※月γ日
王様がカルデアに来てくれた。俺が尽くし、自分の力を示し続けると誓ったあの人が遂に俺達のカルデアに来てくれた。
と、最初こそは有頂天になってしまったものだが、どうやらこの王様は自分の知る王様では無かったようだ。開口一番に発せられた一言は警戒心丸出しの「誰だ貴様は?」である。その時点で俺の知る王様でない事は容易に想像できたし、彼もまた俺の事を知らないのも………また道理だ。
サーヴァントは出会った人の記憶を記憶として保持している可能性は極めて低い、前に神霊や格の高いサーヴァントなら可能性はあるとされていたが、今回はジャンヌさんやエルメロイさんの様にそうならなかっただけ、寧ろこうなるのが普通だとロマニは言っていた。
少し………いや、大分堪えたなぁ。そりゃあここの王様からしたら名も知れない有象無象の一人に過ぎないだろうけど、まさか俺まで雑種呼ばわりされるとは思わなかった。まぁ、名前自体は早くに覚えてもらったから今はそこまで凹んでないけど……。
そうだ。凹んでばかりはいられない。確かにあの王様は自分の知っている王様じゃないし、自分もまたあの王様の臣下ではない。でも、だからと言ってこれで自分達の関係が終わる訳ではないのだ。
また始めればいい。一から………いいや、ゼロからか。立場も立ち位置も前の時とは違うが、これからもあの人に認められるよう精進し続けようと思う。
ただ、気になるのはジャンヌさんが王様と時々絡んでいる事、何でも元の世界での自分と王様の関係を教えようとしてくれていたらしい、別に気をツカワナクテモいいのに。
ともあれ、これでまたカルデアの戦力が濃くなった。王様一人で文字通り百人分の………いや、それ以上の戦力になるだろうが、あくまで王様は立香ちゃんのサーヴァントだ。あの人の対応は彼女に任せることにしよう。
て言うか、自分は王様がどれくらい強いのか知らないし。戦いは専ら自分が担当していたし………まぁ、英雄王って言うくらいだからヘラクレスよりは強いのだろう。多分。
………ヘラクレスかぁ、昔コテンパンにやられたからいつかリベンジ出来たらいいな。出来たら出来たでイリヤに知られたら怒られそうだけど。
「英雄王、どういうつもりですか」
「いきなりだな芋娘、王たるこの我に気安く問を投げるなど、聖女とは言え少々度がすぎるのではないか?」
「惚けないで下さい。貴方、本当は憶えているのでしょう?」
「…………いや、知らんが??」
「本当ですか?」
「本当本当、英雄王嘘吐かない」(憶えていないとは言っていない)
「…………まぁ、今はそれでいいでしょう。私も貴方も今はカルデアのいちサーヴァント、憶えていないのなら私から特に言うべき事はありません。ですが」
「?」
「彼に関する厄介ごとに巻き込まれたくない。それ故の虚偽だった場合………分かってますね?」
「…………」
「その時は、清姫さんを用いて洗いざらい調べあげるつもりですのでお覚悟を。では、私はこれで………」
「……………」
「あれ? どうしたのギルガメッシュ王………うわ! 凄い汗だよ!? どうしたの!?」
「…………何も、なかった」
※月Ω日
今日も今日とて鍛練鍛練………の、筈だったのだが、緊急事態が起きた。
立香ちゃん。自分と同じ人類最後のマスターである藤丸立香ちゃんがここ数日全く目が覚める様子がないのだ。
………余計な混乱を避けたいからあの場では言わなかったが、メディアさんが言うにはどうやら今の立香ちゃんは何者かの干渉によって夢に囚われている状態だという。
これがレフが王と呼ぶ人理焼却の黒幕の仕業かは分からないが、その事が分かるメディアさんなら何とか出来るのではないかとロマニは訊ねるが、彼女曰く魔術に囚われた人間を強引に夢から醒まさせようとすると、後で体にどんな悪影響が残るか分からないらしい。
これが魔術師なら多少強引にしても大丈夫だろうけど、立香ちゃんは正真正銘の一般人だ。それ故に対処する際は慎重に扱わなければならないという。
今はケイローン先生を初めとした医療に心得のあるサーヴァントがマシュちゃんとドクターと交代制で立香ちゃんを看病している。サーヴァントといつの間にか交流を深めていた立香ちゃんに感心していると………再び異常事態が起きた。
