『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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長くなりそうなので前編後編に分けます。




その57 前編

 

 

────何処までも続く地平線、その大地を刀剣の類いで埋め尽くしているのはアーチャーが具現化させた心象風景。無限の剣製、一人の魔術師だった男が唯一行使されることを許された魔術で生み出された世界で、狂化された狂戦士が吼える。

 

手にした斧剣を奮い、大地を抉りながら吶喊するその突進を異形と化したランサーが正面から受けて立つ。拮抗は一瞬、振り抜かれる斧剣を以て押し込もうとするバーサーカーだが、異形と成り果て、大聖杯のバックアップを受けたランサーの前では大した時間稼ぎになる訳がなく、バーサーカーの力押しは瞬く間に凌駕されてしまう。

 

押し退け、弾かれた斧剣。同様に両腕が弾かれた事により晒された胴をランサーの槍と化した豪腕が貫く。

 

更に、槍から槍へと派生し、バーサーカーの体内を無数のゲイボルクがその肉体を蹂躙していく。内蔵を破壊され、骨を引き裂かれ、内側から破壊される苦しみを受けながらも、それでも己の得物を奮う姿は正に狂戦士。

 

そんな苦し紛れのバーサーカーの足掻きを、ランサーは嘲笑も浮かべずに後退する。バーサーカーの苦し紛れの攻撃に恐れたのではない、その直後に襲い来る追撃を野性動物の様な勘の鋭さで察知したからだ。

 

瞬間、ランサーのいた場所に無数の刀剣が降り注がれる。大小、形も問わずあらゆる刀剣が降り注がれながらも、難なくそれを回避するランサーに投擲した本人………アーチャーはその勘の鋭さと俊敏さに舌を打つ。

 

次いで、左右からバゼットとジャンヌが矢継ぎ早に斬り込んでいく。体術と棒術、異なる術理の技を互いの動きを阻害せずに繰り出していく。現代に於ける高等技術のオンパレード、しかしそんな彼女達の攻防をランサーは即座に見切り、対処してくる。

 

「それはもう見た」

 

アーチャーが固有結界に自分達ごとランサーを封じ込めて数分、その間に何度も目にして来た攻防にいい加減飽々したとランサーは内心で愚痴る。故にこれ以上の戯れは要らないと、ランサーはその膂力でもってジャンヌ達を蹂躙していく。

 

降り掛かる旗と振り抜かれる拳、それらを自身の体を回転させる事で防ぎきり、その勢いを以て二人を吹き飛ばしていく。

 

「──さて、そろそろ其方も限界だろう。今の打ち合いで元マスターは死に体、バーサーカーも残りの命は後僅かとなった今。あとどれくらい持ちこたえるかな?」

 

淡々と、無表情のまま事実を突き付けてくるランサーにジャンヌは選択を迫られていた。今、あのランサーを完全に仕留め切れる方法は一つしかないが、それを行った時その際に起きる負債は全て修司に負わせる事になる。

 

それはダメだ。故にこれ迄その禁じ手とも呼べる手段を封じてきた。………だが、もうそれを由とする状況ではなくなった。此方が追い込まれている以上、切れる手札は使うべきだ。

 

(───しかし、それでもあのランサーに届くかどうか)

 

驚くべきは黒化したランサーの異常な迄の戦闘継続能力。大聖杯のバックアップを受け、従来の能力を軒並み大幅に向上したとはいえ、彼の戦う能力は桁外れである。もし、万が一この賭けに負ければ待っているのは10年前の災厄の再来────否、それを上回る大災害が待っている。

 

賭けに出るか否か。追い詰められる状況、そしてそれすらも出来なくなる切迫した戦況、イリヤも遠坂も、誰もがじり貧な状況に歯噛みする中で───。

 

ジャンヌに天啓が舞い降りた。“天啓”、それはエクストラクラスでありルーラーという特殊なクラスに設けられた第三のスキル。

 

送られてきたのは断片的な情報、彼女の脳裏に映るのは赤い炎と眩い閃光───そして、日輪を背負う巨大な魔神。

 

何故今になって天啓が届くのか。なんて疑問よりも──嗚呼、と。気付けば自分でも驚くほどの気の抜けた声が溢れていた。何せ、その声には全てが詰まっていたからだ。

 

諦めであり、安堵であり、絶望であり、希望でもあった。そう、ジャンヌ=ダルクは断片的な情報であってもこの戦いの結末を何となく察してしまったのだ。

 

まだその結末が確定した訳ではない。けれど、心のどこかで納得してしまった。彼なら、白河修司ならば、きっと何とかしてみせると。

 

