『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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G「フラストレーション溜まるわー」


その9

 

G月J日

 

シスターシャッハの提案でどうにかアインハルトちゃんのリベンジを回避出来て更に数日、ここ最近起きた出来事をさらりと書いていこうと思う。

 

まずフーカちゃんのデバイスだが、色々騒動があったけれど結局はアインハルトちゃんが人を伝ってその手の技術力を持つ専門の人に作って貰う事になった。自分と闘う事を条件にしていたから疑問に思ったが、何でも自分へのリベンジに燃えて後先考えなかった事を申し訳無く思い、せめてもの罪滅ぼしにと自ら買って出てくれたらしい。

 

別に店に直接被害があった訳じゃないからそんなに気にしてないが、どうやらその事でナカジマ会長にしこたま怒られたのも理由の一つらしい。まぁこれも若さによる経験から来るものだと思えば可愛いものだ。後日やって来て平謝りするナカジマ会長に気にしないでと自分も受け入れこの事はこれで終わりにした。

 

さて、そんな訳でフーカちゃんのデバイスだが、これがまた可愛らしい白虎のぬいぐるみでパッと見れば仔猫の様にも見える。名称はウラカンでフーカちゃんに愛称としてウーラと呼ばれている。

 

自立型のデバイスでその性能は高く、フーカちゃんの高い魔力の制御を完璧にこなしていて今ではすっかり彼女の相棒となっている。彼女のデバイスを用意できなかった事に少々寂しさを感じるが、まぁ自分にはウーラの様なデバイスは作れないからこれはこれで良かったんじゃないかと思う。

 

───ただ、初めてウーラと自分が顔を合わせた時、いきなり仰向けになってお腹を見せてきた時はビックリした。自分はあまり動物には懐かれない方だから驚きと嬉しさと合わさって何とも言えない心地だった事を覚えている。

 

それ以来フーカちゃんと一緒に店の手伝いをする事になったウーラ、ポジション的には店のマスコットキャラ、フーカちゃんに続いて癒し枠が増えた事でお客の反応も上々、最近はウーラ目的に若い娘達も来ているから店に結構貢献してくれている。

 

さて、デバイスを手にして大会に向けての準備は万端となっているフーカちゃんだが、実はリンネちゃんからナカジマジムに招待状が届いているらしく、今度の休日で彼女の試合を観に行く事になっている。

 

しかもその招待状は自分にも来ていたりする。それもリンネちゃん本人から。丁度その日は店も休みだし、必要な買い出しも終わっているから別に構わないから良いが………何だろう、先のヴィクトーリアちゃんといい最近の自分は良く流されている気がする。

 

まぁ、ロイ翁の孫娘たってのお願いだし拒む理由もないから彼女の誘いを受けることにしたんだけどね。その日はフーカちゃんがジムから帰ってくるまで彼女と色々話をしたりして時間を潰した。

 

ロイ翁の話をしているリンネちゃんは年相応の顔をしているけれど、店を出る時はやっぱり何時もの無表情となっていた。年頃の娘があそこまで追い込まれるなんて相当だ、あの子の笑顔の為にもフーカちゃんには是非頑張ってもらいたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────そして、大会当日。リンネの招待状の案内に従い特別観戦室、所謂VIPルームに通されたシュウジはそこで待っていた彼女達に一瞬面食らう。

 

「君達は……」

 

「お久し振りですシュウジ様、ご壮健そうで何よりです」

 

「お、お久し振りッス!」

 

気品ある振る舞いで礼を返してくるのは雷帝の血を引くヴィクトーリア=ダールグリュン。格式高い貴族らしく丁寧に挨拶をしてくる彼女にシュウジも少し気圧されながら挨拶を返した。

 

「これはご丁寧にどうも、ヴィクトーリアちゃん。ハリーちゃんも元気そうで何よりだ」

 

「ヴィクターで結構ですわ。嘗ての伝説の選手にこうして再び見えた光栄、心から感謝しています」

 

「元だよ。今ではしがない喫茶店の店主さ。………所で、そちらのお二人は?」

 

「は、はひぃぃぃっ! わ、私はエルス、エルス=タスミン。得意魔法は拘束魔法、将来の夢は警邏隊です」

 

