─────黒と蒼白の光芒が、未遠川にて激突する。
衝撃が波を弾き、底の大地を穿ち、ビリビリと震える振動が大気を震撼させていく。
黒き極光を放つセイバーは自身の放つ聖剣の一撃に拮抗する蒼白の光芒に、バイザー越しにて驚愕する。
バカな、有り得ない。ついこの間までただの人間に過ぎなかった男が、何故魔力放出というスキルまで会得しているのか。
(いや違う。これは魔力とは似て非なる何かだ)
互いに撃ち合い、ぶつかり合っている今でこそ理解できる。このエネルギーの奔流は魔力ではない、もっと純粋で強力な魂のエネルギーそのものに等しい。
そんなエネルギーを普通の人間が放てば、忽ち魂は枯渇し、死に至るだろう。だが、現にその本人は今も平然と打ち返している。
(───成る程、やはり貴様は危険だ)
独自の方法で独自に魔力放出の真似事を習得し、土壇場でやり遂げる努力と胆力。認めるしかない、目の前にいる白河修司なる存在は全てのサーヴァントを差し置いて現在の聖杯戦争に於ける最強の戦士だと。
(だが、故にこそ貴様の敗北は決定する。力に目覚めたからこそ、その力に翻弄されて自滅する)
力の放出とは、自身の内からソレを湯水の様に溢れさせて相手にぶつけること、それはつまり自身の残りの力を全て出し切る事を意味している。
白河修司は確かに凄まじい拳士である。技の冴えも、膂力も、その力を奮う度にその強さはサーヴァントである己すら凌駕し、圧倒し始めた。
だが、そんな彼が最後の最後で選択を誤った。打ち合わず、避けて、次に繋げてしまえば勝機はまだ幾らか残っていただろうに。
(嘗ての切嗣の様な冷酷さ、非情に徹し切れなかった事が───貴様の敗因と知れ)
人は、個人では、どうしても限界が存在する。故に悲劇は回避できず、悪戯に被害ばかりが増えていくのだ。如何に桁違いの力を以てしても、所詮は個人。
「………さらばだ。我が怨敵よ、我が極光に呑まれ塵へ還るがいい」
力が迸る。手にした黒い聖剣に更なる力を解放したセイバーは増した勢いを加速させ、修司の放つ閃光を呑み込まんとした。
────そして、対するその本人はと言うと。
(う、うぉぉぉっ!? 出た! 出来た! 本当に出た! ウッソだろお前、俺遂にやり遂げたぞ!?)
自身の放つ閃光を前に嘗て無いほどにテンションを振り切らせていた。
顔には出さず(そんな余裕もないとも言う)内心での歓びっぷりで、その有り様は年相応の反応でとても殺し合いの最中に抱いていい感想ではないが、それもある意味仕方がない事であった。
何せ、この技は初めて目にした時からずっと修司が───いや、全国の少年たちが追い求めて止まない伝説の必殺技だからだ。私生活から学校生活に至るまで、一時期あらゆる場所で模倣し、繰り返されてきた思春期の少年達の希望の必殺技なのだ。
繰り返される度に虚しさで胸が張り裂けそうだった。他者に見つかる度に顔が焼けつくほど羞恥で赤くなった。
黄金の王に目撃されれば何時までも弄られ、師匠に見られたら呆れられ、姉同然の人に見られれば、地母神の如く穏やかな笑みを向けられた。
そうして、いつしかその技の模倣はやらなくなっていた。笑われるのが嫌だから? 呆れられるのが辛いから? 優しい目を向けられるのが堪えたから? ─────違う。
諦めてしまったから。所詮は漫画の中の話だと、非現実の産物だと、自分には出来ないと、そう認めてしまったから。
けれど、聖杯戦争に介入したことでその認識は覆る。理想の力を、技を、現実に落とし込めるなら、嘗て抱いた情景も再び甦るのでは無いのかと。
斯くして、それは成った。自身の全力を出し切るつもりで裂帛の気合いと共に放ったソレは、嘗ての幻想通りに両の手から飛び出してきた。
嬉しくない訳がない。感動しない訳がない。テンションなんて………振り切れるに決まっている。
今この瞬間、修司のテンションはMAX値すらも振り切り有頂天処の騒ぎでは無かった。が、そのテンションが次第に萎えていくのもまた避けられなかった。
押し返されている。自分の放った技が、閃光が、黒き極光に呑まれようと押し返されている。このままでは光ごと自分は呑まれ、背後にある住宅街───そこに住まう人々をも巻き込んでしまう。
負けてしまう。眼前に迫る敗北と死、それを前に修司は───。
(負ける? 俺が? かめはめ波が? 俺達のロマンが? …………そんなの、そんなもの!)
