酷い目にあった。
キュルケが寝るまで何度も搾り取られる羽目になったけど僕の秘密は守りきったから良しとしよう。
『しかし坊主凄えな。お嬢ちゃんの10倍はイッたのにお嬢ちゃんの方が先にダウンしちまうなんて……相当な精雄じゃねえの?』
いやあれはマチルダに鍛えられただけだから! マチルダに鍛えられる前だと一回イッただけてもヘトヘトになっていたんだよ。
『と、そのマチルダが来たようだぜ』
え?
「ミスタ・タバサ。起きていますか?」
その瞬間部屋のドアを叩く音とマチルダの声が響く。
「ちょっと待って」
キュルケをレビテーションでベッドの下に放り込み、着替える。
「お待たせ」
ドアを開くとマチルダがベッドのほうを見つめ、口を開く
「おはようございます……昨夜はお楽しみでしたねミスタ・タバサ?」
「ミス・ロングビル、何の用?」
サイレンスを唱え、そう尋ねるとマチルダが目が笑わない笑顔で答えた。ああ、何か僕の知らないところで変な噂が流れたパターンだ。
「アンリエッタ王女がお呼びです。準備が出来次第、学院長室に向かいます」
その一言であの姫様が外堀を埋めたことを察した。
~学院長室~
「オルレアン公、よく来てくれました」
笑顔で王女様が迎え、頭を下げる。王女様が頭を下げるということは僕に対して悪気があったんだろう。
「王女様、それで僕に用事があるみたいだけど?」
「ええ。その前にここからは三人でお話をしたいのでミス・ロングビル、席を外してくれませんか?」
「かしこまりました」
不満げにマチルダが退室して、この部屋にいるのが三人だけになる。
「そこにいるオールド・オスマンに私達の結婚式が決まり次第、仲人になって貰おうと思いまして」
「学院長に?」
「ほほう。興味深い話じゃな……」
この様子を見ると学院長は既に買収された様だ。
「ええ。本来であればマザリーニ枢機卿に任せるべきことなのですが、彼は私達の結婚に反対しており仲人を勤められる状況にありません」
昨日の今日でそこまで話が行ったことに驚きだよ。
「反対か……まあ枢機卿の言うこともわからんではない。ガリアに少々良からぬ噂がある上に、オルレアン公を婿にする声も上がってきている。トリステインの王族は姫様と王妃様の二人だけで、王妃様は政に手を出さぬ以上、実質姫様一人となる。しかしガリアの王族は現国王とその娘イザベラ姫、そしてオルレアン公の三名。しかも三人ともに政治が出来るというのじゃから誰か一人くらいいなくなっても支障は出ないから問題はないと考えているのじゃろう」
……無能王と無能姫の二つ名が息をしていない? トリステインの貴族ってこんなに頭柔らかかったけ?
「僕がガリアを継げなかったとしてもイザベラ姫様が後を継げば良いだけだしね。それか優秀な貴族を婿にして継がせる」
「うむ。枢機卿はトリステインの例をごり押しして現国王の直系の血筋をガリア王家にさせることでオルレアン公が婿に行っても問題ないようにするのじゃろうて。過去の例からそんなことを出来るはずもないのに」
「それどころかガリアとトリステインの大戦争待ったなし」
こればかりは避けられないだろうね。唯一無二の男のガリア王族がガリアの王になれないなんて馬鹿げた話は聞いたことない。それをマザリーニ枢機卿は引き起こそうとしているからとんでもないな。
「儂はこういったことにあまり口出しすべきことではないが、この学院の可愛い生徒達を戦場の駒にされてはたまったものではない。アンリエッタ様、その話ぜひ受けましょう」
僕がそう言ったことでオスマンが仲人になることがほぼ決まり、アンリエッタ王女が笑顔で頭を下げる。
「ありがとうございます。オールド・オスマン」
「そうと決まれば早速、マザリーニ枢機卿を説得しなければな」
学院長が鈴を鳴らすとマチルダが再び入室し、僕に目で何かあったのかを尋ねる。それに対して僕は、姫様と結婚することになったことを目で語った。
「お呼びでしょうか?」
「マザリーニ枢機卿を呼んで来てくれ。早急にな」
「かしこまりました」
マチルダが退室するとアンリエッタが耳打ちする為に僕の耳元で囁いた。
「ところでミスタ・タバサ。貴方が婿になれば立場上妾は出来ませんが私が嫁に行けば妾も出来ますわ」
「なっ!?」
「あの奥方の悲しむ顔、見たくないでしょう?」
奥方……キュルケのことだね。いやキュルケだけじゃない。マチルダやテファ、エルザの悲しむ顔が目に浮かぶ。
「でも王女様はいいの?」
「私は、構いませんわ。何せ私、頭がお花畑で綺麗事が大好きですわ。独占するよりも共有した方が幸せになれますわ」
お花畑って、好き勝手言っている貴族に対する皮肉?
