「それで行く。」
「は…?」
「なるほど…つまりだ、ご主人様は人間と翼人が協力し合う必要性を見せようってわけだ。」
「でもどうやって…?」
「方法は簡単。少し待って。」
僕はシルフを連れて外に出た。
「シルフ…竜の形態になって。」
「ああ…そういうことか。私が悪い竜になってここの村人を絶望させればいい…ということだな?」
「そう。」
「じゃあイルルクゥの楽しい楽しいを演劇始めますか。クックックック…」
シルフは悪人と言われても違いないほどの笑みで笑い、声も低くした。
そして演劇は始まった…
通常時とはかなり印象が変わったシルフが村と翼人の住処の間にドスンッ!と音を立て、駆けつけた村人や翼人を見ると舌を出し、獲物を見つけたかのような目つきで村人を見た。
「我が名は韻竜ダークムート…翌朝、我はこの森と村を我の住処にするため破壊する。」
その声はいつものおちゃらけたシルフとは思えないほど凶悪な声だった…
シルフ、ビビらせるとは言えちょっとやりすぎ…
皆が「もうだめだぁ…おしまいだぁ…」とか言い始めて目も死んでいるから!その辺にして上げて!
「翌朝、楽しみにしているぞ!グァハッハッ!」
そう言って高笑いしながらシルフは飛んで行った…
「き、騎士様!あの竜をなんとかして下せえ!」
ヨシア兄がそう言って僕の肩を掴んでガッタガッタと揺らした。
「あれは無理。」
「そんな!お願いです!他の騎士様を呼ぶなりなんなりしますから!」
「それは時間が間に合わない。そんなことをしている間に皆死んでしまう。」
騎士追加派遣には領主の申請とかの手続きが面倒なんだよね…特にこういう田舎は。
「そんな…っ!」
「…でも方法がないわけでもない。」
「本当ですか!?」
ヨシア兄は地獄から一本の蜘蛛の糸を見つけたかのような顔をして僕の手を取った。
「翼人と協力して時間稼ぎをすること。」
「なっ…騎士様の任務は翼人退治でしょう!?私達ならともかく、騎士様はそれでいいんですか!?」
「緊急事態。それに村が滅ぼされては元も子もない。」
「ご配慮ありがとうございます!!」
「問題は翼人との交渉を誰がするかということ…」
僕がそう言うと村人が気まずそうに顔を伏せた。まあ当然だよね…今まで翼人を退治しようとして来たんだからね…
「それなら僕がやるよ!皆待ってて!」
ヨシアがそう言って手を挙げると翼人の森の方…アイーシャがいるところへと向かい、翼人達に協力要請を貰った。
~翌日~
「ブツブツ…」
僕は適当にブツブツ言ってシルフを待っていた。
「騎士様…本当に大丈夫なんでしょうか?」
そう言ってきたのは顔が青くなっていたヨシア兄だった。
「今回は討伐ではない。時間稼ぎだから大丈夫。」
「そういえば騎士様の従者様は…どちらに?」
「シルフはガリア本国に救援を呼んだ。」
「そこまでしていたのですか…何から何までありがとうございます。」
「昨日の竜が来たぞぉーっ!!」
その声から僕は杖を握りしめ、シルフを見つめた。
「あれほど言ったのに逃げないとはいい度胸ではないか…とりあえず挨拶代わりだ。受け取れぃ!」
シルフは風のブレスを吐き、村を襲撃した。
「ウインド・ブレイク!」
僕は割とガチな強さでウインド・ブレイクを放ったが打ち消すことは出来ず、体重の軽い僕は吹っ飛ばされた。てか手加減しろ!僕がトライアングルでなかったら全員ミンチにされてたぞ!