認められる訳がない。許容出来る筈がない。
(伝説の聖剣? 最強の騎士王? ザケンナ! 舐めんな! ふざけんな!! そんな、それが、なんだって言うんだ!)
相手が強いなら、更にその上を超えていく。その心の強さを、修司はあの物語を通じて思い知っている。
大事なのは負けない、勝つという意志。
(出し切れ俺! もっと、もっとだ)
後の事は………今は考えない。今の修司の頭にあるのは今押し寄せてくる脅威に全力で挑むこと、ただそれだけ。
(思い出せ、姉弟子の言葉を! 全身に流れる力の流れを、パイプを、更に強固に加速させろ!)
内に流れる力の奔流、その全てに伝達させる。もっと熱く、もっと速く、もっと力強く放出させろ。頭の天辺から爪先まで、全細胞を通じて活性化させていく。
まだ自分の力はこんなものではないと、他でもない自分自身が信じている。
そして、その思いは形として如実に顕れ始めた。
(───何だ?)
手応えに違和感を覚える。今まで押していたモノがまるで巨大な何かに塞き止められた様にセイバーの極光は勢いを止めてしまっている。一体何が、そう彼女が疑問に思うのも束の間、今まで圧されていた蒼白の光芒が急に息を吹き返し始めてきたのだ。
「───無駄な事を、今楽にしてやる」
小癪なと悪態をつきながら、セイバーは更に力を高めていく。今自分に繋がっている魔力炉心は現代に於いて超級規模の容量を誇っている。この程度、押し潰して見せる。セイバーが今度こそ息の根を止めようとしたとき───。
横から、ハルバードが飛んできた。
「っ!?」
ガインと、音を立ててセイバーの頭に激突した槍斧はその勢いのまま水面へ落ちていく。突然の衝撃に直感が働く余地もなく受けてしまったセイバーはハルバードが飛んできた方向へ目線を向ける。
そこにいたのはアインツベルンのホムンクルス、リーゼリットだった。野球選手が如く流麗なフォームで固まっている彼女を相方のセラが担いで逃げていくのが見えた。
「き、貴様ぁっ!」
激昂に任せて叫ぶセイバー、しかし彼女が意識を逸らしたその一瞬の隙が彼女の運命を決定付けた。意識が僅かにズレた事で力に弛みが生じてしまい、それは同じ光を放つ修司にも伝わり───。
(今だっ!!)
「ダァァァァァァッ!!!」
その隙を見逃さず、自身に出せる更なる放出を行った。全細胞を一片残さず出し切る勢いで放ったそれは、修司の放つ白い闘気にさえ及ぼしていく。
(なんだ………アレは?)
