「お帰り、タバサ」
僕の自室で待機していたキュルケが本を閉じて迎えてくれた。
「タバサという偽りの名前は僕が僕でない為に着けた名前。親しい人にいつまでもその名前で呼ばれると嫌になる」
「何よ、もう……ってあれ? そう言うってことは私のことを」
「キュルケ、僕ことシャルロット・エレーヌ・オルレアンの妾になって。不自由はさせないし、捨てたりもしない」
「妾って言うとやっぱり、第一夫人はあの姫様?」
「形式上そうなるけど、政略結婚だから仕方なくそうなるけど僕は平等に愛を注ぐよ」
「ふふっ、引き受けるわ。言っていることは最低の男のそれなのに憎めないのはそれだけ貴方を愛している証拠だもの」
「う……」
「でも一つ聞いてもいいかしら?」
「何?」
「私、ゲルマニアの人間よ。ゲルマニアと仲悪くなるようなことをしておいてゲルマニア人の私を妾にするなんて挑発行為以外の何者でもないわ。それでもいいの?」
挑発行為ね。確かにそうだけど、ガリアとトリステインが同盟している以上それはない。戦争するなんてことはやりたくとも出来ない。プライドの高いトリステインならやりかねないけどゲルマニアは合理主義で勝ち目がなければやらない。
「それで仮にゲルマニアと戦争になることがあっても僕は構わないよ。僕は君を離さないから」
それに僕はキュルケを愛している。戦争が起こったとしてもキュルケを手放すなんてことはやらないしさせない。
「そう……ありがとうタバサ」
「シャルロット・エレーヌ・オルレアン」
眉を顰めながら訂正する。
「じゃあシャルロット、私の他に妾の候補いるんでしょ? その人達と話し合いましょうか」
「気づいていたの?」
「そりゃね。最初の内こそ初なシャルロットがどんどんタフでテクニシャンになっていくもの。余程経験を積まないとああはならないわよ?」
「ゴメン……」
「それで後の人達は?」
「三人。そのうち二人は人外」
「人外? それって人じゃないってことよね? 亜人か何か?」
「一人はキュルケも知っているエルザ」
エルザは僕の棒から出るアレが大好物でそれ提供する代わりに大人しくする契約を結んでいる。故にメイドにするとあらぬ噂が一人旅してしまう為、妾にせざるを得なかった。
「……ロリコン」
確かにエルザの見た目は少女そのものだけど吸血鬼で、実年齢はこの学院で学院長に次いで年を取っている。あのコルベール先生や枢機卿よりも年上。その事をキュルケは地下水を通して知っている筈なんだけど、エルザの見た目を考えてかそう罵って来た。
「それを言ったらキュルケだってショタコン」
自分で自分のことをショタと言うのはアレだけど、小柄で童顔、しかも身体は華奢だから成長途中の少年としか言いようがない。
「あら心外ね。私はタバサコンプレックス、略してタバコンよ」
キュルケが虚を突かれた僕の口を塞ぎ、大人のキスをする。
「ぷはっ……やっぱり巧いね。キュルケ」
おかげでこっちまでエッチな気分になってくるよ。そしてキュルケを押し倒そうとするとキュルケが僕の口を人差し指で抑えた。
「ダーメ。シャルロット、貴方にはすべきことがあるわ」
「すること?」
「そうよ。私の他に奥方になる人を私の前に連れて来なさい。そしたらエッチ解禁よ」
「う……」
キュルケが出し惜しみするなんてよっぽどのことだ。それほど僕の妾や王女様が気になるんだろうね。
「さ、行ってらっしゃい。全員揃ったらヤリましょう」
今、この場で嘘を言ってキュルケと結婚してもいい。だけどキュルケ以外に守れなくなる。それだけは嫌だ。僕は初めて自分の欲望の為に行動する。
エルザには今までと変わらないことを伝え、マチルダの元に向かう。
「あらミスタ・タバサ。私に何かご用ですか?」
あくまでも他人行儀で対応するマチルダに耳元でささやく。
「マチルダ、僕の妾にならない?」
「なっ、な、何を……!?」
「アレだけ摂取しておいて何を今更」
「いや、あんたの口からそれを言われるとは思わなかったんだよ。あの王女様の夫になるとなればその妾もそれなりの者じゃないと釣り合わないんじゃないかって思っていたから」
「妾って普通にメイドとかそんな立場の人でもなれるから……」
「そりゃそうなんだけどね。いざ言われると恥ずかしいもんだよ」
「じゃあ引き受けてくれるの?」
「いや、御断りさせて──」
「そうそう、テファも妾にする予定だから」
マチルダが断ろうとした瞬間に僕が声を被せる。この言葉こそ切り札だった。
「あんた、モード大公の悲劇を知らないのかい?」
「アルビオンの大公様が何らかの理由で殺されたんでしょ? 表向きはモード大公がアルビオン王家に反逆しようとしていたからだと聞くけど、実際はモード大公はエルフとの間に子供を作ってしまった……その子供の名前はティファニアでしょ?」
「……信じられないね。テファと一度会っただけでそこまで推測していたなんて」
「マチルダの素性でピンと来たんだ。マチルダの家系は大公に仕える家で、大公以外で唯一その騒ぎで家を失った貴族。その繋がりでテファがモード大公の娘だと気づいたんだ」
「参ったね。でもテファはガリアには連れていけないよ」
「耳の心配なら大丈夫。エルフの耳を幻術で人間の耳に見せる道具がある。確かガリアに来たエルフのお偉いさんがそれを着けて観光していたよ」
「じゃあそれさえ着ければ人並みの生活が出来るのかい?」
「うん……だけど」
「だけど?」
「胸をごまかす道具はまだ出来てないんだ」
テファの胸はとにかくデカイ。キュルケがメロンならテファのは特大メロン。キュルケだって普通に注目されるほどデカイのにその一回りどころか二回り上のそれを見て平気でいられる男は何人いるだろうか。おそらく僕の知る限りでは皆無。
「安心しな私がついているさ。私の屍を越えない限りテファに近づくことすらできない。それはあんたも一緒よ」
マチルダが僕の股間を叩き、セクハラする。
「なっ……!」
「その下の杖で私をイカせてからヤりな。もっともテファを泣かすような真似をしたら……ここをチョッキンしますわ」
マチルダが営業スマイルで僕の股間の棒を指二本で挟み、それが何を意味するのか理解して頷いた。
「それじゃあ妹には伝えて置きますわ。ミスタ」
「じゃあね」
妹か……それだけテファのことを大事に思っているんだろうな。テファもマチルダのことをマチルダ姉さんって言っていたしね。何にせよ皆、僕の妾になったからには絶対に僕が幸せにしてみせるよ。そして「貴方と一緒に居られて世界一幸せだった」と言わせてやる。
急ぎ過ぎ、と言われても仕方ない。だって次回で一旦完結したいもの。
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