『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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最近暑くてシンドイ。

皆様も水分補給はしっかりと取るようにしましょう!


その31

 

 

────夜の冬木の街を二つの影が疾走する。片や黒の外套を身に纏う髑髏の暗殺者、片や蒼の装束と紅い槍を携えた槍兵。その関係性は追われる者と追う者、獲物とそれを刈り取るハンター、必死に逃げ惑う黒の暗殺者を蒼の槍兵が追随する。

 

「シャアッ!」

 

暗闇に紛れ込ませ様に放たれるのは三つの短剣、投擲に適した鋭い刃には相手を死に至らしめる猛毒が塗り込まれている。掠ればそれだけで死は免れない、しかし槍兵はそんな凶悪な凶器を前に臆する事無く突き進む。

 

瞬間、短剣は弾かれる。都合良く弾かれ、地に落ちる己の刃に暗殺者は仮面の奥で動揺する。

 

「無駄だ。俺に飛び道具は効かねぇよ」

 

「矢避ケノ加護カ!」

 

つまらなく吐き捨てる槍兵、自身の技と道具が加護というスキルに防がれた事を暗殺者は忌々しく思いながらも、今の彼には槍兵を正面から打ち破る術はない。

 

故に今は逃げの一手しかないと、入り組んだ新都の街路樹を縫うように奔る。しかし相手は俊敏さと速さに特化したサーヴァント、幾ら暗闇に紛れようとも優れた猟犬の如く、槍兵の追跡を振り切る事は叶わなかった。

 

それから数度の刃をランサーと交え、傷を負い、逃げ足も覚束無くなって来たアサシンが訪れたのは柳洞寺────の、中腹に当たる巨大池枯木が沈み、外来種の魚等が数多く生息するその場所で、両者は相対峙する。

 

「連れてきたかった場所は此処か? 何を企んでるのか知らねぇが、決着(ケリ)を付ける場所としてはチョイとセンスがねぇな」

 

「────」

 

身を低くさせ、いつでも動けるアサシンに対し、ランサーは見下すように見つめる。しかしそこに一切の慢心油断の気は存在しない。幾ら相手が砂虫と言えど歴とした英霊、どんな隠し球(宝具)があるか分からない以上、そこに油断等という雑念を持ち込む訳がない。

 

朱色の槍を肩に担ぎ、相手の出方を伺う。と、その時だ。水面の底から這うようにそれらはランサーに向けて押し寄せてくる。

 

「っ!」

 

ランサーを囲むように現れたソレ、場の空気が一気に悍しいモノへと変化した事に気付いたランサーは、己の直感に従いその場から跳躍。

 

空高く舞い上がると同時に水面から現れるソレを目の当たりにしたランサーの顔は凍り付き、直後に悟る。

 

これは、在ってはならないモノ。自分達サーヴァントにとって天敵にも等しい化生の存在(モノ)なのだとランサーは理解した。

 

これを放置してはならない。だが、今のランサーでこれを打ち破るのは不可能、迫り来る黒い帯の群れを的確に捌く事しか出来ない。

 

このままでは何れ追い付かれる。致し方ないとランサーは三つのルーン文字が刻まれた石を複数個投擲し、池へと着水する。

 

押し寄せる黒い帯、ランサーに向けて四方から群がるそれを防いだのはルーンの力による結界だった。強度で言うならば並みの宝具位弾き飛ばす性能を持っている。が、黒いソレは構う事無くルーンの結界を侵食していく。

 

「マジかよ、取って置きだったんだがなぁ!」

 

自身の切り札とも言えるルーンの力がアッサリと破られた事に嘆くが、事態はそれを許してはくれない。迫り来る黒いそれを凌ぐだけで手一杯なのに、更なる脅威がランサーを襲う。

 

「ドウシタ、ランサー。足ガ、止マッテ、イルゾ?」

 

「テメェ、コイツが何なのか分かってんのか!?」

 

グッグッグッとくぐもった声で嗤うアサシンに神経を逆撫でられるが、そこに余計な気を回す余力はランサーには無かった。気付けば攻守は逆転され、アサシンを打ち取るまであと一歩だったランサーは、とうとう逃げ場が無いところまで追い詰められてしまっていた。

 

「魂ナゾ、飴細工ヨ、苦悶ヲ、零セ……!」

 

「っ!? 宝具か!」

 

瞬間、アサシンから魔力が吹き荒れる。紡がれる言霊から宝具の発動を察したランサーは一か八かの勝負に出る。

 

「ちっと遠いが……やるしかねぇか!」

 

迫り来る黒い帯の群れを振りほどき、一時的に自由の身となったランサーはアサシン同様に宝具を開帳させる。

 

打てば必中、穿つは心臓。其は文字通り必殺の一刺。

 

刺し穿つ(ゲイ)───」

 

妄想心音(ザバーニーヤ)!!」

 

