『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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───その昔、リモネシアにて。

ガモン「シュウジ君、君はこれから幾つもの困難に立ち向かう事になるだろう。誰にも助けを得られず、一人で戦う時もあるだろう。そうなったときに備えてせめてもの手解きを僭越ながら儂がさせてもらうとしよう」

シュウジ「それは分かりますけど……何で浜辺? つーか雨風強くて波が荒ぶってるんですけど、危険じゃないですか?」

ガモン「何を言う。絶好のロケーションじゃろうが。てなわけでお前さんにはまずアレを割って貰いたい」

シュウジ「待って、何か物凄い波が来てるんですけど、ていうかアレ津波じゃねぇか!? しかもデカイ! ちょ、怖すぎるんですけど!? つーか割れって言った!? アレを!? 津波を!?」

ガモン「ファイトじゃよ(はぁと)」

シュウジ「」

ガモン「因みにやらなきゃ死ぬだけじゃから安心せい」

シュウジ「う、うぉぉぉっ!! やってややぁぁぁぁっ!!」

───30分後

ボッチ「出来たー」
ガモン「うむ」
シオ「いやうむ、じゃないわよ! あんたら一体何してんの!?」





ボッチ「いやー、懐かしいなぁ」
フーカ「ぶは! な、波が、高波が!」




その5

 

 

「もうすぐウィンターカップの申し込み期日ですねぇ」

 

「そうですね。早いものです」

 

────所属学校であるSt.ヒルデ魔法学院からの帰り道、翡翠と金の髪を揺らして所属ジムに向かう二人の少女、互いに其々異なる色を持った瞳をしている彼女達は、嘗ての古代ベルカにて覇を競った王の血を引いていた。

 

高町ヴィヴィオとアインハルト=ストラトス、互いにその血にまつわる因縁から当初はぎこちなかった二人だが、周囲の協力と本人達の努力のお陰で蟠りは解け、今では同じ格闘技を嗜む善きライバルであり、友となっていた。

 

親友達と周囲の人達の支えもあって漸く過去の因縁から解放されたアインハルト、現在はU15の世界王者として次元世界格闘技の覇者として君臨し、日々挑戦者達と切磋琢磨をして充実した毎日を送っている。

 

「あーあ、今回のウィンターカップが終わったらアインハルトさんもU19に移っちゃうのかぁ。少し寂しいなぁ」

 

「フフ、なら今年最後の思い出に、ちゃんと勝ち進んで勝負しなくてはいけませんね」

 

「ですね。よーし、今年も頑張って勝ってアインハルトさんに挑戦するぞー!」

 

元気よく拳を振り上げて意気込みを顕にするヴィヴィオ、そんな親友を頼もしく思っていると、ふとアインハルトの視界に見馴れた人物が入ってきた。

 

「あれって……コロナにリオ? 何してるんだろ?」

 

「ジムの様子を覗いているみたいですが……」

 

コロナ=ティミルとリオ=ウェズリー、二人ともヴィヴィオとアインハルトにとって大切な親友であり、ヴィヴィオにとっては同じ学年で同じ教室で日々勉強を共にしている学友達、ヴィヴィオと同じ格闘技を学んでいる二人がジムに入らずにいる。

 

その様子から、何やらナカジマジムに変わった出来事が起きている様だ。面白いことなら率先して首を突っ込むリオが大人しい事から、どうやら余程の事なのだろう。

 

「二人とも、何やってるの?」

 

「誰か来ているのですか?」

 

「ヴ、ヴィヴィオにアインハルトさん!」

 

「び、ビックリしたぁ……」

 

「あはは、ごめんごめん。でも本当にどうしたの? ジムに入らないで」

 

「アレだよアレ!」

 

リオに勧められるがまま二人してジムを覗き込むヴィヴィオとアインハルト、するとそこには受け付けで何かを話しているユミナと一人の男性がいた。どうやら男性の様子からして、隣にいる女の子の入会手続きに付いて話をしている様だ。

