クロスワールド~紡がれる戦士たちの軌跡~   作:鈴ー風

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うおぉ……
とりあえず、一言。

時間がかかってしまい、もーしわけありませんでした!!

今回で、ひとまずキリト達の戦いは終幕です。
では、どうぞ!


第二話「共闘 魔法使いと黒閃の剣士」

 

 

「魔法、使い…?」

 

 キリトは、青年の言葉をすぐに理解することができなかった。魔法とは、ファンタジー世界に当たり前に存在していそうなものだが、残念ながらSAOには魔法が存在しない。そのため、キリトは魔法について、「手から火が出せる」程度のありきたりな想像しかできなかった。

 

「キリト君っ!!」

 

 そんなことを考えていると、両目いっぱいに涙を浮かべたアスナが、突撃するかのような勢いでキリトに抱き着いた。

 

「ぐぅっ…!」

 

 身を切り刻まれたような激痛が走ったが、そこは男の意地だろうか。(うめ)き声は、何とか飲み込むことができた。

 

「キリト君…キリト君…!怖かった…キリト君も、私も、死んじゃうんじゃないかって…また、一人になっちゃうんじゃないかって…」

 

 その後の言葉は、嗚咽と混じり合って聞こえなかった。だが、アスナの体は小刻みに震えていた。体中の感覚が痺れ始めていたキリトでも、その震えは感じ、理解することができた。その震えが意味する想いも、全て。

 

「…アスナ」

 

 だからこそ、キリトは自由の利かない右手をかろうじて動かし、アスナの頬を伝う涙を拭った。そして、激痛に叫ぶ体に鞭打って動かし、アスナの唇を、自分の唇でふさいだ。

 

「っ!?キ、キリト君…」

 

 一瞬だけ触れた唇が離れ、キリトのぼやけた目にもはっきりと映るほど、アスナの顔は赤く染まっていた。

 

「前に、言ったよな…俺の命は、君のものだ、って…君が生き残るために、使うって…でもさ、これからは…君の命も、俺にくれないか?君だけが、俺だけが生き残るためじゃない。二人で生き残るために、一緒に元の世界に…現実世界に戻るために戦おう。俺たちの命を、想いを、一つにして。もう二度と、離れ離れにならないために……」

「…キリト、君……」

 

 それは、絶望を目の当たりにし、絶望を乗り越えて奇跡を起こしたキリトが掴んだ、一つの答えだった。

 

「もしかしなくても、俺、お邪魔?」

「「っ!!?」」

 

 キリト達の行為を静観していた男は、飄々(ひょうひょう)とした笑みを浮かべながら口を開いた。キリトもアスナも、男の存在を完全に忘れていたらしく、二人そろって顔を赤くした。アスナに至っては、再び泣き出しそうにすら見える。先ほどとは別の意味で。

 

「グルオオォオ……」

 

 そうしていると、しばらくその動きを止めていた《イルファング・ザ・コボルドロード》がゆっくりと立ち上がり、その視界にキリト達を捉えた。

 

「そろそろあのファントムも、待ってくれそうにないな」

 

 男もコボルドロードの方へ向き直り、そのまま銃を片手に歩き出した。

 

「ふぁん、とむ…?お、おい、待て!」

 

 キリトは慌てて、男を呼び止めた。いくらSAOで珍しい銃を持つからといって、男の格好は黒いコートに赤いズボンという、あまりにも戦いからかけ離れた服装であった。SAOの時と違い、ダメージが実際の衝撃となる今、男の格好はまさに自殺行為といえるものだったのだ。

 

「その格好じゃ、戦いは、無理だ……俺が、戦う…ぐっ!」

「キリト君!」

「その様じゃ、アンタの方が無理だろ。いいから俺に任せとけ」

「で、でも……アンタの力じゃ」

 

 敵わない。キリトがそう口にしようとした瞬間、それより早く、コボルドロードが隠し持っていた武器、「トマホーク」を投げつけてきた。

 

「ヤバい……っ!」

 

 かわせない。キリト達を正確に狙うトマホークに、焦りを覚えるキリト。

 だが、そんなキリトとは対照的に、男は素早く右手の指輪を付け替えると、その右手をベルトの中央に位置する、手を模したバックルに翳した。

 

『ディフェーンド!プリーズ』

 

 独特の機械音がバックルから発せられると同時に、男の前に巨大な赤い魔方陣が出現し、トマホークをいとも簡単に弾いてしまった。

 

「なっ……」

「す、すごい…」

 

