『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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鬼滅の刃、皆さんはどんな柱がお気に入りですか?

自分は恋と風と岩の三人が推しですね。

特に岩柱の声を聞くたびに笑えてしまう。(笑)





その37

 

 

 

 

───其所は、何処までも広かった。前後左右もなく、足場もなく、ただ浮かんでいるだけの不可思議な空間。

 

距離感などとうに狂い果て、遠くで瞬く星々がまるで砂粒のように小さいのに其処に確かに在るものだと光輝いている。

 

宇宙の果て、そう呼んでも差し支えのない幻想的な風景。身体に重みは無く、フワフワと海の中を漂っているような感覚。一体自分は何をしているのか、何故こんな所で彷徨っているのか、そもそも………自分は一体何者なのか。

 

『────どうやら傷の深さもあってか記憶の方が少し混濁しているようだな。このまま放置しても構わないが、それだと些か時間が掛かるか』

 

声がする。この広大な宇宙の中で自分以外の存在がいた事に驚くが………残念な事に言葉が出ない。一体何処の誰だろうと声のした方へ視線を向けると───。

 

【魔神】がいた。無知な己ではその全貌が明らかにならない程に巨大で強大な魔神が目の前にいた。

 

その魔神がそこに在るだけで全てが軋む。星も、星雲も、遠巻きに見える銀河も、そして………自分がいるこの宇宙そのものが助けてくれと悲鳴を上げている。目の前の魔神は敵意すら見せていないのに、相対しただけで魂が砕け散りそうになる。

 

『ふむ、この程度ならば耐えられる、か。我ながらタフな事だ。この分だとアレを使いこなすのに然程時間は掛からないか』

 

声は魔神から聞こえてきた。聞き慣れた様で記憶にない、まるで他人とは思えない声の主。何者なんだと訊ねたくても言葉が出ない今の自分では問答一つすら儘ならなかった。尤も、それを赦せる程目の前の魔神が寛容であるかは定かではないが………。

 

『さて、突然の事で混乱しているようだが時間がない。悪いが手短に済ませるぞ』

 

自分が何者かを明かさぬまま、魔神は言葉を続けた。

 

『お前には選択が用意されている。このまま何もせず自身の力のみで立ち向かい、多くを失うか』

 

『それとも、■■■■■と共に全てを勝ち得るか。敗者か、勝者か、好きに選べ』

 

それは選択の様で選択ではなかった。誰にだって失いたくないものは一つや二つ位持っている。目の前の魔神の問答はそもそも問答として成り立っていなかった。

 

───しかし。

 

『だが忘れるな。お前が■■■■■と共に力を得ると言うのなら、それは即ち』

 

“お前は俺に近くなると言うことだ”

 

その光景を見て、何となくだが理解する。目の前にいるのは嘗てそうしてきた白河修司の成れの果てなのだと。

 

星を砕き、星雲を裂き、銀河すら消滅させる化生。それが■■■■■と共に自己を高め続けてきた己の末路なのだと、修司は理解する。

 

自分には大切なモノが、人達が数多くいる。その人達の為ならば幾らでもこの身を砕こう、誰かの為ではなく、自分の願う行いの為に白河修司は如何なる手段を用いるだろう。そこに後悔はない、あったとしてもそれを他人の所為には絶対にしないと誓える。

 

でも、その果てに待っているのが“アレ“だと思うと………心が裂けそうになる。

 

『■■■■■、次にお前がこの名を口にした時、お前の未来は大きく揺らぐことになる。それを忘れるな』

 

世界が割れて宇宙が消える。眼前に在るのは日輪の背負いし蒼い魔神、その背後に見えるのは禍々しき原初の魔神と進化の皇帝。

 

『忘れるな。■■■■■はお前と共にある事を』

 

それはとても悲しく、残酷な───未来からの贈り物だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───君、シュ────君!」

 

「う、………あ?」

 

「修司君!」

 

聞き慣れた声が自分の名前を何度も呼んでいる。閉ざされた意識が浮上し、次に修司が目にしたのは心配そうに自分を見下ろしているジャンヌの顔だった。

 

「あ…………れ? ジャンヌさん、どうしたんです?」

 

