出来映えはお察し下さい。
────それは、北米大陸に蒼白い閃光が覆う少し前の事。人類最悪の監獄として知られる監獄島、アルカトラズ。
サンフランシスコから3km程離れ、孤島となっている場所。ケルト勢力によって制圧され、要塞と化した大監獄は………現在、激闘が繰り広げられていた。
振りかぶる二振りの剣。理もなく、ただ己の腕力で奮われる暴力は、しかして命を砕く威力が秘められている。ひとつひとつが死を免れない剛擊、それが束となり濁流となって押し寄せてくるその全てを、山吹色の胴着を身に纏う男は正面からおのれの拳だけで打ち抜いていく。
刃ある剣に対し、自身の拳で迎え撃つ。常識で語るなら、山吹色の男の拳は奮われる剣の一撃によって両断される筈、しかしそんな常識を嘲笑う様に、山吹色の男が放つ拳は、神話に語られる英雄の一撃を弾き飛ばしてしまった。
鋼同士がぶつかり合う音。火花を散らしながら重ね合う剛擊の数々を、山吹色の男────白河修司は全て自身の拳だけで打ち合って見せている。
それを、北欧の英雄───ベオウルフは、驚愕以上に歓喜に震えた。
「は、ハハハ! マジかよお前! 剣を前に拳で返すとか、どんな命知らずだよ。バカだろお前!」
「生憎と、そんな柔な鍛え方はしてねぇからな。師父から肉体を鋼に変える呼吸法は既に体得している。後は気を全身に纏わせて、肉体をより強硬に固めるだけだ」
「ハッ、成程な。その白い炎がそうか。派手な上に強ぇとか、羨ましい限りじゃねぇか! だがな……」
「俺を忘れてもらっては困るな」
「っ!」
腕と剣でつばぜり合いとなったベオウルフと修司、そんな二人の間を文字通り割り込む形で、円錐の剣が頭上から地面に降り注いできた。
ベオウルフを弾き飛ばし、自身も後ろに飛んでその一撃を避ける。すると、修司がいた場所が爆発し、エネルギーの奔流がアルカトラズの中央広場を蹂躙していく。
「フハハハ! 強いだけじゃなく、勘まで鋭いと来たか! 全く、その若さでそれだけの強さを得ているとは、生まれてきた時代を間違えたとしか思えんな! そうだ。なぁ修司よ、今からでも我等の所にこないか? お前ならきっと我等ケルトもお前を受け入れるだろうよ」
「冗談じゃねぇ。誰が好き好んで殺し合いが大好きな部族に入るかよ、こちとら礼儀正しく他人への思い遣りに長けた現代人だ。ワザワザ野蛮人になるつもりはねぇよ」
「おいおい、それは偏見が過ぎるぞ。確かに我等は戦いを誉れにしている節があるが……別に殺し合いそのものを愉しんでいる訳ではないぞ?」
「ケルトの影の女王も?」
「…………あー、それは………うん。俺からはノーコメントだ」
「それ認めてると同じだからな?」
冗談半分で洒落にならない事を口にする細目の男、フェルグス。殺し合いの最中でもガハハと快活に笑う男、そんな彼でもケルトの影の女王は怖いらしい。
「しかし、我等二人を相手にしても未だに底を見せぬとは、少々妬けてしまうな」
「あぁ、だが………分かっているんだろ? 今のままじゃあ俺達を倒すことは出来ねぇってな」
「……………」
不敵に笑い、修司の強さを認めながら、それでも自分達を倒すことは出来ないと語る二人。確かに白河修司という男は強い、強さだけなら其処らのサーヴァントなんてかるく捻り倒せるだろう。事実、フェルグスとベオウルフがそれぞれ各個撃破を狙われていたら、それこそ瞬きもする間もなく勝敗は決まっていた。
