『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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第六章開幕を見て、気が付けば書いてました。(笑)


その71 第五特異点

 

 大統王トーマス=エジソンが支配する合衆国軍の拠点から少しばかり離れた森、鬱蒼と生い茂る木々の上空から白い炎を纏った山吹色の男、白河修司が降り立つ。その両腕にはマシュと立香を抱え、背中にはナイチンゲールを背負っておきながら、遥か上空からの着地に関わらず、その肉体には僅かな傷も無かった。

 

『………周囲に敵反応はナシ。追っ手が迫ってくる様子もないから、どうやら完全に撒けたみたいだね』

 

「悪い皆、完全に私情に走った。折角の交渉の場を台無しにしてしまって済まない」

 

立香達を下ろし、周囲に人の気配が無いことを確認し終えると、修司は立香達に向かって頭を下げる。先のエジソンを前にしての態度、人理を救う為に召喚された筈の彼があの様な結論に至ってしまった事に失望感を抱いてしまった修司は、立香達からの同意を求めることなく勝手に話を進めてしまった。

 

恐らく、もう彼等との協力は結べないだろう。仮に戻ったとしても、敵対者の烙印を押されるだけ。自分の独断で勝手な行動をしてしまった事に、修司は全面的に己の非を認めた。

 

「気にしないでよ修司さん、修司さんがあそこで動かなくても、多分私も似たような事をしていたと思うよ」

 

「そうですね。確かにエジソンさん達の協力を得られなかったのは残念ですが、仮に彼等に取り入った所で上手くいく保証はありませんし、下手をしたら身動きが封じられていたかもしれませんから」

 

「………私の経験上、ああいう手合いは最終的に破滅する場合が殆んどで、そういう輩に限り“こんな筈ではなかった”と宣うのです。修司、貴方の決断は間違っていません。なにより、悔やむ暇など私達には無い筈です」

 

『僕としてはもう少しやりようがあるんじゃないかと思うけど、明らかにあのエジソンは様子がおかしかったし………まぁ、仕方ないっちゃあ仕方ないかな』

 

「あぁ、そうだな。次からはもう少し行動を鑑みる事にするよ。さすがに今回は、少しばかり独断に過ぎた」

 

 あの流れから、向こうは言うことの利かない自分達を拘束するつもりだったのだろう。無数に現れた機械化歩兵達が、自分達を囲んだのも何よりの証拠。修司の行いは決定打にこそなったものの、直接の原因では無いことは皆も分かっていた。

 

なら、この話はこれでおしまい。両手を叩いて場の空気を変えた立香はこれからどうするか方針決めを行う。

 

「ねぇ、これからの話なんだけど、私に一つ提案があるの。エジソンが言っていた自分達に協力しないサーヴァント達の事なんだけど………彼等と話が出来ないかなって」

 

『成る程、第三の勢力か。確かにあのエジソンの話だと、大統王とは別の思惑で動いている様に思える。ケルトと手を組んだ。なんて話も聞かないし、一考の余地はあるんじゃないかな?』

 

「問題はそのサーヴァントが何処にいるか、なのですが…………あ!」

 

「そう! そこで修司さんの探知能力の出番って訳さ!」

 

 大統王との協力関係が断たれた今、次に向かうべきは彼ともケルトにも与していないという第三の勢力。その彼等を探し当てるのも修司の更に磨きかかった気の探知能力を使えば難しい話ではない。ここへ来て次の行動の具体的な打開策を提示してきた立香に修司達は彼女の成長を目の当たりにした気がした。

 

「じゃあ、先ずはここから動く事から始めるとしようか。途中で戦闘している戦場があったら武力介入を行って戦闘を鎮圧、近くにある合衆国側の野営地で情報を収集と、大体こんな感じか」

 

「うん。そうなるね。ナイチンゲールさんごめんなさい。ここまで振り回しちゃって………」

 

「謝罪は無用ですよ司令官立香。貴方の判断は綿密ではありませんが、間違ってはいません。次の目的指針を即座に出せる貴方は、今後良き指揮官になるでしょう」

 

「え、えへへ。そうかな?」

 

自分なりに頭を回して出した案が満場一致で賛成を受けたことに、立香は照れ隠しに頭を掻く。これまで培ってきた旅の成果が出てきたことに立香だけでなく、ロマニ達も嬉しく思った。

 

「じゃあ、そろそろ行くとしよう。日はまだ落ちる様子はないが、時間は限られている。俺とナイチンゲールが前に出るから、マシュちゃんは立香ちゃんの防衛に当たってくれ」

 

「了解です。ですが、一つ打診があります。この北米大陸は広大で、加えて私達はケルトと合衆国。二つの勢力を相手にする可能性がある以上、カルデアから増援をお願いするべきかと思います」