何故彼女はこんな必死に自分を呼んでいるのだろうか、見ればその目尻には涙が浮かんでいる。気丈な彼女がここまで取り乱すのも珍しい、余程の事が合ったのかと混濁する意識を徐々に覚醒させながら修司は今までに起きた出来事を思い出す。

 

(確か、バーサーカーのマスターって奴に会いに行って、そこで黒い奴と戦って、ジャンヌさんと合流して───)

 

脳裏に浮かぶのはあの黒い影、影なのだから黒くて当然だと思われるが、あの影には色としての意味合い以上にどす黒く、胸糞が悪かった。

 

あの影を一言で言い表すのなら────悪意。人が生み出す悪意の塊、影の触手が腕に巻き付かれた時に流れてきたモノ、あれは凝り固まった悪意の断片だ。魔術に毛程の知識のない修司でもアレは危険だと断言できる程、あの影は危険な代物だった。

 

「ジャンヌさん、あの影は、あの黒い塊はどうなったんですか!?」

 

「お、落ち着いて下さい修司君。幾ら傷が塞がっていても(・・・・・・・・・)失った体力までは戻ってない筈なんですよ!」

 

「いや、でも! …………え?」

 

何故か、サラリと凄いことを言われた気がする。そう言えば先程から体が重い代わりに痛みが無くなった気がする。黒い奴との戦いを思い出した修司は自身がどれだけ重症なのか理解できていた。左腕の皮膚はズタズタになり、右腕の方は元に戻るのかさえ分からない程だった。

 

なのに、その痛みは目を覚まして以降僅か足りとも感じない。とうとう傷が深すぎて痛覚すら麻痺したか、そう思い己の手元へ視線を向ければジャンヌが言うように傷は塞がり、痕すら残らない完治した自身の両腕があった。

 

「───マジ、か」

 

昔から自分の回復能力には定評があった。王様への無茶振りのために世界各国を巡り、その道中何度も危険な目に逢ってきた。手足の骨が折れたことは一度や二度で済まないし、酷いときは崖から落ちて暫く身動きが出来なくなるほど激痛に苛まされた事もあった。

 

でも、その度にこの身体は驚異的な速度で回復した。常人ならば3ヶ月は掛かるだろう大怪我も一月も経たずに完治させた。この回復力は修司にとって数少ない特技なのだと、今までは思っていた。

 

たが、自身の両手を見てそれは間違いだと思い知る。右手を腕ごと穿たれ、内側から破壊し尽くされたのにその日の内に完治するのは流石におかしい。

 

これも魔術によるモノなのか、綺麗さっぱり治った自身の腕を見て修司はジャンヌへと視線を向ける。修司の視線の意図に気付いたジャンヌは首をブンブンと横に振って否定する素振りを見せる。

 

自分の腕を治したのは彼女ではなかった。では隣で此方の様子を見ていた二人なのかと視線を向ければやはり首を横に振られてしまう。ならば一体誰の仕業なのか───。

 

「お兄ちゃん、本当に覚えていないの?」

 

「───え?」

 

やんわりと訊ねてくるイリヤの問いに、修司の鼓動は瞬く間に跳ね上がる。何か、忘れている気がする。何かに、守られた気がする。自分の背後から感じる存在感、これまで感じたことの無い威圧感。

 

そこに不快さや圧迫感はない、伝わってくるのはこれ迄何も無いと思われたモノが確実に在るという存在感だけ。

 

逸る心音、まさかと思い後ろに振り向けば───其処には何もなく、暗闇の森林が生い茂っていた。

 

「お兄ちゃんはね、護られてたんだよ。大きくて強ーい魔神さんに」

 

「───魔神」

 

大きく、強い鋼の巨神。思い出すのは夢の中で相対した蒼色の魔神。

 

その名を修司は知っている。夢の中で魔神の中に座する何者かが自分にその事を教えてくれた。その言葉は今も己の胸の中に刻まれている。

 

今、その名を口にすれば再びその魔神は顕れるだろう。これ迄の様な魔神からの出現ではなく、修司からの呼び出しに応じるという形に───。

 

その魔神の力を使えばこのふざけた戦いに終止符が打たれるのだろうか、これ以上犠牲者を出さずに、聖杯戦争を終わらせる事が出来るのだろうか?