その時、ランサーがその時目にしたのはアサシンの歪な迄の巨大な腕だった。

 

それは、呪いだった。擬似的な心臓を生み出し、相手と同調させて握り潰して殺す呪いの腕。

 

ランサーの必殺の槍が届くよりも、アサシンの呪殺の一撃が速かった。握り潰された心臓は確かにランサーの心臓にも届き、一手遅かったランサーはこの時を以て死亡。高められた魔力は行き場を失くして辺りを蹂躙していき、この時アサシンの髑髏の仮面を一部削っていく。

 

ランサーとアサシンの宝具の打ち合いはアサシンに軍配が上がった。心臓を破壊されたランサーは絶命し、僅かな意識はあっても身動きなど出来る筈も無かった。

 

そのランサーに止めとばかりにアサシンの手が延びる。迫るアサシンの手はランサーを貫き、その手には微かに動く心臓が乗せられていた。

 

ランサーの心臓を抉り出したアサシンはそのまま後ろに飛ぶ。すると、ランサーに迫っていた黒い帯が凄まじい数となって彼へと巻き付き、池の底へと引き摺り混んでいく。

 

その様子を見送りながら、アサシンはランサーの心臓を補食する。滴る血液を舌で舐めとり、果実を頬張るように心臓を口にすると、一息に心臓をを呑み込み、ランサーの心臓を取り込んでいく。

 

「ランサー、貴様の心臓………馳走になった」

 

それだけを言い残し、アサシンは再び暗闇の中へと姿を消した。

 

「───成る程、あれが冬木に蠢くモノの正体ね。全く、何て茶番。このままじゃあの蟲どもの独壇場じゃない」

 

その光景を一人の魔女に監視されていた事に気付かれないままで……。

 

「───一応、礼を言っておくわランサー。結果的にとは言え、貴方が宗一郎様を守ってくれたことを………ね」

 

新都の総合病院には未だ多くの教師、生徒達が入院している。其処には守りの護符を渡せなかった葛木宗一郎の姿もあり、彼の隣には彼を慕い敬う柳洞一成の姿もあった。

 

「───あの人を狙っておいて、ただで済むと思わない事ね」

 

踵を返して彼女もまた暗闇へ溶けていく。その瞳に激しい怒りの炎を宿して………。

 

 

 

 

 

 

 

 

《あーあ、色々と勿体ねぇ終わり方だなぁこれは》

 

沈み行く意識の中、ランサーは自身の末路の際で幾つかの嘆きを溢していた。思い返すのは今回の聖杯戦争、一人の戦士として戦い抜く事を楽しみにしていたランサーは今回の自分の結末に一抹な不満を抱いていた。

 

思えば、あのいけすかない神父のいる教会に足を踏み入れたのが運の尽きだった。相方は捕らわれ、令呪は奪われ、気付いたらあの外道神父の駒使い。セイバーや他のサーヴァント達と一通りやり合えたのは良かったが、それでも全開には程遠い戦いにランサーは未練たらたらだった。

 

何より、あの時の坊主と死合え無かったのが本当に心残りだった。あの坊主とならきっと心行くまで戦いを楽しめただろうに………。

 

嗚呼、でも何よりも残念なのが………。

 

《悪いなバゼット。先に逝ってるわ》

 

相方である女の為に一度も槍を奮ってやれなかった事が、ランサーの心に痼となり。

 

その残滓の念も、黒い帯に喰われて消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ったく、王様ってばいつでも無茶ぶりするんだからなぁ~、いきなり披露宴の準備とか、高校生に任せる難易度じゃねぇだろ」

 

翌朝。朝食を終え、学校も現在休校である事も重なって現在修司は新都の街にて比較的穏やかな時間を過ごしていた。シドゥリと慎二に留守の番を頼み、ジャンヌと共に街へ散策に出た修司は今単独で行動している。

 

携帯で呼べば直ぐに駆け付けてくるだろうジャンヌに心強く思いながらも、修司の心境は憂鬱だった。原因は勿論、昨夜保護者兼上司である彼の黄金の王の突然のカミングアウトである。

 

「まぁ確かに王様って見た目の割りに良い年みたいだし、そういうのがいてもおかしくはないと思うけどさ、何も今言う事じゃないよな」

 

唯でさえ今の冬木は色々と危険な状態だ。魔術師という不確かな連中が跋扈し、サーヴァントと言う危険な存在を暗躍させている。そんな危険地帯な冬木でワザワザ婚儀を挙げようとする王に流石の修司もどうかと思った。

 

その当の本人は朝起きれば姿を消してるし、これではどう準備すれば良いのか検討も出来やしない。シドゥリもこの事には寝耳に水の様で、終始王を問い詰めていたが、彼の王は高笑いするだけでマトモに答えてはくれなかった。

 