 

 話も纏まり、さっそく行動に移そうする一行だが、マシュは敢えてそこに待ったを掛ける。相手はこの大陸を二分する勢力だ。正面から戦うにも、この広大な大地を駆け巡るにも、今の自分達では些か戦力が心許ない。

 

修司一人でもカバー出来るだろうが、彼一人に負担を掛けるのもどうかと思う。自分達はチームだ。ここならカルデアとの繋がりも強くできるし、ここで戦力を増強するのも一つの手だと、マシュは強く提案する。

 

『そうだね。マシュの言うことも尤もだ。じゃあ先ずは召喚から始めるとしようか。立香ちゃん、なにか希望するサーヴァントはいるかい?』

 

「うーん。ここはなるべく土地勘のあるサーヴァントが来てくれると心強いかなぁ。出来ればケルト、もしくはエジソン達と面識のあるサーヴァント」

 

『となると、生前エジソンやエレナと面識のあるニコラ=テスラ位かなぁ? うーん。個人的には修司君のアレがある以上、拗れるのはほぼ間違いないから出来れば避けたい』

 

「因みに、テスラさんはなんと?」

 

『………物凄い良い笑顔でサムズアップしてる。バッチコイだってさ。修司君、どうするの?』

 

「いや本当済みません」

 

『はぁ、しょうがない。ならここはやっぱり彼に………って、ちょっ!?』

 

 突然、通話の向こうにいるロマニから驚いた様子の声が聞こえてくる。何かあったのか困惑する修司達を他所に、マシュが設置した召喚サークルが回りだす。

 

一体誰が来るのか、戸惑う一行が召喚された光の向こうにいる人物を凝視していると。

 

「ケルトと言えばワシしかおるまい! そんな訳でワシ、参上!」

 

全身紫タイツに身を包んだケルトの影の女王(番長)が、清々しい程のドヤ顔で其処にいた。何処かの仮面ライダーがやりそうなキメポーズに……。

 

「帰れ」

 

 修司は食い気味に罵倒した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅーん、見付かったんだ。山吹色の男」

 

「ハッ、事前に聞かされていた特徴通りのモノでしたので、恐らく間違いはないかと」

 

 北米大陸、ホワイトハウス。かつて合衆国の心臓部とされたきた白亜の建物、嘗ての面影とはかけ離れた内装の奥、玉座に腰掛ける王に靡くようにすり寄る…一見では清楚で無垢に見える女は報告をしてきた二人の戦士を氷より冷たい眼で見下ろしていた。

 

「で、その男を前に貴方達はなにもしないで帰ってきたの? ケルトの戦士が、敵将の頚一つ持たずに?」

 

「ハッハッハ、これは手厳しい。流石はケルトの女王、苛烈さはどの時代の王にもひけを取りませぬな」

 

「ちょ、フィン=マックール!?」

 

金髪で長髪の男、栄光のフィオナ騎士団の長であるフィン=マックールは明らかに不機嫌な女王メイヴに部下らしからぬ馴れ馴れしい口調でおどけだす。

 

氷点下を超えた絶対零度となった視線で射抜いてくるコノートの女王、流石に不敬だと部下であるディルムッドはフィンを窘めようとしたが。

 

「なに、流石に彼を戴くのは不味いと思いましてな。我等が王は彼の者に対して大層なご執心のご様子、であるならば摘まみ食いは避けるべきかと………」

 

そう微笑み、女王に跪くフィンの横でディルムッド=オディナはダラダラと滝のような冷や汗を流していた。

 

聖杯を所有している女王メイヴ。彼女の手によって彼等もこの北米大陸に召喚された身なのだが、喚ばれた当初からこの女王は不機嫌だった。唯でさえ気分屋と知られている彼女が、この特異点で魔術王の駒として召喚された彼女はより苛烈に、より嫉妬深くなってしまっていた。

 

己の不機嫌を少しでも解消させる為に、ケルトの戦士を呼び出しては犯し、殺し、その命を弄んでは踏みにじっている。ここ最近は落ち着いてきたのに、フィンの余計な物言いで火に油もとい、火薬庫に火の粉である。

 

アワアワと一人震えるフィオナ騎士団の輝く貌、女性に対してある種のトラウマを抱えている彼は此処が自分の死に場所かと戦々恐々としていると。

 

「フハハハ、そう怒るなメイヴよ。可愛らしい顔が台無しだぞ」

 

 快活な男の声が玉座の間に響き渡った。その声にディルムッドは希望を見出だした表情で振り向くと、掘削機の様な刃の剣を肩に担いだ筋骨隆々なケルトの戦士がそこにいた。

 

