『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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FGOの二次小説に於いて、序盤こそが一番の難所だと個人的には思います。

悩んで悩んで悩んだ結果、このような結果になりました。

それではどうぞ。



その6 特異点F

 

 

 その少女は、服装こそカルデアのモノだが、どこからどう見ても常識的でその有り様はいっそ稀少動物の様に平凡で、多くの魔術師や専門技術者が在籍するこのカルデアに於いての凡庸は異端ですらあった。

 

修司は訝しむ。何故、この様な少女がこの施設にいるのだろう。もうじきレイシフト前のミーティングが始まるであろうこのタイミングで、何故今ここにいるのか。

 

「え、えっと……あのー?」

 

 困惑した様子の少女───藤丸立香に促され、我に返った修司は考察を中断して自己紹介を返す。

 

「えっと、取り敢えず初めまして。俺は白河修司、君と同じ日本人だと思うけど………合ってるよね?」

 

「あ、はい! 良かったー! 最初に会えたのが日本人で! なんか駅前の献血車で血を採ってたら突然此処へ連れてこられちゃって、………あの、ここって一体何処なんです? 何かあそこの玄関通る際に色々と調べられて、気付いたら此処で寝ちゃってたんですけど、私、家に帰れるんですかね?」

 

自分に起きた出来事を淡々と語る立香に修司は顔に手を当てて天井を仰ぎ見る。目の前の少女の証言によれば、彼女は恐らくその献血車両で何らかの適正が認められ、殆んど拉致の形で連れて来られたのだろう。流石魔術師、手段に人情の欠片もない。

 

効率を求めすぎて逆に面倒くさい事をしでかす魔術師に今更ながらの苛立ちを募らせるが、ここで今それを吐き出しても意味はない。取り敢えず彼女の処遇をどうするかをオルガマリー所長に相談しようと彼女の手を引いて立たせた時、背後から聞こえてきた足音に振り返る。

 

「フォウさん、此処にいましたか。ダメですよ、あまりうろうろしては。……あ、修司さん、おはようございます。此方にいらしたんですね。それで………そちらの方は?」

 

 やって来たのは眼鏡の似合う純粋系女子、マシュ=キリエライトだった。彼女がやって来たのと同時に小動物は彼女の肩にまで昇り、まるで自分の定位置だと言うように居座る。

 

「あ、初めまして! 私は藤丸立香っていいます! 貴女はもしかしてここの子?」

 

「ここの子、という意味は計りかねませんが、そうですね。カルデアに所属しているという意味でならそうかと思います。………あ、もしかしたら先輩は一般枠の方ですか? 成る程、本日が到着だったんですね」

 

「あれ? マスターの一般枠って俺だけじゃなかったの?」

 

「はい。どちらかと言えば修司さんは企業枠として此方に派遣されたという形になってますから、そちらの先輩が最後のマスターとなる予定です」

 

一般枠だと思っていた自分がまさかの企業枠だったという事実に修司は僅かばかりショックを受けた。話を聞く限り、拉致に近い形でカルデアへやって来た立香が最後のマスターである事は間違いない。そろそろミーティングの時間である事もあり、彼女と一緒に目的地へ向かい所長に彼女の処遇について話を聞くことにした。

 

「まぁここで話し込むのも何だし、取り敢えず施設を案内するよ。一応聞くけど、立香ちゃんはカルデアについてどの程度理解してるんだい?」

 

「え? まぁ、そこそこ? 何か世界のピンチだから適性の高い私に色々と手伝って欲しい………的な?」

 

「おっふ。なんてフワッフワな解釈、出来立ての卵焼きかな?」

 

 イマイチ理解しきれていない彼女に色々と説明しながら、修司はふと気付く。あれ? そう言えば魔術って神秘が薄れるとかの理由で基本的には秘匿されるモノじゃなかったっけ? 疑問に思うが、そもそもこのカルデアには魔術師だけじゃなく、一般家庭出身の技術者も在籍している。前任のマリスビリーが進んでスカウトしてきたと聞いてるし、案外この世界は魔術の漏洩に関して寛容だったりするのかもしれない。

 

そしていい加減時間にも考慮しなくてはならなくなってきた。所長の説明会まで残り10分もない、そろそろ向かわなくてはならないのだが………如何せん、立香の様子が少しばかりおかしい。先程までは普通に話していたのに今は少し眠たそうに見える。

 

マシュが言うには一種の夢遊病状態にあるらしい。病といっても一時的なモノで、時間が経過すれば症状も収まる軽度なモノ。とは言え、そんな彼女をこのまま連れていくのは些か気が引ける。オルガマリー所長には自分から言っておいて、Dr.ロマンに預けた方が良いのではないか。