「ありがとう……」
「まだ喜ぶのは早急ですわ。これからマザリーニを説得しなければなりません」
「そうだね」
その数分後、学院に滞在していたマザリーニ枢機卿が学院長室に入室してきた。
「さてオールド・オスマン。私に話したいことがあるようですが一体?」
「うむ。その前に一つ宜しいかの。そこにいる少年を紹介させて貰おう。彼の名前はシャルロット・エレーヌ・オルレアン。現オルレアン公じゃ」
「貴方がそうでしたか……はじめまして枢機卿のマザリーニと申します」
「どうも」
「それでそのオルレアン公を会話に入れると言うことは、やはりガリアとの同盟の件ですかな?」
「その通りです。マザリーニ枢機卿は姫様を嫁に行かせることを反対しているそうですな」
「ええ。しかし何も考えずに反対している訳ではありません」
「と言うと?」
「姫様の人気が原因なのです」
「私の?」
「このような歌が街で流行っています」
「トリステイン王家には美貌があっても杖がない。杖を振るは枢機卿、灰色帽子の鳥の骨……でしょ?」
僕がその歌を歌うと枢機卿が頷いた。
「その通り。姫様には政治力がないと認識されているにもかかわらず、平民からの人気が絶えませぬ」
「それで?」
「只でさえ、姫様を外国に留学させて不満を募らせているのにその外国の王族に嫁ぐとなれば暴動を起こします」
「マザリーニ、そうでしょうか?」
「ええ。正確には姫様を国外に出さずに傀儡としたい貴族が姫様の人気を利用して焚き付ける。私の所にもその活動をするように推進されています。もっともやる気は全くありませんが」
王女様を傀儡にしたい貴族にとって僕は邪魔な訳だ。
「オルレアン公の婿入りは何故反対しないのですか?」
「トリステインにオルレアン公を婿入りさせることで平民達の不満を減らすだけでなく、オルレアン公の発言力を減らしたい訳です。王家の権力があまりにも強いと貴族達が弱体化し、王家自らの首を締めることになるのです」
王女様とは真逆の考え方だ。王女様はガリアに全任させることでトリステインの旨味を味わせてトリステインに依存させ、最終的にはトリステインなくしてガリアが成り立たないような仕組みにさせるのが目的。しかしマザリーニはそのリスクを見越している。
「しかし枢機卿、そのようなことではいつまで経ってもトリステインは弱体化し続けたままですぞ。歌にあるように王家は何もない状態なのです。フィリップ三世の時代ですら政治のことは大公に任せきりではありませんでしたか。フィリップ三世は軍事に手を出していたからどうにかなりましたが、今後は王家が政治に口出ししなければなりませぬぞ」
「何も全てこちらでやるとは言ってはない。政治のことを誰か一人に任せきりにすることはどういうことか私自身よく理解しております故に、オルレアンの婿入りを望んでいるのです」
「枢機卿、お主の考えは良く分かった。しかしトリステインだけでなくガリアのことも考えて下され。ガリアの王族には国王以外の男はそのオルレアン公のみ。それを奪うような真似をすれば戦争になります」
もう正攻法では敵わないとみて学院長が最終手段を取り出す。これで説得出来なければ10時間かけて説得するしかない。
「ではこうしましょう。ガリア王家に問い合わせて婿入りを認めたらオルレアン公を婿入りさせ、トリステインの王に。婿入りを認めなかったら姫様を嫁に行かせる。そこの御二人も構いませんか?」
「私は構いませんわ」
「わかりました」
「では早速、ガリアに連絡致しましょう」
枢機卿がその場を去り、ガリアとトリステインの会談をすることになった。
「ところでミス・ロングビル。この事は他言無用じゃぞ」
「わ、……承知しました!」
それまで気が動転していたのかマチルダが顔を紅潮させそう答えた。
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