 

でも、もしこれから一度でもその名前を口に出してしまえば………。

 

『お前は俺に近くなる』

 

あの忠告の言葉がどうしても耳に残って離れない、■■■■■を呼べば全てが解決するかも知れないのに、修司はその一歩を踏み出せずにいる。そう、修司は恐怖していたのだ。

 

あの夢に相対した声だけの存在、ただそこに在るだけで星よりも大きな宇宙(ソラ)すら破壊してしまう埒外の怪物。修司と声の主の間に力の強弱はない、在るのはただ《違い》だけ。

 

その《違い》と《同じ》になることを修司は本能的に恐れた。■■■■■を呼べば自分はあの存在と同質、或いはそれに限りなく近くなるナニかへと変わってしまう。果たしてそれは自分だと、あの黄金の王の臣下である白河修司と言えるのだろうか。

 

「………兎も角、一度街へ戻りましょう。此処に留まっては危険ですし、何より修司君を休ませてあげないと」

 

「───ま、今はそれでいっか。セラもリズも今はそう言う事にしておこう?」

 

「………お嬢様が、そう仰るなら」

 

「でも、私達お家に戻らないよ? どーする、イリヤ?」

 

リズの言う通り、アインツベルンの城は修司と黒いランサーの戦いによって崩壊した。派手に爆発した事もあってイリヤ達の拠点であり住まいは完全に崩落してしまっている。拠点を失った以上、イリヤ達は新しい拠点を探す必要があるのだが……。

 

「じゃあ、バーサーカーが回復するまで宜しくね。お兄ちゃん♪」

 

「───は?」

 

残念ながら修司に選択の余地は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして翌朝。朝食の支度を終え、制服の袖に腕を通した修司は二日ぶりの学校へ向かおうと玄関の扉を開ける。

 

「今日は午前中授業みたいだから、なるべく早く帰るよ」

 

「分かりました。では私もお昼までには買い物を済ませておきますね。足りなくなった調味料も確保しておきます」

 

「ありがとう、助かるよ。それと慎二の事なんだけど……出来るだけ気にかけてやってくれ」

 

「はい、其方もお任せを。それでは修司様、レティシア様、お気をつけて」

 

「行ってきます」

 

「行ってきます」

 

シドゥリに見送られ、玄関を後にする二人。階段を降り、一階下へ足を進めると、現在入居者のいない筈の部屋から扉が開かれ、中から見慣れた白髪の少女とその従者が現れる。

 

「あっ、ルーラー、お兄ちゃん、おはよー、いい天気ね」

 

「おはようございます。イリヤスフィール、貴女もお出掛けですか?」

 

「うん、バーサーカーが回復するまでまだ時間が掛かるし、この街をもっと色々見ておきたいからね」

 

「相変わらずフリーダムな娘だなぁ、そんなんじゃお供のメイドさん達も大変だろうに……」

 

「別に貴方に言われる筋合いはありませんが……その心遣いは素直に受け取りましょう」

 

イリヤと共に現れるセラ、主一人を出歩かせてはなるまいと彼女もイリヤの散策に付き合う事となったが、昨晩の事もあり少し疲れているようにも見える。

 

それも重なってか人間嫌いなセラの棘のある言葉も今は鳴りを潜めている。

 

「しっかし、本来なら敵対する間柄だってのにどうして俺は匿っているんだか」

 

「えー? まだそんな事言うの? 私達の城を盛大に壊したのはお兄ちゃんなのにー?」

 

口元に指を当ててわざとらしく振る舞うイリヤに修司はグヌヌと口を噤む。

 

あの夜、拠点を失い行き場を失くしたイリヤ達は次の拠点を確保するために修司の住むマンションに転がり込むことを選んだ。当然修司は一度断ろうとしたが、イリヤ達の住む城を戦闘の余波で破壊し、住めなくしてしまったのは間違いなく修司自身に責があるし、この冬空の下で少女達を野晒しにしておくにも抵抗がある。

 

