『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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英霊剣豪七番勝負。

一本目!

いざ、尋常に………!


その25

 

 

 

靄の掛かった脳裏に浮かぶのは幾つもの光景、古の空と海、人と城、そして───裏切り。

 

血に沈む男と燃える城、幾つもの歴史がチャンネルを変える如く切り替わる。それが自分以外の誰かの記憶で、生み出された幻影だとしてもそれを衛宮士郎に阻める力はない。

 

「──おはよう坊や、良く眠れたかしら」

 

気付けば、目の前にはフードを被る女性がその口に笑みを携えて佇んでいた。

 

「こ、ここは……俺は、一体」

 

「本当ならもう少し間を置くつもりだったのよ? セイバーだけでなくルーラーと一緒にいるものだから最初は私も躊躇したの………でも、貴方が剰りにも隙だらけだったから、つい魔が差しちゃったわ」

 

ご免なさいね。等と思ってもいない言葉を口にするキャスターに士郎は自身の迂闊さに歯を食い縛る。修司達と合流する前に少しでも身体を休めようと仮眠を取ったのが裏目に出てしまった。

 

体は───動かない。魔力の込められた糸が士郎の全身を這うように縛り付けている。指処か言葉を口にする事も困難、助けを求めるのは絶望的。しかしそれでも衛宮士郎には諦めという選択肢は無かった。

 

「あぁ、助けを期待している所申し訳ないけど、それは無理よ。山門には私が召喚したアサシンが門番しているから、喩えセイバーが合流してきても山門を突破するには時間が掛かるわよ?」

 

「───っ!」

 

足下から崩れ落ちる感覚、サーヴァントがサーヴァントを召喚すると言う埒外の反則。魔術に於いて素人な士郎でも理解した。自分には助かる可能性は欠片も残されていないのだと。

 

「どうやら、自分の置かれている状況を理解できたようね」

 

「……俺を、殺すのか?」

 

「フフフ、別にそれでも良いのだけどそれじゃあ少し可哀想だから、恩情として貴方の令呪を戴くだけにしておくわ」

 

「令呪を……だと?」

 

「えぇ、それともこう言った方が分かりやすいかしら? 貴方の相方である最優のサーヴァント、セイバーを私に頂戴な」

 

「っ!」

 

その笑みをより深めてそう口にするキャスターに士郎はそうはさせるかと令呪の刻まれた右手に力を込めるが、悲しいかな魔術の力によって封じられた士郎の体ではその程度の抵抗も許さなかった。

 

キャスターが指を動かす。それだけで士郎の身体は為す術なく支配される。魔術の糸により勝手に差し出される右手、キャスターはそれを優しく指を這わせるが───次の瞬間襲ってくる痛みはそんな生易しいものではなかった。

 

「が、ぐ、ああぁぁぁぁっ!!」

 

右手の神経が丸ごと抜き取られる様な感覚、自身の手から何か大事なモノが抜き取られようとしている。

 

「ダメだ。令呪を、キャスターに奪われるのは、それだけは……ダメだ!!」

 

それはセイバーへの裏切りを意味している。共に戦うと約束したのに、それを一方的に切るのはそれはセイバーに対する裏切りと同然、故に士郎は抵抗する。体が動かなくとも相手が魔術を使って令呪を奪おうとするのなら、此方も魔力を以て対抗するしかない。

 

「へぇ? 頑張るのね。セイバーに対する義理立てかしら? でもね坊や、私はそう言うの───反吐が出る程嫌いなのよ」

 

「がぁぁぁぁぁっ!!」

 

「いいわ、そんなに抵抗するのなら令呪を奪った後に殺してあげる。可能な限りゆっくりと……ね?」

 

キャスターの口許に今までとは違う嗜虐的な笑みが刻まれる。このままでは殺される。痛みによって薄くなる意識を必死に繋ぎ止め───。

 

「其処までです!」

 

「っ!?」

 

しかし、救いの手は現れた。振り抜かれたソレはキャスターを退かせ、その余波により士郎に纏わり付く魔力の編まれた糸を吹き飛ばしていく。

 

キャスターの縛りから解放され、息も絶え絶えになりながらも意識を飛ばさずに済み、大量の汗を流しながらも息を整えようとする。

 

ふと、視線を上げれば其処には金髪の女性サーヴァント、セイバーと顔の似た聖女がその旗を槍の様にキャスターへ突き立てていた。

 

「キャスター……いえ、コルキスの王女メディアよ。貴方の行っている魔力供給は無関係な人々を巻き込む非道なモノ、裁定者(ルーラー)である私、ジャンヌ=ダルクが命じます。今すぐ冬木の人々を解放しなさい!」

