『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今回の特異点はドラゴン⚪ール並みに引き伸ばすかもしれない(汗


その26 第二特異点

 

 

 

 ─────帝国連合軍、ガリア本陣。修司とスパルタクス、そしてブーディカの尽力によりほぼ無傷の状態で本陣へと駆け込んだ立香とマシュ、皇帝ネロの三名は其処で待つ皇帝の一人と相対し、そして戦った。

 

皇帝と僭称するその男の名はガイウス=ユリウス=カエサル。その恰幅のある体型とは裏腹に俊敏且つ猛烈な剣捌きに一時はマシュもネロも追い詰められていた。

 

セイバーである自身を嘆き、本来なら将である筈の自分が一兵卒の真似をするのは些かおかしい。等と自虐を口にしながらも、彼の奮う剣閃は凄まじかった。

 

彼の攻撃を捌く事が出来たのは偏に盾のデミサーヴァントであるマシュの防御力のお陰だった。堅牢を象った彼女の防御を以てガイウスの剣戟を防ぎきり、振り切った一瞬の隙を突いてのネロの剣が僭称皇帝カエサルを討ち取った一撃となった。

 

「ふむ、やはりこうなるのは目に見えていたか。あぁヤダヤダ、何故私がセイバーとして前線に出ねばならぬのだ。どちらかと言えばキャスターの方が良かったなぁ、………まぁ、美しき女達に敗れるのもそれはそれで良いものだが」

 

「待ってくれ僭称………いや、ガイウス=ユリウス=カエサル殿、貴方の言葉が誠に真実であるというなら、私は……」

 

「真実だ。だが悔やむことはない、確かに私はカエサルだが既に死した者。今のローマの皇帝はネロ=クラウディウス、貴様だろう?」

 

「……………」

 

 斬り付けられ、致命傷を受けたというのにカエサルの顔は何処までも慈愛に満ちていた。敵として戦った相手を美しいと評し、ネロに対しては幼い孫を思いやる様な慈悲深い態度。

 

ネロは理解した。今目の前にいるのは初代以前に存在した偉大なる先人、ローマの礎の一人となった………カエサル本人なのだと。そんな先人を切り捨てたことの後悔に顔を俯かせる薔薇の皇帝をカエサルは気にするなと声を掛ける。

 

「ネロよ。美しき皇帝よ、どんな表情()をしようとお前は等しく美しいが………笑え。薔薇は、華は、咲き誇るからこそ何よりも美しいのだから」

 

「カエサル殿……」

 

「しかし心せよ。あの御方の前には全ての皇帝は逆らうことは出来ん。その名と姿を見たとき貴様は果たしてどんな顔をするのだろうな」

 

「───あの御方? それは、一体」

 

「逸るな当代の正しき皇帝よ。あの御方は連合首都にてお前の訪れを待って────」

 

 カエサルが其処まで口にした瞬間的、離れた所から爆音と轟音が轟いた。次いで襲い掛かる衝撃、爆風と砂塵が入り交じる暴風にマシュは構えてネロと立香を庇うように前に立つ。

 

爆風から伝わってくる衝撃、立香は吹き飛ばされないようにマシュの腰にしがみつき、ネロは剣を地面に突き刺して耐え忍ぶ。

 

唯一その場で爆風と衝撃を受けたカエサルはコロコロと地面を転がっている。その表情は何となく青ざめているように見えた。

 

「ぐふぅ、ま、まさか既に斯様な場所にまで来ていたとは、あの御方の酔狂は……本当に……困ったものだ………ガク」

 

 折角格好良く消えるつもりだったのに最後の最後で台無しにされたカエサルはあの御方に対してちょっぴり憤り、そしてその敵対者を盛大に恨みながら光の粒子となって消えていった。

 

「な、何なのだ今の爆発は!? ………ぬ? あのカエサル殿は何処へ?」

 

「ば、爆発の理由は兎も角、カエサルさんは恐らく消滅したかと」

 

「し、消滅? 死んだのか?」

 

『あぁ、彼は、ガイウス=ユリウス=カエサルは魔術的な死を迎えた。彼はサーヴァントだからね。普通とは違って遺体を残すことはないんだ』

 

