『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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今回、序盤でボッチの強さを示唆する内容がありますが、軽くスルーして下さると嬉しいです。

じゃないと、ほら、色々と………ね。


その11

 

 

 

 

────夢を、見た。私がまだ小さかった頃、薄暗い玉座に縛り付ける様に座する………私にとって最も痛くて辛い記憶。

 

助けてと叫んでも誰も来てはくれなかった。泣いても、叫んでも、聞こえてくるのは私を此処に縛り付けた女の人の怖い声。

 

怖くて怖くて、けれど誰も助けてはくれない。ママもその手を伸ばしてはくれなかった。───そんな時だ。目の前に突然光が溢れ出して、あの人が現れたのは。

 

仮面を被り、白と蒼を身に纏うその人は辺りをキョロキョロと見渡すと溜め息を吐いて私を見据える。

 

『まさか時空振動に巻き込まれるとは、これも因果応報という奴か。流石にあの形態のまま通常空間でハシャグのは不味かったか。……やれやれ、これじゃあZEROさんやゲッペラーさん達の事を強く言えないな』

 

『突然現れたかと思ったら、何ですかね貴方は?』

 

『む? いや、失礼した。私は見ての通りただの通りすがりでね、邪魔をしたのなら謝罪しよう。声だけのお嬢さん』

 

唐突に現れて自らを通りすがりと称する仮面の人、その声には微塵の緊張感は無く、それは正しく自分の置かれた状況を理解してはいなかった。

 

『全く、計画の最終段階でゴミ掃除しなくてはならないなんて災難だわ~。………そうだわ。ねぇ陛下ぁ~? 折角の力を引き出す前に先ずは準備運動から始めましょうかぁ? 対象はぁ、目の前の仮面の変態さん。遠慮無しにぶち殺しましょう~!』

 

『待って、仮面被ってる=変態という認識は流石に横暴ではないかな? 出来るなら訂正を求めたいのだけど?』

 

『これから死ぬ人の戯れ事なんて知りマセーン。さぁ陛下、目の前のゴミを片付けて早く私たちの目的を叶えちゃいましょう? ち・な・み・に、拒否権はありませーん』

 

『いやぁ、イヤァァァッ!!』

 

力が流れ込んでくる。私の内側に仕込まれた核に向かって力という名の濁流が押し寄せてくる。自分が自分で無くなり、ヴィヴィオという存在が消えていく。黒い衝動に心が塗り潰そうになり、恐怖で自我が消滅しようとしている。

 

『助け、助けて……ママァ』

 

誰も助けに来てはくれない。ママも、ママの友達も、誰も私を助けに来てはくれない。力に呑まれ、私という全てが消えていく────。

 

力が膨れ上がり、其処に立つのはヴィヴィオではないヴィヴィオ。嘗ての古代ベルカの時代に聖王として君臨した一人の王が玉座に佇んでいた。

 

『ふむ、状況は相変わらずさっぱり分からないが、どうやら複雑な事情が絡んでいる様だ。少しばかり手を出すことは憚れるが………さて、どうするか』

 

『うふふ、さぁ陛下。その力で全ての人間に思い知らせましょう? 聖王の力を、ゆりかごの力を、遍く全てに貴女の力を知らしめるの!』

 

『うん。やっぱり決めた。そこの君、少々手荒になるかもしれないが、我慢出来るかい?』

 

玉座の間に溢れんばかりの魔力が突風となって吹き荒ぶ。並みの人間ならば相対するだけで体が恐怖で竦む圧倒的力を前に仮面の人は臆す事なく言い切った。

 

勝つ気処か自分を助けるつもりでいる仮面の人、何で? どうして? 見ず知らずで、今が初対面である自分にどうしてそこまで手を伸ばそうとするのか、言葉には出来ない。ただ視線でそう訴える私に仮面の人はフッと笑みを溢した………そんな気がした。

 

『子供が、それも小さな女の子が涙を流して助けを求めているんだ。大人として見過ごす訳にはいかないだろ?』

 

『あっははは! バカじゃないの!? デバイスも持たず、このAMFで満ちた空間で魔力も禄に使えないアンタに何が出来るの!? 』

 

『男が窮地を脱するのに余計な小細工は無用だ。まぁあるにはあるが、それをここで出すには些か野暮ってものだ。───じゃあ、行くよお嬢ちゃん、君を必ずお母さんの所へ連れていく。何故ならば』

 

“───私が、此処にいる”

 

優しい声の人だった。いつか、この人に会えたらその時は絶対お礼を言おう。助けてくれてありがとうと、貴方のお陰で私は今日も元気でいます。

 

涙と痛みでサヨナラする筈だった私の命を繋いでくれてありがとう。嘗て呑み込まれた力の濁流、その暗い闇の嵐を切り裂いたのは、強くて大きい拳の一撃だった。

 

次に私が目を覚ましたのはなのはママの腕の中だった。泣きながら私の無事を喜んでくれるママ、そんなママに私もつられて泣いちゃって、助けに来ていたスバルさん達は慌てていた。

 

無事にゆりかごから脱出出来た私達。その後病院で何度か検査したけれど体の方は何ともなく、埋め込まれたレリックも綺麗さっぱり消滅しちゃったみたい。これもあの人の力によるものなのだろうか。

 

いつか、何処かで会えたりしないかな。そう願いながらも、私高町ヴィヴィオの1日は今日も始まるのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───ウィンターカップ開催日。その当日に訪れた俺は現在選手達がいる控え室に向かっている。店を早く閉めたのは少々心が痛むが、フーカちゃんの応援の為だと思えば大した事はない。