 

別にそんなに珍しくない光景だが、ユミナの方は態度がおかしく、落ち着きのある彼女らしくない慌てた様子でその男性に応対をしている。どうしたのだろうとヴィヴィオが疑問に思った時、男性の正体に気付いた。

 

「ね、ねぇ! あ、あアレって、ももももしかして!?」

 

「だよね! 絶対そうだよね!」

 

「シュウジ=シラカワ……!」

 

伝説の世界王者がナカジマジムに来ている。その事実を前にヴィヴィオ達は動揺し、アインハルトはその目を大きく見開かせて驚きを露にしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こ、こここちら申し込み申請書になななりましゅ」

 

「あぁ、どうもありがとう。はい、フーカちゃん」

 

「あ、どうもです」

 

「それと君、もし会長さんがいるのなら話があるんだけど、会長さんって今いらっしゃるのかな? 少し話したい事があるからお会いしたいんだけど」

 

「なななナカジマ会長そその、現在は留守にしておりましててて」

 

「ありゃ、タイミング悪かったかなぁ。一応今日はお店はお休みだから良いんだけど……どうしよう。かといって居座ってたらジムの邪魔になるし、出直すかな?」

 

「シュウジさん、その時ワシはどうします?」

 

「うーん、そうだなぁ」

 

リンネと戦う為、取り敢えずDSAAに選手登録をしようと近所のジムへとやって来た二人、先ずはジムへの入会を済ませて、その後ジムの会長であるナカジマ会長と色々話をしようと考えていたシュウジだが、不在の報告にその目論見は外れてしまう。

 

来るまで時間を潰すにはどうすれば良いか、そんな事を考えているシュウジに背後から声が掛かる。

 

「あの!」

 

「うん?」

 

「シュウジ=シラカワ選手ですよね。U25世界王者の」

 

「元、だけどね。もうタイトルは返上して引退したし……所で君は?」

 

「失礼しました。私はアインハルト=ストラトス、気軽にハルにゃんとお呼び下さい。──それよりも、嘗ての世界王者が今日はナカジマジムに一体何のご用でしょうか? 良ければ私達が伺いますよ」

 

振り返れば其処にはフーカと年齢の近しい少女達が四人、シュウジの後ろに佇んでいた。フーカといい目の前のこの少女といい、最近の子は礼儀正しい娘達が多いんだなと、シュウジは感心する。

 

しかし残りの三人、何れも特徴的な外見をしている其々の少女達は皆、アインハルトの後ろに隠れてしまっている。チラチラと此方の様子を伺っている事から、どうやら変に嫌われてはいないようだ。

 

「それは有り難いけど……良いのかい? 会長さんの許し無しで勝手なことして」

 

「あ、その点は大丈夫です。ノーヴェ───じゃなくて、ナカジマ会長から私達にある程度の許可が許されてますから」

 

「ここで立ち話も何ですから、どうぞ此方へ。そちらにいる貴女も是非見学していって下さい」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「それじゃあユミナ、後は宜しくね」

 

「う、うん! 会長が来たら伝えておくね」

 

なし崩し的にアインハルトに付き従う様にその場を後にするシュウジとフーカ、自分よりも一回り以上年下であろう少女達に連れられるという事になんとも複雑な心境になりながらも、シュウジは大人しく彼女達の後を付いていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、二人が連れて来られたのはジムの奥階段を少し下りた先にある広々とした空間、リングを中央に備えた選手用のトレーニング室。

 

受け付けでも見掛けたが、機材の隅々まで手が届いており、従業員の管理能力の高さが伺える。ジムの空気も悪くないし、最初は不安に思っていたが、どうやら心配は無さそうだ。

 

初めて目にするリングの大きさにオォーッと感慨深そうに声を漏らすフーカを横目に、シュウジは安堵する。

 

