タバサのTS物語   作:ディア

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第30話

~エズレ村~

 

そんな訳で僕達はエズレ村にやってきた訳だけど…

「この村は活気がないわ…。まだサビエラ村の方が生き生きとしてるよ。」

エルザの言う通り、この村には活気がない。サビエラ村の時ですらピリピリしていたのにこの村は諦めしか感じない。

「全くこんな村じゃやってらんないね。これで領主がクソ野郎だったらタマ潰して屋敷にあるもん全部盗んでやりたいくらいだよ。」

「タマ潰して…ってさりげなく恐ろしいこと言わないでよ。領主がこの無力化した村人達を危惧して依頼は届いている訳だし、物騒なことは止めてよ?」

まあマチルダの気持ちもわかるけどね。これで領主がクズだったら謎の風韻竜が屋敷を襲う可能性もあったと思う。…その風韻竜を倒そうなんて考えたら返り討ちにあうのがオチだけど。

「はいはい。ところでミノタウルスだったけか?その情報がなきゃ話にならないしとっとと聞き込みをしにいくよ。」

流石魔法学院の秘書を務めているだけあってこういうことは得意みたいだ。

「それじゃ私は憂さ晴らしに行ってくる。ミノタウルスと遭遇したら念話で報告する。」

シルフは憂さ晴らしに向かい、肩を振り回しながら森の中へと入って行った…僕はもう何も突っ込まないよ。

「それじゃ私は村の子供達に聞いてくるね。マチルダお姉ちゃんだと聞けないことも聞けるから。」

聞けないことも聞けるって…大丈夫なんだろうね?この中で一番変態チックなエルザに任せるととんでもなく卑猥な事になりそうで怖い。女の子の表現だとエルザ×ロリな展開になりそう。

…仕方ない、一番マシなマチルダについて行こう。

 

マチルダと僕はそんな訳で生贄になるジンという男の子の家で事情聴取していた。

「ミノタウルスはまだ10にも満たない子供…それも男を生贄に村に手を出さないと言っているんですが…もう限界です。これ以上殺されたら私達の元に若い男はいなくなり…子供もいなくなります。そうなればこの村は滅びてしまいます。我が孫ジンの為だけでなくこの村の為にも…どうか騎士様…ミノタウルスを、ミノタウルスを退治して下さい。」

ジンの祖父に当たる人物がそう言って泣いて懇願して来た。僕はそんなことをせずとも引き受けるし、ミノタウルスがどんな奴なのか興味あるしね。

「元々そのつもり。」

「おお…ありがとうございます。」

僕が引き受けるとそのお爺さんはまるでブリミルを崇めるかのように崇めた。…実際にはブリミルなんてただの変態だけど。

「少しよろしいでしょうか?ミノタウルスは何故村のショタ…失礼、少年達を生贄にするのでしょうか?」

マチルダ…ショタって言っちゃったよ…でも気になるよね。生贄にするなら男の子じゃなくても問題はないはず…

「それはわかりません。ただミノタウルスがそう要求してきているのです。」

「ミノタウルスが…?」

「これをご覧下さい。」

そう言って持ってきたのは獣の毛皮だった。その内側に文字が書かれていた。その文字はガリア語で書かれているが荒すぎて僕には読めなかった…

「えーと…『次に月が重なる時、森の洞窟前にジンなる子供を用意するべし。』…期限は明日ですか!?」

マチルダって有能だよね…こういう時一番役に立つ…というか今回は僕が無能なだけだけど。

「ええ…騎士様がギリギリとはいえ到着してくださりありがとうございました。おかげでジンも一安心出来ます!」

「ありがとう騎士のお姉ちゃん達!」

そう言ってジンはマチルダにお礼を言った…決して僕に対して言ってない!だってお姉ちゃんなんて呼ばれるのはマチルダしかいないし小柄な僕じゃ頼りなさそうだし…あれ?なんか言ってて悲しくなってきた…

 

「それじゃその洞窟の場所を教えて下さい。」

マチルダが進行係りを務め、お爺さんに洞窟の場所を尋ねるとお爺さんは地図を出した。

「これを持って行って下さい…これはこの村とその洞窟付近までを書いた地図です。」

本来地図というのは価値が高い。素材に紙を使ったりするのでこんな貧乏なところでは買えない…それは当たり前だ。だけどその貧乏なところから地図を渡したということから本気でミノタウルスの騒動を解決したいって思っているということだ。