シュウジという生ける伝説を目の当たりにして混乱しているハリーとエルス、特にエルスの方はシュウジと初対面の分この中にいる誰よりも挙動不審に陥っていた。

 

「そしてこちらが……ほら、ジークもご挨拶なさい」

 

「じ、ジーク。ジークリンデ=エレミア……です」

 

ヴィクターの背後に隠れながら挨拶をしてくる黒を強調とした少女、彼女の自己紹介に心当たりのあるシュウジは先日の調べで得た知識をフル稼働させて脳内で照らし合わせていく。

 

「ジークリンデ……もしかして、君がU19の?」

 

「は、はい。一応ワールドチャンピオン、だったりしてますぅ」

 

鉄腕と呼ばれ、総合・格闘の両方のタイトルを保有している十代女子最強の少女、試合の時とは違い今は非常に大人しい彼女にシュウジは再び面食らった。

 

「ちょっとジーク、もう少しシャキッとしなさいな。少しは人見知りが治ったんでしょ?」

 

「む、無理やよぉヴィクター、だってこの人世界王者やよ! チャンピオンやよ! そ、そんな人相手に真っ正面から何て、ウチには無理ぃ」

 

「あなたもチャンピオンでしょうが!」

 

ジークとヴィクター、互いに親しみを込めて呼び合う彼女達。二人は似ても似つかないが何故か姉妹や親子のように見えるのはヴィクターのその面倒見の良さから来ているのだろう。

 

その後も少しずつ話をしながら彼女達の緊張を解していくと、時刻は既に次の試合へ差し掛かり、リンネの出番となった。彼女の登場に観客席は大いに沸き立つが、それに反してリンネの表情は無愛想のまま。余程試合に集中しているのか、それにしては彼女の視線は別方向へ向けられている。

 

「リンネちゃん、どうしたんだろ?」

 

「恐らくはヴィヴィオさん達がいる所でしょう。彼女達は私達とは別のVIPに通されていますから、恐らくはそれを気にしているかと」

 

「目の前に対戦者がいるってのに、ふざけた奴だぜ」

 

「ちょ、ハリーさん! シュウジさんの前ですよ!?」

 

前々から気に入らなかったリンネの態度にハリーの何時もの悪態が出てしまう。ハッと我に返って口を両手で塞ぐハリーだが、シュウジは彼女の言葉使いに気にするなと笑って流す。

 

そして始まる試合、終始相手選手を圧倒するリンネはキャリー=ターセルを反撃を許さぬまま瞬殺。1RKO、その劇的な瞬殺劇に観客席は会場が奮えるほどの大歓声を挙げる。

 

投げ、打撃、蹴り技、そのどれもが高レベル水準で同年代で彼女に比肩する破壊力の持ち主は現状アインハルトだけと言われている。

 

そんな彼女の戦いを見てシュウジは思う。危ういと、初めて見た時から何処か追い詰められている節がある彼女だったが、今回の試合を見て確信した。今のリンネ=ベルリネッタは非常に危うい部分があると。

 

「ヴィクターちゃん、一つ聞いて良い?」

 

「はい。………リンネの事ですね」

 

「彼女はいつからこんな戦い方を?」

 

「………初めから、デビューしてからずっとです」

 

目を伏せ、何処か申し訳なさそうにしているヴィクターにシュウジはうーんと唸って腕を組む。リンネの戦い方は勢いがあって見るものを興奮させる豪快さがある。それは理解できるし、それが彼女に合った戦い方だというのは理解できる。

 

彼女のコーチであるジル=ストーラも優秀な人なのだろう。リンネの類い稀な才能を十全に活かせる育て方をしている。彼女の今の動きから察するに、今のリンネはタフネスを鍛える為のトレーニングを重視しているのだろう。それは別に良い、間違ってないし、寧ろ良くそこまで気付けたと称賛を送りたい程にジルの格闘技に於ける教育理論は完璧だった。

 

「でも、そこじゃあないんだよなぁ」

 

リンネ=ベルリネッタは強い。もって生まれた素質の高さもそうだが、それを上手く自分でコントロールしている。己のコーチを信じていないと彼女までの戦い方はしないだろう。

 

ジルとリンネ、この二人は遠からずDSAAにその名を刻む名コンビになるだろう。尤も、そこまで勝ち続けられたらの話だが。

 