 

 そんな事を考えている内にフォウは何処かへと走り去り、擦れ違うように現れたソイツに修司の思考は切り替わる。

 

「おや、マシュ、それにミスター白河。こんな所にいたのか? そろそろオルガマリー所長の説明時間の筈だと思ったが……此処で寄り道をしているのは、流石に不味くはないかね?」

 

「レフ=ライノール技師。すみません、ですが先輩をここに置いておくのは些か問題があるかと……」

 

「彼女は………あぁ、確か数合わせに一般募集していた補欠要員のマスター候補だったかな? 成る程、今日が到着予定だったか」

 

 拉致同然に連れてきた癖に、まさかの数合わせだという事実に修司の表情が僅かに強ばる。

 

「成る程………どうやら入館時のシミュレートを受けたみたいだね。霊子ダイブは慣れていないと脳に来る。覚醒はしているみたいだから大丈夫だろうが、万が一もある。本当なら医務室に運んだほうがいいのだけど……」

 

レフ=ライノールの物言いは所々気になる点が見受けられるが、それは魔術師としての性質なのだろう。それでもその言動は紳士的なモノで表面上は藤丸立香を気にかけたりするなど、良心的な部分が垣間見える。

 

マシュも藤丸に対して苦手意識は持っていないのか、緊張しておらず、寧ろ少しばかり心を開いてすらいる彼女に修司は何処か寂しく思いながらも嬉しくなった。

 

その後も彼等のやり取りを見守っていると、ふとライノールの視線が此方に向けられる。

 

「ともあれ、時間は有限だ。説明会までもうそこまで間がない。今後の彼女の職場での安寧を確かなモノにしたければ………急いだ方がいいね。特にミスター白河、君は精鋭の中でも選りすぐりのAチームの一員だ。そんな君が説明会に遅れるとなると、大目玉では済まないのではないかね?」

 

「ぬぐっ」

 

挑発的な言い方だが、正論だった為に言い返すことも出来ない。オルガマリー所長は相変わらず気難しい所のある人だが、最近になってその性質も若干変わりつつあったみたいだが、今回の件でそれがぶり返すのも嫌だと思い、修司はそれもそうだなと説明会に向かうことにした。

 

「あの、私もご一緒しても宜しいでしょうか? どうやら先輩の体調はまだ悪そうですので、中央管制室に辿り着く前に熟睡される可能性も考慮すると………」

 

「君を一人にすると所長に怒られるからなぁ。となると必然的に私も一緒と言うわけか。まぁ、それも良いだろう。それなら私もご同行しようか」

 

それだけ言って修司達は説明会の会場となる中央管制室へと足を進める。途中何度も倒れそうになる藤丸を支えながら甲斐甲斐しく世話を焼くマシュを微笑ましく思いながら会場へ向かうと、中央には既に所長であるオルガマリーの姿があった。

 

どうやら、既に説明会は始まっている様子だった。このまま見付かっては再び大目玉は免れないと悟った修司は、レフ達と別れたあと普段あまり使う事のない圏境を用いて何食わぬ顔で中央管制室へと入り、既に着席して待っていたペペの隣にシレッと座り込む。

 

「あら? 修司、遅かったわね? 普段時間を守る貴方にしては珍しいじゃない」

 

「ちょっとゴタゴタに巻き込まれてな。ほら、最前列のあの娘、どうやら一般枠の最後のマスターらしくてな」

 

「あぁ、そう言えばそんな話があったわね」

 

「しかも、ありゃ霊子酔いしてるな。あのままだと所長の前で居眠りかますんじゃねぇか?」

 

「随分と、胆の太い一般人が来たものね」

 

「一般人だからこそ……じゃないか?」

 

 ヒソヒソと話をしながら修司の遅れた理由を追求するAチーム。

 

「ていうかアンタ、サラッと気配を消してたけど何してたの? 魔術使えないんでしょ?」

 

「ん? あぁ、ちょっと圏境使ってな。ほら、オルガマリーちゃん怒ると怖いから」

 

「中国武術の秘術を叱られるのが嫌だから使うとか……アンタ、中国に向かって土下座しなさいよ」

 

 

「本当、出鱈目だよなコイツ。カドックもそう思うだろ?」

 

「え? 何か言った?」

 

(コイツ、聞いてないフリして乗り切ろうとしてやがる!?)