 

瞬間、聖女の背中から赤い光が浮かび上がる。羽根のようなソレが一際輝きを見せ、士郎はそれがサーヴァントに対する絶対命令権である令呪なのだと理解する。

 

そして放たれた令呪の力は間違いなくキャスターに作用される。【神明裁決】各サーヴァントに対し二画の令呪を持つ裁定者(ルーラー)であるジャンヌにのみ許されたクラス特権。

 

「ぐっ、ルーラーですって! アサシンは何をしていたの!?」

 

ルーラーからの令呪に耐えきれなくなったキャスターはその縛りを強制的に受け入れ、次の瞬間忌々しそうに門番であるアサシンに悪態を吐き捨てる。

 

しかし、キャスターの疑問は当然の事だった。この柳洞寺には特製の結界を山全体に覆っている。サーヴァントは山の側面から侵入を許さず、この寺に侵入できるのはアサシンのいる山門のみ。

 

だが、このルーラーはそのアサシンと戦った様子はない。セイバーも柳洞寺に訪れるにはまだ時間が掛かるだろうし───であれば可能性は一つしかないと、キャスターはその事に気付く。

 

「ルーラー、貴女まさかあの坊やにアサシンをぶつけたの? あの白河とかいう小坊主を」

 

「っ!?」

 

キャスターの言葉に強く反応したのは士郎だった。自分の友人がサーヴァントを相手にしている。無茶だ。最初に相対したあの青いランサーだってとんでもない実力者だった。アサシンがあのランサーと同格の英霊だと言うのなら、修司の命は間違いなく潰える事になる。

 

「ルーラー、本当なのか!?」

 

「…………」

 

士郎の責めるような問い掛けに返ってきたのは沈黙、しかしその沈黙はこれ以上ないほどに肯定であることを示していた。

 

「くっ、フフフ、アハハハハ! これは傑作だわ!嘗ては自国の為に立ち上がった貴女が今度は無関係な民を犠牲にする! 貴女のやっていることは私のしていたことと何一つ変わらないわよ!」

 

キャスターの嘲りは正しく正論だった。キャスターという巨悪を討つ為に修司という一人の人間を犠牲にする。小を殺して大を救う、しかし本来無関係である人間を捨て駒にするのはある意味キャスターより悪逆だと言えるだろう。

 

キャスターは白河修司という人間を少なからず知っている。ルーラーと行動を共にして聖杯戦争に偶然巻き込まれた一般人、その評価は普通の人間にしてはそこそこ力がある程度、魔術に特化した自分では何の障害にもならない………と、そのくらいの認識でしかなかった。

 

コンテナ街でのバーサーカーとの遭遇戦は、バーサーカーのマスターが生意気にも結界を張っていた所為か遠目の魔術では何も確認できなかったが、正直そんな事は些細な事だ。

 

何か幸運が働いたのか、彼が生きていたのは意外だったけど、その幸運が修司を生かしたのだと考えれば然程疑問には思わなかった。

 

修司という人間が特別な幸運に恵まれているのかは定かではないが、何れにしろ自分の敵ではない。そんな彼をあろうことかサーヴァントの足止めに使うなど馬鹿馬鹿しいにも程がある。

 

「───それは違いますよ。キャスター」

 

「………なんですって?」

 

しかし、ルーラーはそんなキャスターの嘲りを一蹴する。

 

「彼は、自ら私を送り出してくれました。そこに他者の介在は一切ありません。彼は、自分の意思で私の背中を押してくれたのです」

 

そして、と区切りジャンヌはその旗をもう一度キャスターへ突き付け───。

 

「彼は、白河修司という男の子は貴女が思うほど弱くはありません。剰り、彼を侮らない方が良いですよ?」

 

その不敵な笑みは修司という少年に対する信頼をこれでもかと現していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァッ!」

 

「フッ」

 

「セラァッ!」

 

「セッ、ハッ」

 

柳洞寺山門前にて突風が吹き抜ける。物干し竿と呼ばれる長刀の刃を前に距離を開けるのは愚策だと判断した修司は降り掛かる刃に対する恐怖を呑み込み、接近戦を選択する。

 

一歩でも退けばその瞬間自分は無惨に斬殺される。故に少しでも流れを掴もうと修司はその拳を奮うが、一向に当たる処か掠らせる気配がない。ノラリクラリと修司の拳は避けられ、その余波が突風となって吹き荒れるだけに終わる。

 

「いやはや、現代の人間というのも捨てたモノではないな。これ程までの武術の腕を持った者は私のいた時代にはいなかったぞ」

 