本来なら聖杯戦争とは無縁である彼に全てを託すのは些か以上に心が痛む。けれど、ここで躊躇って彼にランサーという余計な敵を残すのも憚れる。

 

────故に、ジャンヌは覚悟を決めた。修司に全てを託すのではなく、彼の負担を少しでも軽くさせる為に。己に出来ることを成す為に。

 

「アーチャー!」

 

「っ!」

 

「暫し、時間を稼いで貰えますか?」

 

突然呼ばれた事に戸惑うアーチャーが、ジャンヌの表情を見て即座に理解する。大聖杯に使うべき切り札を今此処で切るという事を。

 

何をバカな。と、口にはしない。彼女が覚悟を決めた以上、自分達がとやかく口にする道理はない。それに、今此処であのランサーを斃さなければどのみち自分達は終る。マスターを死なせず、守り、最善の結果を生み出すにはこれしかない。

 

残る全ての問題は向こうにいるであろう修司と士郎に託される訳だが………構うものか。嘗ての自分(士郎)ならいざ知らず、白河修司ならきっと何とかしてくれるだろう。

 

我ながら、楽観的な考えだと呆れ返る。けれど、そう思わずにはいられない。あの男なら、修司ならば、自分では成し遂げられない何かを成し遂げてくれるのではないかと。

 

だから、アーチャーも賭けることにした。

 

「無論、時間稼ぎなら任せたまえ。そういうのは馴れている。───しかし」

 

「?」

 

「別に、あれを倒してしまっても構わんのだろう?」

 

不敵に、笑みを浮かべる。その言葉の意味を理解してジャンヌもまた笑みを浮かべた。

 

遠坂とイリヤにも伝わった。ここから先は自分達も賭けるべきなのだと、魔術師としてではなく、人としての本能が彼女達を突き動かした。

 

「いいわ。ぶちかましなさいアーチャー! あなたの後押しは私に任せて!」

 

「私達も負けられないよバーサーカー、私も貴方に託すから、貴方の全てをここで出し切って!」

 

遠坂とイリヤ、それぞれから令呪が切られる。聖杯戦争に於けるマスターの奥の手、神秘の塊とされる令呪が輝きを放つ。瞬間、アーチャーとバーサーカーにマスターからの最大限の後押しが施される。

 

砲弾と化してランサーへ肉薄するバーサーカー、斧剣を両手で握り締め、勢いと共にランサーへ目掛けて振り下ろす。

 

瞬間、大地は爆発して辺りに衝撃が広がっていく。余波ですら致命傷に成りかねないソレをランサーは忌々しく吐き捨てる。

 

「令呪を切ったか、この状況なら当然か。だが………がら空きだぞ、ヘラクレスッ!」

 

令呪のブーストによる一撃は確かに凄まじい。だが、当たらなければ意味がない。当然これを避けたランサーはその隙だらけな脳天を穿とうと豪腕を奮い───。

 

「その瞬間を待ってました」

 

砂塵の中から現れるバゼットに一瞬、対応するのが遅れた。

 

(コイツ、まさか最初から狙って!?)

 

思えば、これ迄のバーサーカーの動きは単調にすぎた。如何に狂化をされたバーサーカーとは言え、相手はあの大英雄ヘラクレス。仮にもギリシャ最大の英雄が、ただ単調な動きしかしない愚図に成り下がるだろうか。

 

 

 

全ては、この瞬間の為の布石。狂戦士であるバーサーカーはその耐久力を活かし、自らの命を費やしながらこの状況を作り上げていたのだ。小癪な真似を、苛立ちながらも槍を奮おうとするランサーだが。

 

「“抉り斬る戦神の剣(フラガ・ラック)”!!」

 

バゼットの放つ宝具が、ランサーの肩を鎧ごと貫いた。

 

それはケルト神話に於ける海神リールの息子であるマナナン=マクリルより太陽神ルーに与えられし報復者の意味を持つフラガ=マクレミッツに伝わる迎撃礼装の宝具。

 

本来なら相手の宝具に合わせてカウンターの意味合いを込めて放たれる宝具だが、現在ランサーは強化外骨格なる宝具による強化状態になっている。つまり、今のは現状一発だけならランサーよりも先んじて一撃を加える事が可能という裏技を用いての一撃だった。

 

小癪に次ぐ小癪、だがそれだけで吐き捨てる事はランサーには出来なかった。最初は派手な目眩まし、次は小手先な足止め。ならば次に待っているのは本命───もしくは、本命に繋げる一撃がくる。

 

そして、そのランサーの読みは見事に的中した。空を見れば片手に眩い光を放つ剣を持ったアーチャーが。当然、これに当たる訳にはいかないとランサーは避けに徹しようとする。

