『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今回こそは地味回(確信


その7

 

(な、なななな、何なんだよこのステータスの上昇具合はぁぁぁぁっ!?)

 

夜。夕餉を終え、冒険者達が各々のファミリアに戻って1日を疲れを癒す時間帯。寂れた教会の地下の共同部屋にて女神ヘスティアの言葉にならない悲鳴が駆け巡った。

 

自身の唯一の眷族であるベル=クラネル、彼のステータスの更新を行おうとその背中に跨がり、神の血を一滴垂れ流し、冒険者の力の源であるステータスを閲覧した時、それは起きた。

 

(上昇値トータル2000オーバー!? 其々の値が軒並みAを超えてる! 敏捷に至っては………なんだよSSって!?)

 

冒険者のステータスは力、耐久、器用、敏捷、魔力、幸運を基本に個人の成長具合によって変化している。ステータスの伸び代も然り、冒険者はダンジョンにてモンスターと戦いそれを経験値の糧にする事で成長し、その強さを増していく。

 

ベル=クラネルはレアスキル憧憬一途(リアレス・フレーゼ)によって通常より成長を促進させているが、それにしたって今回は異常が過ぎる。昨日までAだった敏捷が、限界値であるSを超えてSSに至っているなんて、ヘスティアにとって何かの冗談にしか思えなかった。

 

そもそもな話、今日ベルはダンジョンに潜っていない。ある人物に誘いを受けて今日は1日彼に付き合っていたから、こんなに伸びるのは有り得ない筈だ。

 

(ていうかこれ、そのままベル君に伝えても良いのか!?)

 

余りにも上がりすぎるステータスにヘスティアは己の眷族にそのまま伝えるか悩む。この事が他の神々に知られれば絶対厄介事に巻き込まれるのは間違いない。娯楽の為にはあらゆる手段を選ぶことも辞さない暇を持て余した神々だ。何をしてでもベルを手に入れようと画策してくるだろう。

 

(仕方ない、心苦しいがベル君には騙されてもらおう)

 

ベルの背中に記された超級のステータス、それを暫く眺めながら考え込むヘスティアは苦渋の決断を下すことにした。

 

ステータス値、オール300オーバー。口頭でそう伝えられたベルは自身の女神の言葉に疑いもせず、やったー!と全身を使って喜びを顕にしていた。そんな彼に一抹の罪悪感を覚えたヘスティアはどうしてここまでステータスを上げれたのか、心当たりは無いかとベルに問い掛けた。

 

「え? ここまでステータスを上げられた心当たり……ですか? うーん、やっぱりシュウジさんとの特訓ですかね?」

 

「し、シュウジ君との特訓?」

 

「はい! シュウジさん、凄かったんですよ! 冒険者でもないのにモノ凄く強くて! 僕の攻撃全部避けちゃうんですよ! ヒラリヒラリってまるで蝶の様に舞って、でも繰り出す拳一つ一つが凄く重いんです」

 

「へ、へぇ~」

 

「何度も意識が飛びそうになったけど、その都度負けるもんかって気持ちになれて………何て言うんだろう。シュウジさん相手にドンドン自分が変わっていく様な、強くなっていく様な、そんな感覚に染まっていくというか!」

 

瞳をキラキラさせて今日一日行われたシュウジとの特訓を語るベルに、ヘスティアはただ相槌を打っていた。

 

「そ、それじゃあベル君は明日も彼の所で特訓していくつもりかい?」

 

「はい! あ、でもシュウジさんが言うにはやっぱり実践に勝る経験はないからダンジョン攻略も頑張るようにって言われましたから、明日は午後からの特訓になるみたいです」

 

「ご、午後からって、君いつもクタクタになってダンジョンから帰ってくるじゃないか! 大丈夫なのかい?」

 

「はい。何でもシュウジさん曰く、“実戦はいつも不測の事態の連続、万全の状態で困難に立ち向かえる方が稀なのだから、出し切った力を更に引き出せる努力をしなさい”だそうです」

 

「な、何というスパルタ……」

 

シュウジの容赦ない特訓内容にヘスティアの頬が引き攣る。ダンジョンに不測の事態は付き物、故に逆境に陥った際に自分やパーティー仲間を守る為に時には限界を超えるのも必要。

