と睨み合うのも僅か、槍を収め、クー・フーリンは自分達に背を向けて去っていく。ラーマが呼び止めようとするも、返ってきたのは体が重く感じるほどの濃厚な殺意のみ。その殺意に黙らされたラーマを尻目にクー・フーリンはその場から立ち去っていく。

 

自分達の王が去っていくのに自分達がここにいるわけにはいかない。去り行く王を追ってケルトの兵隊も付いていき、アルジュナも霊体化となって彼の後を追った。

 

 残された修司達。生き残り、サーヴァントの数は未だに此方が上。なのに全く勝った気がせず、寧ろ見逃された気がする。そんな立香達の心境を知らずに、ナイチンゲールを抱えた修司は口を開く。

 

「……責任、取らなくちゃな」

 

「…修司さん?」

 

それは、本来なら止められた筈の事象への悔恨。自分が迷い、躊躇ったゆえに起きた出来事。恨み節も断末魔も上げることなく消えていった二人の英霊へのせめてもの弔い。

 

「ごめん立香ちゃん。何度も何度も迷惑を掛けて………あのクー・フーリンは、俺が倒すよ」

 

 その為には先ず、戦力を整える必要がある。ケルトの軍勢を相手にしても決して負けることのない勢力を、此方に付ける必要がある。

 

一行は次なる目的、大統王の下へと向かう。そこで待ち受ける戦い、それはきっとこれ迄よりも激しいものであると、何処かで確信しながら………。

 

 遠く離れた地で、施しの英雄が笑った気がした。

 

 





Q.今回、どうやってメイヴはクーフーリンを覚醒させたの?

A.愛ですよ。ナナチ、偏に愛の力です。

Q.次回は?

A.スーパーインド大戦が開幕する予定です。

あくまで予定ですので、期待せずにお待ちください。


それでは次回もまた見てボッチノシ




ifもしもボッチがブリテンにいたら? そのご


「余こそが今代のローマ皇帝、ルキウス=ヒベリウスである! シュージよ、余との決闘を受けるがいい。貴様が敗北した暁にはこのブリテンごと我が配下に加えてやろう!」

「え? 何で俺? いつ俺がブリテンの代表になったの?」

「え?」

「え?」

「いや、だって、他の周辺諸国の王達は皆貴様が代表だと………」

「え? そうなの? 初耳なんだけど」

「当然ですね。シュージ殿はブリテンの土壌改革から始まり、数えるのも億劫な程に偉業を成し遂げているお方、現在進行形で改革を行い、サクソン人もピクト人も貴方の配下となった。今やブリテン中が貴方の行いに注目していますよ」

「しれーっと行ってくれるねアッ君、なに? この間のアルトリアちゃんの面倒を押し付けたこと、まだ根に持ってんの?」

「ハハハ、まさか」

「えぇい! 余を除け者にして談笑なんぞしおってからに! 構えろシュージ! 貴様を倒し、ブリテンを我が物にしてくれるわぁ!」

「ったく、しょうがねぇなぁ………ハァァッ!!」

「な、なんだその紅い炎は!? え? よ、余の剣が、魔剣フロレントは……」

「おっ、結構いい鉄使ってんじゃーん♪ いい鍬になりそう」

「お、おい何をする気だ? よせ、止めろ、それは余の大切なまけ──」

「ていや」ボキッ

「アッーーーー!?!?」

 その後、ギャン泣きしながら地元へ帰るローマ皇帝がいたとかいなかったとか。


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