『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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待たせた上に話が進んでなくてすまない……。

すまなくてすまない……。


その25

「師匠!?」

 

「何故旦那がここに、それに……そいつは」

 

背後から現れた二人の登場に装者達からは驚きの声が上がる。風鳴弦十郎は二課の司令官でありシンフォギア装者達の上司でもある人間だ。彼自身の戦闘能力はずば抜けてはいるが、それでも余程の理由がなければ表立って戦場で戦うことは原則として禁じられている立場の筈。

 

その彼が何故ズタボロの格好で戦場に立っているのか、装者達の視線が自然と彼の隣に佇む仮面の男に向けられる。

 

「隠す必要がないから一応紹介しておく、こいつは蒼のカリスマ。先程まで理由あって俺と戦っていた輩だ」

 

自分がここにいる理由と隣にいる仮面の男の紹介により緒川やナスターシャ教授は勿論、装者達も驚愕の表情を浮かべる。唯一クリスだけは乾いた笑みを浮かべているのが気になるが、今はそれどころではないと弦十郎は続きを蒼のカリスマに促した。

 

「自己紹介をいただきました蒼のカリスマです。本当なら貴女達とは然るべき場所でキチンと対応しなければならないのですが…………現状況は芳しくありません。故に無駄な話は全て省き、必要な事だけを分かりやすくお伝えします」

 

自分達が前にしているのは山の様に巨大な暴食の巨人、未だにふくれ続けるアレは際限なく周囲のあらゆる物質を喰らい続け、今も巨人化の一途を辿っている。もしアレが欲望のままに喰らい続け、いつか臨界を超えてしまったら…………そうなった時の被害は計り知れない。

 

だから蒼のカリスマは口にする。今自分達に出来ることを、今自分達がすべき事を、簡単に、丁寧に伝えた。

 

「エクスドライブモード?」

 

「えぇ、櫻井了子が提唱する櫻井理論の一説に机上空論としてその様な項目があったことを以前日本政府のデータベースにハッキングをした事で知った事があります」

 

(サラリとハッキングとか言ったぞコイツ)

 

説明の合間に爆弾発言を繰り出す蒼のカリスマ、雪音クリスを始め何人かの装者達は色々やらかし過ぎている蒼のカリスマに言葉を失う。されど、自分達のトップである弦十郎が目を伏し、黙して聞き入っている為、誰も彼の説明に余計な口出しをすることはなかった。

 

XD(エクスドライブ)モード。それはシンフォギアの元となる聖遺物に限界を超えるフォニックゲインが集束された末に起こる形態。

 

されどその形態に至るまでに蓄えるべきフォニックゲイン(FG)は膨大で、とても個人の唄で賄える代物ではない。仮に絶唱でブーストを計った所でそれはただのシンフォギアの強化程度にしか成り得ないだろう。

 

決して成される事はない奇跡の形。それが櫻井理論が示した机上の空論であるXDモードの正体である。

 

「しかし、今この場の状況に於いて、それは不可能ではありません」

 

「え? でも一人の力では出来ないって………」

 

「そうですね。響さんの言うことも尤もだ。けれど逆説的にこう考えればいい。一人の力で至れないのなら、多くの人々の力を借りて至ってしまえば言い」

 

「───成る程、レイラインですか」

 

緒川に抱えられているナスターシャ教授、どこか納得した様子で頷く彼女に蒼のカリスマはExactly(その通り)と答えて見せた。

 

レイラインは地球全体に通る血管の様なもの。蒼のカリスマが地球上のエネルギーの通り道だというソレを利用し、世界中からFGを集めようというのだ。

 

元々フロンティアはレイラインに沿った場所で眠っていた遺跡だ。譬え海上から出ても高度が違うだけで理論上では届かないという事はない。寧ろ、集めようという意志が高い地点にある事でレイラインを通して出てくるFGはより勢いを増し、一転集中の形で集まってくるだろう。

 

元は微量なエネルギーしか通せないとされるレイライン、それが世界中の人々から集めようというのだからその総量は計り知れない。

 

そんなエネルギーに耐えるためには受け止めて束ねるだけの器が必要になってくる。今、この場に置いてその役割に最も適しているのが…………。

 

「君だよ、立花響さん」

 

「わ、私ですか!?」

 

「貴方のアームドギア…………いえ、シンフォギアの最大の能力は“想いを束ねる”事にある。FGも根っこの部分でいえば人の想いから来るもの、それを受け止めて一つになるよう束ねることが出来るのは、今この場に置いて君以外ありえない」

 

「けど、それじゃあ響だけ負担が大きすぎる事になっちまうだろ! 響一人だけで世界中の人達のFGを受け止めるなんて耐えられる訳が───」

 

