『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今回は夏休み編の為ほのぼの回となっております。




その14

 

 

*月※日

 

 一学期も終わり、IS学園も夏休みに突入して早一週間、自分は今日も用務員として仕事をこなしていた。

 

高校生活の最初の長期休暇。基本的に学園の生徒は寮で生活する事になっているが、 寮に外出届けを出せば実家に帰省する事も許可している為、夏休み中……特に一年生は実家に戻り、一学期の報告をしたりして帰省しているようだ。

 

その為毎年一年生の寮は人気が少なく、一年の寮はガランとしているのだが、今回は一夏君が入学した為に割と多くの女子が残っている。

 

夏休みという事で浮かれている生徒達、それに比例して教職員の先生達は次の学期に向けて色々準備をしなくてはならないから、殆ど休む暇の無い生活を送っているらしく、山田先生がよく自分に愚痴をこぼしていた。

 

自分も炎天下の中麦わら帽子一つで仕事をしているので仕事の大変さというモノはある程度理解出来る。お互い、頑張っていこうと思う。

 

……そういえば、何不自由なく仕事をしていられるのって、何気にこれが初めてなんじゃないか? 今更だけど。

 

 

 

*月α日

 

 今日、箒ちゃんから相談を受けた。何でも篠ノ之博士から紅椿を押し付けられたのだけれど、どう対処すればいいか分からない。だそうだ。

 

どうやら先の臨海学校で外の試験運用組の所に篠ノ之束博士が来たらしく、妹である箒ちゃんに誕生日プレゼントとして専用のISを渡してきたらしいのだ。

 

まぁ、自分はあの時の現場にいた訳だから箒ちゃんが専用機を持っていた事は知っていたが……まさか束博士が直接組み上げたモノだったとは思ってなかった。

 

いや、箒ちゃんの立場を考えれば分からなくもないか。希代の天災と謳われる篠ノ之博士の妹、彼女を手中に収めればそれは博士自身を手中に収めるのも同意。

 

良からぬ輩から身を守る為、博士自ら機体を造り上げたと考えれば、そんな不思議な話じゃない。専用機を持てば代表候補生になれる可能性だって出て来る。そうすれば国に保護される立場となって他国の連中からおいそれと狙われる心配はなくなる筈だ。

 

当然、危険がゼロとは言えない。裏でコソコソと狙っている連中がいるのはどこの世界だって同じだし、だからこそ博士は最強の戦乙女の目が届くこの学園に彼女を入学させ、そして卒業する間での合間紅椿を使いこなさせようとしている。そう考えれば色々辻褄が合う。

 

箒ちゃんの誕生日に合わせてプレゼント形式で渡して来たのも、博士なりの償いなのかもしれない。ISという代物を作り、その所為で家族をバラバラにしてしまった事への……せめてもの償いとして。

 

うわぁ、そう考えると切ないなぁ。世界の為にISを作ってみたらその所為で世界はしっちゃかめっちゃかになり、家族はバラバラ、自分の居場所さえ失ってしまうとか。

 

確かに博士は天才なんだろうけど……理想が高すぎたんだろうなぁ。織斑先生の話だと、束博士は織斑先生位の人でISも高校の頃……いや、下手したらもっと前か? その位前に完成させて世界に発表したんだとか。

 

まだ過去の記事を全て調べた訳じゃないから何とも言えないけど、博士は多分色々先走っちゃったんだろうなぁ。そして今はそのツケを支払う為に一人奔走して色々画策しているっと……。

 

前々から思ってたけど、もしかして博士って不器用な人? 天才故に責任感も強く、世界を変えてしまった事に対する償いもしたりして……うわぁ、なんか自分の中の博士像がトレーズさん以上にめんどくさい感じになってくぞぉ。

 

 兎も角、箒ちゃんには彼女の意見も取り入れ、夏休み中は訓練機を使用してIS操縦に慣れ、自信が付いてから紅椿に乗ってみるよう説得しておいた。

 