それが出来ていない理由は、修司が無意識的に手を抜いているのと、フェルグス達二人の巧さにあった。修司は他の囚人達やラーマの治療が終わるまでにアルカトラズを壊さないように気を遣いながら戦い、フェルグスとベオウルフはそんな修司の心の隙を狙って攻撃してくる。必然的に迎撃を優先する形で行われる戦闘は、二人のサーヴァントに大きなアドバンテージを与えていた。
しかし………。
「分かっている筈だろ? 此処、アルカトラズを完全に解放するには我々を倒すしかない。ならば、やることは一つだろう?」
「そら、生意気に俺達二人を相手取るって宣ったんだ。様子見も結構だが………そろそろ、その気になってもいいんじゃねぇか?」
二人の英霊が望むのは、尋常なる勝負。ただ自分の全てを懸けて、目の前の強敵を打ち破るのみ。そして、そんな二人の思いを汲み取ったのか否か、修司の纏う炎が勢いを増した。
「………後悔するなよ?」
その一言を皮切りに、二騎のサーヴァントは修羅と化した。笑いながら地を駆け、手にした剣に力を込める。
先手は、ベオウルフだった。狂戦士らしい勢いを乗せた一振りは間違いなく修司の脳天を捉えた。直撃すれば頭の天辺から両断されるのは間違いない、手にした二つの魔剣に渾身の力を込めて振り抜いた一撃は───修司の振り抜いた拳に打ち砕かれた。
剣が拳に負けた。その事実はベオウルフに多少ながら衝撃を与えたが………そんな事はどうでもいい、これで漸く枷が外れたと、狂暴なる戦士は嗤う。砕けた剣に別れを惜しむのも一瞬、空いた掌に力を込めて、力の限りのこぶしを奮う。
「受けろやぁッ!
殴り蹴り、殴る。それは人類に刻まれた闘争の形。獣の様な爪も牙もない人間が編み出した最初の攻撃方法。単純にして明確、故に強靭なその応酬は悉く修司に叩き込まれた。
手応えあり、そう感じながら嗤うベオウルフが次に目にしたのは………。
「返すぞ」
僅かに痕の残った顔、その奥から竜すら震え上がる眼光がベオウルフを覗いていた。
「マジかよ……」
自身の渾身の
「ギャラクティカ───マグナム!!」
返しの一撃が北欧の英雄の顔に深々と突き刺さった。顔を潰され、アルカトラズの外壁を突き破り、大陸と隔てていた海をも超え、青天井になりながらもベオウルフは満足そうに消えていった。
残されたのはフェルグス=マック=ロイ唯一人、倒したベオウルフを気に掛けたのも一瞬で、修司は頭上から感じた力の膨れ上がりに注視する。見上げると其処には、輝かしい虹の螺旋が広がっていた。
「真の虹霓、お見せしよう!
それは、本来の虹霓剣を上回る一撃。怒りに任せての一撃ではなく、偉大なる英雄が目の前の強敵を打ち破らんとする為に引き出した………文字通りの極めた一撃。
その一撃に監獄島アルカトラズが耐えられる訳がない。一瞬でもあの剣が地上に刺さったら最後、監獄島は跡形も消し飛び、地下で治療を続けているラーマ達諸とも死に絶えるだろう。
やらせはしない。数秒後の地獄の未来を変える為に、修司は身に纏う白い炎を血のように赤い緋色に変える、両手を腰に持っていく。
「これが、界王拳の───かめはめ波だ!!」
瞬間、赤い炎の中から巨大な蒼き閃光が放たれる。頭上から迫る虹色の光を呑み込み、北米大陸の夜空を照らしていく。
その光景に全ての戦士達が、戦う手を一時止めてしまっていた。ケルトも、アメリカも、サーヴァントも、皆が等しく地上から空へ伸びていく巨大な流れ星に見惚れていた。
「……あぁ、眩しいな。これなら、きっとアイツも……」
光に呑まれ、フェルグスもベオウルフと同様に笑いながら自身の消滅を受け入れていた。これならきっと彼も満足するだろう、そんな他人任せの希望を抱きながら、ケルトの英雄フェルグスは自身の虹色と共に夜の空へ溶けていった。
