『G』の異世界漂流日記   作:アゴン

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やっと短編らしい短さになった。


その10

 

Σ月G日

 

 夏。鬱陶しい梅雨の季節は過ぎ去り、日がこれでもかと照らし出す時期、今日自分は学園の一学年の生徒達とその担任の教員達と共に臨海学校の場所として、とあるリゾート地に来ていた。

 

海が近くにある旅館に荷物を降ろした後、自由時間の時、教員の皆さんの監視の下で生徒達は自由に海を満喫していた。普段は厳しい訓練と授業により抑圧されていた鬱憤を晴らす様に遊ぶ彼等を見て、自分達引率側ははあまりハメ外しないよう、適度に監視し、注意を促した。

 

砂浜で遊ぶ子供達、悠々と波に漂う者もいれば友人達と共に波打ち際で水を掛け合ってたりして皆、それぞれの楽しみ方でエンジョイしていた。

 

一夏君も女子に囲まれながらも楽しそうに遊んでいた。……若干振り回されているようだったけど、それでも友人達と一緒に遊ぶ彼の顔は本当に楽しそうで安心した。

 

簪ちゃんもタッグトーナメント戦で見せた勇姿が他の女子生徒達に深く印象を与えたのか、自分のクラスの子達に囲まれ、皆と楽しく遊んでいた。ただ、今までクラスとの交友が無かった為にその時の簪ちゃんはドギマギと緊張した様子だった……。

 

尤も、タッグトーナメント戦の時とは別人の彼女とのギャップが女子達の琴線に触れたらしく、簪ちゃんは暫しもみくちゃにされていた。本人は嫌がっていたが……満更でもないような顔をしていたので取り敢えずスルーしていた。彼女の従者と自称する布仏本音───のほほんちゃんも、嬉しそうにしていたし、別に大丈夫だろう。

 

箒ちゃんも特に変わった様子もなく……いや、前よりも明るい調子で皆と遊ぶ彼女の姿に自分もひとまず安心する事が出来た。余裕……というものが出来たのかもしれない。一夏君が他の女の子と遊んでいる所を見ても取り乱さずに、楽しそうに遊んでいる一夏君を見て嬉しそうに笑っている箒ちゃんを見て、自分も何だか喜ばしく思えた。

 

自分はというと、終始監視の立場に専念する為に海には入らなかったのだが、途中拙いハプニングが起きたので急遽海に駆り出す事になった。

 

一夏君と競争していたのか、遠い沖合まで出ていた鈴音ちゃん。その時は少し波も高くなっていたし、大丈夫かなと自分が心配になったその時、突如発生した大波に体を呑まれ、鈴音ちゃんは海の底へと呑み込まれてしまった。

 

しかもその時は間が悪く、織斑先生を含めた他の教員が近くにいない為、自分が対処する事になった。パーカーを脱ぎ捨て、速やかに駆けた自分は鈴音ちゃんが沈んだ所に到達すると同時にダイブし、彼女のライフセイブに乗り出した。

 

一夏君の手助けもあり、大事には至らなかった鈴音ちゃん。ただ水を呑んでいたので、彼女は落ち着くまでセシリアちゃんに任せ、旅館に一時戻って貰った。その後も自分は引率として監視に集中したのだが……いやー良かった。海での───というか、ああいった事故は一分一秒が人の生死に大きく影響する為内心少々焦ったが、目を覚ました後の彼女も特に異常は見受けられなかった。あの分だと、鈴音ちゃんの容態は殆ど心配いらないだろう。

 

織斑先生や山田先生にもこの事は報告しておいたし、山田先生が様子を見に行っていたから、本当に大丈夫なのだろう。

 

しかし、やはりああいった現場を目撃したのは皆なかったのか、鈴音ちゃんが溺れた時のビーチの一部は一時騒然となった。当然か、何せ同じ学友の生徒が海に溺れ、一時意識を失っていたのだから。

 

引率の一人と監視という立場があった為に自分は咄嗟に動けたが、もし自分が観衆の一人だったら、きっと何も出来ず呆然としていた事だろう。

 

ただ、人工呼吸をする際に騒ぎ出すのはいただけない。人工呼吸とは言わば人に出来る最小限且つ最大限の人命救済処置なのだ。決して遊び半分で学ぶべきものではない。

 

駆けつけた織斑先生もそれが分かっていた為に、騒いでいた生徒達を厳しく叱っていたのだ。これを教訓に彼女達もその辺りのことしっかりと学んで貰いたいものだ。

 

遊び終えた皆はその後、旅館の宴会場で夕食を取る事になるのだが、一組のクラスが相変わらず賑やかだった。直後に織斑先生が叱りにいったりして此方も相変わらず忙しそうだった。