「ほう面白い…我のブレスをそこまで打ち消せるとは…む?」
シルフのセリフを遮るかのように先住魔法で操っていると思われる木がシルフを巻きつけた。
「今です!皆さん!」
アイーシャが合図をかけると翼人が先住魔法版ファイヤーボールでシルフを焼き韻竜にしようとするが…
「無駄だぁっ!」
とか言ってシルフがブレスを吐いて炎を消してしまった。嘘…
「どうした?人間共は何もしないのか?何もしないのであれば地上でいたぶってくれるわ!」
そう言ってシルフは地上に着地すると落とし穴に嵌った。
「落とし穴か…だがそれがどうした?」
シルフは背中から先住魔法の嵐が来ることに気づかない…いや気づいていないフリをした。シルフの顔の動作と視覚共有でそれがわかった。
「ヌォォッ!?」
そしてシルフはそれを受け、初めて狼狽えた。
「今だ!皆!」
僕はウインド・ブレイクを放ち、翼人は先住魔法を放ち、村人達は矢を射る…そしてシルフに一斉にそれが襲いかかり、煙が舞った。
煙が晴れるとそこに現れたのはほぼ無傷のシルフだった…てかなんでこんなに強いの?
「フフフ…面白い!我をここまで追い詰めたのはお前達で152回目だ!」
シルフは褒め言葉と言っていいのか悪いのかわからないことを言った。無傷なのに追い詰めたって…どういうこと?
「お前達の攻撃に免じてこの場は去ろう…だが100年後にまた来る。さらばだ。」
そう言ってシルフは見えなくなるまで高く上がって行った…
「やったぞ~っ!!」
村中、いや森の中からも歓喜の声が上がった。
「ありがとうございます!騎士様!」
そう言ってヨシア兄が僕の手を取って感謝の言葉を出した。
「…僕だけじゃない。僕だけならあの竜を撃退出来なかった。皆が協力したから撃退出来た。」
「いえ、それを言ったら騎士様の力もなければなりませんでした。騎士様がいなければ弟もあの翼人と結婚出来るってもんです。」
「…そう。」
「なんにせよ、ありがとうございました。」
その後、ヨシアとアイーシャは結婚し、僕とシルフは次の任務へと向かった。
~おまけ~
ギーシュは顔面に蹴りを喰らいしばらくして…サイトを呼び止めた。
「そこの平民君…ちょっと待ちたまえ。」
「何か?」
「少しは…『Hey〜!Myname is mach○san!』おいっ!話を聞きたまえ!」
ギーシュのセリフの途中でサイトはどこからともなくラジオを取り出し、スイッチを入れて踊り始めた。
「平民君、これは何の真似だい?」
ゲシッ!
ギーシュの顔が赤いメロン熊となりこめかみをピクピクと痙攣させて、ラジオを蹴飛ばして強制的に踊りを止めさせた。
「見りゃわかんだろ?馬鹿なの?アホなの?カバーなの?」
何言っているんだこいつ?みたいな目でギーシュはサイトに見られた。
「それはどういう意味かね?」
それが原因でギーシュの限界が少しずつ迫っていた。
「頭の毛がなくなると説きまして~落ち込んでいる人を助けると説きます~そのこころは…皆さん一緒にせーの!!」
サイトがそう言ってギーシュ以外全員が口を揃えた。
「励(ハゲ)ます!!」
そして学校中にその声が響いた。
「いい度胸をしているね…貴族をこんな怒らせて済むのかい?」
ギーシュはまだまだ我慢していた…ギーシュは貴族の中では温厚な方でここで余程酷いことを言わない限り、サイトを見逃そうとしたが…
「貴族ぅ~?俺の国じゃそんなもの50年以上も前に廃止されましたよ~ん!」
そしてその酷さにギーシュは切れた。
「いいだろう…君が何一つ言わないで去ったのなら良かったが、君の貴族を馬鹿にする腐った根性を叩き直してあげよう…決闘だ!」
そして周りは騒然とし始めた…何故ならギーシュがキレるということは余程、ストレスが溜まっていたということである。
「え~?そんなことより、いい女見つけようぜ~…なっ!」
しかしサイトはブレない。サイトはギーシュに歯をキランッ!と見せ、清々しいまでの笑顔でそう答えた。
「ええい!うるさい!とにかくヴェストリの広場にて待つ!」
そう言ってギーシュは立ち去っていった。
「全く自分勝手な奴だ。」
サイト…お前には言われたくない。