故に仕方なく修司は彼女達を迎え入れることにした。幸いこの日の王は留守だった為にイリヤ達はすんなりマンションに入れたし、シドゥリへの説得も一回の土下座で済んだ。

 

「………あぁ、もしこの事が王様に知られたら俺、こっぴどく怒られるんだろうなぁ。拳骨程度で済んだらいいんだけどなぁ」

 

顔を青ざめてその時の事を考える修司、彼の王とは10年以来の付き合いだが、叱られる事はあっても怒られる事は無く、見たことの無い保護者の怒りの形相に修司は今から不安になってきた。

 

唯でさえ慎二とジャンヌを匿う時に彼の怒りに触れたのだ。それが今度はいきなり三人も増え、本来なら彼の許しを得なければ住ませるわけには行かないマンションに修司の独断で招いている。

 

万が一これを知られたら拳骨の一発で済まないだろう。果たしてその時に自分は無事でいられるのか、不安と恐怖で胃が痛みだした修司にイリヤはやれやれと溜め息を溢す。

 

「そんなに心配しなくても、お金の方はちゃんと払うわよ。幸いセラがうちの通帳は確保していてくれたし、世話になっている間の料金は惜しまないつもりよ」

 

「いや、そう言う問題じゃないんだが………はぁ、まぁいいや。その時が来れば必殺のローリング焼き土下座で王様に嘆願すればいいか」

 

「待ってください修司君、何ですかその愉快痛快な面白拷問は? 新手の宗教弾圧ですか?」

 

王への謝罪&誤魔化しの為に即興で編み出した嘆願方法、これを行うには巨大な鉄板焼が必要不可欠だが、果たしてその技が繰り出される日は来るのか。

 

「それより、そろそろ学校に行った方がいいんじゃない? お兄ちゃんって皆勤賞狙ってるんでしょ?」

 

「っと、いけないいけないそうだった。じゃ、俺はもう行くわ。アインツベルンの嬢ちゃんもメイドさんも気を付けてな」

 

そう言って修司はそのまま跳躍し、地面へと着地する。なんの疑問も抱かずに地上20階建てのマンションから飛び降りる修司にイリヤは呆れながらその背中を視線で追う。

 

「───修司ってば、気付いているのかしら。今の自分がどれだけ異常なのか」

 

魔力もなく、魔術的付与も無く、純粋な己の身体能力のみで見せる脅威的な力、その膂力は常人を超え、単純な力なら並のサーヴァントすら凌駕している。

 

しかもその成長は留まるところを知らない。その成長性は異常の一言につきた。魔術師ならば是非とも肉体の構造を知ろうとするだろう、魔術の世界に生まれていれば間違いなく封印指定の烙印を押される程に白河修司という男は特異に過ぎた。

 

そして止めに昨晩再び見えたあの魔神、影が発した魔力による大爆発を防ぎきり、更には触手による干渉も完璧に防いで見せた。

 

もし、修司があの魔神の力を完全に掌握してしまえば聖杯戦争はその日の内に終了するだろう。あの日、初めて魔神と対峙したイリヤにだけ理解できた。

 

あの魔神に打ち勝てるモノは恐らく現在の地球上に存在しない。裏、表問わず数多の強者達もあの魔神には敵わない。

 

聖杯戦争は今後も様々な展開を見せるだろう。しかも彼とその魔神を中心に、もはや彼等を止める者は誰もいない。仮にいたとしてもそれはきっとこの星の安全装置である抑止力の仕事だろう。

 

「じゃ、私も出掛けよーっと、それじゃあルーラー、またね」

 

「あぁ、お待ちをお嬢様!」

 

だけど、もう自分には関係ない。バーサーカーが回復次第戦いには赴くが、イリヤにはもう以前ほどの戦う意思は見受けられない。

 

「さぁて、シロウはちゃんと生きているかなー♪」

 

雪のような白さと儚さを併せ持つ少女は己の待つ結末に未練を残さぬよう、勤めて笑いながら愛しの弟を探すのだった。

 

 

 

 

 

 

 




Q.もしもボッチがカニファンに出演したら?
A.ひたすら黒聖杯をしばき倒します。



それでは次回もまた見てボッチノシ

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