 

 それから程なくして、藤丸立香は霊子ダイブの影響でカルデアに関する説明をしている所長の目の前で爆睡。余程眠たかったのか、鼻提灯すら浮かべている彼女に怒りによって怒髪天を衝く勢いの所長によって叩き出されてしまう。

 

誰もがオルガマリー所長の剣幕に愕然とする中。

 

「今のオルガマリー所長なら、超サ⚪ヤ人になれるのでは?」

 

「お前本当ブレねぇな」

 

普通にそんな事を口にするキリシュタリアに流石の修司も少し引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、いよいよ人理を守護する為の旅が始まる訳だが、その前に何かやり残した事は無いだろうか」

 

 それはもうじき人類初のレイシフトを前にした時だった。もうすぐ最初の作戦が始まり、皆がそれぞれ戦闘用の礼装に着替えた時、唐突にキリシュタリアが切り出してきた。

 

「何だよキリシュタリア、いきなりだな」

 

「なに、これから人類初の試みに挑もうというのだ。その前に私達の偉業を残しておくのも悪くないと思ってね」

 

「おいおい、まだ人理の修復はなっちゃいないんだぜ? 流石に気が早くないか?」

 

「そうね。ちょっと楽観が過ぎると思う」

 

「あらいいじゃない思い出作り! 私は賛成よ! こういう青春ぽいの、ちょっと憧れてたのよね! デイビットはどう思う?」

 

「何でも構わないが、あまり悠長にはできんぞ?」

 

 いきなりもいきなり、キリシュタリアの突然の提案に流石のAチームの面々も戸惑っている。時間も押しているし、あまり時間をかける訳にもいかない。すると、今度はペペロンチーノが切り出してきた。

 

「なら、この場はこれで決まりね! てれれてってれ~普通のカメラ~」

 

何処に隠し持ってたのか、ペペロンチーノの手には一台のカメラが乗せられている。しかも意外な事に最新型のモデルだ。

 

適当な場所にカメラを置いて、皆が映れるように位置を調整する。

 

「さぁ皆真ん中に寄って寄って~! ほぉらカドックも! 照れてないで此方来なさいって!」

 

「ちょ、僕はまだ納得してない────」

 

「ホラホラいいからいいから! それじゃあ撮るわよー!」

 

 抵抗しようとするカドックをペペロンチーノは強引に押し込んでいく。女性陣も抵抗する事なくそれぞれがカメラの枠に収まるようにそれぞれ身を寄せ合い……パシャリと、カメラの音が鳴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───修司。ありがとうね」

 

「ん? どうしたペペさん、改まって」

 

 キリシュタリアの我が儘である思い出も残し、今度こそAチームは作戦が開始される中央管制室へと赴く。既に他の魔術師達がレイシフト用のコフィンへと入り、出撃準備を整えている。遠くで未だ怒りの冷めやらない様子のオルガマリーが此方を睨んでいた。

 

「本当はね、Aチームが此処まで纏まるとは思わなかったの。皆が皆、それぞれ色んな想いを抱えて此処にいる。それぞれの目的、それぞれの野心を抱えてね」

 

「え? そうなの?」

 

「そりゃそうよ。魔術師って生き物は何処までも自分勝手な生き物なんだから、自分に得がないモノにワザワザ命を掛けたりしないわよ」

 

 それは、魔術師だけでなく人間全般に言えることではないのだろうか。修司は率直にそう思ったが、ペペの言う限りでは少しニュアンスが異なるようだ。

 

魔術師だって生き物、良識ある人間と異なりその思考は何処までも効率的な手段や価値観で埋め尽くされている。必要であれば己の子供も魔術の道具として利用するし、不要であれば実の親だって簡単に見切りを付ける。

 

カルデアの魔術師達だってそうだ。人類の救済という結果欲しさに前所長の誘いを興味本意で乗っただけであり、別に心の底から人類を救うという目的を掲げている訳ではない。全てはカルデアという地で普通の魔術師では得られない功績を自分のモノにする為に利用する為の口上だった。

 

そして、その理屈はAチームにも当て嵌まる。彼等彼女等がどんな目的でカルデアに集まったのかは定かではない。ただ、皆が本当の意味で一つの目的にひた走る訳ではなかったのだ。

 

それは、魔術師という生き物を多少なりとも心得ている修司にも分かっていたことだ。どれだけお題目を並べた所で彼等の根底にあるモノが変えられることはない。寧ろこのカルデアという施設を使って何らかの悪巧みを企てる奴だっているかもしれない。

 

しかし、それでも………。

 

「でもね、貴方が来てから少し空気が変わったわ。ヒナコちゃんがあんなにも項羽推しだったなんて知らなかったし、ベリルが皮肉以外で笑う所なんて初めて見たし、オフェリアが時々乙女みたいな顔でキリシュタリアを見ている時なんか此方が恥ずかしくなるくらいときめいたし、デイビットなんてあれから随分と口数も増えてきたのよ?」

