『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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ノリと勢いは結構大事。(ただし時と場合による。)


その28

 IS学園に突如として襲い掛かってきた謎の無人機、ゴーレム。先のクラス別対抗で猛威を揮い、学園の生徒達に恐怖と混乱を叩きつけた存在は新たな姿となり、数を揃え、更なる暴威として学園に再び襲撃してきた。

 

すぐさま学園の専用機持ち、並びに教職員もISを纏って応戦するが、ゴーレムの一体一体は基本性能が高く、ISに精通した教職員ですらも苦戦を強いられていた。

 

それぞれが第三世代の能力を有したゴーレム達、数も多い事から徐々に学園側が窮地に陥った時、彼が現れた。

 

白河修司。学園では唯の用務員だった筈の彼が自前のISを纏って学園上空から現れた時は誰もが混乱し、戸惑った。何故男がISに乗っているのか、何故彼が空から現れるのか、整理できない状況に誰もが戸惑う中、更に状況は変化していく。

 

今まで自分達に猛威を揮っていたゴーレム達、その全てが修司が駆るISへと飛びかかっていったのだ。まるで狙っていた獲物に飛びつく様に、目の前の自分達を放って空を飛翔する修司に我先にとゴーレム達は襲い掛かる。

 

多対一という危うい状況、一夏達が援護をしようと修司の下へ急ごうとしたその時、突然学園内にある通信設備の全てが機能不全に陥った。

 

学園の通信機材は勿論、ISの通信機能すら麻痺してしまった。ここへきて予想していなかった事態に一夏達は再び混乱の底へと叩き込まれる。一体何が起こったのか、原因の分からない通信弊害に戸惑った時───ふと、シャルロットがある事に気付いた。

 

自身のISに記録されているとある一文、それが通信が遮断される直前だと知った彼女は近くにいるラウラに呼び掛け、文面を開いた。

 

記されていたのはたった一言、『通信設備、壊したらごめんなさい』という理解不能な文面、彼女達はこの通信が誰からのものなのか今一つ理解出来なかったが、その瞬間。

 

空を蹂躙していたゴーレムが一機、一瞬の間もなく爆散した。一体何事だと全員が空を見上げた時、蒼だったISは紅蓮となり、残る11機のゴーレム達を蹂躙し始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『これで五機目、残る残存兵力は七機……と』

 

 学園の上空を超高速で飛翔する蒼鴉。その姿を蒼から紅へと変貌させ、圧倒的速さでゴーレムを駆逐し、残りは半数近くと追い詰めていた。

 

TRANS-AM(トランザム)”破界事変の頃、エクシアに乗っていた当時のパイロットの刹那=F=セイエイが発現させたGNドライブに秘められた力。

 

イオリア=シュヘンベルグが託したとされるこの力はGNドライブから発せられるGN粒子を極限にまで圧縮させたモノを全面展開させる代物で、これを発動させたガンダムは既存の機体性能の数倍を誇る力と速さを見せつけた。

 

だが、強力な奥の手であるが故にリスクは大きい。トランザムには限界稼働時間という制限が存在し、限界時間を越えてしまうとトランザムはその機能を停止、更にその反動でGNドライブを搭載した各ガンダムの性能は使い切った粒子が再生成されるまでの間大きく下がる事となってしまい、当時はトランザムを使用する際はタイミングが重要視されていた。

 

再世戦争の際にはその問題は幾分か改善され、トランザムも時間さえおけば再び使用する事が可能となっている。しかし、修司の作ったIS蒼鴉にはトランザム使用後の対処は施されてはいない。

 

トランザム使用後の蒼鴉はGN粒子の残量も著しく低下し、コアとの連結が行われていない今、最悪の場合は身動きすら出来なくなってしまう。

 

GNドライブだけの稼働ならISコアとも併用して使用する事は可能、しかし、トランザムを使用する際はどうしてもISコアとの連結を一時的に切らなければならなかった。そうでなければトランザムの力はコアの力とぶつかり合い、最悪両方とも暴走する恐れがあるからだ。

 

しかも、ISコアとのリンクを切断した事により量子変換機能は失われ、拡大領域(バス・スロット)からしまい込んだバスターライフルや他の武装が取り出せない状況となっている。

 

まだISを制作して一月しか経っておらず、この様な欠点を残す事となった蒼鴉。故にシュウ=シラカワは彼の作ったISを及第点と評したのだ。

 

しかし、逆を言えばそれだけ。それぞれの動力源を自立させればコアとGNドライブの両方を問題なく使用可能で、トランザムさえ使用しなければそれぞれの動力源は並列に稼働し、宇宙空間での長時間活動も可能となっている。

 

 ───それに、修司自身はそれ自体に対し別段危惧してはいなかった。トランザムを使用する際の問題点は後に蒼鴉を改修する事で直せば良いだけだし、何よりこれはトランザムを使用しての“実験”だ。

 

既にトランザムの活動限界は二分を切っている。しかし、それでも修司の頭には戦いの最中にある不安など微塵も存在してはいなかった。

 

彼の頭にあるのは今後の課題とその改善方法のみ、多対一という状況に晒されながらも彼は現状を不利と認識せず、淡々とした調子でゴーレムに攻撃を加える。

 

