『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今回もほのぼのです。

話が進んでいないという。


その22

 

 

 ────澄み渡る青空の下、何処までも広がる荒野で二つの影が激突する。片や青と銀の鎧を身に纏い不可視の剣を奮う剣士、名をアルトリア=ペンドラゴン。

 

清廉にして苛烈、荒れ狂う暴風の中に佇むその姿は正しく騎士の王であり、数多く存在するサーヴァントの中でもトップクラスを誇る英霊。それに互するのは山吹色の胴着を身に付けた現代の人間、奮われる剣檄の嵐を掻い潜り振り抜かれる拳は歴戦の騎士王の頬から一粒の冷や汗を流させる。

 

迫り来る鉄拳を持ち前の直感で避け、奮われた僅かな隙を狙って返し刀で刃を奮う。回避は不可能、防ぐことも叶わないその一撃を男は手の甲で反らして受け流す。土壇場で脱力し、流水の如き体捌きで危機を脱するその技に騎士王は瞠目した。

 

驚いて僅かな隙を見せてしまった彼女の腹に蹴りが叩き込まれる。衝撃に口から空気が吐き出され、吹き飛びながらも立て直す彼女が目にするのは、此方の動きに警戒している様子の男が自身の力を練り上げて佇んでいる。

 

強い。彼と手合わせをして既に幾分かの時間は流れてはいるが、それでも未だに彼の実力の底は見えずにいる。動き自体は中国武術である八極拳を主流としているのは理解しているが、そこに独自のアレンジを加えている所為か動きが読めない時がある。

 

 しかしとて、彼女もまた歴史に名を刻んだ英雄の一人。相手の技に感心するばかりではいられない、向こうが魅せるなら此方も技を見せるまでと彼女は自身の技の一つを解き放った。

 

風王鉄槌(ストライク・エア)剣士(セイバー)であるアルトリアが有する風王結界(インジブル・エア)とは正反対の性質を持つ文字通り風の鉄槌。

 

風王結界が剣を覆う風の鞘だとするなら風王鉄槌は攻撃に転換した魔術。彼女の魔力放出によって放たれる圧縮された風の暴風、地を抉りながら突き進むそれは最早鉄槌というよりビームに近かった。

 

迫る風の暴力を前に男は己の左手を無造作に突き出した。瞬間、並の魔物程度なら粉微塵に切り刻まれる風の鉄槌の衝撃が左手に集中して襲ってくる。荒れ狂う暴風、風なのに甲高い金属音も聞こえてくる気がする。初めて体感するその鉄槌を男は───握り潰した(・・・・・)

 

自ら放つ技の一つを何の細工もなく純粋な握力で握り潰された事にアルトリアの目は大きく剥かれる。デタラメ、というより理不尽ですらある男の胆力に度肝を抜かれるも彼女がそれで臆する訳がない。

 

そして向こうも同じ気持ちらしい、不敵に笑みを浮かべる山吹色の男にアルトリアもまた笑みを浮かべる。純粋に戦いに集中できるこの境遇に感謝しながら次の一手を繰り出そうとした所で────。

 

『申し訳ないが、立ち合いはそこまでだ。双方速やかに手を洗い食堂に来るといい』

 

 唐突に告げられる終了の声、次いで辺りの景色は無機質な空間へと変わり残された二人は苦笑いを浮かべて戦闘態勢を解除した。

 

「いやー、流石は騎士王だな。まさか風を武器にするとは……いてて、格好つけて素手で防ぐんじゃなかったぜ。まだ手が痺れてるよ」

 

「私の一撃を受けて痺れだけですか。全く、呆れるほどに頑丈ですね」

 

「まぁでも、お陰でいい経験になったよ。ありがとうな、わざわざ時間を取らせちゃって」

 

「それは此方の台詞です。現代にまさかこれ程の実力者がいるとは、人間は鍛えればここまで強くなれるのですね」

 

「まだまだこれからさ、アルトリアさんも暇があるときはまた手合わせ頼むよ」

 

「望むところです。私も貴方の全力を引き出せるよう、腕を磨いておきますね」

 

「そ、それはまた……お手柔らかに」

 

「無理ですね。貴方を相手に手を抜くのは寧ろ失礼というものだ。まぁ、貴殿がその気になるのなら話は別だが………」

 

「あ、あはは」

 

そんな軽口を言い合いながら食堂へ向かう二人、これはカルデアでの日常の一コマである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

δ月√β日

 

 今日は体を鈍らせない為に何人かのサーヴァントの皆さんに声を掛けて軽い組手をする事になった。

 

相手をしてくれたのはアーサー王ことアルトリアさんとエミヤ、そして先日立香ちゃんが追加で召喚したクー・フーリンと佐々木小次郎の四人、奇しくも俺が聖杯戦争で戦ったことのある人達だ。

 

当然、彼等も自分の事は覚えてはいない。そもそも別の世界の人間だから当然だが、自分だけが知っている状態というのは何とも言えないむず痒さがあった。まぁ、そんな気持ちも彼等と話をしているうちに失くなっていたけどね。

 