 

しかし、それは砂塵の向こうから現れる赤黒い光弾によって阻まれる。それは北欧に於ける簡素な呪い、ガントと呼ばれる魔術の一種。

 

何故? と、疑問符が浮かぶよりその答えがランサーの目に飛び込んできた。距離からして百メートル以上、なのに其処にはしてやったりと生意気な笑みを浮かべる遠坂がそこにいた。

 

「見たか! 伊達にアーチャーのマスターはやっていないっての!」

 

確信めいた言い方だが、実際はまぐれも良いところである。ただ、バゼットの放つ宝具の光が見えたからそこに目掛けて撃ち込んだだけ、内心ではガクブルな遠坂だが、ここは敢えて強がって見せることにした。

 

ランサーにダメージはない。当然だ、サーヴァントであるランサーに一介の魔術師の魔術が通用する筈がない。何よりも遠坂の狙いはランサーの意識をアーチャーから一瞬でも反らす事にあったのだから。

 

「しまっ!?」

 

「“永久に遥か───(エクスカリバー)”」

 

「“黄金の剣(イマージュ)”!!」

 

それは、嘗て在りし日の少年がその光景に憧れて生み出したかの騎士王が所持していた聖剣。人と星の願いの元で生み出された最後にして最強の幻想、黄金に輝く一振りは確かにランサーの胴を切り裂いた。

 

手応えはあった。剣の複製も渾身の出来栄えでマスターの令呪のお陰で何とか完成できた。令呪によるリソースを殆ど聖剣の複製の完成に費やした為、霊基の崩壊は免れないがそれでも自分の成すべき事は成し遂げたと、アーチャーは安堵する。

 

だが────。

 

「───見事だ。貴様らの奮戦、奮闘。確かに受け取った。認め、前言を撤回してやる。お前達が最後の相手であった事を、俺は誇りに思う」

 

「しかし、それでも勝つのは………俺だ」

 

鎧を裂かれ、致命傷を受けても、ランサーは尚も健在だった。アーチャーの投影が不完全だったのではない、彼に繋げるまでの連携にミスがあったのではない。全てはアーチャーが片腕だったのと、ランサーの規格外な戦闘継続能力故の出来事だった。

 

ランサーの纏う鎧は使用者の耐久力と筋力を大幅に強化させる。これにより耐久面でも強靭となったランサーはアーチャーの片腕故の筋力不足という偶然のお陰で生き残る事が出来た。

 

とは言え、致命傷を受けたのは事実。これ以上の戦闘は無理だし、何より核となる霊基に亀裂が入った。長くは持たない、しかしこの場にいる全員を殺すだけの余力はまだ残されている。

 

最初は修司と戦えなかった事に憤るランサーだったが、結果を見れば存外満足出来る内容だった。ギリシャの大英雄に子孫の切り札、魔術師達の悪足掻きに偽物ではあるが騎士王の聖剣も目にすることが出来た。

 

充分だ。残された力を振り絞り、ランサーが最後の攻撃に転じようとした所で────それは顕れた。

 

「───“主よ、この身を委ねます”」

 

それは、祈りの光。聖女が手にしているのは生前一度も奮う事の無かった炎の聖剣。由来は嘗ての己の命を燃やした火炙りの炎を攻撃的に解釈した概念結晶武装。

 

身に纏う鎧も変わり、剣そのものと化したジャンヌは剣の刃を握り締め、柄に備わった蕾を開花させる。

 

「“────紅蓮の聖女(ラ・ピュセル)”」

 

瞬間、全てを呑み込む炎が具現化される。まさか味方ごと焼き尽くすつもりか? 迫り来る炎という名の死を前に呑気にそんな事を考えていると───ふと、己の周囲に誰もいないことに気付く。

 

見れば、イリヤの方にバゼットを抱えたバーサーカーがいるし、アーチャーもいつの間にか遠坂の隣に立っている。恐らくはバーサーカーの方はイリヤが何とか令呪で呼び戻したのだろう。あのホムンクルスは少々他とは異なる的なことをあの女から聞いた気がする。

 

アーチャーの方は───何だ。ただ意地を張ってるだけか。変にカッコつける弓兵を見て何と無く呆れるランサーは………。

 

「ハッ、スッキリした顔しやがって。全く、面倒くせぇ野郎だぜ」

 

戦えるだけ戦った。過程を見れば色々歪んでいた聖杯戦争だが、ランサーは満足しながら炎の中へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────あぁ、消えていく。私の全てが燃え尽きていく。

 

 