『ほれ六機目、これで後半分っと。さて、ちゃっちゃと片付けるとしようか』

 

巨大な拳がゴーレムを貫き、爆散。煙から出てきた蒼鴉は無傷のまま空の飛翔を続けている。手にしたコアは既に六個、このまま数を減らしコアを回収しようと思った時。

 

『────ん? なんだ?』

 

残り半数となったゴーレム達の動きが突然おかしくなった。何かのブラフか? 自分への追撃を止めて挙動が変わったゴーレムに修司が訝しげに思ったその時。

 

突然ゴーレム達は自ら躯を崩壊させ、海へと落下していった。突然の事に流石の修司も目を丸くさせる。

 

自爆のつもりだったのだろうか? これでゴーレムの戦いが終わりなのかと思われた時、ゴーレム達が落ちた海面が盛り上がり、次の瞬間────大爆発が起きた。

 

海面から浮上してくるのは巨大なゴーレム。これまで撃破したゴーレム達が残骸となった他のゴーレム達と融合し、巨大な存在へと自ら生まれ変わらせたのだ。

 

巨大ゴーレムの全身から放たれるミサイル群。先程とは桁違いの物量のミサイルが修司唯一人に向けて押し寄せてくる。

 

『───フンッ』

 

迫り来るミサイルの群を修司は鼻で笑い、再び蒼鴉を飛翔させる。再び押し寄せてくる圧倒的物量を前に修司は再びゴーレムに自身の舞いを魅せつけた。

 

避ける。避ける。先程よりも多くの物量で攻めているのに依然として当たらない蒼鴉。それに業を煮やしたのか、ゴーレムは更にミサイルだけではなく光学兵器───ビームを放ち始めた。

 

ミサイル群に続いて放たれるビームのシャワー、まるでハリネズミの様だと修司は内心で呟いた。

 

トランザムの限界時間も残り一分を切った。早いところ決着を付けたいと思いながら、修司はあくまで冷静さを崩さず、落ち着いてゴーレムを観察する。

 

そして同時に見つけた。巨大ゴーレムの胸元に輝く六つのコアを、あれが巨大ゴーレムの心臓部分だと瞬時に理解した修司は、GNドライブの出力を最大限に高めて蒼鴉と共に上昇する。

 

『さて、トランザムの限界時間も残り僅か、お前との戯れもここまでにしておこう。───どこの誰だか知らないが、折角の学園の催しを邪魔しやがって』

 

修司の目は巨大ゴーレムを通してその背後にいる何者かに狙いを定める。この借りは必ず返すと、皆の気持ちを踏みにじった黒幕に対して絶対に消えることのない怒りの炎を灯らせて……。

 

巨大ゴーレムに向かって、一直線に降下した。

 

策も何もあったものではない真っ正面からの特攻。凄まじい勢いで相手の距離を詰める蒼鴉に対し、巨大ゴーレムは口を開いて光を収束させる。

 

そして次の瞬間、巨大ゴーレムの口から巨大な光が矢となって放たれた。

 

周囲の雲を蒸発させる程の熱量、直撃すれば唯では済まない一撃に対し、修司は蒼鴉の肘の杭を限界まで引き絞らせる。

 

バスターライフルが取り出せない今、修司には長距離攻撃の術がない。が、彼には既にこの問題に対する打開策を閃いていた。

 

装備の限定された中使える、一発限りの弾丸……それは。

 

『“(かんぬき)────捻り貫手(ぬきて)”!!』

 

自分自身。弾がなければ自分が弾になれば良いじゃないという。修司の独創的な発想から生まれた奇怪過ぎる一撃は巨大ゴーレムの放つ光とぶつかり合い。

 

『穿て────牙鐵!』

 

叩き込まれた杭の勢いが加わり、巨大な光を撃ち破り、砲弾となった蒼鴉はそのまま巨大ゴーレムの胸元を撃ち抜いた。

 

核となるコア部分を撃ち抜かれた事により巨大ゴーレムは瓦解し、海中へと沈んでいく。一方、ゴーレムを撃ち抜いた一羽の鴉はそのまま滑空し、学園の敷地内へと着地させ───。

 

『任務及びコアの回収───完了』

 

 その手には12個のコアが抱えられており、その後ろで海中に沈んだ巨大ゴーレムが爆発した。

 

事の一部始終を目撃していた一夏達はただただ呆然となって佇む蒼鴉を見つめ……。

 

『トランザム残り時間は三十秒か、試作段階とはいえ、まずまずの性能かな。───あ、一夏君。ただいま』

 

『……お、おかえりなさい。修司さん』

 

『疲れてる所申し訳ないんだけど、織斑先生に連絡してくれない? このコア達の事について話しておかないといけない事があるから……あ、通信機能なら回復している筈だから、お願いね』

 

『……は、はぁ』

 

ただ、そう答える事しか出来なかった。

 

 

 




次回
再び記者会見?
山田、倒れる。
千冬、悟る。
の三本になったりしちゃったりでありますことよ。


Q主人公にとっての不利な状況って?
Aアンスパ戦or二人の紅髪少女に挟まれた時

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