押し寄せる光の奔流の中でセイバーが目にしたのは蒼白の中に漂う朱色の炎だった。蒼白の光の中で燦々と紅蓮の如く燃え滾る炎、その不可思議な光景を目にしながらセイバーは修司の放つ光の中へ呑まれていった。
◇
「………が、ぐ………ば、バカな。何故私は………生きている」
光に呑まれ、己の死を覚悟したセイバーだったが、意外なことに自分は未だ現界したままだった。バイザーは砕かれ、鎧も半壊し、全身も指先一つ動けないままに疲弊してはいるが、それでも己の命が存在している事にセイバーは驚きと戸惑いを隠せずにいた。
自分の一撃があの光と相殺した? 否、それは違う。あの拮抗した状況の中で、最初こそは押し込められていたが、徐々にその差は無くなっていき、あのホムンクルスの横槍が入った事で自分とあの男の実力差は完全に入れ替わった。
あの時、白河修司はこの騎士王を上回った。それは間違いなくて、同時に己の放つ
だが、現に自分は生きている。あの光の奔流に呑まれておきながら、何故自分が生き残れたのか、偶然でないのなら考えられる事は一つ。
「………手心を加えたな」
「…………」
忌々しく吐き捨てるセイバーの頭上には悲痛な面持ちの修司が立っていた。
「やっぱ、セイバーさんだったのか」
「ふん。相変わらず甘い男だな。この私に止めを刺さないとは、嘗てのマスターと同じく、トンだ甘ちゃんだな。貴様は」
「………セイバーさん。アンタも、あの黒いのに呑み込まれたから、だからそんな風に変わっちまったのか? もう、元には戻れないのか?」
「───どうやらまだ理解出来ていない様だな。私は嘗て有り得た王の別側面、あったかもしれない騎士王のもう一つの顔だ。あのランサーとはその根本から異なっている」
黒化、或いは反転。後にそう称される現象によって現在のセイバーは全く異なった性質を持つサーヴァントとなっている。
修司に魔術の知識はないから殆ど理解出来ないが、彼女の言葉によって理解してしまう。もう、この先彼女が元に戻る事は絶対に無いのだと。
しかし、それでも彼女とは一度共に戦う事を約束した仲だ。諦めたくはないし、何より士郎に申し訳が立たない。何とか説得して対立することを止めて貰おうと説得を講じてみるが……。
「なぁ、セイバーさん。記憶、残ってるんだろ? ならさ、戻ってきなよ。あんたがいなくなってから士郎の奴が寂しそうにしてるんだぜ」
「知るものか、私はもう貴様達の知る騎士王ではない。………さぁ、止めを刺せ。貴様にはその資格がある」
「セイバーさん」
「くどいぞ。それともなにか、このまま私の回復を待って今一度私と戦うか? そうなれば今度こそ大勢の街の人間が死に絶えるぞ」
不敵に笑い、なんてこと無いように語るセイバーに修司はこの少女がもう自分と知る人物ではないと悟る。きっと、彼女は自分の言葉を曲げないのだろう。負けず嫌いな事だ。そういうところは……きっと、反転する前から持ち合わせた彼女の気質なのだろう。
もう、言葉はいらない。修司は近くに落ちていた彼女の聖剣を手にし……。
「悪趣味な事だな。だが正解だ。私の頸を落としたければ私の聖剣を以てする他ない。どうやら貴様も限界らしいようだ………精々、外すなよ」
黒いセイバーに言われるがまま、修司は地に落ちた持ち主同様黒に染まる聖剣を頭上高く掲げ───る、事はなく。
片手を柄へ、もう片方の手で刃の部分を握り。聖剣を水平へと持ち替え
「はぁぁぁぁ………」
全身に白い闘気の炎を迸らせる。
「え? ち、ちょ、貴様、一体何をするつも───」
嫌な予感がする。セイバーが持つ直感が盛大に警鐘を鳴らすよりも早く………。
「オラァッ!!」
見事な膝打ちを剣の腹に叩き込み、彼女の聖剣をへし折った。
言葉にならない叫びが未遠川に響き渡る。そこには折れ逝く愛剣の姿に童女の様にギャン泣きする少女がいたとかいなかったとか。
後に、士郎が何故そんな事をしたのか問い詰めると。
『戦う意志が消えないなら、殺すより戦う得物を目の前で壊した方が人道的じゃね?』
サーヴァント、英霊の象徴とも言える宝具をそんな理由でへし折る友人に士郎はちょっぴり引いたのだった。
その頃の教会。
ボッチがかめはめ波を放つ場面。
AUO「あやつwwwwやりおったwww」
ボッチが紅くなった場面。
AUO「マwwwwジwwwwwかwwwww」
ボッチが聖剣を叩き折る場面。
AUO「うわぁ」
麻婆「うわぁ」
AUO「流石の我もちょっと引く。ナニあれ、あんなの我でも考えつかんぞ」
彼の臣下の横に嘗ての親友を幻視するAUOでしたとさ(笑)
尚、ボッチが紅くなったのはゴッド化ではなくどちらかと言えば界○拳の模様。
それでは次回もまた見てボッチノシ