「そうか。うむ! ならば今はそれで佳しとしよう! ともあれ皇帝の一人を撃破した訳だな」

 

カエサルの残した言葉を今は胸の奥にしまっておく事にしたネロは一先ずこれでガリアを取り戻した事に………とはならなかった。

 

「て言うかドクター、今の爆発はもしかしなくても修司さんが原因なんじゃ?」

 

『あ、そうだった! 二人とも急いで修司君の所に戻ってくれるかい!? 此方はさっきから大きな魔力反応を検知している! 十中八九サーヴァントだけど………この反応はちょっとヤバイかも!』

 

「や、ヤバイかもって!?」

 

『具体的に言うとトップクラスの力を持った敵のサーヴァントが来てるってこと! 純粋な戦闘能力だけならあのジャンヌ・ブラック以上かもしれない!』

 

「「っ!?」」

 

 慌てながら修司と戦っているサーヴァントの能力を口にするロマニに二人は戦慄する。黒いジャンヌ、それは前の特異点でフランスをこれでもかと蹂躙した竜の魔女、最後のオルレアンにある砦で戦った際はマシュとジャンヌの二人で掛かって漸く倒せた相手だ。

 

そんなのが爆発のした方向で修司が相手をしている。彼が負けるところは想像も出来ないが、それでも相手が敵の中枢を担う戦力を出してきたなら此方も腹を括る必要がある。

 

そんな二人に感化されたのか、自然とネロ皇帝の視線も厳しくなる。恐らく彼女も気付いたのだろう、あの先には今回の件の重要人物がいるという事を。ならば皇帝として出向かない訳にはいかない、余も連れていけと目で語る彼女を立香が止められる訳がなかった。

 

「行こうマシュ、ネロ皇帝!」

 

「うむ!」

 

「了解。マシュ=キリエライト、先導します!」

 

盾を構えて前進するマシュを先頭に立香とネロは駆け出す。この先で待つ修司の助けに僅かでもなれるように………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ローマ!」

 

「ヌンッ!」

 

「ローマ!!」

 

「セイッ!!」

 

「ローマ!!!」

 

「オラァッ!!!」

 

 振り抜かれること三度、男の奮うその槍を悉く回避する修司、されど男の猛攻は止まらない。男の奮う槍は槍と呼ぶには太く大きく、どちらかと言えば棍棒の類いの様に見えた。蹴りや拳で打ち払って捌いてはいるものの、兎に角攻撃の手を緩める様子がない。

 

仕方ないから捌くだけでなく打ち返す勢いで拳を奮っているが、それでも構わず打ち込んでくる。お陰で辺りには衝撃波が相次ぎ、時には爆発みたいに轟音と爆風が辺りを吹き飛ばしてしまう。ブーディカとスパルタクスもエルメロイⅡ世とアレキサンダーを相手にしている為中々修司に援護する事が出来ずにいる。

 

膠着しつつある状況、このままでは少し不味いかという所に頭上から男の槍が振り抜かれてくる。腕を交差して防御に徹するが、受けた際に感じた衝撃は思っていたよりも重かった。足元が地面にめり込み、体ごと地中に埋まりそうな勢い。受けるのは悪手だったか、このままでは地面から首の生えた愉快な生物が誕生してしまう。

 

そんな時、鍔迫り合いに似た状況の中で男の方から声が掛かってきた。

 

「どうした。可能性の子よ、お前の力はそんなモノではない筈だ」

 

「ン、だと?」

 

(ローマ)は全て受け止めよう。お前の進んできた道(ローマ)を、その道程(ローマ)を、我が全て(ローマ)を以て応えよう。───それとも、お前の全てを出し切るのに(ローマ)では不足か?」

 

 その言葉を聞いたとき、修司は理解した。この男は自分に奥の手を引き出させようとしているのだと。相棒ではなく、自身の手で掴んだあの奥義を自分に見せろと言ってきているのだ。

 

大胆不敵、しかしただ数回打ち合っただけで其処まで看破して見せた男の慧眼に素直に見事と感心した。今のままでも押し返すのは充分、しかし相手はそうは望まない。目の前のいちいちローマと誇張する男は文字通り自分の全力を所望している。

 