何でもダ・ヴィンチちゃんの特製礼装とやらが無遠慮にカルデア内で出回っているらしいのだ。正直異常事態と騒ぎ立つには微妙だし、何より今は立香ちゃんの事もある。優先順位を間違える訳にはいかないし、危険度が低いなら放っておいても別に良いのではないか? と、最初はダ・ヴィンチちゃんを除いた誰もがそう思ったいたのだが、一人、これに反対してきた人がいた。
王様である。モノの真贋に対して絶対的とも言える拘りを持つ王様が贋作殺すべしみたいなノリと勢いでダ・ヴィンチちゃんの工房に押し掛けてきたのである。
人類最古の英雄王が味方に着いた事で申し訳なく思いつつもこの異常事態を解決するための依頼を出すことにしたダ・ヴィンチちゃん。まぁ、自分の作品であるモナリザが偽物として出回っている現状を何とかしたいと思う気持ちは分からなくもない。
しかし、今はマスターである立香ちゃんは未だに眠ったまま、だから今回は自分がメインのマスターとしてサーヴァントを連れて異常を観測した座標にレイシフトする必要があった。
事態が事態な故に速攻で解決することにした自分は単独でレイシフトするつもりだったが、流石に自分一人で行かせるのは忍びないという事で何人かサーヴァントを連れていくことになった。
自分が連れて行くことにしたサーヴァントはエミヤ、クー・フーリン、アルトリアさん、そして王様の四人だ。エミヤは言わずもがな、アルトリアさんとクーは戦闘スタイルを熟知しているから連携がしやすい。
王様は………なんか物凄い数の刀剣をブッパしていた。アルトリアさんやエミヤが言うには王様は無数の宝具を惜しみ無く降り注ぐ戦闘スタイルらしい。本人も戦えなくもないが、基本的にはああいう戦い方なのだとか。
初めて目の当たりにする王様の戦い。その圧倒的物量に一瞬呆けてしまったが、自分も戦いに参戦。立ち塞がる敵サーヴァント(贋作)を駆逐しながら漸く元凶のいる場所に辿り着いたのだけど………。
ジャンヌ・ブラックだった。うん、第一特異点と今ではもうあまり憶えていないけど夢の中でも戦ったジャンヌ・オルタがなんか息の荒いランサークラスの女性に纏わり付かれていた。
………おっかしいなぁ、ジャンヌ・ブラックもといオルタって第一特異点では結構な悪党じゃなかったっけ? 何かワイバーンとか邪竜とか従えていて、人類を根絶やしにしてやるー的なことを息巻いてた文字通り人類の敵だった彼女が一体どうしてあんな面白い人間になったのか。
兎も角、彼女が今回の異常事態の元凶なら倒すだけだと速攻で倒し、序でに旗と剣と槍をそれぞれへし折り無力化させた。エミヤやアルトリアさんはやりすぎだと言っていたが、戦意のある相手をへし折り負けを認めさせるにはこの手が一番だし、戦う前に一応投降を促したんだけど………聞かなかったのは向こうだし仕方ないよね。
ともあれ、剣を折られて旗も折られ、涙と鼻水にまみれたジャンヌ・ブラックだけれども、遂に最期まで彼女は自分が消え行く運命を由としなかった。自分は偽物、だけれど関係ない。私は私としてジャンヌ=ダルクを超えると豪語する彼女に自分は一言口にした。
だったらカルデアに来ればいいと、今カルデアにはジャンヌ(白)もいるし、喧嘩はご法度だが多少のじゃれ合いくらいは見逃そう。ホンモノを越えるというジャンヌ・ブラックの気持ち、その気持ちは紛れもなく本物なのだから。
そう言うと彼女は自らの敗北を認めてランサーの女性共々消滅した。少し寂しいが………これも一つの別れだとエミヤは言った。
王様は………特に何も言わなかった。王様は贋作に対して潔癖とも言えるほどに拒絶する人だから、ぶっちゃけ受け入れた自分を粛清するのかと思ったけれど、特にそれらしい反応は無かった。
ただカルデアに戻る際、「あれはあれで一つの真作だ」と呆れた様に呟く王様はやはり懐の深い人なんだと改めて思った。そう、贋作として生み出された英霊達は皆総じて楽しそうだった。英霊としての在り方に拘るのではなく、一つの人生として楽しんでいた彼等は英雄王である王様にとって贋作には見えなかったのかも知れない。
そう言う意味ではダ・ヴィンチちゃんの言う通り、ジャンヌ・ブラックは真作を越えたのかもしれない。
追記。
