『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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プリコネ三周年おめでとう!




その36 第三特異点

 

 

 

 ────黒髭、エドワード=ティーチは激怒した。必ず、かの傍若無人の青年をぶち殺すと決意した。

 

「今死ね! すぐ死ね! 骨まで砕けろぉぉっ!!」

 

「な、なんだぁ?」

 

「アン殿、メアリー殿、ぶち殺して上げなさい!」

 

振り上げた拳を避けた所へ直ぐ様鉛弾が放たれる。いずれも急所を狙ったモノ、殺意に満ち溢れた弾丸を修司は素手でその全てを払い落としていく。

 

先程の冷静さとは打って変わった激情ぶり、そのテンションの激しい落差に戸惑っていると、左右から濃厚な殺意を感じた。片方はカトラスを握り、もう片方は狙撃用の銃を手にしている。

 

どちらも女性、しかも世にも珍しい女海賊であり、同時に有名な海賊。アン=ボニーとメアリー=リード、女だてらに荒波を制覇する歴史に名を刻んだ猛者である。

 

修司も負けじと二人の連携を捌き、対抗するが、ここは船上で更に言えば敵船。地の利は圧倒的に向こうが有利、船の甲板という特殊な地形で縦横無尽に駆け巡るカトラスの女、メアリー=リード。小柄な体格を活かして修司の返しの攻撃を掻い潜り、翻弄していく。

 

そんな中でアン=ボニーの銃弾が修司の死角から頭部に向かって放たれる。跳弾すら利用した絶技、銃を持った時の彼女の戦闘力はドレイクすら上回っているかもしれない。

 

見事な連携、しかし解せない。これだけ見事な連携が出来るのはこれ迄戦ってきたサーヴァントの中でも存在しなかった。唯一呼吸があった戦い方をしていたのは先のローマ特異点でのエルメロイⅡ世と、彼の偉大な大王の幼体であるアレキサンダーの二人。

 

あの二人だって連携といっても所々穴があった。英雄と言っても元は人間、自分の戦い方に余計な異物が混じってきたら当然ぎこちなくなる。アマデウス風に言えば不協和音だ。

 

 だが、目の前の女海賊達にそんな不備はない。綺麗すぎる(・・・・・)のだ。まるで二人で一人と言わんばかりの戦い方に修司は半ば感心していると………。

 

(待てよ? 二人で一人………まさか!?)

 

「どうやら、その様子だと気付いたみたいだね」

 

「あら、もう見破られてしまったの? 意外と見る目がありますのね」

 

「アン=ボニーとメアリー=リード、二人で一つのサーヴァントとか、マジで何でもありかよ。どこぞの仮面ライダーもビックリだわ」

 

アン=ボニーとメアリー=リード、二人で一つのサーヴァント。嘗ての逸話故のその在り方、サーヴァントは一騎という前提条件を破壊してしまいそうな規格外の者、修司は魔術に精通している訳ではないが、目の前のサーヴァントが異常であることは何となく理解した。

 

しかし、分かった所でさほど意味はない。相手が厄介なのは依然と変わりはないし、数の利が覆った訳ではない。

 

「ほら、お姉さんばかりじゃなく、おじさんの相手も頼むよ」

 

唯でさえ色んな意味でやり辛かったのに、そこへ槍兵の男が参戦することで修司は更なる苦境へ追い詰められる事になる。しかもこの槍兵の男、表情こそは人のいい優男な顔をしている癖にやり方がえげつない。

 

アンとメアリーという二人の女海賊の連携を邪魔をしない程度に横槍を入れてくるのだ。それも此方が反撃しようとする絶妙なタイミングで、お陰で反撃の機会すら与えられる事なく、修司はより苦しい状況へと追い詰められていく。

 

振り抜かれる刃を避け、放たれる銃弾を防ぎ、その先に待つ槍の穂先を掻い潜る。一方的な攻防、しかしそれでもサーヴァント達の攻撃も修司に届くことはなかった。

 

「オラァッ! エウリュアレ氏の御足を受けた横っ面はどっちだぁ!?」

 

 そこへ更に黒髭の猛攻が加わり、遂に修司の防御が破られる。跳ね上げられる両腕、がら空きとなった体にメアリーのカトラスの刃と槍兵の穂先が捩じ込まれる。

 