 初めて魔法を目の当たりにし、キリトとアスナは愕然とする。だが、キリトが驚いたのはそれだけではない。今の行動を即座に弾き出す決断力、そしてそれを確実に実行するだけの技量、実行力。いずれをとっても、男の実力を示すには十分すぎるものだった。

 そしてそこから、キリトは自分達とは比較にならない何か、別の「覚悟」を感じ取った。そこに、キリトは驚いたのだ。

 

「で、俺の力が何だって?」

 

 キリト達に向けた男の表情は、やはり飄々としていて。

 

「…いや、余計な心配だった」

「分かればよろしい」

 

 どこか、強い安心を覚えた。

 すると、男は再び指輪を付け替え、バックルに翳した。

 

『ヒール!プリーズ』

 

 すると、今度は小さな魔方陣から緑色の風が吹き出し、キリトの体を包み込んだ。

 

「…これ、は?」

「最近見つけた、治癒の魔法さ。回復するまで少しかかるから、大人しくしてな」

 

 そう言ってコボルドロードへ向き直った男は、三度(みたび)新たな指輪に付け替え、バックルに翳した。

 

『ドライバーオン!プリーズ』

 

 機械音と同時に、指輪を翳したバックルの形状が変化、ベルトと一体化した。

 そして、ベルトを両手で操作すると、バックルの手の向きが変わり、ドライバーから淡い光のエフェクトが発せられた。

 

『シャバドゥビタッチヘンシーン!シャバドゥビタッチヘンシーン!』

 

「さっき聞いちまったからな、お前らの『希望』」

 

 男は、最後にもう一つ指輪を取り出し、その指に嵌めた。

 ただし、今度は左手(・・)に。

 

「お前らの希望は俺が守ってやる。俺が、最後の希望だ」

 

 希望。男はそう言うと、左手に嵌めた紅き指輪に右手を添え、一つの言葉を口にした。男が、希望となる言葉を。

 

 

 

「変身!!」

 

『フレイム!プリーズ。ヒー、ヒー、ヒーヒーヒー!』

 

 

 紅き指輪のジョイントが嵌まり、その指輪をバックルに翳した瞬間、男の横に赤い魔方陣が出現し、炎を纏って男の体を通過する。魔方陣の炎に包まれた男は、一瞬にして漆黒のローブに身を包み、深紅が映えるメタリックなフルフェイスの仮面がその顔を包んでいた。

 

「アンタ、一体…」

「またそれか。俺は操真晴人、希望を守る魔法使い…仮面ライダーウィザードだ」

「「仮面、ライダー……」」

 

 仮面ライダー。初めて聞くその言葉を口にするキリトとアスナをよそに、男――――ウィザードは、左手の指輪をおもむろにコボルドロードへ向ける。戦いの始まりを告げるために。

 

「さあ、ショータイムだ」

 

 言うが早いか、ウィザードは銃を構えながらコボルドロードへ向けて駆け出した。銃撃で牽制するが、不意討ちだった先程とは違い、その殆どがかわされ、斧で弾かれ、(ことごと)く無力化されていく。

 

「銃は効かないか…なら」

 

 銃の効果が薄いと判断したウィザードは、手にしている銃――――ウィザーソードガンをガンモードからソードモードへと切り替えた。そして、コボルドロードが斧を降り下ろすタイミングに合わせ、カウンターのように剣をコボルドロードめがけて振り払った。

 

「どりゃっ!!」

「グエアァアッ!!」

 

 見事に決まったカウンター気味の一撃は、贔屓目(ひいきめ)に見ても少なくないダメージを与えたはずである。

 だが、コボルドロードは怯みこそしたものの、それも一瞬。即座に体勢を立て直すと、周りの木を利用してその巨体からは想像もつかないようなスピードで飛び回り始めた。

 

「空中戦か。なら、こっちはこれだ!」

 

『ハリケーン!プリーズ。フーフー、フーフーフフー!』

 

 今のままでは分が悪いと判断したウィザードは、再び左手の指輪を付け替え、ハンドオーサーを操作すると、▽を模した鮮やかな緑色の指輪をバックルに翳した。

 先程とは違い、指輪と同じ緑色の魔方陣が現れると再びウィザードの体を通過する。すると、ウィザードの仮面も緑色に変わり、辺りに風が吹き荒れた。

 

「色が、変わった!?」

「こっちも空中戦だ!ッハ!」

 