───空が明ける。特異点に来て迎える朝日、修司はそんな朝焼けの空を見上げていると、地下から複数の気配が近付いてくるのを感じた。
振り向けば其処にいるのはラーマとナイチンゲールの二人だけ、ラーマの妻であるシータの姿は……何処にもなかった。
「二人とも、無事だったか。………シータさんは?」
「Mrs.シータは夫であるラーマさんの病巣を受け継ぎ………消滅しました」
「そう、か……」
修司が二人の英雄を相手に戦っていた合間、修司は地下で起きていた異様な気の動きを感じ取り、まさかと思った。だが、ナイチンゲールのハッキリと告げる言葉に修司は受け入れながら空を仰ぎ見た。
ラーマとシータ、二人の間にある離別の呪いはサーヴァントとなった今でも続いているらしく、ラーマが全快する頃には彼女は既にこの特異点から消滅していたという。
「悪いラーマ君、俺、何て言ったらいいか……」
「何を言う。貴殿のお陰で余は再びシータと出逢えた。言葉を交わし、あの時の謝罪を、愛を、言葉の限り伝えることができた。そして何より、我等の間にあった離別の呪いに綻びが出来た。だから修司よ、我が恩人よ、どうか謝らないでくれ。貴方のお陰で、私は救われたのだから」
「………分かった。なら、俺もこれ以上ウダウダ言うのは止めるよ」
清々しく、晴れやかな笑顔でそう言うラーマに修司もまた笑顔で応えた。これで、損なわれていた戦力が補填された。後は東部で仲間を集めている立香達と合流するのみ。
そんな時だ。
『た、大変だ修司君!』
「どうしたロマニ、アンタは立香ちゃん達のサポートじゃ……」
『そ、それが大変なんだ! 立香ちゃんが、立香ちゃん達が!!』
「なに!?」
◇
─────北米東部。ケルトの本拠地、ワシントンから遠く離れた地にて、それは起きた。
「なんという事だ。あのクー=フーリンが自ら軍勢を率いて此方に攻め立てて来るとは、完全に予想外だ!」
「別に、王が率先して暴れるなってルールなんて無いだろうが。戦場に常道も邪道もあるかよマヌケ」
仲間を集め北米大陸を横断していた立香達、ジェロニモの仲間だったロビンの案内のもとでセイバーであるネロ・ブライドを仲間に引き入れ、後は修司との合流を待つばかりという所で、奴等は現れた。
ケルト勢力。大陸を二つに分けていた勢力、そのほぼ全ての戦力が立香達の周囲を取り囲んでいた。圧倒的戦力の差、唯でさえ勝率は愚か生存率も低い状況なのに………。
「その上、アルジュナか!」
「…………」
よりにもよって、インドの大英雄であるカルナが生涯の宿敵と定めたアルジュナまでもが、どういう訳かケルトに付いている。ジェロニモが予想していた中でも最悪の状況、覆らない戦力の差に立香達がどうするか悩んでいた時。
「安心しろ。お前達はまだ殺さん、お前達は奴を誘き出す撒き餌だ。餌である以上、殺すのは好ましくないからな」
「撒き餌……だと?」
「ぐぬぬ、バカにしおって~~! 余というアイドルを捕まえておいて餌呼ばわりは何事かぁ!」
意外なことに、クー=フーリンには立香達に対する殺意がなかった。餌と表現する事から彼の狙いは別にあるだろうが、それにしたって意外に過ぎる。現に、彼の主と思われるピンクの髪の女性は不服そうに頬を膨らませている。
「………ねぇクーちゃーん。本当にコイツら生かしておくの? 生かしておくと見せ掛けて、裏で殺しちゃってもよくなーい?」
「………最初に言った筈だよなメイヴ。俺はテメェが望む様に王となる事を約束した。その条件に奴との決着を着けるのが先だともな」
