『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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り、リアルが忙しい……誰か、自分に癒しを


その26

 

 

フロンティア。先史文明の時代により建造された大遺跡、英雄となることを夢見た野心家の策謀によって復活を遂げたかの理想郷は暴食の巨人に貪られながらも未だ上昇を続けている。

 

それに相対し徐々に高度を落としていくのは地球の衛星である月。フロンティアの涌き出るFG(フォニックゲイン)によって足場となった衛星は物理法則に従い地球に近付いていく。

 

月による激突、それは地球人類と文明の死滅を意味している。最早各国の領域侵犯云々の話ではない。人類存亡の危機が現在進行形で進んでいた。

 

そんな状況を打破すべく、手を取り合って立ち上がる歌姫達、元激槍ガングニールの装者であるマリア=カデンツァヴナ=イヴを中心に世界中の人々からFGをかき集めて喚起させるという一大作戦が行われようとしている。

 

だが、それを阻もうと暴食の巨人は雄叫びを上げる。英雄に成れないことに絶望し、自ら人類を滅ぼす魔王となることを決意した彼の者は取り込まれた巨人に理性すらも捕食され、今や破壊の巨人と化している。

 

既に世界を救う為のライヴは始まった。しかし時間が足りない。彼女達が世界中の人々からFGを集める間は彼女達は無防備に等しい。今彼の巨人の腕の一振りでも受ければ壊滅は必至、全滅は免れないだろう。

 

そんな彼女達を守る為に二人の男が巨人の前に降り立つ。片方は蒼い仮面を被る男、もう一人はシンフォギア装者達の上司である紅い男。

 

蒼のカリスマと風鳴弦十郎、共に傷付いた体でありながらソレでも微塵も臆す事なく、巨人の侵攻を防ぐように立ち塞がっていた。

 

「しかし、意外でしたね」

 

「何がだ」

 

「先程の戦闘の事ですよ。確かに私は自分の首元に攻撃が通るようある程度の流れを用意しましたが、まさかあそこまで見事に乗ってくるとは思わなくて…………罠だとは思わなかったのですか?」

 

思い返すのはここに来るまでに行われた蒼のカリスマと弦十郎の死闘、互いに互いを滅ぼすつもりで行われたあの激闘の流れを自ら用意した作為的行動である事を蒼のカリスマは語る。

 

戦いの最中、命のやり取りをしながらでも“流れ”というものを作り出している蒼のカリスマには驚嘆を越して異常と呼べるだろう。しかし弦十郎は何だそんなことかと溜め息を溢す。

 

「別に、そんな大層な理由はないさ。お前の拳からは殺意は感じなかった。だから違和感を感じ、お前の誘いに乗った。───それだけの話だ」

 

「…………割と本気で殺す気だったのですが?」

 

「殺意と殺気というのは似てるようで異なるものだ。殺気は殺す気迫ではあるが、殺意は明確な意志のもとで相手を殺すモノ、言葉遊びとも言える話だがあの時のお前からはそんな意志は感じられなかった。お前、実はウェル博士に無理矢理従っていた口だろう?」

 

「…………さぁ、どうでしょう? 理由があれば私は彼等と組んでいた可能性もありますが?」

 

「お前が誰かの言いなりにワザワザ成り下がるタマか。それに仮にそうだとしても逆を言えばそうなるだけの理由があった。例えば、知り合いの女の子を人質に取られ、仕方なくあの首輪を嵌める事になった───とかな」

 

「─────」

 

「お前、実は結構分かりやすいタイプだな? お前の事を少し分かっただけでもお前の誘いに乗った価値はあった」

 

勝ち誇った様にドヤ顔をする弦十郎、自分の推理が的中したと分かった彼は子供のように無邪気に笑って見せる。そんな彼に対し、蒼のカリスマは仮面越しでも分かるくらい呆れた溜め息を溢した。

 

「────お喋りはここまでです。来ますよ」

 

「お前から振ってきた話だろうに」

 