 後方で驚くアスナを余所に、ウィザードは地面を蹴り、高く飛び上がった。すると、ウィザードの足元に風が集束し、その体を更に高く押し上げた。ウィザードはウィザーソードガンを逆手に持ちかえると、そのままコボルドロードめがけて剣を振り払う。

 斧と剣、武器の大きさ的に大きなアドバンテージを取られているウィザードだが、そんなことは微塵も感じさせない太刀筋で着実にコボルドロードへのダメージを蓄積させていく。

 だが。

 

(マズイな…)

 

 このままではジリ貧になる。ウィザードは、そう感じていた。確かにウィザードの攻撃は、コボルドロードにダメージを与えている。が、決定打に欠けているのだ。敵の実力を把握できない以上、このままでは、いずれウィザードの魔力が尽きるのが先だろう。

 

(何か、決定的な一撃が――――)

 

 ウィザードの一瞬の雑念を見逃さなかったコボルドロードの一撃が、ウィザードの右側から襲う。

 

「ぐぁっ!?」

 

 かろうじてウィザーソードガンを自身と斧の間に滑り込ませ直撃を防ぐが、重い一撃にウィザードの体が地面へ叩き付けられる。

 

「ウィザード!」

 

 キリトがウィザードの名を呼ぶ。幸い、ウィザードのダメージは軽そうだった。

 

「ああ…アンタ、もう大丈夫なのか?」

「ああ、おかげさまでな」

「そりゃ何よりだ。もう少し待ってろ、今アイツを…」

 

 あくまで軽い感じを崩さないウィザードの肩を、キリトはつかんだ。

 

「待てよ。俺たちも戦う」

「一人で行こうとしないで下さいよ」

「いや、危険だ。俺一人で――――」

 

『無茶しないでよ、晴人くん』

『一人で抱え込まないでください、晴人さん』

『一人で悩んでんじゃねえぞ、晴人』

 

 不意に、ウィザードの脳裏に声が響いた。それは、嘗ての仲間たちの声。魔法使いである前に人である晴人が、一人で抱え込み、悩み、潰れそうになる度に支えてくれた、励ましてくれた、大切な声。

 その声で、ウィザードは自らが再び間違いを犯しかけたことに気づくことができた。

 

(…そう、だったな)

 

 自分は一人じゃない。今はもう、それに気づいているからこそ、ウィザードは言葉を改める。

 

「分かった、手伝ってもらおうか、二人とも。えーと…」

 

 そしてウィザードは、今更ながら二人の名前を覚えていないことに気付いた。

 

「キリトだ」

「私はアスナです」

「ああ、悪い。キリト、アスナ」

 

 どこまでも軽いウィザードに、キリト、アスナ両人は若干呆れている。しかしウィザードは気にした様子もなく、再び口を開く。

 

「さて……手伝ってもらうのはいいとして、問題はどう攻めるかだな」

 

 問題はそこである。相手の力量が分からず、かつこちらは手負いの人間もいる。コボルドロードの圧倒的なスピードを封じ、尚且つ決定的な一撃をぶつける作戦でもなければ、恐らくこちらに勝機はない。

 だが、悩むウィザードとは逆に、キリトが静かに、しかし自信に満ちた表情で口を開いた。

 

「それなんだが、ウィザード……俺に考えがある」

「キリト君?」

「へぇ…いけそうなのか?」

「ああ。でも、この作戦は俺だけじゃ出来ない。アスナ、それに……アンタの力も貸してもらわなきゃいけない、ウィザード」

 

 考えがあると言ったキリト。その年相応の顔に、不安は一切見受けられない。

 その顔に、ウィザードは覚悟を感じた。必ず勝つ、という覚悟を。

 だから、ウィザードはその提案に賭けた。

 

「いいぜ。乗ってやるよ、その作戦に」

「すまない、ウィザード。アスナも、それでいいか?」

「私がキリト君を信じなかったこと、あった?」

 

 ウィザード、アスナ……双方が自身に全てを委ねているこの状況に、しかし幼き剣士は臆することなく、己が提案を語る。

 

「あまり時間が無い。手短に話すぞ。いいか、まずは――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウィザードを圧倒したコボルドロードが、威圧するようにゆっくりと、ゆっくりとウィザード達に歩みを進める。その手に持つ斧の射程圏内に三人を捉えると、ゆっくりとそれを高く掲げ、

 

「グアァアアッ!!」

 

 三人目掛け、降り下ろしてきた。

 

「ーーーいくぞっ!!」

 

 同時に、キリトから発せられた合図によって、三人は弾かれたように動きだし、降り下ろされた斧の回避に成功する。

 