 

《冒険者は冒険してはならない》迷宮都市にてこの様な言葉が出てくる程にダンジョンは過酷だが、その災厄がいつベルに降り注ぐか分からない。シュウジのベルに施している特訓はそんな事態に備えての底力を鍛える事にあるのだとヘスティアは悟った。

 

シュウジのやっている事は確かに厳しい、だがそれらは全てベルの事を思いやっての事だし、それがどれだけ有難い事なのか理解できるから、ヘスティアも彼を悪く言うことは出来なかった。

 

しかし。

 

(で、でもだからってこの伸び代は異常に過ぎるよ! シュウジ君、なんか危ない薬とか危険な施術をベル君に施しているんじゃないだろうなぁ!?)

 

『ん~? 強化のツボはここかなぁ~?』

 

『あ、あ、うがぁぁぁぁっ!?!?』

 

『おやぁ? これは失敗だったかなぁ~?』

 

ヘスティアの脳内で行われるベルとシュウジのやり取り、特訓を称しての肉体改造(物理)を想像した女神の顔が真っ青に変わっていく。そんな筈はないとシュウジにある意味で信用しているヘスティアは失礼な事を考えたとその考えを振り払うように頭を横に振った。

 

「ね、ねぇベル君、一つ聞かせて欲しいのだけれど、君って彼と特訓する際、何か変わった事があったりしない?」

 

「え? いえ、特にそんな事は……強いて言えば特訓が終わった後に飲まされるポーション位でしょうか? シュウジさん曰く特製のポーションなんだとか。今度ミアハ様の所で正式に出されるみたいですよ?」

 

「ミアハの? なんでまた」

 

「さぁ、何でも普通のポーションじゃあありきたりだから、ちょっと工夫を凝らしたポーションで客引きをしようっていうシュウジさんの提案らしいですよ?」

 

「彼、色んな事に挑戦し過ぎじゃない? ……… 因みにそのポーションってどういうの?」

 

「なんかシュワシュワしてました。凄く美味しかったです」

 

「あぁそう」

 

満足気に語る眷族にヘスティアはただ項垂れ、そして思った。

 

(彼に関して、今は考えるのは止めておこう)

 

何だか考えれば考えるほどドツボに嵌まっていく気がする。

 

そしてそれから数日後、ミノタウロスに再び遭遇したベル=クラネルは見事これを打ち破り、遂にLv2へ至るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「最近、ソーマの様子がおかしい?」

 

「あぁ」

 

迷宮都市最大派閥(ファミリア)の一角、ロキ・ファミリアの庭園にて、主神たるロキと他派閥の主神であるディオニュソス。二柱による極彩色のモンスターと魔石に関する話し合いを終えた二人の関心はディオニュソスのそう言えばという言葉から始まったソーマへと移っていた。

 

「この前彼と会ったんだ。本拠地(ホーム)に引き篭もりがちだった彼が眷族を連れて外に出ていたのが目についてね、調子を訊ねる序でに聞いてみたのさ。酒を作るのに夢中だった君がどうしたんだいって」

 

「ほんで?」

 

「なんか、凄い曇った顔をしていたよ。笑顔の癖に目が死んでいて、何か怖かった」

 

「なんやそれ? アイツの目が死んでるのはいつものことやないか」

 

何を今更と、鼻で嗤いながら眷族から出された紅茶を飲み干すロキ、確かにソーマが本拠地から出てくるのは珍しいが、それだけであって別に面白くも何ともなかった。

 

「彼の様子に気になったから眷族の子に訊ねてみたんだけどね、どうも彼最近とんでもない挫折を味わったらしいんだって」

 

「は? 挫折?」

 

ソーマは迷宮都市(オラリオ)の中では知らない者はいない酒の作り手、眷族に関心を示さず、ただ黙々と酒を作り続ける男。そんな男神が挫折を味わった。その事に興味を抱いたロキはディオニュソスに続きを話すように促した。

 

「何でも、彼の酒の完成品………それもこれまでとは比べ物にならない純度の作品が出来たと知って、彼等の団長がある仮面の男にそれをプレゼントしたんだって」

 