言われて弦十郎の顔が真剣な顔立へと変わる。既に眼前の巨人は自分達に狙いを定めている。山の様に巨大な怪物がたった二人の人間を相手に敵として認識している。それは本能的にシンフォギア装者を纏う彼女達よりも危険だというネフィリムの本能だった。

 

嗤う。怪物に見下ろされていながらも二人の人間は嗤う。来ないのか?と、口元を歪め、嘲笑の声音を漏らす二人に巨人は雄叫びを上げながらその巨腕を振り下ろす。

 

回避は出来ない。出来る筈がない。今自分達の後ろには無防備な少女達がいる。今ここで避けてしまえば巨人の攻撃による衝撃が響達に襲い掛かる。彼女達を守る為に立ち上がった二人には巨人と対峙した時点で回避と言う選択は存在しなかった。

 

ならば、自分達に出来るのは一つだけ、二人の男はそれぞれに握り締めた拳を掲げ─────。

 

「ぜぇらぁぁぁぁっ!!」

 

「だらぁぁぁぁぁっ!!」

渾身に込めた一撃を迫る巨腕に向けて打ち放った。衝撃でフロンティアの大地は揺れる。衝撃が爆発し、嵐の様な暴風が吹き荒れる。

 

しかし、巨人の攻撃はマリア達に届くことはなかった。唄を歌う彼女を中心に手を取り合う響達には埃一つ届かない。巨腕の下にいる二人の男、彼等の眼が妖しく輝きを放つのを見て理性なき巨人は見るからに動揺し、一歩後ずさった。

 

「オォォォォォッ!!」

 

「はぁぁぁぁぁっ!!」

 

瞬間、僅かに巨腕に込められる力が緩む。その隙を突いて呼吸の合った二人の蹴りが巨人の腕を蹴り上げる。押し返されるネフィリム、仰け反った巨人が次に目にしたのは、自分の前に足を振り上げた二人の姿だった。

 

回転し、勢いを乗せた二人の蹴りが巨人の眉間に突き刺さる。その攻撃はネフィリムの体の内部まで浸透し、取り込まれたウェルにまで伝達される。貫かれる衝撃、尋常ならざるその一撃に巨人もウェルも声にならない叫びを上げる。

 

地面に叩き付けられた衝撃でフロンティアが揺れる。舞い上がる砂塵の中から出てきた二人、一度様子見の為に離れた蒼のカリスマと弦十郎はネフィリムの次の行動に合わせる為、砂塵の中に隠れる彼等を睨み付ける。

 

軈て砂塵が晴れ、二人の前に現れたのはフロンティアの大地を埋め尽くす程の巨人の群れだった。ネフィリムの大きさ程ではないが、壁の様に聳え立つ巨人の軍勢を前に流石の二人も言葉を失う。

 

『これは……ネフィリムの模倣体!? そんな、自身の分身をこんな短時間で生み出すなんてっ!?

 

『ネフィリムの模倣体をネフィリム・レプリカと呼称します! それよりも何て数だ! 千……二千、まだ増えます!』

 

「成る程、単体で敵わないと見て数でゴリ押ししてきましたか」

 

「ネフィリムの力、だけではないな。恐らくはウェル博士によって備わった新たな機能という事か。理性を無くしてもその知識は失われることはない……か」

 

最早フロンティアと完全に同化したと思われるネフィリムはフロンティアの大地を使って己の分身を無数に生み出していく。

 

「全く、こんな応用を思い付く位ならもう少し世の中の為に使えばいいものを」

 

「だが、向こうが本気になった以上こちらも手を抜く訳にも行くまい」

 

「なら、そろそろこっちも…………」

 

「本気になるとするか」

 

シンメトリーに構える二人、気を高め、気力を、気血を練り上げていく二人の体からそれぞれに白い炎が立ち上っていく。幻覚か? 遠巻きから二人の戦いを眺めているナスターシャ教授が目をパチクリさせた瞬間────。

 

『ネフィリム・レプリカの反応、五千を超えました!』

 

「たかだか五千!!」

 