「うー、分かってるけどぉ、もう、他の願望とか欲望とか無い癖に、それだけは頑なんだから」
「───奴を、白河修司だけはこの俺の手で殺す。それを破るのなら………分かっているな?」
「いーっ、分かってますよーだ!」
血に狂い、暴力に狂い、殺戮に狂った
彼もまた、修司との浅くない因縁を持っているようだ。一体あの男は元の世界で何を仕出かしたのか、ともあれ今すぐ命は奪われる事はないだろうとモニターの向こうでロマニが息を溢した時、それは起きた。
「は、ハハハ。私の聞き間違いかな? なぁそこのバカ弟子。貴様今………誰を殺すと言った?」
ケルトである。中でも最強の女王として知られ、数多の英霊英傑が集うカルデア内でも、上位に位置付けられた強さを持つ戦士。
スカサハ。クー=フーリンの師でもある彼女は、聞き捨てなら無い彼の言葉に心底ご立腹の様子だった。
「修司の奴は俺が殺すと言った。誰にも譲るつもりはない。それが喩えアンタでもな」
「は、ハハハハハ! おいおいバカ弟子よ。冗談は格好だけにしろ。人の獲物を横取りするような真似はするなと、修行時代散々教えただろう? ………アレは私の獲物だ。小僧ごときが、邪魔立てするでないわ」
「抜かせ、アレとの因縁はアンタの比じゃねぇんだよ。引っ込んでろババア、いい歳して若い奴に色目使ってるんじゃねぇよ」
「は、はは、ハハハハハハ………」
「く、くく、クハハハハハ………」
「「殺す」」
瞬間、ケルトの凶王とケルトの影の女王が激突。周囲を巻き込みながら唐突に始まる戦いは敵味方問わず(主な被害はケルトの模様(笑))蹂躙していった。
「せ、先輩ー! は、早く私の後ろにー!」
「あーもう! 修司さーん! 早く来てェェェッ!!」
今この場を抑えられるのは
Q.どうしてこうなった?
A.これも、白河修司って奴の仕業なんだよ!
Q.メイヴちゃん?
A.サイコー!(尚、本人はかなりマジでボッチに殺意を抱いている模様)
Q.離別の呪いはどうなったの?
A.過保護の魔神がちょっかい掛けました(笑)。
これで二人の出逢う確率は上がったよ、やったねラーマ君!
次回から、ボッチのケルト嫌いが加速するかも?
それでは次回もまた見てボッチノシ
オマケ
ifもしもボッチがブリテンにいたら? そのさん
「ククク、ここにウーサーやマーリンが怯える男の住まいか。思っていたより貧相だな」
「しかし、この男の力を使えばブリテンは余のモノとなる。ククク、覚悟するがいい、ブリテンの全てよ。お前達の全てを余が蹂躙してやろう」
「ん? なんだオメェ、シュージさんの知り合いか?」
「ヒッ、ぴ、ピクト人!? 何故ピクト人がここに!?」
「なんでって、オメェ知らねぇのか? オラ達ピクト人は揃ってシュージさんの下に付くことになったんだよ」
「………ふぇぇ?」
「いやー、シュージさんは凄い人だべ。オラ達全員を一人ずつブチのめしただけに留まらず、自分の下に於いて一緒に畑を耕すなんて言い出してよ。誰も見たことも聞いたこともないやり方ですぐに畑に実りを出しちまった。ここの人達と上手くやれるようアレコレ手を尽くしてくれたし、今ではこの村の一員として認めてくれるようになった。ホントにシュージさんは凄い人だべ」
「…………」
「おーい、なにかあったのか?」
「おおシュージさん、アンタにお客さんだべ」
「ん? 客? えっと、どちら様?」
「あ、いや………その………」
「ん?」
「ま、街への道は何処だったかなー……と」
その後、ブリテンの妖妃は無事にお家に帰りましたとさ。
続かない! 絶対にだ!