『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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古戦場とウマ娘の育成、どちらもやらなきゃいけないのが兼業者の辛いところだよな。

覚悟は出来たか? 俺は出来てる!


その49 第四特異点

 

 

 

 ────人理継続保障機関カルデア。人の世界を継続させる為に作り上げられた国連所属の魔術組織、その広大な敷地内の通路を山吹色の胴着を着た男がゆったりとした挙動で歩いていく。

 

先の第三特異点での激闘を経て、益々その実力に磨きが掛かった男───修司はいつもと変わらぬ素振りで通路を歩んでいく。

 

途中ですれ違ったサーヴァント達と適当に挨拶を返し、激励を受けながら辿り着いた場所に待っていたのは白衣の男、このカルデアの代理所長と医療関係を統括する人物だ。

 

Dr.ロマニ=アーキマン。通称ロマンと呼ばれスタッフ達から信頼されている気弱ながら指揮官を勤めている彼と、万能の天才であるダ・ヴィンチ………そして、立香とマシュが待っていた。

 

「おはよう修司君、予定時間のピッタリ五分前だ。朝御飯はしっかり食べてきたかい?」

 

「あぁ、朝飯旨かったからついついお代わりしちまった。エミヤの奴、ここ最近また料理の腕を上げてるっぽいんだよなぁ。下手したら俺より上手いかも」

 

「分かります。エミヤの料理って滅茶苦茶上手いんですよね。だから最近お腹回りの脂肪が気になって……」

 

「立香ちゃん位の歳の子は、少し位ぽっちゃりしてた方が健康的で良いらしいよ? 少なくとも病的に痩せ細っている人よりは魅力的だと思うけどな」

 

「ドクター、その発言は一種のセクハラだと思います」

 

「ちょ、違うよマシュ! 僕はあくまで医療従事者としての視点から言ってるだけであって………立香ちゃんもそんな目で僕を見ないで!」

 

 お腹を擦る立香に自分なりのフォローするロマニをマシュが痛烈に両断していく、特異点修復という偉業を前にもう彼等の中に緊迫した緊張感はない。

 

程よく脱力し、程よく気を引き締めている。緊張感とリラックスした───所謂ベストとも言える空気がそこにはあった。

 

「はいはい、愉快な歓談も一先ず其処までにしておこう、今日は新たに観測された第四の特異点だ。全ての特異点の修復も今回で折り返し、油断なく行こうじゃないか」

 

「だな。でもその前にロマニ、前の特異点でも現れた魔神柱の件について何か進展があったりしたか?」

 

ダ・ヴィンチによって話が進められ、修司から振られた話にロマニは咳払いをして場の空気を変える。

 

「ンン、そうだね。先ずは前回に得られた情報の解析結果からいこうか」

 

「七十二柱の魔神………そう呼ばれる召喚術を使ったという、ソロモン王の時代の観測、ですね?」

 

「そうだ。結論から言うと、ソロモン王の時代に異変はなかった。紀元前10世紀頃に特異点は発生していない。これがどういう事かというと………」

 

「まことに遺憾だけど、ロマニの言う通り、七十二柱の魔神を名乗るモノ達とソロモン王は無関係という事さ」

 

 修司達がそれぞれ体力の回復や日々の修練や勉学に励んでいる一方、カルデアのスタッフ達は魔神柱なる存在について可能な限り調べあげてくれていた。

 

そんな彼等の調べによる結果はソロモン王は“シロ”だという事、つまり調査は振り出しに戻ったという事になる。漸く掴めたとされてきた黒幕の正体、それが不発に終わったという事実に修司達は肩を落とす───

 

「なんだぁ、振り出しに戻っちゃったのかぁ」

 

「そうですね。確かに残念に思いますが、ソロモン王は無関係という情報が得られただけでも良しとするべきではないでしょうか?」

 

「マシュちゃんの言う通りだな。些か肩透かしをした気分だが、前進出来た事に変わりはない。そう気に病む必要はないさ」

 

「ですね。そもそも私魔神柱がどうとか言われてもピンと来ないし」

 

───なんて事はなく、多少の気落ちはしてもソロモン王は無関係という情報を三人はそれぞれ前向きに受け取った。

 

そんな彼等をロマニとダ・ヴィンチは頼もしく思えた。三度の特異点の修復、場数も踏んでいよいよマスターらしくなってきた藤丸立香とそのパートナーであるマシュ、最初はどうなることかと心配していた二人が何だか少し大きくなったように見える。

 

「ともあれ、ソロモン王には魔神柱を未来に向けて召喚したという痕跡が無いことから、彼が今回の事件の黒幕である可能性は限りなくゼロに等しいだろう」

 

「だから、レフ=ライノールや魔神を名乗る連中は全く違う“何処かの時代”から現れている。なのでソロモン王と彼等は無関係だ。まぁ、もっとも────」

 

「ソロモン王がサーヴァントとして誰かに使役されていた場合は別、ですね?」

 