「仮面の男やと?」

 

「あぁ、それでその酒をソーマが作った完成品の酒だと知らずに飲んだその男は、翌日団長にこう言ったらしいよ“普通に美味かった”って」

 

「………は?」

 

ディオニュソスの困惑した顔から告げられるその言葉に、普段細目をしたロキの目が大きく見開かされる。

 

ソーマの酒は神々にとって最高の品だが、眷族(子供)達にとって猛毒でしかない。ガレスの様な種族的にも酒に強く、尚且つレベルの高い冒険者なら楽しんで飲めるかもしれないが、その完成品ともなれば話は別だ。

 

市場にたまに出回る失敗作とは違う、ソーマの完成品。その味は神々すら魅了し、もし市場に出回れば凄まじい値が付くソーマの神酒。それを欲する為にあの男神の眷族達は血眼になって金を集めているのだ。酒のみで築かれた派閥、それがソーマ=ファミリアだから。

 

そんな完成品を呑んでおいて普通に美味しいと語るその仮面の男にロキは興味を通り越して戦慄した。神の舌をも魅了するソーマの神酒を呑んでおいて、普通で済ませるその男の異常性にロキは言いし難い不気味を覚えた。

 

それに何より。

 

「なぁ、ディオニュソス。その仮面の男ってもしかして蒼のカリスマって言わへんかった?」

 

「ん? あぁ、そう言えばそんな名前だったような……ロキ、その仮面の男に付いて何か知ってるのかい?」

 

「まぁ、な」

 

ここ最近耳にするようになった仮面の男にロキは頬杖を付いて思考を巡らせる。50階層で極彩色のモンスターと共に遭遇した謎の男、その素性も目的も何もかもが不明の存在。

 

18階層のリヴィラ()でアイズを助けた事や、レヴィスを名乗る闇派閥の協力者と迷宮都市の崩壊という計画を教えてくれた情報提供者。これまで様々な面で助けてくれた仮面の男だが、そろそろロキにとって無視できない存在になりつつあった。

 

(もし、見掛ける事があったら声をかけてみようか)

 

余りにも読めないその行動、何を以て動き、何を目的としてこのオラリオにいるのか。浮かび上がる疑問、それらを解消するために取り敢えずロキはこの件を保留にする事にした。

 

「あ、そうそう。そのソーマなんだけど、最近酒作りは止めて化粧品を作ることに専念する事にしたんだって」

 

「は? 化粧?」

 

「なんでもその蒼のカリスマからの提案らしくてね。美味いお酒を作れるのだから、美容に良い石鹸も作れるんじゃないかって、ソーマの奴最近それに嵌まったらしくてさ、作った酒を使って更に化粧品を作ってるみたいだよ」

 

これが試作品ね。そう言っておかれた化粧水の入った小瓶と石鹸、それを手にしたロキはマジマジとそれを見つめ。

 

「因みに、女性が使えば体の一部が成長するらしいよ。例えば胸───」

 

「もろたで」

 

音速の速さでそれを懐にしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Δ月×日

 

ベル君の特訓の帰りになんか知らない連中に襲われた。理由を訊ねても何も言わないし、一方的に武力を行使してきやがった。折角いい気分の所を邪魔されたから、そいつらはワームホールで適当に跳ばし、連中の主神には鼻フックしておいた。

 

割りと力を入れたから当分は元に戻らないだろう。美の女神だがなんだか知らないが、喧嘩を吹っ掛けておいて只で済むと思うなよってんだ。

 

一応初犯で、いい気分の帰りだからこの程度で済ませてやるが、次同じ事したら今度こそ消してやる。

 

 

 

────でも、何より一番腹が立ったはベル君に対してあの女神と似たような事を考えた自分自身なのだと、数日後俺は思い知る事になる。

 

 




今回のボッチは優しい(確信

この程度で済んだのは襲ってきたのが眷族なのと、主神が神の力を使わなかった事、もし某喜び野郎の如く権能マシマシで来てたら、眷族諸とも速攻シンカ融合からの縮退不可避でした(笑)

それでは次回もまた見てボッチノシ

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