 

 因みに旅館における一夏君の部屋は自分と同室だった。今回の臨海学校での男性枠は自分達だけなので織斑先生が二人が同じ部屋になるよう取り計らってくれた。

 

その後、一夏君が織斑先生の部屋に呼ばれたりしたりしたけれど、それ以外は特に変わった事がなく、その日は多少のアクシデントはあったもものの、総じて楽しい一日となった。

 

ただ、鈴音ちゃんからは「アレはノーカンですから!」と、意味不明な事を言われてしまった。顔色も何だか赤かったし、もしかしたら事故の後遺症なのかもしれない。織斑先生からは大丈夫だろうと言われたが、万が一ということもあるので学園に帰ったら精密検査をするよう自分の方から保健の先生に言おうと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───朝。まだ日が昇りきっていない薄暗い世界、まだ生徒の誰もが起床していない時間帯、一人の影が旅館内をさまよっていた。

 

パタパタと旅館の従業員が動き出す足音に混じり、一人の男が従業員の人達とすれ違う度に旅館内で慎ましい挨拶の声が静かに響き渡る。

 

「さて、朝食にはまだ時間があるし、旅館周辺の見回りでもしてくるかな」

 

男───白河修司は己の役割を果たすべく旅館の周辺の見回りを自ら買って出る。数少ない男手、少しでも他の先生達の負担を軽くすべく、自ら行動を開始する。

 

既に従業員の人達には事情を話した。早いところ見回りを終えて朝食を取ろうと、旅館から一歩外に出たとき……。

 

「───やぁ、君が……白河修司であってるかな? あってるよね?」

 

────彼女が、いた。フリフリのドレスに身を包み、頭にはピコピコと兎の耳を形取ったデバイスを取り付けた女性が、極大の敵意と殺意を身に滲ませて修司の前に現れた。

 

音も無く、気配もなく、幽鬼の如くユラリと現れる彼女に修司の視線が集中する。

 

何だコイツは……と、警戒心を露わにする修司をまるで面白いものを見るように目の前のアリス(天災)は口元を歪める。

 

「アレアレ? どうしてお返事してくれないのかな? あ、もしかして自分のコレまでの行動が全部隠せていると思っていたのかな? プックク~、君って結構抜けてるんだね~」

 

クスクスと笑みを浮かべているも、その実笑顔とは程遠い冷たい目をしている天災に修司は身構える。一触即発の空気、いきなり頂点を決める戦いが勃発しようとした時。

 

「クッフフ、やだなーシーちゃん。冗談だよ♪ そんな怖い顔をしないでしないでー♪」

 

天災は顔を満面の笑みに染め上げ、バンザイとばかりに両手を挙げる。敵意も殺意も微塵も残さず四散させる天災を前に修司は拍子抜けた様子に面食らう。

 

「今回私が来たのは妹にプレゼントを渡すだけなんだー、だからシーちゃんと遊ぶのはまた今度」

 

アハハハと、無邪気に笑う天災。表情をコロコロと変える目の前の存在を計りかねた時。

 

「けど、いつかお前の化けの皮……引き裂いてやるからな」

 

その整った顔から、再び巨大な悪意を覗かせた。それに反応して修司が対応しようとするも、不自然な風が修司の視界を遮った。ホンの僅かな合間、それこそ一秒にも満たない時間だったのに、既に目の前に人影はなく、昨日自分達が通ってきたアスファルトの道が続いているだけだ。

 

 朝日が水平線の向こうから顔を覗かせる。人気のない道路にただ一人佇む修司は……。

 

「なんだ……今の。もしかしてアレが……最近良く耳にするメンヘラな女性という奴なのか?」

 

たった今現れた天災を修司はただの変質者として片付けるのだった。

 

篠ノ之束 その名を知らない人間は殆どいないが、その容姿は本人が行方を眩ませる際に各国家から行き先を悟られぬよう全てのデータを自ら消去している為、彼女の姿と名前を一致させる事が出来る人間は意外といない。

 

 

 

 




束博士って、名前が知られてる割には姿とか分かっていないよね。
アニメとか見ててふとそう思って今回の話にしました。

詰まるところ。


兎「ウフフ、君がどれほどなのか見せて貰おうか」(ドヤ顔)

主「え? 誰この変態」

みたいな認識となっております。


尚今回の感想ですが、リアルが忙しいため返す事が困難となってしまいました。

申し訳ございません。

ただ、皆様の感想は毎回楽しく読ませて頂いております。

本当に、ありがとうございます。

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