彼等との組手は宝具抜きとは言えそれ以外は本気だった為、結構緊張感のある戦いとなっていた。エミヤの狙撃は狙いが嫌になるほど正確で、接近できたとしても彼独自の二刀流が此方を翻弄してくる。先の特異点Fではその剣筋も鈍く、殆んど一方的な展開だったが本来のアイツの実力はあんなものではない。遠近両方の戦い方は今後の戦いでも重要視されるだろうし、それらへの対策も課題となってくるだろう。次も是非手合わせしたい所だが、生憎アイツはカルデアの料理長としての立場もある。俺自身も厨房に立つことがあるから、今後は予め時間を決めなければならないのが唯一のネックだな。

 

また戦いの内容で言うのならクー・フーリンとアルトリアさんとの一戦は殆んど似たようなモノだった。お互いに真っ向からのぶつかり合い、二人とも小細工を弄するタイプの英霊でないから此方としても非常にやりやすかった。

 

クーフーリンはスピード、アルトリアさんはパワーといった感じで区別しやすいし、俺も自分の戦いを思い切り出来たから悪くない気分だった。

 

アルトリアさんも最初こそは自分に苦手意識を持っていたみたいだけど、話している内にそんな気持ちはなくなり、気兼ねなく接するようになれたらしい。

 

そして佐々木小次郎との手合わせなのだが、やはりと言うか彼の技量は前の印象と全く変わらず、寧ろ自分が成長したことで彼の技の巧さがより一層理解出来た。我流と言うには鮮やかなその太刀筋に斬られることはないと分かってもうすら寒い時がある。

 

技で迫る彼に自分も技だけで対抗しようとしたが、やはり彼の剣技には一歩及ばず時間切れで逃げ切られてしまった。幾ら此方が気を使わなかった(ギャグじゃないよ)からといっても、まさか此処まで差があるとは思わず、柄にもなく落ち込んでしまった。この悔しさをバネにしてこれからも精進していこうと思う。

 

 そして、今回の組手の発端はある人からの助言から来るものだったという事を今の内に書いておこうと思う。今回の組手の人選を選んでくれたのは賢者として知られるギリシャ神話の英霊にして教師、ケイローン先生のアドバイスによるもの。

 

ケイローン先生はあの大英雄ヘラクレスやアキレウスの師匠であった事のある人だ。その慧眼から俺の癖や弱点となる所を正確に見抜き、今回の手合わせの人選やアドバイスをしてくれたのだ。

 

ケイローン先生が俺に課した問題となる点は………即ち経験だという。これから俺や立香ちゃん達が戦うのは様々な伝承逸話を持つ百戦錬磨の英雄達、その中には常識外れな能力を持つ者と相対する可能性は高い。

 

今後、そういった異常事態を前に慌てることなく対処する為に経験を今の内にしておくことだと言っていた。勿論、その経験に慢心することなく常に心構えをしておくことも重要だとも。

 

流石は大英雄の師匠、自分も師父には教えてもらった事は色々あるけどここまで親切ではなかったなぁ。寧ろ意図的に言葉を足りなくした感じが多かったし、時には王様以上の無茶ぶりもしてきたことがあったっけ。

 

 明確な教えを受けたことで修行や組手にもより効率且つ効果的に出来るようになったし、時には自分に縛りを付けて組手をするようにもした。まぁ、一部のサーヴァントの人は縛りを付けるとか舐めてんのか!? みたいな反応をされたけど、て言うかアルトリアさんがそうだったけど。

 

そこでケイローンさんから教わった挑発を口にしたらあら不思議、皆さん分かりやすい位にムキになるではありませんか(特にアルトリアさん)。

 

自分から本気を出させようと積極的に挑んでくるのは嬉しいけど、此方も技術屋や食事担当もしているから少し頻度を下げて欲しいのが最近の悩みである。

 

 お陰で本当に手合わせしたい人とはあまり出来ないし。ロビンさんの様な搦め手のスペシャリストみたいな人との立ち回りも今の内に体験しておきたいし。

 

まぁ、そこら辺はおいおい、かな。

 

 

 

γ月※日

 

 ヤバイ人に目を付けられた。クーフーリンやディルムッドと同じケルト出身の人で影の女王とも呼ばれる女傑、スカサハさんに何故か矢鱈と誘いを受けるようになった。

 

大人でアダルティな誘いかと思った? 残念、組手だよ! あの人外見は出来るOLみたいな雰囲気な癖に中身はゴリゴリの殺戮マシーンだよ! そりゃあケルトの中でも屈指の実力者である彼女と手合わせ出来るのならいい経験になるなと思ったよ? でも、何も彼処まで本気になることないじゃないか!?