当然だ。あの宝具は自身を糧にする自爆同然の禁じ手、本来ならば大聖杯の破壊に使うべき代物をまさかこんな所で使うなんて………思いもしなかった。

 

でも、結果を見ればこれで良かったのだと思う。あのランサーは普通ではなかったし、仮にアーチャーが止めを刺したとしても聖杯がランサーの敗北を察し、より禍々しいモノを彼を媒体にして呼び寄せたかも知れない。

 

それを防ぐにはランサーというサーヴァントを消滅させる他ない。そして、それを可能とするのは私の第二宝具以外に無かった。

 

………彼には、白河修司には申し訳ない事をした。彼の手助けの為に取っておく切り札が、よもやこんな所で使うなんて、思いもしなかった。

 

けれど、不安はない。きっと、あの穢れた大聖杯は彼が何とかしてくれる。無責任だし他人事だが、彼にはあの魔神がいるから、きっと何とかしてくれるだろうと───そう、思えるから。

 

だから、この結末を受け入れよう。悔やまれるのは全てを彼に押し付けてしまった事、それを謝ることも出来なかった事、それだけが悔やまれてしまう。

 

その時、ふと視線を感じた。何かと思い視線の感じる方へ目を向ければ其処には彼の守護神である例の魔神が其処にいた。

 

そして気付く、これまで何度も頭に浮かんだ疑問がこの瞬間一気に氷解していった。

 

(そうですか、私を喚んだのは聖杯ではなく───貴方だったのですね)

 

何故、ルーラーである自分が聖杯によって呼び出されたのか、自身の消滅を前にして初めて理解する。あの汚染された大聖杯では自分というルーラーを呼び出すのはほぼ不可能だと。実際、今大聖杯の前にはルーラーとは対を成す本来ならば有り得ざるクラス“アヴェンジャー”が顕現している。

 

ならば何故、自分は召喚されているのか。答えは明白、自分は聖杯ではなく目の前の魔神によって召喚された存在なのだと。

 

(そうか。なら、本来ならば彼こそが私のマスターとなっていたのですね)

 

あの日、公園で出会えたのは運命だった。彼に刻まれる筈だった令呪は目の前の魔神によって弾かれ、その余分の魔力リソースが自分という存在をレティシアを通して現界させたのだ。

 

道理で、彼と行動を共にして心地よかった筈だった。彼が、彼こそが私のマスターだった。嬉しい、素直にそう思える程に私は彼に心を開いていた。

 

(ならばこそ、この終わりに後悔はありません。ありがとう修司君、貴方と共に戦えた事を───私は、決して忘れません)

 

座に還れば私はきっとこの記憶がなくなることでしょう。でも、きっと忘れません。例え仮初の命であったとしても、私はこの想いを忘れません。

 

だから、ありがとう。私のマスター。さようなら、私の───マスター。

 

胸中から溢れる感謝の気持ちを抱きながら、消滅する私に───。

 

 

 

 

 

 

『戯け。ノコノコ貴様だけを楽させるものかよ』

 

 

 

あの傲慢な英雄王の声が───聞こえた気がした。

 

 

 

 

 




本作の英雄王は後の事も考える御方(笑)



修司のいるカルデアif もしもA チーム配属したら。

カドックの場合。

「あれが一般枠だなんて、俺は認めないぞ!!」

「どうやったら生身の人間がサーヴァントを正面から打ち負かせるんだ!? 手からビーム出すし、空飛ぶし、訳わかんねぇよ!!」

「あの人、実はどこぞの戦闘民族だったりしてないか!? 地球育ちの!?」

「───え? 何で俺があの漫画を知ってるかって? わ、悪いかよ。好きなんだよ!」



オフェリアの場合。

「彼がここに来てからあの悪夢を見なくなったの。うん、それは素直に嬉しいし、喜ばしいわ」

「でも………うん、正直あまり関わりたくないわ。だって、キリシュタリアをあんな顔にさせるんだもの」

「初めて見たわよ。FXで有り金全部溶かした様な顔をするあの人の顔………当分忘れそうにないわ」



芥ヒナコの場合。

「ノーコメント。ノーコメントよ! こっちに話振らないでくれる!?」

「何なのよアイツ。唯でさえバカでかい魂が更に大きくなってるじゃない! アルクェイドの奴何が宜しくよ、私イヤよ! あんなの相手にするの」

「あぁ、項羽様。早く貴方に逢いたいです」


ペペロンチーノの場合。

「ヤッベェ、滅茶クソ面白い人キターwwww」






次回、シリアス「止まるんじゃねぇぞ」


それでは次回もまた見てボッチノシ



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