『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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永続狂気帝国セプテム

開幕。


その23 第二特異点

 

 

γ月√Ω日

 

 今日は念願………という訳でもないが、例のロビン=フッドさんに手合わせする事が出来た。シミュレーションの舞台としたのは木々が生い茂る山林地帯、相手の能力が最大限発揮される場所にて行われたのだが、初めて狩られる立場というのを体感した気がする。

 

張り巡される罠という罠、自分も旅をしてきた事で野生の動物を狩猟した事があるが(勿論免許書や許可証は取ってるよ)、自分と彼の狩猟の腕前はまるで大人と子供以上の明確な差があった。

 

そもそも、ロビンさんは罠を隠すのが上手すぎる。いや、あれは隠すというより罠と思わせないのが上手いと言うべきか、罠の配置が絶妙に厭らしいのだ。自然の背景に馴染ませるように仕掛けるのは勿論のこと、意識の薄くなったタイミングで発動するタイプや、常に警戒心を煽ろうとするタイプ、様々な多種多様の罠が全方位に配置されているのだ。

 

これがシミュレーションによる模擬戦であるから平気でいられるが、逆に実戦だと思うと心底ゾッとする。気力も体力を底を着いた状態でこの様な状況に陥ってしまえば肉体よりも先に精神が参ってしまうだろう。彼の仕掛けた罠はそう言う類いのモノだ。

 

ここに立香ちゃんもいると更に状況は悪くなる。彼女はマスターと言っても極度な状況に対する訓練も経験もしたことのない学生だった少女だ。追い詰められた状況で体よりも心の方が先に参ってしまい、下手をすれば病んでしまう可能性すらある。

 

実際にこの様な状況に陥れば気円斬で周囲の木々を罠ごと斬り倒すだけだが、場合によってはそれも封じられてしまうかもしれない。極力気を使わず純粋な身体能力のみで見付けようと試み、相手も宝具を使わない条件だったからどうにか接近戦に持ち込んで勝つことが出来た。

 

 今回は、色々と為になる手合わせだった。アルトリアさんやクーフーリン、佐々木小次郎の様なゴリゴリの肉弾戦とは違う搦め手を相手にしたときの怖さというものを身に染みて実感したと言える一戦だった。

 

今回は立香ちゃん、マシュちゃんも見ていたから勉強になっただろうし、今後レイシフト先で森で野宿する時は今まで以上に気を付けようと思う。やはり、ケイローン先生の見立ては間違いなかった。

 

ただ、次も頼もうとしたらロビンさんからは二度とゴメンだと断られてしまった。何でも自分の攻撃が怖すぎるとのこと。

 

そんな、自分はただ石や小枝を気配を感じる方へ投げ飛ばしただけなのに、そんなに嫌う事はないじゃないか。

 

 なんて愚痴ってるとスカサハさんから「ならば次はワシが相手をしてやろう」何て言うから即座に断った。

 

て言うかクー・フーリン、あの人はアンタの師匠だろ。何とかしろよ。

 

 

 

γ月√Δ日

 

 ドクターから次の特異点先の説明がされた。レイシフト先は一世紀のヨーロッパ、具体的に言えば古代ローマ帝国。イタリア半島から始まり地中海を制した大帝国である。

 

転移先の予定地点は帝国首都であるローマ、地理的に言えば前回のフランスと似たり寄ったりな地形だと認識しても構わないらしい。因みに存在している筈の聖杯の正確な場所は不明、歴史に対してどういった変化が起こっているのかも同じく不明。

 

実際に行ってみなければ分からないという安定しきれていない観測精度にドクターは済まないと頭を下げていたが、それは別に構わないしなんなら石の中とか壁の中とかそう言った場所でないなら構わない感じですらある。

 

マシュちゃんもどちらも自分達で突き止めますと気合いは充分だし、立香ちゃんもこれまでの間ケイローン先生を始めとした多くの先人達の助言やシミュレーターの模擬戦で得難い経験を得ている。不足の事態を前にしてもきっとやり遂げてくれるだろうし、必要な戦力はカルデアからも送られる手筈となっている。

 

それに自分もいる。充分な戦力と慢心は出来ないが、それでも切れる手札が以前より多い事自体は悪いことではない。

 

 作戦の要旨は前回と同じ、油断せずに頑張ろうという事でその日は一旦解散となった。明日はいよいよ第二特異点へのアタックだ。万全を期すために今日は夕飯も早めに済ませて、何時もより早く休んで明日に備えることにしよう。

 

と思って食堂に向かうと、既にエミヤの奴が調理を終えていた。聞けば既にロマニから予定を聞いていて事前に仕込みを終えていたらしい。

 

………いや、本当にこいつイキイキしてんな。前も言ったけど既に厨房はコイツの支配下にあるんじゃなかろうか? アーチャーというより料理人(コック)なんじゃなかろうか。

 

実際カルデアスタッフの多くはアイツに胃袋握られているし、なんならサーヴァントも握られている。特にアルトリアさん、清姫さんも彼に対抗できるのは閻魔様しかいないと言っていたし……ん? 改めてこう書くと………閻魔って料理できるの?