「うーん、それはそれでどうなんだろ。サーヴァントの召喚は基本的に双方の合意で行われるモノだ。ソロモン王が人理焼却なんて悪事を働く輩に手を貸すとは思えないんだけど……」

 

「あぁ、それはそうか。私も同意したからカルデアに来たのだし」

 

「あぁ、なんか前にも似たような話を聞いたな」

 

「当時の所長が優秀な魔術師だからね。彼なら信用できると契約したんだ。前にも言っただろ? 私はカルデアにおける、記念すべき召喚成功例第三号だって」

 

 七十二の魔神とソロモン王の関係性から話は意外な方向へシフトする。ダ・ヴィンチが口にする前任のカルデア所長、オルガマリー所長ではない。万能の天才が口にしているのは彼女の更に前任者、修司が訪れる頃よりも前に亡くなったとされるマリスビリー=アニムスフィアの事だ。

 

「ダ・ヴィンチちゃんが三人目なんだ。後の二人は?」

 

「二号は君の目の前にいるマシュちゃんで、第一号は………現段階では不明だね。第一号と第二号は機密事項として扱われている。詳細は先代所長しか知らなかった筈だよ」

 

「先輩。私を助けてくれた英霊が第二号さんです。その真名も能力も、私には分かりませんが」

 

「盾を使う英霊なんだから結構絞られてくると思うんだけどな」

 

「フォウ……」

 

「第一号に関してはマリー所長も知らなかったな。先代所長は第一号のデータをひた隠しにしていた。………今にして思うと、先代所長の死は事故ではなく殺人だったんだろう。第一号という成功例───いや、英霊召喚システムを良く思わなかったレフが、殺めた可能性が高い」

 

 確かに、ロマニの言う通り人理焼却を狙うレフが人理継続を願う先代所長と衝突するのは考えられる中で自然な流れになるだろう。だが、それとは関係なしに第一号の秘匿を徹底する理由が今一つ理解できない。

 

ダ・ヴィンチが言うにはカルデアの英霊召喚システムが完成したのはダ・ヴィンチちゃんが喚ばれた頃だという。マシュのデミ・サーヴァント化も不安定なモノだと言っていたし、そもそも第一号の存在自体が怪しいのではないかとダ・ヴィンチは言う。

 

───何故だろう。万能の天才の語る言葉に修司は何となく違和感を覚えた。ダ・ヴィンチは何かを隠している?

 

 

 

(いや、隠しているというより………庇っている?)

 

言葉の節々から感じ取れる違和感、その正体と理由について考えようとした時、ロマニは手を叩き場の空気を正していく。

 

「さて、そろそろミーティングは其処までにしてレイシフトの準備を始めよう」

 

「っと、そうだな。色んな可能性が出てきて視野と選択肢を広げるのはいいが、無用な憶測は却って此方の動きを鈍くさせる。どのみち残りの四つの特異点に黒幕は潜んでいるんだ。警戒を緩めず、目の前の出来ることを一つずつこなしていこう」

 

「うん、そうだね。今アレコレ悩んでも仕方ないもんね! よーし、今回も元気に頑張るゾイ!」

 

「が、頑張りマシュ!」

 

「では、今回のオーダーの詳細を改めて説明しよう。第四の特異点は十九世紀───即ち文明と発展の隆盛。この時代に人類史は大きな飛躍を遂げることになる。つまり、産業革命だ! まさしく決定的な人類史のターニングポイントだ。消費文明の観点から鑑みても、人類史はまさしくこの時期に現代への足掛かりを得た」

 

 逆に言えば、この時代を失くせば現代への多大な影響は防ぎようがない事を意味している。そんなこれ迄の特異点の中でも尤も近い時代での転移先は───。

 

「絢爛にして華やかなる大英帝国。しかも珍しい事に今回は首都ロンドンに特定されている。広範に渡っていたこれ迄とは、些か異なるね」

 

イギリスの首都ロンドン。これまで国単位の移動距離を必要としていたのにここへ来ての狭い範囲での探索。楽な仕事……とは思わない、特定された地点が一つの首都を指しているという事は、そこには多くの危険がひしめき合っている事を意味している。

 

油断はしない。これ迄の特異点での旅路で規格外な相手と戦ってきた彼等がそんな事で慢心することは有り得ない。

 

それに、一つの都市で戦闘をするという事は選べる戦闘手段が狭められるという事。

 

「ロンドンかぁ、俺あまりいい思い出が無いんだよなぁ。………なぁロマニ、初っぱなからかめはめ波をブッ放すのは────」

 

「ダメに決まってるでしょ!?」

 

 霧の都ロンドン。ブリテンにもローマにも深く関わりのあるとされる神秘の都市にして時計塔と多くの魔術師が滞在する魔の都、それを良い思い出がないという理由で速攻で更地にしようとする修司にロマニは声を上げてダメだと告げた。

 

無論、修司本人も本気でやるつもりは微塵もない。ただ、ロンドンに訪れる度に関わりたくない魔術師が近付いてきて、何かあればすぐに嫌みや妬み、僻み、挙げ句の果てには謂れのない嫌がらせを受けてきた修司としては、時計塔は正直言って存在する意味すらないのでは? なんて感じている。