ああいう時の王の無茶ぶりはヤバイ。本人は臣下を喜ばすサプライズのつもりだろうが、臣下達からすれば彼の月のかぐや姫の無茶ぶりにも匹敵すると謂われている。

 

頭を抱えて悩むシドゥリは兎に角何時でも動けるよう準備はしておくと言って、自宅マンションで電話越しにて各部署の部下達に命令を下している。

 

因みに慎二はそのお手伝いである。元々多方面に優れた才能を持つ慎二はそう言った面でも能力を発揮できるらしい。手際よく手伝ってくれる慎二にシドゥリさんが感謝していると、照れ臭そうに憎まれ口を叩く慎二が印象的だった。

 

「───まぁ、王様の相手がどんな人なのかは今は置いておこう。先ずは情報収集だな」

 

頭を振って意識を切り替える。王の婚儀を成功させる為にもこの聖杯戦争はさっさと終わらせる。残ったサーヴァントはアサシンを除いた六騎、セイバー、ライダー、アーチャー、バーサーカーのマスターの情報は出揃っている。

 

残るマスターが不明なのはキャスターだ。彼女を逃がした事は大きいが、魔力供給源を断たれて令呪による縛りを受けた今の彼女ではマスター以外に得られる魔力は殆ど無いだろう。とは言え、油断出来る相手では無いことは確かだが。

 

「後は………ランサーか。士郎が言うにはランサーは全身蒼で紅い槍を持っているって言ってたけど……」

 

思い返すのはコンテナ街でバーサーカーと戦う蒼い槍兵、その速さから移動する軌跡しか目で追えなかったが、今にして思えばあれがランサーだったのだろう。

 

果たして今の自分で勝てるのだろうか。今の自分なら或いは………なんて思い上がるには不確かな要素が多すぎる。

 

それとも、やはりライダーのいる間桐邸へ突撃するか? 膠着した状況を打破するには行動あるのみが基本だが、迂闊な事は出来ないのがこの聖杯戦争の恐ろしい所だ。

 

「───取り敢えず、士郎の所へ行ってみるか。アイツも色々動いているみたいだし」

 

そうと決まれば深山町へ向かおう。メールでジャンヌ宛に上記の旨を伝え、いざ衛宮邸へ向かおうとした時。

 

修司の目は見開かれる。眼前に佇む白を強調とした衣服に身を包んだ紫色の少女、修司が無意識に敵と認識しなかった聖杯戦争のマスターの一人。

 

ライダーのマスター……。

 

「桜………ちゃん?」

 

「白河先輩、少しお時間戴いても宜しいですか」

 

無機質で感情の籠らない瞳、その眼は修司を見ているようでまるで眼中になく、その伽藍堂な瞳は何処までも空虚で濁っていた。

 

 

 

 

 

 




Q.何故ボッチはセイバーをさん付けで呼ぶの?
A.年上だから


if修司のいるカルデアWithマイルーム。

ダ・ヴィンチちゃんの場合。

「修司君? うん、普通に好い人だよね。それは私も認めるとも、彼はとても得難い人材だ」

「ただ、ごくごく平然と技術革命が起きそうな代物を平然と作るのは止めてくれないかなーって思う。いや、カルデアの、引いては立香ちゃんの為に色々考えているのは分かるよ。うん」

「あれは天才と言うより奇才、或いは鬼才の分類にされるねー。天才である私とはある意味合わない人種だよー、嫌いか好きかは別にしてね」

「……あー、私も好き勝手に何か作ってみたいなー」


芥ヒナコの場合。

「ゲェーッ! な、何でアイツが此処にいるのよ!?」

「じょ、冗談じゃないわ。あんな怪物と同じ班だなんて絶対イヤ! 何としても他人の振りをするのよ、私!」

「ヒナコちゃん、どうしたのかしら? あそこの会長さんと何かあったのかしら?」

「うーん、なんだか私、気になっちゃう!」

※このifの時間系列はバラバラです。


ジャンヌ=ダルク(弓)の場合。

「夏バージョンの私、此処に見参! この格好の私は普段とは違い其処まで口煩く口を挟んだりしません!」

「さぁ修司君! 私達の新しい弟、共にこの夏を楽しみましょう!」

「………え? 何故弟かって? ふふーん。貴方と私は嘗て同じ肩を並べて共に戦った中、つまりマスターと同じ貴方も私の家族なのです!」

「さぁ! 修司君も私をお姉ちゃんと呼んで下さ───え? お姉ちゃん枠はシドゥリさんで間に合っている? そもそも姉と自称するには私では少々無理がある?」

「姉と僭称するなら、姉らしい振る舞いをして欲しい? 家事とか家事とか料理とか? ………う、うわーん! 修司君の意地悪ー!」

「………あの男、やるわね」

「私達にとっての救世主です!?」


次回、修司の意地。


それでは次回もまた見てボッチノシ


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