「はぁ、はぁ、クソ! 涼しい顔をしやがって」

 

「ハハハ、気に障ったのなら謝ろう。しかし其方にも原因はあるのだぞ? 何せ此方が幾ら冷や汗を流そうともお前の剛腕によって吹き飛ばされてしまう。いやはや、今の時期が夏で無いのが残念だ。夏期になればその剛腕も存分に活躍出来たモノを」

 

「扇風機扱いか……よっ!」

 

苦し紛れの回し蹴りも空しく空を切るだけだった。頭上には飛び上がるアサシン、両手には長刀である物干し竿が握られており、その剣先は修司に狙いを定めていた。

 

このままでは一刀両断される。コンマ数秒後の自身に寒気を覚えた修司は、本能に命じられるがままに後ろへ飛ぶ。

 

しかし、段差となっているその足場ではそれ以上の逃げ道は無かった。着地をして次の動きに転じようとしても、下の足場に辿り着く迄に後数瞬の間が必要になる。

 

対して先に着地したアサシンは既に次の行動へ動きをシフトしていた。

 

「隙だらけだぞ、小僧!」

 

振り抜かれる刃、回避は不可能だと察した修司は両腕を交差させて防御の姿勢に入り────次の瞬間、その鋭い痛みに悲鳴を上げそうになった。

 

肉が斬り落とされていく。筋肉を斬り、骨を断ち、命を両断させる必死の刃。だがこの時アサシンは自身の手応えに違和感を覚えた。まるで頑強な巨大金属に触れた様な感覚、その手応えから斬れたのは表面上の肉だけだと察したアサシンは不思議そうな顔立ちで階段の足場へと着地する。

 

対して修司は満足に受け身も取れないまま地上へ落下、痛みと衝撃に声すら上げられないが追撃を逃れる為に己の体に鞭を打ち、身体中から血を流しながらも立ち上がる。

 

出血の量に反して傷口は然程深くはない。まだ自分は戦えると再確認した修司は拳を構えてアサシンを睨む。

 

───対照的にアサシンは呆れ顔だった。

 

「全く、お主の身体は一体何で出来ているのだ? サーヴァントでもなく魔術師でもないお主が我が剣を肉体のみで阻むとは……些か頑丈に過ぎやしないか?」

 

(あ、危なかった。あの一瞬の間で師父から教わった呼吸法を実行していなかったら、あの瞬間に俺の身体はバラバラにされていた!)

 

修司が行ったのは身体の強度を一時的に増加させる言峰師父から教わった呼吸法、あの一瞬の合間で死を前にして咄嗟に出来た事に修司は日頃鍛練を欠かさなかった自分と教えてくれた師父に内心で深く感謝した。

 

しかし、これで戦況は振り出しに戻った。依然としてアサシンには傷一つ付いてはおらず、致命傷に至っていないとは言え此方は傷だらけだ。ダメージの差は一目瞭然、同時に二人の間にある実力差はそれ以上にハッキリとしていた。

 

アサシン───佐々木小次郎は純粋な腕力で言えば修司よりも劣っている。その膂力も、脚力も、力と速さも、その全てが上回っている。

 

が、それを凌駕して制するだけの“巧さ”がアサシンにはあった。幾ら此方が力を繰り出しても相手の技が全て無力化させる…………それは正しく柔よく剛を制すという格言の体現。地の利を活かし、己の術理を活かし、達観された眼で以て剛を制する。

 

この短い応酬で理解した。今の修司ではあの佐々木小次郎に勝てはしないという事を。

 

「ふむ、あちらも中々忙しそうだ。キャスターめ、流石のルーラー相手では少々分が悪いと見える。そう言う意味ではお主の見立ては正しかったと言うわけだな」

 

「…………」

 

「だが、それでは此方がやられたまま終わる。それは面白くない。────故に」

 

「っ!」

 

「此方も一つ、勝負と行こうか」

 

アサシンが構えた(・・・)。一見背中を無防備に晒しているように見えるその構えはまるで引き絞られた弓矢の如く修司に狙いが定められている。アサシンの得物でも距離があるというのに、修司は喉元に矢じりを突き付けられているような錯覚を覚えた。

 

「其処から一歩でも前に進み、拙者の間合いに踏み込めばお主は我が秘剣を目にするだろう。だが、退くと言うのなら止めはしない。逃げるのならば引き返し、二度とこの地に足を踏み入れるな」

 

それはこれ迄の煽るような挑発とは違う事実上の宣告だった。逃げるなら追わない、しかし踏み込めば避けられない死が修司を襲うだろう。

 