望むと望まざるとにかかわらず、手にしてしまった以上はそれは彼女の力だ。箒さんは自分の実力で勝ち取ったモノではない事に不満を感じていたが、だったらその不満が無くなるまで自分を磨けば良いだけのこと。

 

幸い夏休み中でも申請を出せばアリーナの使用は出来るし、付き添いの人の監視の下でなら練習試合だって可能だ。しかも今年は専用機持ちが五人もいる。誰かに頼んで特訓につき合って貰うのもいいかもしれない。

 

その時は自分も出来る範囲だけ手伝うと言って、その場はそれで終わった。箒ちゃんもこれから自分がどうするべきか気付いた様子で、最後辺りは納得した様子で頷いていた。

 

 さて、早速明日から実践してみよう。日記を書く前に何人か専用機持ちの子に協力を要請して殆どの子が快く返事をしてくれたから、いきなり濃い特訓になるだろう。

 

簪ちゃんにラウラちゃん、一夏君に鈴音ちゃん、そしてシャルロットちゃん。唯一セシリアちゃんからは断られたが……一旦祖国に帰らなければならないらしいのでこれは仕方ない。寧ろ、参加出来なくて申し訳ないと謝られてしまった。

 

気を使わせてしまったし、今度何かしらの形でお礼した方がいいかもしれない。勿論その時は一夏君達を交えての全員に。

 

 ともあれ、織斑先生にも許可を貰えた事だし、明日からが楽しみである。

 

 

 

*月β日

 

 今日は概ね良かったと思う。一夏君を含めた五人の専用機持ちとの特訓は箒ちゃんに対して良い影響を与え、打鉄という訓練機でありながら専用機持ち……国家代表候補生に食いつけるのは素直に見事と言いたい。

 

ただ、最初の方は一夏君と微妙に距離を開けていた事が気になった。まぁ、恐らく彼女が気にしているのは先の臨海学校での出来事だろう。いきなり第四世代型のISに乗せられて機体性能に振り回され、その結果一夏君の足を引っ張ってしまい、一夏君に重傷を負わせてしまった。箒ちゃんが一夏君に対して負い目を感じているのは大体そんな所だろう。

 

先の臨海学校の最終日の夜にその辺りは解消したと聞いたけど、そう簡単に割り切れる訳もないか。人一人を死なせかけておいて回復したからチャラと簡単に片づけたら、それは人としてどうかと自分でも思うもの。

 

多分、一夏君と剣を合わせる度一夏君が傷を負った光景を思い出しているんだろう。顔も青かったし、彼と打ち合う時だけ凄まじく動きが悪かったもの。

 

それ以外の子とは普通にやり合えてたんだけどなぁ。鈴音ちゃんの衝撃砲だって発射タイミングを見切ってたし、シャルロットちゃんの弾幕も弾道を予測して回避していたし、ラウラちゃんの停止結界にも間合いを読んで掴ませなかった。

 

恐らくはあと一歩なんだろうなぁ。アレさえ克服すれば箒ちゃんは紅椿への抵抗感も無くなるし、より一層強くなれる。

 

簪ちゃんは切っ掛け一つで大きく変わると言ってたし、実際その通りなんだろう。その切っ掛けを掴むのが頗る大変そうだが……なに、夏休みはまだある。慌てずに着実に進んでいこう。

 

 ────ところで話は変わるのだが、シャルロットちゃんのラファール・リヴァイヴが装備している楯殺し(シールド・ピアース)だっけ? あれ、いいよね。

 

特に個人的には撃ち出す際に使われるリボルバー炸裂式、あの辺りに是非自分も手を加えたいと思ったが……流石に余所様のISに手を加えるのは拙いよね。最近、こんな妄想ばかり広がって落ち着かない自分がいる。

 

いっそのことISの技術資格でも取ってみようかな? フリーの改造屋として働くのも面白いかもしれない。

 

まぁ、普通にダメだろうけどね。

 

 

 

 




Q主人公の中の篠ノ之束博士はどんな人?

Aロマンに溢れているけれど、ちょっとめんどくさく、けれど頑張っている人。

果たして主人公の幻想は“そげぶ”されるのだろうか!?

次回も日常回となります。

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