「やはり、分かりますか?」

 

「え? あぁうん。まぁ分かるっちゃあ分かるかなぁ。今のリンネちゃんは危ない、具体的に言えば必死過ぎる。もう少し肩の力を抜かないといつかポッキリ折れるぞ」

 

「そうなんですよねぇ。私も遠回しに言っているのですが、どうも上手く伝わらなくて」

 

「こればっかりは本人が気付かないとなぁ」

 

そうなんですよと深い溜め息と共に吐き出されるヴィクターにシュウジは彼女からオカンの性質を感じ取った。いや、どちらかと言えばクロウ=ブルーストの様な貧乏クジの苦労人気質に近いかもしれない。

 

若いのに大変だなぁ、と他人事に考えるシュウジだが、この時騒がしい事に気付く。恐らくは何処からか聞き付けたメディア連中だろう。奴等に出会すのは少々面倒だと察したシュウジは席から立ち上り扉の前に出る。

 

「もうお帰りになるのですか?」

 

「あぁ、取り敢えず見るものは見えたし、フーカちゃんの今後の課題も分かった。明日の店の仕込みもあるから今日はこれで失礼するよ」

 

「そうですか。シュウジ様、本日はお忙しい所ありがとうございます。機会があればまたお会いしましょう」

 

「しゅ、シュウジさん、今日はありがとうございました!」

 

「お疲れ様です!」

 

「ど、道中お気をつけて~」

 

優雅に見送るヴィクターを初め、直立不動から90度の見事な直角具合で頭を下げてくるハリーとエルス、その後ろでは未だに慣れてない様子のジークの別れの挨拶を受け取ったシュウジはメディア達が雪崩れ込んでくる前に部屋を後にする。

 

その後、フーカと一緒に帰ろうと会場の周辺をアチコチを見て回るシュウジ、時間も過ぎて空は夕焼けに染まり、全ての試合を見終えた観客達がゾロゾロと会場を後にしている。そろそろフーカ達も出てくる頃合いだろう。タイミングを見計らって再び会場に足を運ぼうとする彼に声が掛かる。

 

「シュウジさん、来てくれたんですね」

 

「リンネちゃんか、今日は誘ってくれてありがとう。試合、見てたよ。凄かった」

 

「そ、そうですか。ありがとうございます」

 

声を掛けてきたのは先程まで話題に上がっていたリンネ、その本人だった。相変わらずの無愛想な表情だが、シュウジと話している時は比較的柔らかく見える。それは彼が嘗ての世界王者なのか、それとも亡き祖父を知る数少ない人間の一人だからなのかは定かではない。

 

「でも、ちょーっと惜しい部分があったかなぁ」

 

「……そうなんですか?」

 

「あぁ。君、右ストレートを出すとき左腋が開いてたでしょ? あれじゃ力は分散して大したダメージにならないよ」

 

「あ、それジルコーチにも言われました」

 

「だろ? 忘れない内に身体で覚えようか。ほら、試しに打ってみ」

 

「は、はい!」

 

思いがけず即興でミット打ちをする事になった二人、シュウジに言われた指摘を意識しながら彼の掌に向けて拳を打ち込むリンネ、パシンパシンと小気味の良い音が辺りに響く。

 

「うん、今ので大体矯正出来たかな。後はコーチの指導に従いながら自分で磨き上げていくと良い───」

 

そこまで言って自分のしてきた事が敵に塩を送る行為だと気付いたシュウジは今更ながらしまったと己の不注意さを呪う。どうもフーカの相手をしてきた影響で誰彼構わず指導する悪癖が出来てしまっているようだ。

 

早くこの癖を直さないと。そう思いながらその場を後にしようとするシュウジだが。

 

「………やっぱり」

 

「ん? リンネちゃんなんか言った?」

 

「シュウジさん。もし、もし今度のウィンターカップで私が優勝したら、ジルコーチと一緒に私を鍛えてくれませんか」

 

「ごめん無理」

 

リンネの突然のスカウト、彼女の思いきった誘いにシュウジはやはり即答で返すのだった。

 

 

 




Q.もしこのボッチが古代ベルカの時代に降り立ったら?
A.ラスボス。もしくは裏ボス。勿論無自覚無意識に。


それでは次回もまた見てボッチノシ

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