「ここからここまでの道を歩いていけば洞窟付近までたどり着くでしょう。どうかお気をつけて。」

「絶対に成功させます。」

僕は柄にもなくそう言って返事をした。

『おっ!?珍しく坊主が燃えてやがる!頑張れ頑張れ坊主!行け行け坊主!』

うるさい。

『ショボーン…』

 

うるさい地下水を静め、僕とマチルダは洞窟まで歩いていたけどハプニングが発生した。

「にしてもずいぶんこの道荒れているね。まるで誰かが魔法を使ったみたいに…」

そのハプニングとは木々がなぎ倒され道幅が狭くなり、土は盛り上がり荒くなっていることだ。おかげで歩きづらい。

「うん…ミノタウルスはこんなことはやらないだろうし、第三者がいるのかな?」

『坊主…相棒の竜に心当たりないか? 』

言わないでよ!だいたい想像したけどそんなこと予測もしたくないよ!

『現実はこんなものさ。』

確かにそうだけど…

「タバサ…どうする?」

地下水と会話をしているとマチルダが突然話しかけて来たので僕は対応出来なかった。

「何が?」

「この先は木が邪魔で流石に通れないし、フライも森の中でやったら傷だらけになるし洞窟の場所もわからない。…引き返す?」

確かにこの惨状は酷い…ここから先は木が邪魔でフライで飛ぼうにも上の枝葉が邪魔をして飛べない状況だ。確かに風メイジの僕なら問題はない。だけどマチルダは風の魔法とは相性の悪い土メイジ。おそらく風に関してはドットクラス…いや、それ以下の可能性が高い。その理由としてマチルダこと怪盗フーケは逃亡手段にフライではなくゴーレムを使って逃げていた。これは僕達だけでなく他の被害者からも得られた情報だ。とはいえ馬鹿でかいゴーレムではなく馬型のゴーレムだ。

フライを使えば目立つというのもあるが…問題は今までフーケがフライを使ったのを見たことがある人間はいなかったということだ。数百件にも及ぶ怪盗フーケの目撃情報はあるのにフライを使っている目撃情報はない。

つまりマチルダはフライを極端に嫌っている傾向がある。それは何故か?当然フライが苦手だから。とはいえ苦手と言われても二つある。他者と比べて遅いのか、それとも制御が出来ないのかのどちらかだ。ノロノロとフライで飛んでも制御さえ出来ていればぶつかることも傷だらけになることはない。となれば制御出来ないと考えていい。だから僕はフライを諦めて下を向いて状況を整理した。

 

「…いや考えがある。」

地下水…ゴーレムは作れる?出来ればこの木を退かせるような奴。

『ゴーレムは専門外だ。ドットクラスくらいのしか作れねえよ。それに坊主の魔力を使うんだ。ミノタウルス退治に使う魔力を今使うんじゃねえよ。』

いや…マチルダがミノタウルス退治をやる。というかやらせる。風メイジは洞窟の中だと不利だけど土メイジは逆に得意なステージだ。僕が洞窟の中で戦うよりもはるかにマチルダの方が良い。

『じゃあなんで坊主は付いてきたんだ?』

僕がやるのはマチルダがミノタウルスを退治するのを見届けるのとフォローだけ。

『だったらそれをマチルダに伝えたらどうなんだ?』

マチルダに伝えたら絶対嫌がると思う。それにこれはマチルダがやらなきゃ意味がない。それしかマチルダの生きる道はないんだよ。

『なるほど北花壇警護騎士団の入団試験がこれってことか?』

そういうこと。ミノタウルス退治だけでなく護衛が務まるかどうかの試験なんだよね。試験官は僕。この試験は試験者が知らない状態でやることが条件。

『なるほどね。そういう理由じゃあ仕方ねえ。出来るだけやるか。』

僕は地下水を持ち、地下水にゴーレムを作らせ前にある木をどかした。

 

「なるほどね。そういう考えか…それじゃ私も軽くやるか。」

マチルダは地下水よりもスムーズにゴーレムを作り、木をさっさとどかし始めた。




まだまだミノタウルス編は続きます。

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