瞬間、修司の体から赤い闘気が溢れ出す。これ迄の白い闘気とは違い、荒々しい血のようなオーラに男は抗う間もなく吹き飛ばされる。

 

宙に吹き飛ばされ、それでも体勢を変えて着地する男はその気になった修司を見やる。しかしその時には既に赤い闘気は消えていた。

 

何故? 疑問に思う男が問うよりも早く修司が口を開いた。

 

「アンタ、名前は?」

 

「うん?」

 

「名前だよ名前、さっきから気になったけどアンタは俺の事を知っていたつもりでも俺はアンタの名前は知らないんだ。本気を出して欲しいって言うけれど、その前にせめて最低限の名乗りは聞かせてくれないとな」

 

 そう言って不敵に笑う修司に男は納得したようにポンッと手を叩いた。そう言えば自分は名乗っていなかった。今更な自分の迂闊さに済まないと軽く頭を下げてくる男に修司は調子が狂うと言いながら男の名乗りを促した。

 

「うむ、失礼した。我が名はロムルス、帝国連合に名を連ねる者にしてローマを束ねる皇帝(ローマ)である」

 

(うん、何となく分かってたけどやっぱり皇帝さんだったー! あれ? しかもロムルスって………確かローマ帝国を建国した人じゃなかったっけ?)

 

曰く、生きながらにして神へと至った者。自分が相手をしていた奴が皇帝の一人だとは思っていたが、まさかの建国者………というかローマの始祖だった。予想を上回る大物だった事に流石に修司の頬はひきつってしまう。

 

「………て言うか、何でローマの始祖さんが俺に興味を持つんだよ。アンタ程の人に認められるほど大層な人間じゃねぇぞ、俺は」

 

「否、それは違うぞ修司よ、(ローマ)は言った筈だぞ。可能性の体現者と、お前の事は彼の者から聞いた。愚直なまでに己を磨き、新たな人の領域へ踏み出した者だと」

 

 ロムルスが語る彼の者とは恐らくレフ=ライノールの事なのだろう。しかし解せない、第一印象から人間をこれでもかと下に見ている奴が果たして自分の事をそんな風に口にするだろうか? どちらかと言えばこれ以上ないほど扱き下ろし、親の仇の如く罵倒しそうなものだが………。

 

事実。修司の懸念通りレフはロムルスに修司についてこれでもかと扱き下ろし、罵倒し、嘲笑った。しかしそんなレフの言葉を180°変えて受け止めたロムルスは修司を新たな可能性を持つ人間であると認識したのは………恐らく知られることはない。

 

─────閑話休題。

 

「……修司よ。可能性の体現者よ、どうかお前の全力を見せて欲しい。何故ならお前のその可能性こそが(ローマ)にとっての浪漫(ローマ)であるが故に」

 

浪漫。本来なら語源となっているのはフランスからでありローマとはあまり関係ないとされる言葉。しかし、ロムルスは言った。その可能性は自分にとっての浪漫だと、ローマの皇帝………否、始祖に其処まで言われたら断るのは難しいだろう。

 

「………本当はさ、まだコイツを出すつもりは無かったさ、一度出せば疲れるし、加減を間違えれば丸一日動けなくなるし、場合によっては死にかける事もあるし」

 

「…………」

 

「しかもさ、アンタ、本気じゃないだろ? いや、どちらかと言えば本気を出せる形じゃないんだろ? 今のアンタはさ」

 

「………それは」

 

ロムルスが修司の隠し札を見抜いた様に修司もまたロムルスの正体とも言える部分をある程度看破していた。何度か拳と槍を重ねる毎に感じる違和感、確かに目の前にいるのはローマ帝国の始祖であることには間違いではない。

 

だが、何かが足りていない。或いは封じているような感覚。全力なのは間違いない、手を抜いていないのも分かる。だがそれ以上に何かを置いてきたロムルスに修司は言葉にできない妙な苛立ちを覚えた。

 

「でも、アンタはそれでも俺の力を浪漫と言ってくれた。それが嬉しくてさ………だから、見せてやるよ」

 

「!」

 

「今、俺が出せる正真正銘の全力を────ハァァァァァッ!」

 

「おぉ!」

 

 瞬間、大地が揺れた。木々が揺れ、大気が震え、風が荒ぶり、空がざわついていく。その天変地異のように騒ぎ出すガリアに誰もが唖然としていた。

 

