くどかったらすみません。
世界の海を制覇し、地球という星の開拓を行ったとされる世紀の大海賊フランシス=ドレイク。その色んな意味で衝撃的な出会いから一夜明け、現在修司達は彼女が所有する船、
「いやぁ、昨日のアンタの一撃、痺れた痺れた! 彼処まで綺麗にノサれるとは、拳法家ってのは大したもんだねぇ!」
「精神的ダメージは此方の方がでかかった気がするけどね。その後も普通に呑んでたし、加減していたとはいえアンタも大概タフだな」
昨日の悪夢を思い出したのか、若干顔色が悪くなる修司だが、対照的にドレイクの顔は何処までも爽やかだった。
「でも、本当に今でも信じられません。まさかドレイク船長が聖杯を所有していたのもそうでしたが、まさか海神ポセイドンを倒してしまうなんて……」
「ねぇ~、私もビックリしちゃった」
ドレイクが一方的に修司に絡んでいる一方、立香とマシュは昨夜に彼女から聞いた冒険譚を思い返していた。海神ポセイドンなる海の覇者を打ち倒し、聖杯を手にいれたと。聖杯を酒飲みのグラス代わりに使用し、食料の類いを湯水のように使いながら宴会するドレイク達に話を聞いた立香達はそれはもう大層驚いた。
特異点の原因と思われていた聖杯の回収が予想を遥かに越える形で成し遂げられた事、そうそうに特異点が修復される事に一時は拍子抜けたりしたが、事は上手くいかないようでドレイクから譲渡された聖杯を手にしても修復されない様子にやはり黒幕によって仕掛けられた聖杯を回収しなければならないというロマニの推測により状況は振り出しへと戻った。
とは言え、今は海賊であるドレイク達の手を借りられる事から、そこまで悪い事態ではない。寧ろ頼れる海の猛者を味方に引き入れた事で状況はマイナスというよりプラス寄りだ。
時々襲い掛かる他の海賊達を適当に瞬殺しつつ航海を楽しむ一行、特にマシュは見渡す限りの海を前に興奮を抑えきれていない様子だ。
(………そう言えば、マシュちゃんっていつ頃からカルデアにいたんだ? デミサーヴァントだからってこれ迄なし崩し的に受け入れてきたけど、良く考えればおかしなことだらけだよな)
空を飛ぶカモメ、何処までも続く水平線、それらを前にしてはしゃぐ姿に年相応の少女だと認識していたが、もしかしたら自分は何か勘違いをしていたのではないかと考えてしまう。
これ迄多くの出来事が起きていたことで忘れかけていたが、そもそもカルデアはある魔術師の手によって興された施設だ。魔術師とは人の倫理やら価値観を捨て去り、魔導にのみ力を入れる人種。だからだろうか、目の前のマシュ=キリエライトという少女が、実は全うな生を受けた人間ではないのだろうか。
そんな考えが頭に浮かんだ瞬間、修司は自分の顔を殴り付けた。結構な威力と音がした為、隣にいたドレイクは勿論、立香とマシュの二人にも何事かと心配されてしまった。
(そうだよな。今はそんな事を考えている場合じゃない。糾弾や矯正は全てが終わった後に幾らでも出来る。それに、マシュちゃんはマシュちゃんだ。俺達と同じちゃんと前を向いている生きた人間だ)
彼女の出自がどうあれ、今は自分達の頼れる仲間。懸命に戦い立香を守る頼もしい盾の守護者だ。下手な疑心を抱く自分に戒めと謝罪を込めての殴打だったのだが………予想より力を込めていた所為か、うっすらと鼻血が出てしまった。
そんなアホみたいな事をしている内に、船員の一人から島があると告げられる。見れば、確かに東北東の位置に島が見えた。宝とこの海域に潜む謎を解き明かす為に修司達はドレイクと共に島へ上陸した。
「あの、修司さん、一つ聞いても良いですか?」
「ん? さっきの事は唯の自戒だって言ったと思うけど?」
「た、確かにそれも気になりますけど。そうではなく、その………脇に抱えている丸い物体は?」
「あぁ、この砲弾? いやー、皆がそれぞれ得物を持ってるのに俺だけ何も持たないって言うのもね。ドレイク船長に一言言って一個だけ拝借したんだ」
「何に使うつも………あぁいや、私何となく分かっちゃったからいいや。マシュもワン◯ース読んだなら何となく気付いたでしょ?」
「で、ではやはり………」
海上の戦闘においてメイン武装とも言える大砲の弾をまるでサッカーボールの様に扱う修司に何となくこの後の展開を察した立香とマシュはジリジリと修司から離れていく。
「ん」
「お?」
何かを察したのか、突然ドレイクは密林の方に向けて銃を向けて一発の銃弾を放つ。続いて修司が特有の察知能力で気を纏わせた砲弾をドレイクの放った銃弾とややずれた箇所に向けて投擲する。ゴウッと音を超えて放たれた砲弾は地面に衝突すると派手に爆発し、其処にいた筈のサーヴァント諸とも辺りを吹き飛ばした。