「はああぁぁっ!!」

 

 斧が叩きつけられて舞った砂ぼこりに紛れ、コボルドロードの死角からその姿を現したアスナ。その手にした『ランベントライト』は、青白い光を纏っている。

 

「せあぁあっ!!」

 

 光が集束しきったと同時に、手にした武器を真っ直ぐに突き出す。すると、コボルドロードの右腕に打撃音が三発響く。

 《閃光》の名を持つアスナの代名詞、超高速の"リニアー"である。

 

「グアァアアァアッ!?!」

 

(アスナは、奴の攻撃を掻い潜って、攻撃の手を止めてほしい。ほんの一瞬でいい、頼む)

 

 アスナに課せられた役目は、高速の剣技による不意打ち。

 超高速の連撃は流石に効いたようで、斧から手が離れる。アスナの役目を全うするには、十分すぎる威力だった。

 そして、その一瞬をウィザードは見逃さなかった。

 

(ウィザードは、アスナの攻撃が成功したら、奴の動きそのもの(・・・・)を止めてくれ。攻撃は俺に任せてくれ。アンタなら、できるだろ?)

 

「言ってくれるねぇ」

 

 ウィザードに課せられた役目は、所謂足止め。

 しかし、再び赤い仮面に戻ったウィザードは、仮面の下で飄々とした笑みを浮かべながら、新たな指輪を右指に嵌める。

 

『バインド!プリーズ』

 

 「拘束」を意味する指輪の効果により、複数の魔方陣が出現し、そこから現れた無数の鎖がコボルドロードの胴体を腕ごと縛り付ける。

 

「これでいいだろ。いけ!キリト!!」

「後はお願い、キリト君!!」

 

 充分すぎるほどにその役目を全うした二人の声が、残る剣士へとかけられる。

 己が片腕と呼べるエリュシデータをその手に掴み、野獣の如き殺意を纏った剣士は、二人の声に、はっきりと答えた。

 

「ああ!」

 

 そのままコボルドロードの元へと走り、両手に持つ剣を高く振り上げ、青き輝きを纏ったそれをコボルドロードへ叩き付けた。

 

「グアァアアァアアアァッッ!!」

「ぅぉおおおおおあっ!!」

 

 コボルドロードの悲鳴が響く。が、キリトはその手を緩めない。力の限り、二刀流最強の剣技、゛ジ・イクリプス゛をコボルドロードの体へ叩き込む。一撃、また一撃と、斬撃が命中する度に、コボルドロードから苦悶の叫びが響く。

 

(よし、効いてる!今度は効いてるぞ!!)

 

「これで、どうだああぁぁぁぁっ!!」

 

 確かな手応えを感じながら、キリトは、遂に最後の27発目の斬撃をコボルドロードに叩き込んだ。同時に、コボルドロードの声が止んだ。

 

 倒した。

 

 そう、思った。

 

「グルルルァア………」

 

 しかし、キリトの目に映ったのは、依然として赤く目をギラつかせているコボルドロードだった。その体に、ポリゴン化の兆しは無い。

 

「や、ばい……」

 

 キリト達の使うソードスキルには、使用後に硬直時間がある。キリトは今、文字通り全身が硬直していた。

 

「キリト君っ!!」

 

 このままでは、攻撃を避けられない。瞬間、運悪く、ウィザードの呼び出した鎖が千切れ、虚空へと消えていく。

 好機とばかりに攻撃のモーションに入るコボルドロードに、キリト達は為す術がなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ったく、しょうがねえな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『フレイム!スラッシュストライク!ヒーヒーヒー!ヒーヒーヒー……』

 

 ただ一人を除いては。

 その呟きの刹那、キリトの真横を猛スピードで赤い何かが過ぎ去った。そして、次の瞬間、コボルドロードの体を通過したかと思うと、その体はポリゴンとなり、虚空へと消えた。

 

「ぁ……」

「ぇ……」

 

 目の前の危機は過ぎ去った。ほんの一瞬の出来事に、二人の幼き剣士は茫然として、その場にへたり込んだ。

 そして、

 

「ふぃ~」

 

 ウィザードーーー改め、操真晴人はいつも通り一服を入れていた。

 

 剣士と魔法使いの共闘は、こうして終幕(フィナーレ)を迎えた。

 

 




と、いうわけで第一戦終了です。
さて、次は誰が出るんでしょうか?よろしければ、少しでも考えながら待っていただけると幸いです。

ではまた、次回で!

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