すると、更衣室からジムのジャージを着たアインハルト達がやって来た。

 

「では、一通り体を暖めたら一度スパーをしてみましょう。フーカさん、如何です?」

 

「え、えぇ!? いきなりスパーリングですか!? まだ入会してないのに!?」

 

「手続きは済ませたのでしょう? それに貴女は今度のウィンターカップに出てあのリンネ選手と戦うことを決めている。ならば早い段階で相手との試合形式を学んだ方がいいかと思いますよ」

 

フーカのジムへの入門理由は、移動する最中でそれとなく伝えている。まだ詳しいことは話していないが、アインハルト達もフーカと同様に察しの良い娘で、彼女達の気持ちは早くも一つになろうとしていた。

 

強力なライバルになるかもしれない相手に自ら手解きをする。お人好しではあるが、それ以上に優しい彼女達を見て、シュウジはフーカをナカジマジムに預ける事を決めた。

 

「フーカちゃん、やってみるといい。今の君がどれ程出来るのか、彼女達と手を合わせることで確かめてみるといい」

 

「シュウジさん……オス! やってみます!」

 

シュウジの後押しもあって、目の前の少女達と手合わせする事に決めたフーカ、軽くストレッチをして身体を解した後、更衣室へ入り、予め用意していたシュウジお手製の胴着に着替える。

 

山吹色の胴着、左胸と背中に亀の一文字を刻んだシュウジ特性のトレーニング用の胴着。一体なんの何処の道場の胴着なのだろうかと、アインハルト達は訝しむ。

 

因みに胴着に関しては完全にボッチの趣味であり、ボッチの胴着には界の文字が刻まれているのはどうでも良い話。

 

さて、そんな訳でアインハルト達と一通りスパーリングをする事になったフーカだが、結果だけ見れば惨敗。何れも試合慣れをして場数を踏んできた彼女達にフーカが敵う筈もなく、彼女達との最初の手合わせはフーカの全敗で幕を下ろした。

 

「うぅ、すみませんシュウジさん。負けてしまいました」

 

「まぁ、分かりきってたけどね」

 

「そんな!? じゃあワシは一体何の為にあんな特訓をしたんですか!」

 

「ただの正拳突きの一つを覚えた程度で勝ち上がれる程簡単な世界ではないという事さ。それに、今回のスパーリングは君にDSAAの格闘技選手というものがどういうモノかを知ってもらう事にある。お陰で少しは分かっただろ? 彼女達の強さと言うものが」

 

自分の負けた事にあっさりと頷くシュウジにフーカは少し文句を言いたくなったが、彼の口にした言葉に納得して押し黙ってしまう。何せ彼の口にする言葉は、全て自分の事を考えての思慮深さがあったからだ。真剣な表情でそう言い含めるシュウジにフーカは渋々納得し、分かりましたと頷いた。

 

そんなフーカにシュウジは彼女の頭を撫でる。まだ知り合って一月も経っていない間柄だが、既に二人の間には師弟としての確かな絆が芽生えていた。そんな二人を何処か羨ましそうに見つめるヴィヴィオ達、するとリング中央に一人の女性が降り立った。

 

アインハルトだ。強化魔法で身体を擬似的に成長させ、外見年齢18歳となったU15の世界王者が、真剣な表情で佇んでいた。

 

「え? アインハルトさん?」

 

「どうしたんです? 試合用の格好をして……って、まさか!?」

 

「シュウジ=シラカワさん、折り入ってお願いがあります」

 

「ん?」

 

「私と、闘ってください」

 

世界王者からの突然の宣戦布告に凍り付く一同、そんな中シュウジは……。

 

「そうだね。たまには運動するのも悪くない」

 

笑顔で、快く受け取るのだった。

 

 

 




Q.ボッチは他のUのチャンピオン達を知ってるの?
A.知りません。そこまで興味を持つ前に引退しましたので……。

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