まるで小さな隕石が落ちたような衝撃、伏せるドレイクと盾で衝撃を防ぐマシュ、そのマシュの腰回りに引っ付いて離さない立香、唯一吹き飛びそうになったフォウを修司が抱き上げた。
通信から乾いた声でサーヴァント消滅の報告をしてくるロマニ、通信の向こうからダ・ヴィンチの笑い声が聞こえてくる。恐らく管制室では天才の万能者が腹を抱えて床に転がっている事だろう。
予想以上の威力に誰よりも驚いていたのは修司だった。初めて使う砲弾、気持ち的には某海賊漫画に出てくる老兵(中将)を真似たつもりだったのだが、思った以上の威力が出てしまった。どうやら偉大なる海兵はあぁ見えてキチンと力加減が出来た人だったらしい。
どうやら大海原に出てはしゃいでいたのは自分だけでは無かったようだ。恐る恐る後ろを振り返ると、砂にまみれながらジト目で睨んでくる二人の少女がいた。
「ねぇマシュ、ここ最近の私、敵よりも味方に殺されそうになってない?」
「ですね。一発くらいひっぱたいても問題はないと思いますよ先輩」
「いや、本当はもう少し抑えるつもりだったんですよ。あんなに爆発するなんて自分も予想していなかったというか………すみませんでした!」
「アッハハハ! 何とも豪快な人じゃないか! そこいらの海軍なんて目じゃないね!」
「ブォフォーウ!」
その後、立香とマシュに折檻と説教をされながらも島を探索した修司達はバイキングの船を発見、内部に隠された一冊の本とそこに記された情報を頼りに一行は島を後にするのだった。
………尚、修司のなんちゃって
血斧王エイリーク、ドレイクと修司の同時攻撃により特に出番もなく────
◇
バイキングの残した暗号を頼りに船を進めること数刻、途中で遭遇した海賊を倒し、手にした海賊旗をロマニに解析させ、その間情報通りの所に新たな陸地を発見したドレイクは船を島へ接岸させ、先程とは規模の違う島に胸を踊らせながら探索した。
その後、霊脈ポイントへ到達した修司達はそこで召喚サークルを無事に立ち上げ、カルデアとの通信を開始した。その途中ダ・ヴィンチによる当時の物価の値段と価値の高さを利用してドレイクを失神に追い込むなどの茶目っ気を見せながら話を進めていき、Dr.ロマンから一つの情報がもたらされようとした時だ。
「あ、そうそう。先程海賊旗の結果が出たんだけど───あの旗は伝説の大⬜賊《⬜⬜》の⬜⬜。つまり、あの海賊達は⬜⬜⬜⬜⬜という⬜⬜⬜………」
「ドクター? ドクター、通信の様子が───ドクター!?」
これまで繋がっていた筈のカルデアとの通信が一方的に遮断された。これ迄の経緯から原因はカルデア側にあるとは考えづらい、不思議に思った修司達がドレイクの船である黄金の鹿号へ戻ると………不可解な出来事は再び起きた。
船が動かなくなった。船員の一人が真面目な顔でふざけたことを口にする事にドレイクは怪訝な顔付きになるが、船員はそんな場違いな嘘を吐く部下でないことはドレイク自身が良く理解している。
ドレイク本人も船を調べるが………結果は同じ、船に不備があるわけではない。まるで何かに固定されているようだと口にする彼女に立香とマシュは漸く異変の原因が魔術的結界によるものだと気付く。
一方修司は最初結界と聞いて嘗て地元の学校で遭遇したとあるメドゥーサによる鮮血神殿を思い出すが、取り敢えずあの時程危険性のある結界でない事に安堵し、一人胸元を撫で下ろしていた。
とは言え、このままこの島で足止めを食らう訳にはいかない。結界を張った術者をどうにかしない事には次の島へ向かう算段も立てられない。仕方なしに再び島への探索に向かう一行、その途中人気のない砦という人工的な建築物の存在に首を傾げたりするが、その様式は何処と無く見覚えがあった。
何故あの時代のモノが此処にあるのか、不思議に思う修司だが、その一方でマシュはとある岩山に穴が開いてあるのが見えた。
人一人容易く通れそうな空洞、中は広範囲に広がっていそうであり、魔術に秀でたサーヴァントなら軽く工房にしてそうな異空間。罠である可能性も考慮して修司が先頭に立って中へ進むと………明らかに人工的な地下迷宮が広がっていた。
初めて目の当たりにする迷宮、マシュと立香が唖然としている中、唯一ドレイクだけは楽しそうに目を輝かせていた。地下迷宮は冒険譚に於いてメジャーなモノ、故に修司もドレイク同様ワクワクさせていたが………二人の前であるという事もあり、表情に現れないように務めて平静を装っていた。
そして、迷宮の奥で何かがいるという事も修司は察知していた。その事もあり結界を張った術師がこの地下迷宮にいる可能性が格段に高くなった事を悟り、修司達は急遽ダンジョンの攻略に乗り出した。