 

既に選手会長であるヴィクターちゃんによる開会式は終わっており、もうすぐ第一試合が始まる。即ちフーカちゃんデビュー戦。試合直前の前に些か不謹慎かと思われるが、彼女には一言言っておきたい事があった。

 

選手控え室の扉を開き、中に入る。そこには既に準備万端のフーカちゃんが軽いシャドーで体を慣らしていた所だった。

 

「し、シュウジさん、来てくれたんですか!?」

 

「試合直前に少し不謹慎かと思ったけどね。どうしても一言言いたくて……ナカジマ会長、良いですかね?」

 

「構いませんよ。何なら出ています? 時間が来れば教えますけど……」

 

「いえ、流石にそこまでしていただく必要は無いですよ。直ぐに終わりますので………」

 

コホンと咳払いをして場を整える。仮にも自分の指導も受けているから自分とフーカちゃんの間柄は師弟関係みたいな感じになっている。そんな自分から聞かせられる言葉に緊張しているのか、先程から彼女は直立不動のままだ。

 

「まずは、君に謝らせて欲しい。俺の余計なお節介の所為で要らぬ重荷を背負わせた事、済まないと思っている」

 

「………あっ」

 

「今更気にするなと都合の良いことを口にする気はない。リンネちゃんの前で啖呵を切った以上、その重荷は必然的に君にまで背負わせる事になってしまった。本当に申し訳ないと思う」

 

「そんな、そんな事は……!」

 

フーカちゃんに向けて俺は頭を下げた。リンネちゃんと戦わせる為とは言え、………いや、どんなに言い訳をした所でフーカちゃんに要らぬ重荷を背負わせた事実には変わらない。彼女の事だからどんなに言葉で気にするなと言い含めても心の何処かで痼になって残る。自分の所為でと自責の念に囚われてしまうだろう。それほどまでにフーカという少女は正直で優しい女の子なのだ。

 

「だから、気にするなとは言わない。だけど忘れないで欲しい。今君が此処に立っているのは他ならぬ自分自身の意思だと言うことを」

 

「………シュウジさん。ワシは此処に来るまで多くの人達に支えて貰いました。ハル先輩やヴィヴィオ先輩達、ナカジマ会長。他にもミカヤさんやハリー選手、本当に沢山の人に支えて来られました」

 

「……………」

 

「だから思うんです。皆に鍛えられた今のワシの力を皆の目に見せてやりたい。それが皆さんに返せる最大の恩返しなんだと、今のワシの思いはそればっかりです」

 

真っ直ぐ自分を見詰めて言い切るフーカちゃん。その目には暗い色は微塵もなく、正しく絶好調の様子だった。

 

「………参ったな。どうやら俺の心配は完全に余計だったみたいだ。なら、俺から言えることは一つだけだ。全力で、全開で、ハートの全部でぶつかって────楽しんでこい」

 

「オスッ!!!」

 

自分の心配は完全に余計なモノだった。元気よく返事をして控え室を後にするフーカちゃんに俺は激励を一つ口にするだけで精一杯だった。弟子を取ると師も成長すると言うのは本当らしい。ガモンさんもこんな心境だったりするのだろうか。

 

「大丈夫ですよ。フーカさんならきっと勝てます」

 

「ミウラちゃん……」

 

「だってフーカさん凄く頑張ってましたもん。それはシュウジさんだって良く知ってる筈ですよ」

 

「あぁ、そうだな。信じて待つのも師匠の務め、か。………ごめんねミウラちゃん。君も試合が控えているのに情けない所を見せちゃって」

 

「そうですよー。ヴィヴィオさんやアインハルトさんが席を外してて良かったですね。私じゃなかったらきっとガッカリされてましたよ?」

 

「うぐ、本当に申し訳ない」

 

どうやら自分はヴィヴィオちゃん達にとって一種の憧れの存在らしい。こんなポッと出のなんちゃって元格闘技選手に随分な入れ込み様である。

 

しかしミウラちゃんの様子は大丈夫なのだろうか。彼女が今回の大会で最初に戦うのはあのリンネちゃんだ。ミウラちゃんの素質は決してリンネちゃんにも引けを取らないが、不安要素が無いと言えば嘘になる。

 

けれどミウラちゃんはその事を承知している上で尚自分が勝つ気でいる。当然だ。此処にいるのは生粋の格闘技選手、皆可愛い顔をしているがその胸の内には自信と闘志とやる気で満ちている。ここで余計な口出しをするのはそれこそ野暮と言うのだろう。

 

「そうだね。ミウラちゃんの試合もまだだし、何かして欲しい事はない? 俺で良ければ力になるよ」

 

「本当ですか? ならストレッチの手伝いをお願いしますか。ナカジマ会長達もう行っちゃいましたし、ヴィヴィオさん達が来るまででいいので」

 

「お安いご用さ」

 

控え室に備わっている映像を見ながらフーカちゃんの試合を見守る俺とミウラちゃん。試合は無事にフーカちゃんが勝利し、一回戦突破に俺は年甲斐なく大いに喜んだ。

 

その後、二人が戻ってくる前に控え室を後にした俺は、観客席で遠くから試合の様子を見守る事にした。次に始まるのはミウラちゃんとリンネちゃんの試合、果たしてどちらが勝つのか、他人事の筈なのに俺の手には緊張の汗が握られていた。

 

 

 

 




Q.もし今のボッチがお金を稼ごうとしたらどうやってかせぐの?

A.そこに賞金を掛けられた次元犯罪者及び凶鳥一家がおるじゃろ?(Force感)

それでは次回もまた見てボッチノシ

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