 

キリシュタリアや時計塔に属しているAチームの皆を悪く言うつもりはないが、某二世のロード曰く、時計塔では現在魔術の探求より日々利権やら権力争いに忙しいらしく、他所の派閥の粗捜しばかりで魔術の探求は其処までではないらしい。

 

そんな腐ったミカンのバーゲンセールみたいな魔窟、この現代社会に存在している意味って………果たしてあるのだろうか。

 

 個人的にはそんな使い道のない肥溜めみたいな所と関わりたくないが、自分の何が気に入らないのか、謂れのない嫌がらせに前の世界では結構苛立つ事が多かった。

 

だからつい時計塔の上にいる連中を全員ブチのめしてしまおうか、なんて物騒な事を考えるのも………一度や二度では済まなかった。

 

今回は、そんなロンドンへレイシフトをする。前の特異点とは違う意味で疲弊しそうな展開になるのではないかと、修司は密かに肩を落とした。

 

「と、兎に角いきなり大規模攻撃をするのはホントに止めてね! 振りじゃないからね!」

 

「分かってるって、流石に俺も他所の国の土地を理由もなく問答無用で更地にする様な真似はしないさ、実行に移すときは後の事も考えるようにしろって言われてるし」

 

 逆を言えば、更地にする理由とアフターケアが万全であれば容赦なく行動を実行に移す事を意味しているのだとダ・ヴィンチは何となく察した。

 

更に言えば修司はロンドンの街を消す際に敵対している魔術師を除く全ての人々を外に逃がす手段とその後の復興に関する手筈も既に整え終えているのだが、異なる世界線の住人である立香達がそれを知る事はない。

 

「さて、それじゃあ始めるとしよう。ダ・ヴィンチ、レイシフトの準備を」

 

「はいはーい。それじゃあ三人とも、今回も頑張ってね」

 

「よーし、今回も頑張りますか!」

 

「フォウさんは……あ、今回も一緒に来るんですね」

 

「フォウ!」

 

 情報の整理も終え、次はいよいよ特異点の修復作業に取り掛かる。足元から現れるレイシフト用のコフィンへそれぞれ乗り込んでいく立香とマシュ、そして小動物フォウを見送り、修司もまたコフィンに乗り込もうと足を進める。

 

「───修司君」

 

「うん?」

 

「……気を付けてね」

 

ふと、背後からロマニの彼なりの激励が飛んでくる。カルデアに着任して早数ヶ月、漸く自分達もチームとして成り立った来たと実感できた事を内心で喜んだ。

 

「あぁ、任せとけ」

 

不安な気持ちで見送るロマニを勇気づける様に修司は笑いながらコフィンへ乗り込んでいく。

 

 やがて、レイシフトのカウントダウンが始まり三人と一匹はカルデアから十九世紀頃のロンドンへ跳ばされる。それを見送るロマニは“無理をするな”なんて言える訳がなく、彼に出来るのは修司達の無事の帰還を祈るだけだった。

 

「よし、今回の特異点でのお助けアイテムは貴様に決まった訳だな。精々励めよ征服王の従者」

 

「いや待たれよ英雄王、レイシフト先がイギリスの首都ロンドンという理由で私を選出するのは些か短絡的ではないかな? ここはやはり守りの担い手であり姉貴分でもある聖女殿に任せるべきでは?」

 

「お二人とも、人理を守る大事な作戦を前に戯れるとは何事ですか。罰として有事の際はお二人が向かいなさい。私? 勿論マスターの危機とあれば即参上する所存ですよ? 嘘ではありませんよ。えぇ、決して………」

 

「………なぁ、あの三人は一体何を言ってるんだ?」

 

「気にするな、ただの面倒事の擦り付け合いだ」

 

 色々台無しである。

 

 

 

 

 

 

 

 




遂に第一部も折り返し、この調子で第六特異点まで書き進んで行きたいですね!

それでは次回もまた見てボッチノシ






修司の友人or知人


イリヤスフィール=フォン=アインツベルン

アインツベルンの現当主であり、聖杯戦争の参加者。
本来であれば小聖杯の役割を全うする筈だったのだが、白河修司というイレギュラーと遭遇する事で彼女の運命は大きく変わる事になる。

聖杯戦争終結後、英雄王と修司はイリヤの案内でアインツベルンの本拠地に強襲。アハト翁をしばき、他のホムンクルスを無力化すると、王の一声によってアインツベルンは彼の下に降る事になる。

その後、アインツベルンの技術力を応用してホムンクルスである彼等にとある粒子に浴びせた事により、人類ともホムンクルスとも取れない第三の知的生命体としての立場を確立させた。

固有名イノベイド。人類と共に歩み、共に未来を行く人類の隣人として主に宇宙開発部門で活躍している。

そんな彼等を統括している嘗てのホムンクルスの少女は現在、立派な淑女として成長している。

「フフフ、大人になった私も素敵でしょ」




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