船上という不安定な足場という事もあり、踏ん張りが利かなくなった修司は、勢いのまま帆柱に激突する。まるで岩のような固さの船、この特異点に来て初めて受けた衝撃に修司の肺から空気が吐き出される。

 

「いやいや、今の攻めを受けて漸く一撃かよ。しかも手応えも相当硬いし、お前さん主食にボンドとか混ぜてたりしてない?」

 

「うわ、しかもよく見るとコイツ私の銃弾を肌で弾いてるよ。穴が開いているのは胴着だけ、コイツの体、何でできてるの?」

 

「サーヴァントである私達が言うのもなんですが………気持ち悪いですわね」

 

「かは、こほ、………す、好き勝手言ってくれるなぁ」

 

容赦なく攻められ、斬られたり殴られたり撃たれたりしているのに、悪態すら吐いてくる海賊達に流石の修司もゲンナリした。

 

「さぁて山吹色な兄ちゃんよぉ、エウリュアレ氏からご褒美を受けた頬はどっちか教えな。テメェの首を落とした後にその頬肉を削ぎ落としてやるからよぉ、間接キスならぬ間接キック、ドゥフフwww。これで女神への攻略もまた一歩近付いたでござるwww」

 

「かぁ、気持ち悪い。ヤダお前………」

 

カトラスを手に舌舐めずりをしている黒ひげに修司は筆舌に尽くし難い嫌悪感を覚えた。言ってることは野蛮な海賊のソレなのに言葉の端から感じられるのはソレ以上のおぞましさがあった。

 

良く見ればアンとメアリーはドン引いており、ランサーの男も頬を引き吊らせて苦笑っている。成る程、女神エウリュアレが彼処まで怯えるのも無理はない。何せ無意識に神を嫌っている自分が気の毒と思えたのだから。

 

「さて、兄ちゃんの実力が本物なのは分かった。俺達が相手にしても仕留めきれない位に頑丈なのも………まぁ、悔しいが理解できた。だが、それはそれで殺りようはある」

 

「一人で来たことは潔かったですが、やはり無謀でしたわね。せめて一人位共に戦える方を連れて来たら結果はまた違ったでしょうに………」

 

見れば、ドレイクの船が一向に近付いてこない。恐らくは黒髭が部下の船員に指示を出し、黄金の鹿号を近付けさずに立ち回っているのだろう。向こうから大砲の弾が撃たれているが、何れも此方に当たる様子はない。

 

救援もなく、地の利も取られ、一人単騎で挑んだ修司の敗北。彼等の言い分に何も間違いはなかった。海の常識を軽んじた男の情けない敗北だと、誰もが疑わなかった。

 

「………あぁ、そうだな。確かにアンタ等の言う通り、そこいらの海賊をあしらって戦える気になっていた俺に原因はあるんだろう。認めるよ、船の上の戦いならアンタ達の勝ちだったってな」

 

「………なに?」

 

「だから、奪わせてもらうぜ。アンタ達の有利を………根刮ぎな!!」

 

 瞬間、修司の脚に力が練り上げられる。確かにこの船は黒髭の船であり、単独で挑んだ修司が相手の土俵で戦うには何もかもが足りなかっただろう。

 

だが、そんな事はどうでもいい。白河修司が目的としていたのは黒髭の船の上で戦うのではなく、黒髭の船を()()()()()にあるのだから。

 

その目論見がバレないように必死に戦ったのも当然だし、彼等の連携に対応できなかったのも全て本当だった。尤も、向こうが宝具を使わない限り傷を付けられる事は無い自信はあったのだが……。

 

 だが、意気揚々と挑んでおいてここまで追い詰められるのは想定外であり、そういう意味では黒髭達は強者であり、勝者とも言えた。不甲斐ない自分を情けなく思いながら修司は脚に力を入れた。

 

震脚。己の師からの命令で毎日欠かさず行われてきたモノ、これまで生きてきて殆ど忘れる事のなかった鍛練。数千数万と繰り返してきたそれは一種の兵器と化していた。

 

瞬間、船が沈んだ。黒髭の宝具であるアン女王の復讐(クイーンアンズ・リベンジ)が悲鳴を上げて海中へ強制的に沈み、船はその浮力によって無理矢理に跳ね上がる。まるで狂暴な荒馬が乗せた人間を振り払うかの様に、船の上にいた全ての人間が吹っ飛ばされた。