構えからして繰り出される斬撃はアサシンにとって必殺、そして佐々木小次郎が持つ必殺と言えば一つしか考えられない。

 

秘剣・燕返し。それが一体どんな斬撃なのかは修司には分からない。飛燕の如き俊敏性を以て切り刻まれるのか、渾身の力を込めた一刀で両断してくるのか、修司には判断がつかない。

 

確かなのはこのまま無策で突っ込めば修司に待っているのは死だけだと言うこと、踏み込めば死は免れない。かといってこのまま下がってしまえば修司は二度と立ち上がれない挫折を味わう気がした。

 

長い思考の中で選んだ選択、それは命を惜しむ者ならば当然の選択だった。

 

(退く……か、まぁそれも仕方ない。この血腥い戦いで彼処まで立っていられただけでも大したモノだ)

 

背中を見せ、階段を下りていく修司を見てアサシンはその構えを解く。そこに些かの落胆や失望の感情はない、ただ彼が抱くのはもう少し成長し、完成された修司と相対出来なかった己の不運に対する嘆きだけだった。

 

アレが成人を迎える頃にはきっと想像も及ばない拳士に育っていた事だろう。魔術師でもない人間では此処までが限界だ。

 

「さて、後はこれから来るセイバーを迎え撃つだけか、せめてこの嘆きを払拭してくれるだけの相手であれば良いの────」

 

“おい”

 

その言葉は、何処までも透き通っていた。目の前に声の主はいない。まさかと思い下へ視線を向ければ───。

 

「何勝手に構えを解いてんだよ……アサシン!」

 

其処には、獣の如く身を深くした修司がアサシンを睨み付けていた。

 

修司が選んだのは逃亡ではなく、かといって無闇に突っ込むことを選んだ訳でもない。全てはアサシン───佐々木小次郎に勝つために自身の最善を選んだだけなのだ。

 

クラウチングスタート。陸上競技において最もスタンダードな構えの一つ、両手を地に付けて片足を延ばし、力を溜める様はまるで発射体勢のロケット。

 

自分に勝つ為に最善を尽くそうとする修司を見て、佐々木小次郎は声を上げて笑い出す。

 

「フフ、フフハハハ、フハハハハハッ!! そうかそうか、そう来たか! 勝てぬと分かって逃げるのではなく、勝てぬと分かって突き進むのではなく、勝つ為に勝利を選んだ訳か! いやいや、何処までも楽しませてくれるなぁ───修司!!」

 

初めて小次郎は修司の名前を口にする。それは紛れもなく敵対者として認めた証、自分に勝つ為に死を選ぶのではなく、未熟の身でありながら尚前に進むという気概を見せた少年にアサシンはここが自分の死力を尽くす場なのだと確信した。

 

「来るがいい白河修司、貴様に我が秘剣を存分にお見せしよう!!」

 

再び刀を構えるアサシン、その眼は修司から一瞬たりと逸らさず、その口元は歓喜に歪んでいた。よもやこの戦で早々に宿敵に出会える喜びに剣豪佐々木小次郎は驚喜に打ち震えていた。

 

───静寂が再び周囲を包む。溜めるに溜め、それでも尚力を集束した力を一点に向けて爆発させる修司が脳裏に浮かぶのは今の自分の限界に付いて。

 

(足りない。今の俺では奴に、佐々木小次郎に勝つことは出来ない。それはどうしようもない事実、だから───)

 

“越えよう。まだ至らない自分とこれ迄の自分に打ち克ち、もっと先へ往こう”

 

(限界の限界を超えて────更に向こうへ!)

 

瞬間、階段を蹴り抜いた修司はこの時音を超越した。

 

(まだ、だ! まだまだぁっ!!)

 

足りない。これではまだアサシンには………あの剣士には届かない。

 

忘れるな、今己が挑もうとしているのは古くから伝わる伝説の剣豪の片割れ。驕るな、侮るな、この瞬間、この刹那に己の全てを懸けろ。

 

二歩、踏み出し修司の世界から色が消えていく。更に加速したその速さ、しかし目の前の剣豪だけは確かに捉えていて………。

 

「秘剣───燕返し

 

瞬間、修司が目にしたのは三方向からの同時斬撃。一息に三つ繰り出される刃はこの瞬間確実に修司を捉えた。

 

驚く暇なんてない、最早この身が止まることはない。振り抜かれたアサシンの斬撃は確かに修司の肉体に届きつつあった。

 

避けられない、どんなに速さを重ねても既に修司の未来は決まっている。瞬きにも勝る刹那の後に訪れる結末、それが修司に課せられた運命。

 

(足りないなら、振り絞れ! 未来が俺を殺しに来るのなら───)

 

(未来すら置き去りにしろ!!)