大地を蹴り、二人は巨人の群れに対して正面から突っ込んだ。数の暴力による蹂躙、通常なら撤退を余儀なくされるこの状況をしかし二人は真っ向から受けてたった。

 

無数の巨人から連なるネフィリム・レプリカの軍勢、それは暴力という津波であり、天災その物と化している。けれどその天災の蹂躙に二人の人間は抗い続けた。

 

無数に奮われる巨人の豪腕。それを捌き、受け流し、返していく蒼のカリスマに対して全て己の力で打ち砕いていく弦十郎。二人の体から燃える白い炎はやがてそれぞれ紅と蒼に変換されていく。

 

巨人の津波を紅い稲妻と蒼い閃光が駆け巡る。巨人の頭部を、胴体を、脚を、時には巨人の体もろとも粉砕していく。

 

「───両手・網羅総拳突き」

 

「ヌオォォォッ!!」

 

蒼のカリスマがその拳で巨人の軍勢を割り、弦十郎の蹴りが巨人の津波を引き裂いていく。数の暴力を個の理不尽で蹂躙していく様にナスターシャ教授は言葉を失っていた。

 

軈て巨人の数は激減し、五千を超える巨人の軍勢(ヘカトンケイル)は五十にも満たなくなっている。他者を圧倒する巨人達が唯の土塊へと返っていく。その中心で佇むのは二人の怪物。

 

「次の相手は───」

 

「どいつだ?」

 

不敵に嗤う二人、彼等を見て巨人は思う。何なのだと、この理不尽は何なのかと理性なき巨人は愕然する。これでは一体どちらが化け物だというのか。

 

と、そんな時だ。二人の背後から巨大な光の柱が立ち上ぼり、純白のシンフォギアを纏う歌姫達が降臨した。漸く自分達の出番は終わりだと察した二人はそれぞれ体を休めるように─────巨人の目の前で─────ストレッチを始める。

 

「どうやら、俺達の出番は終わった様だ。後はあいつらに任せるとしよう」

 

「では私もこれで、落下する月の軌道修正も行わなければなりませんので」

 

「まぁ、今回ばかりは仕方がない、か。今日の所は見逃すが、次に会ったときは…………」

 

「あぁ、そう言うのはいいんで早く部下の皆さんの所に行ってあげて下さい。ここ、間もなく崩れると思いますので巻き込まれない内に離脱した方がいいですよ」

 

「ムゥ……」

 

此方の話を一方的に切っていく蒼のカリスマに思う所はあるが実際に時間がないのも事実、ネフィリムの暴走と二人の人間が暴れまわった事による衝撃でフロンティアは既に崩落のカウントダウンに入っていた。

 

納得がいかないという様子でその場から去る弦十郎、彼を一瞥した後に蒼のカリスマ────いや、白河修司はウェル博士《ネフィリム》へと向き直り……。

 

「それではさようならウェル博士、貴方の空回りっぷりは見ていて笑えましたよ」

 

「あ、アァァァァ…………」

 

「別れついでに教えてあげます。貴方が発見したとされる月の落下軌道予測、実はあれ既に私が直しておいたんですよ」

 

「っ!?」

 

「月の落下を阻止して英雄になる? 残念ながら、貴方の目的は始まる前に既に終わっていた。貴方がしてきた事はなんの意味もない茶番でしかなかったのですよ。まぁ、先史文明の亡霊《フィーネ》を滅ぼす機会に巡まれたという意味では決起した甲斐はありましたけどね」

 

「アァァァ……アァァァアァァァアァァァッ!!」

 

「それでは今度こそサヨウナラ。英雄、なれると良いですね」

 

『■■■■■■■■■■■■ッ!!!』

 

蒼のカリスマの最後の言葉に遂に最後の人間性まで失ったウェルは断末魔に似た叫びを上げる。そんな彼を背後に蒼の魔人は巨人に向かって飛び立つ歌姫達を見ながら悠々とその場から歩き去っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今更ですが、我らのチッフー(IS装備)はこのボッチより強いみたいです(ニッコリ

次回で漸くシンフォギア編も終わり、その後は遂に…………天の獄に移ります。

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