 

 バカスカと槍の雨は降らしてくるし、ルーンとかバンバン使ってくるし、しかも此方が気という見慣れない技を使うとすぐさま俺が奥の手を使っていないことを見抜いてその気にさせようとより苛烈さが増していくのだ。もうね、技の凄さもそうだが何よりも食い付きの勢いが怖い。軽くホラーだよアレ。

 

特に話をする中で自分が一度影の城の事について話したことが彼女の何かに触れたのか、「お前こそが私を殺す勇士なのかもしれない!」と物騒な言葉を吐いて襲ってくるようになった。

 

あまりにもしつこいから一度本気で相手をして、どうにか勝てたことで大人しくしてもらう事になった。それ以降は彼女も無闇矢鱈に襲うことはなくどうにか平穏のカルデアに戻すことが出来た。

 

 ただ、どういう訳かここ最近彼女から俺に自分の弟子にならないかと誘われる事がある。いや、俺は師父の弟子だからとやんわりと断っているけれど、中々諦めてくれない。

 

お陰で一部のケルトからスカサハ担当と呼ばれる事が多くなった。クーフーリン、アンタの師匠だろ何とかしろ。

 

て言うかスカサハさんはケイローン先生を見習うべきだと本気で思う。いや本当にマジで。

 

後、あのピッチリした格好もどうにかして欲しい。金時さんも言ってたが、あの手の格好の女性は目のやり場に困る。

 

今度ダ・ヴィンチにそう言ったものを見えなくする眼鏡とか作って貰おうかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カルデアの談話室。その中で立香へのトレーニングの内容を考えていた彼の所へ一人の女性が歩み寄る。最近立香の新たなサーヴァントとして召喚された彼女に彼───ケイローンは少し驚きながらも歓迎する。

 

 

「ほう、汝が賢者ケイローンか」

 

「おや? 影の女王が私に何かご用で?」

 

「イヤなに、あの男がお主を見習えと豪語するものでな、誰かに何か教わるのも久しく無かった故な、単なる好奇心だ」

 

「あぁ、彼ですか。その様子だと貴方も体験した様ですね。どうでしたか、彼との戦いは」

 

「“気”だったか? 確か中国にある仙術の一種だと聞いていたが……あれはそういう類いの技ではないな」

 

「えぇ、信じられないことに彼は自らの魂をエネルギーに直接置き換えて放出しています。あんな戦い方をしてよく今まで生きてこられたモノです」

 

「恐らく総量が他とは桁違いに多いのだろうよ。本人は何てことないように使っているから誰も追及しないが、本来ならあの技は一種の魔法の領域なのだろうよ」

 

「現代の魔術師が聞いたら卒倒しそうですね」

 

「若しくは標本にしようと躍起になるだろうよ。尤も、アレをどうにか出来る者など限られるだろうがな」

 

「………やはり、貴女から見ても彼は」

 

「異常だよ。あの様な技を使えるのもそうだが、何より成長速度が速すぎる。その上まだ奥の手を隠しているのだから腹立たしいやら楽しみやらで………退屈せんよ」

 

「ふっ、そうですか。ですが、私としては少々もの足りませんね」

 

「ほう?」

 

「仮にも賢者と呼ばれている身です。ですが、彼に対して私が出来る事と言えば簡単なアドバイスだけ、何とも教え甲斐のない生徒を持ったものです」

 

「お主にはもう一人教え子がいるだろ。我等のマスターである藤丸立香を」

 

「勿論、彼女は充分教え甲斐のある生徒ですよ。素直でまっすぐで、そこが少し心配な私の新しい教え子。教育にも熱が入るというものです」

 

「なら、別にいいのではないか?」

 

「それはそれ、これはこれです」

 

 したり顔でそう語るケイローンにスカサハは呆れたように頬をヒクつかせる。それから暫く育成について軽く談義した後、特にやることもなくなったスカサハは自室へと戻る。

 

辺りから他のサーヴァントやスタッフ達の声が聞こえてくる中、ふと彼女は彼との会話を思い出す。

 

『影の国の城?』

 

『そうじゃ、今は人理が焼却された事で召喚されているが、本来ならばワシはあの城のなかで今もいた筈なのだ。まぁ、カルデアに召喚されてからは特に退屈しとらんし、別に気にしていないがな』

 

『………それってもしかしてあの大きな城の事か? 確か相棒と一緒に見掛けた事があった様な』

 

あの時、影の国へ来たことがあるという事で我を忘れていたが、確かに奴は言っていた。“相棒”と。

 

つまり、奴には……白河修司にはまだまだ隠されている事があるという事。己の魂を力とし、これまで見たことのない技を編み出した規格外の生命体。

 

彼が今後何処まで強くなるのか、楽しみで仕方のないスカサハは口を凶悪な笑みを浮かべたままカルデアの通路を歩んでいくのだった。

 

 

 

 

 

 

 




ボッチから見たサーヴァントの印象。

アルトリア:腹ペコ剣士

エミヤ:友達、料理関係のライバル。

クー・フーリン:気のいい兄ちゃん

佐々木小次郎:剣技が凄い人。越えるべき壁その1

ケイローン:普通にいい先生。学校にいたら人気でそう。

スカサハ:こっちくんな。後のケルト嫌いの元凶。

坂田金時:気の合う間柄。自分の着ている胴着に興味津々な様なので、今度プレゼントしようと思っている。

茨木童子:お菓子食べさせたい。仲良くしたい。

酒呑童子:お酒も程々に。

それでは次回もまた見てボッチノシ



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