 

アサシンの必殺、燕返しの刃が修司の首、胴、腰にそれぞれめり込み───。

 

「届けぇぇぇぇっ!!!」

 

三歩目の踏み込み、振り抜かれた拳は音を越えて───この刹那、光へと至った。

 

振り抜かれた拳はアサシンの鳩尾に深々と突き刺さり、貫かれた衝撃はアサシンの背中の衣服を突き破り、背後の山門すら吹き飛ばし、更にその先にある柳洞寺の本堂すら粉砕する。

 

「な、なに!? きゃぁぁっ!!?」

 

「い、今のは!?」

 

「まさか、修司君!?」

 

その時、遠くから女性の悲鳴が聞こえた気がしたが………それに意識を向けるほどの余力など修司には残されていなかった。

 

身に纏っていた山吹色の胴着はその上半身部分が吹き飛び、鍛え抜かれた肉体が露になる……が、先にも述べた様にそれを気にする余裕など修司には無かった。

 

「はぁっ、はぁっ、はぁ───」

 

「く、フフ………見事だ」

 

血を口から垂れ流し、それでも雅さを失わない流麗の剣豪。その言葉を耳にして漸く修司は己の勝利を実感した。

 

「───本当は、こんな勝ち方なんてしたくはなかった」

 

本来の立ち合いの勝負でなら終始アサシンが圧倒していた。修司はその技の差を埋めようとアサシンを自らの土俵に引き込んだに過ぎない。

 

しかし、それすらも目の前の侍は笑って受け入れて……。

 

「フッ、何を言うかと思えば……過ぎた謙遜は嫌みになるぞ? 我等がしているのは所詮血腥い殺し合い、其処に作法を求める方がどうかしている。お主は全力で自身の出来ることを成し遂げた。であるならば………胸を張れ」

 

そう言って、剣豪佐々木小次郎は己の敗北を認め修司に道を譲るように脇に逸れて───。

 

「さぁ、往くがいい。お主にはその資格がある」

 

英霊佐々木小次郎に認められ、先を進むことを許される。殺し合いをした筈なのに修司には蟠りは無く、剣豪である彼に僅かな尊敬の感情すら芽生え始めていた。

 

───恐らく、彼はこの後脱落するのだろう。それだけの手応えはあった。喩え相手が既に死した英霊であっても自分と死力を尽くした相手である事に変わりはない。

 

故に最期の礼儀として、修司はアサシンに頭を下げて先へ往く。その後ろ姿を佐々木小次郎は満足そうに見送り───。

 

「フフ、よもや早々に胸踊る戦いが出来ようとは、キャスターの女狐には感謝しなければな」

 

満足そうに目を瞑り───。

 

 

 

 

 

『満足した様で何より、ならば其処から先の命はワシが有効活用するとしよう………』

 

ギチギチと悪意の鰓が鳴った気がした。

 

 

 

 




Q.結局このルートはUBWなの?HFなの?

A.ボッチでグランゾンで、極意なルートになる……予定です。



if修司のいるカルデアWithマイルーム。

アサシン(佐々木小次郎)の場合。

「ふむ、何故かお主を見ているとなんかこう……ムズムズするよな。何なんだろうな、この気持ち」

「例えるなら……そう、成長した知り合いの弟子を目の当たりにしたような、そんな気持ちだ」

「む? 花見をしながら一杯どうか? 色々私の話が聞きたい? 物知りな男よな、お主は」

「だが……ふむ、悪い気はしないな。ならば、一献付き合わせて貰おうか。たまには男二人で酒を飲むのも悪くはない」

メルトリリスの場合。

「ちょっと貴方、少し馴れ馴れしいのではなくて? 幾ら例のセラフィックスとやらで私を知っているとは言え、あの私と今の私は別なの。気安く声を掛けるのは止めて頂戴」

「それとも何? 貴方にはその程度の学習能力すら無いわけ? 気色悪い、出直して。全く、マスターもマスターよ、こんな奴と仲良くしろとか、一体どんな神経してるんだか」

「はぁ? 私が知らなくても俺が知っている? 喩え私があのメルトリリスとは別人でも、それでも俺の気持ちは変わらない?」

「な、何よ。私に愛の告白でもするつも───あ? 今度は絶対に守り抜く? 君が誰かを心の底から好きになれるよう守り続ける?」

「────死ね! このウルトラバカ!!」




「おい、修司さんがまた涙で池作ってるんだけど」

「誰かー、医務室につれてってあげてー」



それでは次回もまた見てボッチノシ


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