途中、何度か遭遇するスケルトンの兵士やら、毛色の違う竜牙兵なる雑兵を蹴散らしながら一行は奥へと進む。修司の気配察知能力とドレイクの勘を照らし合わせること数分、未だにダンジョンの終着地点は見えてこない。
「ず、随分と奥へ進んでしまいましたけど、帰りは大丈夫なのでしょうか?」
「そうだな。予想に反してだだっ広い場所だし、出入り口はとっくに見失っているけど………まぁ、安心してくれよ。幸い横に広がっていても深さ自体は大した事はないから、いざとなったら俺がかめはめ波で地上までの道を作るからさ」
「うーん、何故だろう。地上に戻れるって言われているのに全く安心できないこの気持ち」
「私もです先輩。何なんでしょう、このなんとも言えない奇妙な気持ちは。取り敢えず修司さんは絶対にかめはめ波を射たないで下さいね。生き埋めになるのは目に見えてますから」
「え? いや、そんなヘマは流石にしないよ。崖崩れが起きないほどに地表を吹き飛ばせば………あ、いや、やっぱ何でもありませんすみません」
どうやら先程の砲弾の一件が未だ彼女達の中で許されていないらしい。世知辛い二人からの風当たりに修司が涙を流すと、不意に開けた場所に出た。
ここが終点か? そう思ったのも束の間、頭上から感じた殺気に修司は後ろに下がると、巨漢の男が二振りの巨大な斧を手に落下してきた。3mはあるであろう仮面を付けた大男に一同は一瞬怯むが、向こうには敵意がありありと滲み出ている。
戦闘は避けられない。誰もがそう判断し身構えた時、修司が待ったを掛けた。
「皆、ちょっとだけ時間をくれ。もしかしたら戦いは避けられるかもしれない」
「え!? で、ですが向こうはとても殺気立っていますよ!?」
「そうだぜ旦那、言っちゃ悪いが向こうは普通の人間じゃねぇ、ありゃ獣だ。しかも手負いと来た。追い詰められた獣がどれだけ恐ろしいか、あんただって知ってるだろう」
巨大な斧を手にグルルと唸る大男、その目は血走っており今にも此方に襲ってきそうである。そうしないのは大男が目の前の白河修司という男の強さを本能で察知した故の自制。
見れば男の体からはあちこちから血が滴り落ちている。ドレイクの言う通り手負いなのだろう、目の前のサーヴァントがどうして此処まで追い詰められているのかは分からないが、少なくともそう言うことをする輩がこの海にいる事は確かだ。
と言うことは、目の前のサーヴァントは情報を持っている。この特異点に関するなんらかの情報を。ならば交渉の余地はある筈、緊迫する空気、戦闘開始の秒読みが始まる中、修司が選んだ選択は───。
「ちょ、ちょちょちょ!?」
「修司さん!? な、何をして!?」
「向こうは手負いの獣、そう言ったなドレイクさん。相手が獣なら、此方も獣になるまで! 服を脱いで敵意が無いことを示せば、きっとコイツも分かってくれる筈だ!」
脱衣である。もう一度言おう、脱衣である。この張り詰めた空気の中で考えに考えを重ねた結界、上半身の胴着を脱いで裸になり、武器の類いを持っておらず、且つ敵意の無いことを示す為に修司は脱衣という手段を取ることにしたのだ。
上着を脱ぎ、肌を露にして両腕を広げ、無防備を晒す。すると、目の前の大男からの敵意が若干薄まった気がする。まさか通じた? たじろいで後退る大男に立香達も驚きを顕にするが………実際は、突然服を脱ぎだす修司の奇行に戸惑っているだけである。
対する白河修司は至って真面目である。本気で考え、本気でそう思った故の行動。実に傍迷惑である。
「くっ、警戒心が解かれるまであと一歩という所か。やはり、下も脱ぐべきか! 流石に少女達の前で全裸になるのは流石に憚れるが………くっ、やむを得ないか!」
自分のプライドや矜持よりも最善を尽くすことを優先とした修司は意を決して腰の帯に手を伸ばす。まさかの全裸公開、マシュは盾の影に顔を隠し、立香は両手で顔を覆いながら指の隙間でチラ見している。ドレイク? 勿論ガン見である。偉大なる海の戦士がたかが男の裸に狼狽えることはない。
いざ! 時間を掛ければそれだけ相手に不信感を与える事になる。羞恥心は投げ捨てるもの、自分が恥をかくだけでいらぬ戦いが避けられるなら本望だと、修司が己の全てをさらけ出そうとした時。
「うちのアステリオスに、何てものを見せるつもりよ! このド変態!!」
「ぶへ!?」
突如、大男の背後から現れた可憐で小柄な美少女が、物凄い勢いのある飛び蹴りが修司の顔面に直撃するのだった。
狂暴な動物を説得するには全裸になるんだってDr.ヒルルクが言ってた!
つまり………アステリオスはチョッパーだった?
それでは次回もまた見てボッチノシ
Q.ボッチはバレンタインチョコ貰えていたの?
A.これ迄はシドゥリからの一個のみだったが、最近は金髪碧眼の女性ととある後輩の女性から貰えている模様。