「心配するのは無理ないですが、結論を速めてはいけませんよ天羽奏さん。私は別に響さんだけに押し付ける訳ではありません。さて、ここで問題です。何故立花響にだけ皆さんの様なアームドギアという武装が無いのでしょう?」

 

そこまで言われた彼女達に響の力の本質に気付かない事はなかった。立花響には風鳴翼の様な全てを断ち切る刃もなければ天羽奏と同じ万物を穿つ激槍もない。彼女のその手に握るのはいつだって誰かの手を握り締める世界で一番優しい拳だけだ。

 

蒼のカリスマの言わんとした事を理解した奏は照れ臭そうに笑みを浮かべながら響の手を取った。

 

奏から翼、翼からクリス、後から合流してきた調と切歌も簡単な事情説明を受けてから互いに頷き合い、響達と手を取り合った。

 

「さて、これで下準備は完了。後は最重要ポジションであるFGを集め、喚起させる歌い手だけですが…………マリアさん、お願い出来ますか?」

 

「────ここまでお膳立てをされて今更後には引けないでしょ? 良いわ。私の全てを懸けて世界最高の舞台にしてあげる」

 

「…………良い顔です。先日まで泣きべそかいてた女の子とは思えませんね」

 

「ほ、ほっときなさい!」

 

蒼のカリスマの茶々にマリアは顔を真っ赤にさせて反論する。泣きべそという言葉に不思議がる響は奏と顔を見合わせて首を傾げており、クリス達は苦笑いを浮かべている。

 

これまでの自分の行いがどういうモノだったか、思い出したマリアは顔を朱に染めて俯いてしまっているが、次の瞬間には吹っ切れたのか、壊れたシンフォギアの首飾りらしきものを握り締め、“セレナ”と口にすると、普段着を身に纏う世界最高の歌姫、マリア=カデンツァヴナ=イヴがそこにいた。

 

これで此方の準備は完了した。後は彼女の唄を世界に届ける為の設備だが───。

 

「カメラの準備、完了しました!」

 

「今回の主役はマリア=カデンツァヴナ=イヴだ。しくじるなよ緒川!」

 

「ツヴァイウィングではなくマリアさんをプロモーション。何だか変な感じですが、やってやれない事はないですよ!」

 

「私もフロンティアとFGの観測を行い順次サポートさせて頂きます。私も見てみたいですからね。星が音楽となる瞬間を」

 

『バックアップは任せてください!』

 

『お役所仕事、見せてやりますよ!』

 

どうやら、あちらはあちらで準備は万端の様だ。不敵な笑みを浮かべる弦十郎に対し、蒼のカリスマも仮面の下で笑みを溢す。

 

舞台は整った。音響も、演出の為のライトアップも、全て完了した。あとは奇跡が起こす為のライヴの幕上げを告げるだけ。

 

しかし、そんな舞台を前に異常事態(アクシデント)発生。ライヴを前に待ちきれなくなったマナーの悪い乗客が早く始めろと騒ぎ始めた。

 

『僕、ハァァ、ボクはぁぁぁっ、英雄に、なるんだぁぁぁっ!』

 

最早理性すら喰い尽くされた英雄志願の男は膨れ上がる暴食の巨人の一部に成り果てている。理性もなくし、フロンティアをまるごと喰らい尽くそうとする巨人は暴食というより悪食のソレである。

 

「さて、それでは私達はライヴが始まるまでの間」

 

「奴を足止めするか」

 

『ボクはぁぁぁ、英雄ダァァァァッ!!』

 

巨人から吐き出される炎の塊、膨大な熱量と質量を持つ超常の災害を前に…………。

 

「人越拳、受けの奥義。────万物流転」

 

仮面を被る蒼のカリスマは真っ正面から受け止め────

 

「返すぞ」

 

その勢いのまま、巨人へと投げ返した。

 

こうして世界最高のライヴが始まるまでの五分間、二人の人間と一体の巨人との決戦が幕を上げた。

 

 

 




短い様ですが、話の区切りとして今回はここまで、次回シンフォギア篇最後の戦いとなる予定です。

ボッチ&大人「足止めをするのはいいが、別に、アレを倒してしまっても構わんのだろう?」

次回、巨人と大人と魔人と。

それでは次回もまた見てボッチノシ


追記

人越拳受けの奥義“万物流転”

ガモンから教わった奥義の一つ。
修司の扱う回し浮けの完全上位互換で物理的干渉を回し、相手へ返還する受けの奥義である。

「この世の全ては流転するもの、ならば回して返すのも容易いのは当然じゃろう?」とガモンは論じる。


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