 

海上に投げ出される黒髭、空中で無防備を晒す彼に待っていたのは………二振りの巨大な戦斧を持った大男。

 

「て、テメェは!?」

 

ドレイクの船にいる筈のアステリオスが、何故自分の真上にいるのか、ふと気になって下を見れば、黒髭は自分の船とドレイクの船の間にいる事が分かり、同時に理解した。船の速さはドレイクの方が上、白河修司の目的は最初から自分の船に追い付くまでの時間稼ぎだった。

 

いや、気付いてはいた。黒髭も伝説の海賊として恐れられてきた猛者だ。修司の目的が自身を囮にすることで時間稼ぎをする事だとは彼が単騎で乗り込んできた時点で分かっていた筈だ。

 

誤算だったのは修司という人間の強さを読み間違えたこと、そして何より自分の船に潜む寝首を掻こうとする者に対する注意をし過ぎていた為。

 

海賊が海の上で読み負ける。これ程滑稽で笑えない話もないが………まぁ、生前の死に方よりはだいぶマシか。

 

(あーあ、せめてもう少し………憧れの海賊と海で競いたかったなぁ)

 

「エウリュアレを………虐めるなぁ!!

 

胸中に抱くのは僅かな後悔、海賊エドワード=ティーチはアステリオスの一撃を受け、海の中へ溶けるように消えていった。

 

 そして、アステリオスが黒髭との決着を付けていた一方で、修司の方も一つの戦いが終わろうとしていた。

 

「あーあ、黒髭の奴負けちゃったね」

 

「全く、一人だけ勝手に満足して逝くなんて、これだから男は………」

 

「まぁ、僕達も人の事は言えないんだけどね」

 

手にしていた銃は砕かれ、カトラスも真っ二つにへし折れた。自分の内にある霊核が確かに砕かれた事を認識したアンとメアリーは消え往く自分の体を互いに達観した様子で見つめていた。

 

「それにしても、律儀な人ですわね。私達を倒すのなら片方だけ潰せばいいのに、ご丁寧に二人とも倒すなんて……」

 

 アンとメアリーはその逸話から二人は一つのサーヴァントとして召喚されていた。片方が倒されれば残ったもう片方も消える、これ迄の中で異例なサーヴァントだが、それ故に対処も確立されていたサーヴァント。

 

一人を押し切れば結果的に二人とも倒れる定め、しかし修司は敢えて二人とも同時に倒すことを選んだ。

 

「だって、そうしないと負けを認めないだろ? アンタ達は」

 

 その言葉に二人の女海賊は愉快そうに笑った。白河修司は自らの勝利を誇示するタイプではない、彼がそう口にしたのは敵対したサーヴァントの全力を乗り越えたという証が欲しかっただけ。

 

無欲に見えて何とも強欲な奴だとメアリーは笑い、海賊でないことが惜しいとアンは嘆き、二人の女サーヴァント達はやはり笑いながら消えていった。

 

「さて、これで残すはアンタだけだな」

 

「いやぁ、まさか今の一瞬で彼女達を倒すなんてね~。ペガサスなんちゃら拳だっけ? おじさんそう言うの疎いから良くわかんないけど……今時の人間ってああいうの出来ちゃうのねぇ」

 

 目の前にいるのは槍を肩に担いで感心したように呟く男はヘクトールと呼ばれていた。トロイア戦争で活躍したという守りが得意な英霊、自分の味方であったはずの海賊達が倒されたにも関わらず、その余裕そうな風体は依然として崩された様子はない。

 

「その様子だと、此方に情報を渡すつもりは無いようだな」

 

「まぁね。それで、どうする?」

 

「無論、ここで倒れてもらう。アンタはある意味で黒髭以上に厄介な相手だ。自らの手の内を晒すつもりがない以上、そうする前に仕留めさせてもらう」

 

修司が警戒しているのはヘクトールという英雄の手練手管だ。トロイア戦争にてその武勇を知らしめた彼だが、彼はその武勇もさることながら為政者としての手腕もまた凄まじかったと聞く。言葉巧みに人を操るのはカエサルなどを相手として慣れているつもりだが、ヘクトールという男にはカエサルとはまた違った。