「ふぇ、フェルグス殿ォッ!」

 

「おぉ、おぉ、相変わらず女は苦手かディルムッド。可哀想に、男の嫉妬は怖いが、女の嫉妬は輪を掛けて怖いからなぁ。まぁ、そこが可愛いのだがな!」

 

ガハハと快活に笑い飛ばすフェルグスと呼ばれる男、嘗てはクー=フーリンの養父であり、メイヴに仕えていた経歴もあるこの男は、今この場の空気を納める唯一の存在でもあった。

 

「なによフェルグス、アンタを呼んだ覚えはないんだけど?」

 

「安心しろメイヴ、俺も呼ばれた理由はない。ただなにやら面白い話が聞こえてきたのでな、少し混ぜてもらおうと思った次第だ」

 

 細められた目を僅かに開き、玉座で沈黙している王に視線を送る。自身の叔父を前にしても最低限の反応しか見せない王にそれでも構わないと話を続ける。

 

「確か、シュウジだったか? 聞けば聞くほど興味深いヤツよ。神秘神性の薄い現代において、神の血を引かぬ人間がそこまで強くなるとはにわかに信じがたい。此処にいても暇を弄ぶだけだし、俺はここで一つ行動を起こすことにした」

 

「あっそ、で? 具体的に何をするつもり?」

 

「シュウジを殺す。死合をし、可能であるならばこの剣で奴の心臓を穿つ事にしよう」

 

「なっ!? フェルグス殿、本気ですか!?」

 

「そう驚く事はないだろう。我等ケルトの戦士、好敵手を前にしたら嬉々として殺し合うのが我等だろう? 何もおかしな事はあるまい」

 

「いや、そうではなく!」

 

 サラッと爆弾発言をぶちかますケルトの伊達男、フェルグス。山吹色の男こと白河修司は王が殺すと定めていた獲物だ。それを堂々と横からかっさらうと発言するフェルグスに、ディルムッドは彼の死を予見した。

 

しかし、王からの反応は思っていたよりも淡白なものだった。目を開き、ジッとフェルグスを見下ろしてはいるものの、そこに殺意の感情はない。あるのは何処までも空虚な無感動な視線だけ、不敵に笑みを浮かべるフェルグスに王が口にするのは一言だけ。

 

「………好きにしろ」

 

 ただそれだけ、あれだけ自分達に見付けてこいと命じていた王が、打って変わって無関心となっている。一体どういう事なのか、ディルムッドは理解が及ばなかった。

 

軈て、ディルムッド達は玉座の間を後にする。報告するべきことを終えた今、今度こそ戦線に復帰する番だと、息苦しい空間から脱出できた二人はそれぞれ槍を手にして次なる戦場を目指して闊歩する。

 

誰も彼もがいなくなり、残っているのはコノートの女王と彼女が愛する王だけ。己が拘ってきた男を手中に納めたというのに、女王メイヴの気持ちは晴れないでいる。

 

何故なら、彼女こそは理解していたからだ。沈黙したままの王の胸中を、獲物を横取りすると豪語するフェルグスの行いを許したのも、偏に王自身が信じているからだ。

 

白河修司は必ず自分の前に来る。近い内に、自分と決着を付けるために此処に来る。そう確信しているからこそ、王は揺るぐことがないのだ。

 

女王メイヴは嫉妬した。自分を見ているようで見ていない王に、自分よりも心を独占している白河修司に。

 

許さない。絶対に、許さない。

 

「覚えてなさいよ白河修司。アンタなんかに、クーちゃんは渡さないんだから!」

 

 王に聞こえない小声で、しかしその言葉には何よりも熱い激情が滲み出ていた。

 

………一方、張本人である修司はというと。

 

「よし、これで一先ず片付いたな! では修司、戦いを終えた後のストレッチをしよう! その後はワシと共に見回りに向かおう! な! そうしよう!」

 

「あっ、結構です」

 

 ケルトの影の女王を素っ気なくあしらっていた。

 

 




Q.今回の特異点、ボッチは受難続きだと言いましたが?

A.男からも女からもモテモテ、ディルムッド顔負けですね(笑)

尚、全員が殺意高めの模様。

それでは次回もまた見てボッチノシ



ifもしもボッチがブリテンにいたら。

「おい、そこの白い蜥蜴。卑王だがなんだか知らないが暴れてんなよ。折角の畑が台無しになるだろ」

『不敬な。死ぬがよい』

「あぁ? 上等だ。農家の人を怒らせたらどうなるか、思い知らせてやる。来い、グランゾン!」

『ファっ!?』

多分続かない。


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