 

 修司が来てから、それは少し変わった。基本的に互いに不干渉だったAチームが時折世間話をしたり、ペペのお節介やベリルの皮肉の混じったヤジを抜きに話合うのが増えたりとこれ迄にはなかった変化が訪れていた。

 

「カドックは最近開き直ったのか、キリシュタリア相手にも遠慮なくツッコミ入れたり、そのキリシュタリアだってカドック以上に開き直っちゃってね。この間なんて会議の時に例の変T着てオルガマリーに怒られてたんだから」

 

ペペ達魔術師にとってその変わり方は許容し難い変化なのかもしれない。人間性を捨て去って魔導を追求するモノにとって、それは余分なモノと言えるだろう。

 

ペペ自身も自分達がこれでいいのかどうかなんて分からない。先日みたいな笑いあった時間でさえ、皆にとっては何の価値もない無駄な時間なのかもしれない。けれど、それでもペペは思った。こんな時間も悪くはない、何もかもを諦めてしまった(・・・・・・・・・・・・)自分でもあの一時に甘えても良いのではないかと、そう思える程に心地よかった。

 

 彼が来て何が変わったのかは分からない。ただ一つ言えるのはあの一時はきっとペペの人生にとって忘れ難い出来事であったと言うこと。

 

「もしかしたら、私達に足りなかったのは案外貴方みたいな人間だったのかもしれないわね」

 

「ペペさん……」

 

「さてと、そろそろ私達も向かわなくちゃね。ご免なさい、付き合わせちゃって……」

 

「ペペさん」

 

「ん?」

 

「戻ったら、紅茶を淹れますよ。キリシュタリアも、皆も誘って、またバカ話をしましょう」

 

 そう言って笑う修司にペペも吊られて笑い出す。

 

(本当、眩しい人)

 

「そこの二人! いい加減準備しなさい!」

 

遂にオルガマリーの我慢も限界なのか、声を荒げて叫んでいる。これ以上待たせては先の藤丸立香の様に外へ叩き出されてしまう。

 

急いで用意されたコフィンへと向かい中へと入る。以外と中の心地は悪くない、これからこれで現地へと向かい、人理を守るための冒険が始まる。そこでは一体何が待ち受けているのか、心の内に広がる不安と興奮に委ねて修司が瞼を閉じた時。

 

 

 

 

 

 

衝撃と爆発が中央管制室を呑み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────落ちていく。まるで底のない落とし穴へ真っ逆さまに落ちていく感覚。

 

これが、オルガマリーが言っていたレイシフトをする際の感覚という奴なのだろうか。成る程、確かにこの感覚は落ち着かない。まるで紐なしバンジーで飛び降りた様な感覚は、普通の人間ならあまり歓迎できない体感だ。

 

(………いや待て、これ実際に落ちてね? て言うか風切り音が聞こえてね?)

 

 何やら嫌な予感がする。恐る恐る目を開けた修司が目にしたのは……予想通りの空の上、さらに言えば現在進行形で落ちていた。

 

レイシフト初日からまさかの転移失敗。落下の速度と未だに地面に落ちていないことから相当高い位置で転移させられたのだろう。並の人間なら此処で自身の生存を諦めるところだが、生憎とこの程度の修羅場には慣れっこな修司が慌てふためく事はない。

 

 体勢を整えて体を下へ向ければ、そこには炎に呑まれた街が見えた。酷い有り様だ。まるで隕石か何かが降ってきた様な惨状………いや待て、この街には見覚えがある。

 

「おい嘘だろう………ここ、冬木市じゃねぇか!?」

 

眼下に広がるのは修司の生まれ育った街、冬木の街だった。何故冬木市が人理修復の舞台になっているのか。

 

 未だ理解が追い付いていない修司、そんな彼が次に目にしたのは、長い鎌を持った長身の女がオルガマリーを追い回している場面だった。

 

何故彼女が此処にいるのか、Aチームの皆は何処にいるのか。今、この地で何が起きているのか、その全てを明らかにする為に………。

 

「オラァ!」

 

「ぶぷっ!?」

 

 取り敢えず修司は鎌を振り回す女の顔へ落下速度を利用した蹴りを叩き込むのだった。

 

 

 






Q.相方のグランゾンはなにもしなかったの?

A.グランゾンは基本、ボッチが生命活動の危機状態にならない限り、自分から出てくることはありません。



次回、特異点F 起

某◼️◼️王の◼️が◼️◼️◼️まであと……。



それでは次回もまた見てボッチノシ



PS.

書いてて気付いた。ヒナコパイセンって写真に写ったっけ?(うろ覚え

………本作では映るって事で!(白目

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