 

成る程、アキレウスが一騎討ちを申し込む訳だ。目の前のサーヴァントは武力以上に何かをしでかす怖さがある。

 

「そうかい。まぁ、確かにお前さんの目論見は正しい。相手が得体の知れない切り札を持っているなら、使われる前に潰しちまえばいい。誰だってそうするし俺だってそうするね………けどな」

 

「っ!」

 

「悪いな兄ちゃん。時間切れだ」

 

ヘクトールが笑みを浮かべた瞬間、修司の足元が唐突に消え去った。突然の事態に驚く修司だが、二人が足場にしていたのは黒髭の宝具である船、その持ち主である黒髭が敗れ去ったと言うのなら、彼の宝具も消えるのもまた道理。

 

海中に身を投げ出す修司だが、同時にヘクトールが何処かへと消えていくのも見えた。自身の得物である槍をしまい、その手には光輝く盃───即ち聖杯が握られていた。

 

何故奴が聖杯を持っている? 戸惑う修司を余所に海中を泳いでいくヘクトール。逃がすものかと今一度かめはめ波を放とうと両手を前に突きだした時………。

 

「っ!?」

 

 ふと、凄まじい殺気を感じた。背筋が凍り付き、一瞬身動きが強ばってしまうほどの殺意と圧倒的気配から来る圧力。それは修司が嘗て体感し、そしてトラウマとして刻まれていたモノだった。

 

そう、白河修司はこの殺気を知っている。圧倒的なまでの死の気配、それは昔修司が命を掛けて立ち向かい、そして敗れた相手。

 

「………まさか、アンタも来ているのか?」

 

修司の言葉に応えるモノはいなかった。ただ一つ分かっていることは、この海に嘗て自分を殺しかけたあの男がいるという事。

 

───いつの間にか、修司の手は強く握った拳が出来上がっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ったく、黒髭め。女神も奪えずに終わるとか。とんだ役立たずだ。同じ海を往くものとして使ってやったのに、とんだ粗悪品を掴まされたモノだよ」

 

 事の一部始終をある魔女の力によって見つめていた男は、アステリオスによって散った黒髭をこれでもかと扱き下ろし、悪態を吐いていた。

 

本来の目的であるエウリュアレも手に入らず、帰ってきたのは此方が用意した聖杯だけ。しかしそれでも良い。男にとって全ては余興に過ぎないのだから。

 

「さて、それじゃあ私達も頃合いを見計らって奴等の前に出てやるとしますか。此処まで頑張ったバカな連中を絶望の底に叩き落としてやる為に」

 

男の目には敗北の二文字はない。男が見据えるのはいつだって勝利の二文字しかない。男は自分の勝利を信じて全く疑わない。

 

何故なら───。

 

「では、船を動かそう。ヘラクレス。お前の出番も近い。期待しているぞ」

 

男の操る船の名はアルゴー。そしてその船長の名はイアソン。そして、彼が全幅の信頼を寄せる男の名は───ヘラクレス。

 

ギリシャ最大最強の英雄が水平線の彼方を静かに見据えていた。

 

 

 

 

 

 

 ────嘗て、ヘラクレスには倒せない男がいた。自身の宝具である命のストックを一撃で二つも奪われておきながら、ついぞ倒しきれなかった宿敵。

 

この記憶をもって召喚された時、ヘラクレスは確信した。この何処までも続く大海に自分と戦ったあの少年がいるのだと。

 

それを知った瞬間、ヘラクレスは内心で歓喜した。あの時の続きが出来る。あの時の好敵手と再び合い見えるのだと、気分が高揚し、叫びたくなった。

 

あれから、どれだけの月日が流れたのだろう。一年か、二年か、それとももっとか。分かっているのは嘗ての好敵手が更に力を付けているという事。楽しみだ。楽しみで楽しみで、仕方ないと思えるほどにあの時の戦いは刺激的だった。

 

 此度の召喚で大英雄ヘラクレスが望むのはただ一つ。嘗ての戦いの続き、そして───決着である。

 

 

 

 

 




Q.このヘラクレス、ボッチにどんな思いを寄せてるの?

A.ミノタウロスがベル君に抱くのと同等の思いを抱いております。(笑)

それでは次回もまた見てボッチノシ





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