アレキサンダーも、エルメロイⅡ世も、スパルタクスも、ブーディカも、そして現在戦争している筈の両軍の兵士達も一斉に動きを止めて修司に視線を向ける。

 

誰もが理解した。今、この様な天変地異を引き起こしているのは奴なのだと、何が起きる? 何が始まる? 誰もが期待と恐れを抱きながらその時が来るのを待ち………。

 

一瞬、静寂が訪れた。不発? 否、これは始まりの前触れ、嵐の前の静けさに過ぎない。来る。ローマの始祖が誰よりも期待に胸を膨らませて身構えた時。

 

「行くぞ始祖さん。かい─────」

 

『いつまで遊んでいるロムルス!』

 

修司とロムルスの間に大きなレフの映像が映し出される。恐らくは魔術的な仕組みなのだろう、ロマニが映像を飛ばしてくるのと似たようなホログラムが映し出され、酷く憤っている様子のレフが腕を組んで怒りを露にしている。

 

あまりの出来事に修司の体からエンストした様にプスンと力が抜けていく、まさかの乱入者に修司とロムルスは目を点にさせ、アレキサンダーは見るからに落胆し、スパルタクスに至っては笑みが消えていた。

 

ブーディカは攻撃するべきか悩んでいてエルメロイⅡ世は複雑な表情で頭を抑えていて、両軍のローマ兵士に至っては白けた様子で途方に暮れている。

 

そんな彼等の反応など露知らず、レフ=ライノールは捲し立てた。

 

『貴様の出番はまだの筈だ! 貴様の役目は皇帝ネロの心を折るためのモノ! カエサルが死んだ以上最早ガリアなど守る意味はない、戻ってこいロムルス!』

 

「………………了解した」

 

 レフからの一方的な通信はやはり一方的に切られてしまった。ロムルスの返答を待たずにして姿を消すレフになんとも言えない様子で了承したロムルスは槍を片手に修司に背を向ける。

 

「………戻るのか?」

 

「然り。彼の魔術師の言葉通り本来ならば私の出る幕は此処ではない、お前と言う光りに目が眩みつい逸ってしまった。それに………今は我が子に答えを聞く時ではないからな」

 

「何て言うか………父親って言うのは大変だな」

 

ロムルスはローマを興した偉大なる先人、故に全てのローマの民は彼の子供の様なもの、そんな彼もこの時代に敵側に立つのは偏に彼なりの愛故に………という奴なのだろう。

 

そんなロムルス(ローマ)に修司は素直に尊敬した。今の自分がどの様な立場にあっても常に子供達(ローマ)を思いやるその深い愛情に。

 

 立ち去る際のロムルスの横顔には笑みが浮かんでいた。マントを翻し、立ち去っていくローマの始祖。一陣の風が吹いて砂塵が修司の視界を僅かに塞ぎ、次に目を開く頃には彼の姿は既に何処にもなかった。

 

他にもアレキサンダーとエルメロイⅡ世の姿も消えている。恐らくはレフの登場によりどちらかが手引きして脱出したのだろう。

 

些か消化不良な結果となってしまったが………なに、次は次で戦う機会がある。その時は自分ではなくあのチビッ子皇帝がロムルスの前に立つからあの技を使う事はなくなるだろうが………まぁ、今はいいだろう。

 

 遠くからマシュ達の声が聞こえてくる。それがガリアが解放の合図となりあちこちから勝鬨の声が上がっている。そんな彼等の声を聞きながら修司は広がる青空を見上げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




IF、もしもこの場にAチームがいたら?その2

キリシュタリア「ないわー」

ペペ「マジないわー」

ベリル「いやホントないわー」

カドック「ふぅ、取り敢えず助かったか」(なんて言いつつ少し残念に思う自分がいる)

オフェリア「兎に角、一旦拠点に戻りましょ」(ちょっぴり見てみたかった自分がいる)

デイビット「???」(皆が何が起きようとしているのか知っている中、自分だけ何も分からなかったから戸惑っている)

ヒナコ「…………」(ただただ引いている)

大体こんな感じになると作者は解釈しています(笑)


それでは次回もまた見てボッチノシ



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