 

くっ、いずれアイツとは決着を付けなければならない時が来るかもしれない。そうなった時は自分の史上最高の逸品である麻婆豆腐が白日のもとに晒される事だろう。

 

その日が来るのを楽しみにしつつ、今日はこれで終わろうと思う。おやすみなさい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、三人とも準備はいいね? 作戦の要旨は昨日も伝えた通り、特異点の調査及び修正。そして聖杯の調査、並びにその入手、または破壊だ」

 

「了解です」

 

「り、了解です!」

 

「フォウ!」

 

「おう、万事承った」

 

そして当日、管制室に集った三人と一匹。シャワーも浴びて朝食も食べて万全の状態となった三人はDr.ロマンと万能の天才ことダ・ヴィンチに見送られ、次のレイシフト先である特異点へと向かうことになった。

 

「人類史の存続は君達の双肩に掛かっている。どうか、今回も成功させてほしい。………そして、無事に帰ってくるようにね」

 

そうプレッシャーを与えてくるロマニも彼等なら成し遂げてくれるという確信を抱き、所長代理として敢えて回りくどい言い方をする。そう言いながらも彼等の無事を祈っている辺りやはりロマニはロマニだった。

 

「きっと、レイシフト先のローマにも召喚されたサーヴァント達がいるだろう。可能であれば彼等の力も借りるように。無論、敵対する者に対しては叶わない願いだけど」

 

 それからは敵対サーヴァントや中立サーヴァントに対する感知反応は出来ないかというやり取りがあった後、修司達はコフィンの中へと入っていく。

 

ふと、出入り口に佇むサーヴァント達の姿が見える。恐らくは見送りに来てくれたのだろう、坂田金時を始めとした交友関係のある彼等が応援しながら見送ってくれるその姿を嬉しく思いながら………。

 

───アンサモンプログラム スタート。

 

霊子変換を開始 します。

 

レイシフト開始まで あと3、2、1………。

 

全工程 完了(クリア)

 

グランドオーダー 実証を 開始 します。

 

 

修司達は古代ローマの地へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───で、気付いたらまたもや空の上か。冬木の時といい、何か最近の俺運が悪すぎないか?」

 

 レイシフトが完了し、最初に感じたのは風を切る音と何処までも落ちていきそうな落下感。まさかと思い目を開ければそこは冬木と同じ空の上だった。

 

違う所があるとするなら、空が冬木と違って青空が広がっている事。そう思えば少しは気が楽になるだろうけど………いや、やっぱそんな事はなかったわ。

 

冷静に辺りを見渡せば辺りの彼方此方から争いの跡と思わしき箇所があり、何なら火の手が上がっている所も見えるし、上を見れば第一特異点と同じ巨大な光帯が此方を見下ろしている。

 

 そういえば、あの光帯は結局なんなのか。ロマニも不明だと言っているし、第一特異点と合わせて空に在ることから人理焼却に関係してそうなのは間違いないだろう。

 

(どうする? いっその事あの光帯を破壊してみるか?)

 

まずはかめはめ波を撃って様子でもみようか、なんて考えている内に地面が近付いてくる。ふと下を見れば………何か、叫んでいる男が赤い剣を持った少女に襲っている。その傍らには立香とマシュの姿もあった。

 

どう見ても事案な光景に修司は男を敵と認識し、拳に力を込めて………。

 

「ペガサス………流星拳!!」

 

拳の弾幕を叩き込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────現在のローマ皇帝であるネロ=クラウディウスにとって眼前で吼える男カリギュラは母の兄であり、生前は自分に妹であるアグリッピナ同様惜しみ無い愛を注いでくれていた彼女にとっても無下に出来ない人物の一人。

 

本来なら刃を向けることなんて叶わず、しかし相手は紛れもない殺意を以て迫ってくる。自分はこの国の皇帝、母であるアグリッピナを暗殺した罪深い人間ではあるが、それでも今はこんな所で倒れるわけにはいかない。剣を握る手に力を込めて伯父であるカリギュラに切っ先を向けようとして────。

 

「ペガサス………流星拳!!」

 

「ネロぶるぁぁぁぁっ!!??」

 

「お、伯父上ぇぇぇっ!?」

 

拳の弾幕がカリギュラの頭上から降り注いだ。突然の光景に目を丸くさせる皇帝ネロ、その傍に控えていた立香とマシュは納得した様子で遠い目をしていた。

 

軈て光の粒子となって消えていく伯父にネロはガタガタと震えていると……空から遅れて一人の男が着地した。独特の着地、所謂ヒーロー着地である。

 

砂塵を巻き上げながら下り立つのは山吹色の胴着の男、見覚えがありすぎるその背中に二人がやっぱりなと納得している最中。

 

「どうやら、良いタイミングだったようだな」

 

ニヤリ、と不敵に笑う修司に立香とマシュは戸惑った様子で苦笑う。様子のおかしい二人を怪訝に思った瞬間………。

 

 

「こ、この不埒者めがぁ! 余より目立つとは何事かぁ!!」

 

 混乱する皇帝が口にするのは取り敢えず自分よりも遥かに目立っている修司に対しての涙ながらの訴えから始まった。

 

 




導入部分という事で今回は短め。

というか、話の内容から多分本格的にカットする場面が多くなるかもしれません。

個人的に第一部は第三章からが本番なイメージでしたので……。

もしかしたら、結構飛ばす場面があるかもしれません。

その際はご容赦下さい。


それでは次回もまた見てボッチノシ




ボッチからみたサーヴァントの印象。


ロビン:搦め手のスペシャリスト。敵じゃなくて本当に良かった。叶うならもう一度後学のために勝負したいというが、本人からは二度とゴメンだと断られた模様。

清姫:話す分なら普通に良い子。彼女曰く私の安珍様があの様にデタラメな筈がないとのこと。

閻魔?:閻魔の料理がどんなものなのか、少し気になる。






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