カルデアに戻ると、立香ちゃんは目を覚ましていた。七日間も眠っていたから心配していたけど、体に異常はないみたいだし、ケイローン先生やメディアさんも健康体であると太鼓判を押していた。
無事に目を覚ました立香ちゃんに安堵する俺達。だから、という訳ではないが目を覚ました記念に立香ちゃんは召喚ルームに向かいサークルを回すと、なんと二人ものサーヴァントが召喚に応えてくれた。
一人はジャンヌ・オルタ、今回の異常事態の片割れの元凶であった彼女が早速カルデアに来てくれた。何故か履歴書を片手に。
何でも、オリジナルより自分の方が字が綺麗だろうとマウント取る為に練習してきたのだとか。いや真面目か。しかも本当にジャンヌさんより字が綺麗だし。
そんな訳で無事にジャンヌ・オルタ………長いから邪ンヌでいいか。彼女も新たにカルデアの一員に加わる事になるのだけど、もう一人が少し変わっていた。
巌窟王エドモン=ダンテス。何でも立香ちゃんによれば夢の中で助けてくれたサーヴァントらしいのだ。夢の中で一体どんな事があったのか知りたいが………まぁ、それはまた今度にするとしよう。
ともあれ、協力的なサーヴァントが来てくれた事を今は喜ぶとしよう。
◇
時刻は深夜を周り、スタッフ達も交代しながら睡眠を取り、サーヴァント達も燃費を抑えるために睡眠することにした時間帯。英雄王は一人カルデアの中を散策する。
中々に混沌としてきたカルデア、
「やれやれ、相変わらず過保護なのか判断に困る奴よ。奴が心配なくせに相方は自分だけで事足りると断じるその性根、めんどくさいを通り越して一種の可愛げにさえ見えてしまう」
王が目するのはここではない何処か、呆れと苦笑いに彩られたその笑みはある種の愉悦を噛み締めていた。
そんな英雄王が休憩室に立ち寄った時、ふと視線を感じる。先程よりも強くなった気配に姿を現す気になったその者を黄金の王は愉快そうに呼び掛ける。
「───それで? この我になに用だアヴェンジャー。今宵の我は少しばかり機嫌が良い、姿を見せるのであれば断罪するのは止めておくが?」
言外に今すぐ出てこなければぶち殺すと脅す英雄王、
すると、暗闇から一人の男が現れる。憤怒を纏い、世界を憎み、また愛する者。アヴェンジャー………巌窟王、黒いシルクハットを深く被る男の眼差しは何処までも鋭く、しかし何処か焦りの色が滲み出していた。
「──先ずは、不躾な真似をした事に対する謝罪と謁見に応じてくれた寛容さに感謝したい」
「良い、赦す。して、なにが知りたい? まぁ、見当は付いてるがな」
備え付けの椅子に座り、王の蔵から一本のグラスと酒の入った小振りの樽を取り出す。流石に巌窟王に勧めるつもりはないのだろう、一人グラスに注ぎ飲み干す英雄王は喉を潤しながら巌窟王からの問を待った。
「お前の臣下───白河修司に取り付いているモノ、あれは、一体なんだ?」
巌窟王は極めて平静さを取り繕っていたが、その声は何処か震えている。そんな彼の様子に気分を良くした英雄王はクハッと笑みを溢した。
「貴様も半分気付いていよう岩窟王。アレは紛れもなく人の手で生み出された人造兵器、地球人がその技術力を他の惑星間の知的生命体に自分達の力を示す為の機体だ」
「地球人、そして他の惑星間………だと?」
「然り。覚えておけ、そして歓喜するがいい巌窟王。貴様が危惧するアレは正真正銘………人類の叡智の結晶よ」
そう言って笑う英雄王の瞳にはこれから待つ愉悦の瞬間を待ちわびる子供の様に輝いていた。
────尚、そのハチャメチャに自分が巻き込まれることを予想していなかった模様。
そして、それから数日後。カルデアは次なる特異点の座標を特定。
未知の大海原を前に立ちはだかるのはギリシャの大英雄。
白河修司にとってリベンジの時が───迫る。
Q.AUOはボッチの事憶えてないの?
A.覚えているけど知らないフリをしています。清姫と出会うと即アウトなので彼女とは極力会わない様にしています(笑)
Q.バレたらどうなるの?
A.対ボッチの為に重用されます。主にブレーキ役として。
Q.岩窟王はグランゾンの存在をどうやって知ったの?
A.偶々。カルデアに召喚される時に彼の特性故か偶然目にしてしまった模様。
次回、封鎖終局四海オケアノス。
最大のトラウマ、打ち克てボッチ!
それでは次回もまた見てボッチノシ