改めて杖を持ち、僕はシルフと感覚を共有した。
「タバサ~っ!!」
…なんかキュルケがものすごい大声で泣いている…僕はそれを信じられなかったので感覚共有をやめた。
「タバサ。どうしたの?」
「もうそろそろ僕はここを出なきゃいけない。」
「それって…?お別れってこと?」
「そう。だからお礼を言うね。ありがとうテファ。」
「ううん…お礼はいいよ。その代わりちょっといい?」
?何だろう…
チュッ!
テファは僕に近づくと僕の額にキスをした。
「…」
僕はそれに対応できずボーッとしていた。
「えへへ…これでタバサも私の家族ね。これから困ったらここに来てね。」
「え…うん。」
僕はそれしか言えずテファの笑顔しか見ることが出来なかった。
ドンっ!!
そしてそれを台無しにしたのは1人の金髪のイケメンだった。
「うっ…ここは?」
そしてその男はそう呟き、起き上がった…
「ぐえっ!?」
そしてその上から降ってきたのはキュルケだった。キュルケ…なんてことをしているんだい?多分だけどこの人結構なお偉い方だよ?
「タバサ!!」
キュルケはテファをガン無視して僕を抱き締め、涙を流していた。
「怪我はない?!何かされなかった!?」
「されていない。」
「良かった…タバサが誘拐された日から一睡も眠れなかったのよ。だから…タバサ、眠らせて…」
僕の場合、騎士としての任務がある為一睡も眠れない時は何回かある。キュルケは騎士ではなく普通の貴族だから僕みたいに一睡も出来ないなんてことはほとんどないはず。だから相当キュルケにとって堪えた…
「うん。お休み…キュルケ。」
僕はキュルケをおとなしく眠らせ、キュルケをおぶり、もう一人の青年をレビテーションで持ち上げた。
「そういえばマチルダ…こっち来て。」
流石にテファの前でマチルダが怪盗フーケという訳にもいかないので地下水を使ってサイレントをかけた。
「なんだい…?わざわざサイレントなんかかけて…」
「フーケ…怪盗業をやめて僕のところで働かない?僕の場所で働けばテファ達を養うことが出来るよ。」
「やだね。私は貴族に復讐するためにこの業界にいるんだ。今更やめられるか。」
「明らかにその盗んだお金でテファ達を養っているよね?そうでなきゃトムみたいにガチムチのマッチョなんてできないはずだよ?」
あそこまでの筋肉があるってことは環境が良いって証拠…だからと言って環境は良すぎても僕みたいに成長しないパターンもある。
「うぐっ…確かにそうさ。でもあの子達のお腹空いたって声を聞くと私は放って置けないんだよ…」
「だからって盗んだお金で育ちましたなんてテファ達は胸張れるの?」
「…う…わかったよ。だけどそのガキが誠心誠意込めて謝ったらね。」
「…もしかして彼?」
そう言って僕はレビテーションで持ち上げた青年を見るとマチルダは頷く…
「こいつはプリンス・オブ・ウェールズの名前で知られている王子様さ。知らなかったのかい?」
いやまさかね…マヌケなことをやらかすのが王子様なんて信じられる訳ないでしょ?それを言ったら僕も大概だけど…
『坊主の場合は女装させられて王子様というよりも姫様みたいだしな。』
地下水は後で〆るのは確定と…
『事実だろ!?』
うるさいよ、地下水。
「僕の方でなんとかしてみせるよ…」
一国の王子に謝罪を求めるのは難しいけれどウェールズ個人に謝罪を求めるのは簡単だ。その理由はウェールズはモード大公静粛事件にほとんど関わっていない。しかしこの事件は王族にテファというハーフエルフの存在を隠すためでもあり、公式に謝罪をしたらテファの存在がバレ殺される…だから内密に謝罪して向こうが何も求めないのがベストなんだけどそうもいかない。謝罪を受け入れる代わりとしてアルビオンに何かを求めるはず…
「嘘だよ。貰える物はちゃんと貰ったしね。」
そう言ってマチルダは腹をポンと叩く…まさか妊娠なんかしてないよね?
「ふふっ…」
僕と目が合うとマチルダは笑っていた…これでマチルダが緑髪の子供じゃなくて青髪の子供産んだらとんでもないスキャンダルになるから早めに手を打たないと…
僕達はシルフにのり、魔法学院へと帰宅しようとしていた。
「よし!全員帰還する!」
意外なことに生徒を総率していたのはヴィリエだった。つい最近までの面影はどこにもなく、まさにカリスマだった…僕にもそのカリスマよこせ!
『坊主、そうおこんなよー大体坊主はあいつに勝っているんだろ?』
まあそうだけど…ってなんで知ってるの!?
『坊主の記憶から少しな。あとお前を背負っている竜だ。』
…どんだけ有能なのさ君は。
『それにしても驚いたぜ…まさかブリミルの時代にいったことがあるなんてな。』
あの事件は思い出したくないからあまりほじくらないでね。
『ガンダールヴが変態ドSエロフとか?』
うっ!?
『ブリミルはドMとか?』
ぐぉぉぉ…
『フォルサテしか常識人がいなかったとか?』
がはっ…
『知られたら末代の恥になる秘密を持つ変態達がご先祖様なんて相棒達は運が悪すぎるぜ。』
もうやめて!僕のライフはゼロだよ!!
『坊主弄りはここまでにしてだ…なんでフーケをスカウトしたんだ?』
スカウトする気は無かったんだけどね…僕の子供身ごもっている可能性も否定出来ないし、ガリアから命令されているんだ。
『ほう?どんな?』
フーケをガリアに連れてけって任務。
『フーケ死ぬぜ…?』
いざとなったら僕が伯父様に頼んで弁護するから。
『伯父様って…まさか坊主、シャルロット・エレーヌ・オルレアンか?』
そうだよ。女の子っぽい名前だからタバサって名乗っているんだ。
『ふーん…それよりもその伯父様とやらに頼んでも無駄だと思うぜ。フーケは確実に死ぬぜ。』
北花壇警護騎士団って知っている?あそこは本来死刑で死んでいるはずの人間がうようよいるんだよ?
『なるほど…フーケを世間的に殺しておいて北花壇警護騎士団に入団させようって腹か。』
その通り。その代わり結構ブラックだけどね。僕以外の人は過労で倒れたことがあるし、酷い人だと一週間で過労死するって聞くくらい酷い。
『むちゃくちゃだな。』
でしょ?僕の父親にあたる人物が3日に一回脱獄するから負担も凄いんだ。
『あ~なるほどな。』
「ねえ、タバサちゃん。」
エルザが僕の首に手を当てて今にも噛みつきそうになっていたので僕はそれを払った。
「ちゃんをつけないでくれるかな?エルザ。こう見えても僕男だし。」
「へえ~モテ男だね~…キュルケお姉ちゃんは気づかなかったけどキスマーク付いているよ?」
僕は慌てて額を隠すとエルザはニヤニヤと笑っていた。
「ふふっ、カマかけたのに引っかかっちゃって…タバサちゃん面白~い!」
「誰にも言わないでよ?」
「え~?どうしようかな?これで許してあげるよ。」
そう言ってエルザが取り出したのはエルザの服を少し大きくした紺色のゴスロリだった。
「これを僕に着ろと?」
エルザはこくりと頷いた。
「だってタバサちゃんの恥ずかしがる姿かわいいんだもん。」
「かわいいとか言わないでよ…」
『坊主はモテるねえ…弄られるけど。』
地下水!後で叩っ斬るよ!?
『おお怖い怖い。』
「それよりも着るの?着ないの?」
ここで着ないを選んだら…キュルケが竜よりも恐ろしい存在になるのは目に見えている以上選択肢は一つしか無かった。
「着るよ…だけど今空飛んでいるから学院についたらでいい?」
「うん!」
その笑顔は吸血鬼らしい小悪魔の笑みだった…ちくせう。
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